強欲ルフィ 作:炭素
ルフィ十二歳〜出航
「エースがいなくなって、もう三ヶ月か…」
ルフィは、コルボ山の頂上にある岩場で、日の出を迎えていた。ほろりと涙を一滴流すルフィの顔は、オレンジ色の朝日で彩られている。
半月ほどで慣れた生活の変化も、いざ思い返すと寂しさが込み上げてくるものがあった。
『′仕方ねえよ。アイツもそれなりの歳だ。お前も兄貴の門出を祝福してやれよ'』
「うるせえ」
『'あ?なんだよ'』
ルフィは、そっぽを向いてグリードを無視する。
そんなルフィの様子に、グリードはどうしたものかと頭を掻いた。
『'エースには、エースの人生があるんだよ。そんなことは分かってんだろ'』
「でも、エースが海に出る十七歳までは一緒のはずだったんだ」
『′って言ってもよ。ていうか何で今さら'』
「今さらって…お前のせいだぞ!グリード…!グリードがあんな事言い出さなかったら、エースは出て行かなかったんだ!」
『′んなこと言われてもよ'』
困った風に言っているが、三ヶ月前のグリードの一言が原因だと、ルフィには確信があった。
〜~三ヶ月前
夕食前の出来事だった。
『'ルフィ、お前ももう十二歳になったよな'』
「うん、今年の誕生日ケーキは美味かったなー。また、作ってくれよ」
『'また来年な。あれだけでかいの作るのは面倒…じゃなくて、俺とお前が会ってもう五年経ったなってことだよ'』
「おう、そうだな。これからもよろしく!」
『'そう、よろしくだ。でよ、そろそろ女を知ろうぜ、ルフィ'』
「?知ってるけど…」
『'違ぇよ。俺の自論を言ってみ'』
「?…ああ、なるほど。グリードが言いてェことはわかった」
『'よし、じゃあ村に行こうぜルフィ'』
「村に?なんでだ?」
『'マキノのとこだよ。お前が頼めばイけんだろ'』
「うーん、まあいっか。いくかーー」
「何処に行くんだルフィ?」
「うわっ!…びっくりした。何だよエース」
「…グリードと話してたんだろ?村に何しに行くんだ?もう日も落ちるぜ」
『'…おいルフィーー'』
「男になりに行くんだ。マキノに頼む」
「…は?…はァ!?」
『'あー、'』
「……」
「じゃあ、おれ行ってくーー」
「待て」
「何だよ?」
「…おれは、逃げない…!!ルフィ、寝てろ。おれが行ってくる」
「え、でもよーー」
「いいから、ガキは寝てろ!!」
ドン!!とエースの周りに衝撃が走った。隣のダダン一家のアジトから、バタバタと物音が響いてきた。
「わ、わかった。エース、その…」
「行ってくる…!」
『'あーあ…'』
そうして、エースは山を降りて行った。その日は帰って来なかった。
山に帰って来たのは、次の日の昼頃だった。
「ルフィ。おれ、マキノとお付き合いさせていただけることになった。これからはマキノの家に世話になる。夕方からは酒場を手伝うことに…そんな顔すんなよ。朝から昼過ぎくらいまでは山にいるからよ」
〜~
「やっぱり、どう考えてもグリードのせいじゃねェか」
『'ま、お前にはまだ早かったってことだ'』
「意味わかんねェよ」
『'いいから、ほら瞑想始めろ'』
「ちぇー…」
『'あー、ツイてねえな'』
「ん…何だよグリード。まだ終わりじゃねェだろ」
グリードの呟きにより、ルフィの集中が途切れる。ルフィは目を閉じたまま、先程のこともあって不満を隠さずに言った。
それに、ツイてないと言っている割には、グリードの声は弾んでいる。
『'気配の消し方がまんまじゃねえか。あー勘弁しろよ'』
「だから!なんだ…よ……?」
勢いのまま目を開けたルフィが見たのは、満面の笑みのエースと、見覚えのないもう一人の顔だった。
「エース、誰だこの女?お前、マキノはどうしたんだ!」
「ぶっ…あはははっ!!女だってよ!ルフィ最高だぜっ!なァ!?」
エースが、隣の女の肩をバンバン叩きながら爆笑する。女は落ち込んだように、がくーんと頭を落とした。
「くく、まぁちょっとばかし女顔になっちまってるが、こいつは男だよ…ルフィ誰だと思う…?ダメだ、言おう我慢できねェ…ルフィ、お前のもう一人の兄貴のサボさ!!サボが生きてたんだ!!死んでなんかいなかった!!帰って…来たんだ…!!!」
エースは、途中から涙を流していた。
ルフィは、信じられないものを見たかのように固まった。
エースは、今までルフィの前では一度も涙を見せたことがなかったのだ。よく見れば、目が真っ赤になって少し腫れている。一度泣いていたのかもしれない。
そして、そこまでいってようやく、ルフィはエースの言葉を飲み込んだ。
サボの顔をじっと見つめて数瞬、ルフィは、ぱくぱくと口を動かした。
「え…で、でも…サボは死んで」
「だから生きてたんだんだよ!!お前も何とか言えよサボ…!っぐぅ」
ルフィは、再度サボに、ゆっくりと視線を移す。
サボは、にかっと歯を見せて笑っている。
「ルフィ…ただいま!!まさかお前にもそう思われてーー」
ルフィは言葉を遮って、サボの胸に飛び込んだ。
それから、半年後。
明け方の時間。ひんやりとした冷気が、海の匂いを感じさせる。天気は快晴。風の向きも悪くはない。
ルフィは、フーシャ村の港に一人ボートに乗って、出航の準備をしていた。見送りは、村長、マキノの二人だけだ。
「じゃ、行ってくる」
ぽこん、と村長に杖で頭を叩かれる。
「軽いわいルフィ。心配しているワシらが馬鹿みたいだろう」
「そう言われても、一年だけだしよ」
「…考え直さんか。お前の兄はまだしも、お前はまだ十三にもなっとらんのだ」
「航海術も(グリードが)もってるから心配すんなよ」
「…はぁ、海賊にはなってくれるなよ」
「まだ海賊旗は上げねェよ」
「まだ、か…」
「村長、大丈夫よ。ルフィはしっかりしてるわ」
パチンとマキノがウインクを飛ばしてきた。マキノは、グリードの存在を知っているからだ。
事の起こりは、一ヶ月前。サボの提案から始まった。
「一度、海に出てみないか?
そんなことを突然言い出したサボに、怪訝に感じたルフィだったが、同時に胸を高鳴らせた。実際に、兄の一人はもうすでに海を見ているのだ。話を聞いて、興味が湧かないはずがない。
正直なところ、あと五年も待っていられなかったのが本音だ。
そして、金である。
ルフィはグリードの影響で、日頃から金銭欲を持て余していた。たまにゴミ山の港にやってくるゴロツキ達では、そう金を持っていない。欲は、中々満たされていなかったのだ。
それがどうだ。
加えて…いや、こちらが本命。賞金首だ。
十歳の頃から手配書を集めては、その金額を眺めるルフィにとって、サボの提案はまたと無い機会だったのだ。
反対に、エースは興味を示しつつも、あまり乗り気ではなかった。マキノと離れづらかったのが、一番の理由である。
最終的には、サボに説得されたマキノに説得され、エースは一年の航海を決めた。
ルフィは、詳しいことを聞いていないため、その三人の間でどんな話があったのかはよく知らない。
気にもならなかった。もう自分の欲に一直線だった。
ルフィは、今頃ゴミ山の港から出航しているだろう二人の兄を想いながら、海を見据える。
「グリード、一億だ。おれは、一年間で一億稼ぐぞ!」
『'何度も言ってるけど、少し力抜いてけよ'』
「まかせろ!!」
『'あー…サボとエースも少しは言い聞かせとけよな…ま、目標は悪くねえ。いい欲だぜルフィ'』
「おう!」
ルフィは、意気揚々に海へと飛び出した。
エース突撃
「マキノ、おれ…おれと…」
「おれと?」
「結婚してくれ!」(やべ、違ェ!)
「…十歳近く離れてるよ?わたし」
「関係ねェ!!おれは本気だ!!」
「でも残念。エースまだ結婚できる年齢じゃありません」
「!?」