強欲ルフィ   作:炭素

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タグ回収。殺伐してます。


強欲と怒り

 小船が一つ、海に浮かんでいた。

 深青が続く風景の中にポツンと浮かぶそこに、人の影はない。

 小船の中には、食糧の袋と箱が数個、数冊の本が散らばっている。そして、糸の切れている釣竿が一本、水面に向かって伸びていた。

 

 ぽこ、ぽこと、水面が静かに沸き始めた。

それは、次第に大きくなり、不自然に揺れところで、一人分の頭が勢いよく飛び出した。

 

「'ぷっはぁ…大物ゲット'」

『うんまそー、早く食おう!』

「'慌てんなよ。どっか島についてからにしようぜ'」

 

 船へと乗り込んだグリードの手には、一本のモリが握られている。その先には、身の丈ほどの大きさの魚が深々と突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

「はー、うまかった!特に鼻がうまかった!」

『'味はマグロだな。質は段違いだったが'』

 

 ルフィは、日が暮れる頃に見つけた無人島に、船を停泊させていた。今晩はここで過ごす予定だ。

 

「明日は、ここ探索しよう」

『小さい島だが、宝があるかもしれねえ』

 

 ルフィとグリードは、笑い合った。

フーシャ村を出て半月。ああ、やはり海は宝の山だったのだ。

 海賊船を襲いながらーー賞金首は見つからずともーー宝を見つけては町や村で換金して、現在三百万ベリーの稼ぎだ。目標の一億にはほど遠いが、出航してまだ日は浅く、高額の賞金首にも出会っていないながらも、この稼ぎ。出だしとしては、そう悪くは無いと考えている。

 航海は順調と言えた。

 

『'お、ルフィ。船がこっち来てるぜ'』

「ん?えーと、双眼鏡は…と、んー海賊旗見っけ!」

『'ラッキー!俺の番だぜルフィ!'』

「もう一隻来たらおれだからな!」

 

 

 

 ごぼり、と吐き出された血が、甲板に飛び散る。しかし、もはやどこに血が飛び散っているのか判別不可能なほどに、甲板は一面赤黒く染まっていた。

 これが、最後の一人だった。

 グリードは、胴体を貫く手を抜き取り、そのまま逆手のナイフで首を切り落とす。

 この船長の首に懸けられている金額は、二百万ベリー。聞けば、ご丁寧に向こうから教えてくれた。そして、聞いてもいないのに聞かされた。賞金首になった経緯ーー残虐非道の行為を。船員達も似たようなものだった。

 生け捕りじゃないため、値は三割下がってしまうが、それでも百二十万ベリーになる。今までで、一番の稼ぎだ。

 あとは、宝探しである。

 

「'ちっ、しけてんな'」

『…あんま、強くなかったし』

 

 船を見つけた時のような、喜びはない。死臭に満ちた空気の中、自然と口数は減っていた。

 感情のままに、手を下したわけではない。正義だ悪だとも言うつもりもない。これは一つの商売であると、既に割り切っている。それに、一人である危険性を考慮して、基本、賞金首を生け捕りにはしないのは、事前に決めていたことだ。

 命のやり取りも何度も経験してきた。グリードは、言わずもがなだ。それでも、さすがに直後である今は、素直に喜ぶ気にはならない。

 

 捜索を続けても、金品はそれほどみつからなかった。食糧だけでも手に入れようと、備蓄庫に入る。

 

「'あんまり貯め込んでなさそうだ。人数多かったし、まあ、そうかね'」

『グリード、あれ、あれ見ろよ!あの上にあるアレ!もしかして!』

「'ん?おおっ'」

 

 探索を終えた海賊船に火をつけ、小舟に戻ったルフィは、明かりを付けて一冊の本をパラパラとめくっていた。去年の誕生日に、ガープに頼んでプレゼントしてもらった図鑑である。

 

「あった。これだ、えーとっ。スベスベの実!超人系(パラミシア)だ。グリード食うか?」

『'いや…やめとくぜ。そもそも俺の時がゴムじゃねえからって、本当に食えるかわかんねえし…それで死んだら終わりだしな。スベスベってのもそそらねえ'』

「よし、じゃあ売ろう。やった、これで最低一億ゲットだ。早かったな…目標は二億に変更しよう」

『'あー、そうだな。ちなみにこの実、海軍に売りつけねえで、金持ちに売ろうぜ。そっちの方が多分高くつくぜ'』

「そうかも。能力というか…肌がスベスベになるって書いてあるし」

 

 

 

 それから島を巡ること半月後。

 ルフィは、ある大陸に降りていた。表情は暗く、どんよりとしていた。

 

「ここでも売れねえかな…」

『ま、そうだな。地図にあるのは小さな村だ』

 

 初めの半月は何だったのか、ここ最近は散々だった。

 戻った町で換金したのはいいものの、生け捕りならまだしも、やはり首だけ持ち込んだのが良くなかったのだろうか。まあ、まだ見た目も相応の十二歳だ。事情聴取で、かなり拘束されてしまった。

 悪魔の実についても、トラブルの種だった。海軍で提示されたのは最低価格の一億で、当然売却はやめた。

 それからが面倒なことになった。一体どこから聞きつけたのか、盗っ人が絶えなかったのだ。宿で襲われた時は、その宿の主人まで協力していたのだから、救いようがない。

 売ろうとする島を変えるも、やはり見た目から侮られ、終いにはそれは悪魔の実ではないと難癖を付けられ、無理やり取り上げようとする輩まで出てくる始末であった。

 一番ショックだったのは、同じくらいの歳の子どもに騙されかけたことである。ルフィは、友達という言葉に釣られた。

 ルフィは、悪党の汚さは知っていたが…今回のことで、普通の人間にも悪意が存在することを思い知らされた。

 

「あ、あっちに商船があるけどダメかな…ヒツジついてるし」

『'ヒツジは悪くねえよ。ルフィ、あんまり落ち込むなよ。世の中そんなもんだ'』

「うん…」

『'取り敢えず行ってみようぜ'』

 

 

 

 船の甲板に上がる。

「へー、いい船だな。まだ新品?けど誰もいねェ」

『金持ちがいんのかもな。島に入って、村か町探そうぜ』

「うん、そうしようーーっ!?」

 

 撃たれた。

  布がが千切れる音がする。左足の太ももに、弾丸が埋まっている。ゴムだから、皮膚の上で止まっているが。

 見聞色の覇気を発動させていないとは言え、撃たれるまで、全く気づけなかった。

 ルフィは、弾にゴムの身体が引っ張られるのを無視しながら、弾が来た方向に意識を集中させる。

 火薬の匂い、僅かな呼吸音…それらを数瞬の内に嗅ぎとる。

 ーーいた。

 低い崖の上。木が乱雑に入り乱れている場所の僅かな隙間から、銃身らしきものが見えた。

 しかし、距離がある。加えて、射撃者自体は上手く木や影で隠れているために、視認できない。

 そして、あの距離から命中させられる腕に驚く。感嘆と同時に、警戒をぐっと引き上げる。

 

 更に一発。弾丸が微かな音と共に飛んで来る。一発目と違わぬ、いや全く同じ場所だ。被弾する前に、半身になって回避する。

 見聞色を発動させている今、出所が分かれば避けるのは難しくない。これでは勝負が決まったも同然だ。ルフィは、覇気を使ったことを、少しだけ後悔した。早目に終わらせることに決める。

 ルフィは、身を低くして駆け出した。

 避けることは、今は二の次だ。弾丸が覇気を纏っていないのは、一度目の射撃で分かっている。

 弾丸が四肢に数発、的確に命中する。

 ーーやっぱり、すげェな!!

 

「当たってる筈だろ!?何だよアイツは!!」

 

 射撃者が、悲鳴を上げるように叫んだ。思ったよりも高い声だ。

 ゴムの身体を使って、一息で崖の上に上がる。そのまま、一息で距離を詰める。これではもう、射撃は難しいだろう。

 すると、射撃者は銃を投げ捨て、木の影から飛び出してきた。

 自分と同じくらいの少年の登場に、ルフィは目を丸くさせる。そして、相手が眼帯で片目を隠していたことに、更に驚かされる。なぜ、隻眼であの射撃ができるのだろうか、と

 相手の少年も似たような心境なのか、その目には動揺が見え隠れしている。

 少年の得物は、二振りのサーベル。二刀流だ。

 

「くそっ!!」

 

 少年が悪態を吐きながら、サーベルで剣戟を浴びせてくる。

 見聞色の覇気を発動させて、避けるーーが、速い。加えて、先手を取られたために、攻撃に移れない。相手の剣を受ければ攻撃に転じることは可能だが、まだ相手の手の内が分からない内にそう動くのは、早計だと判断する。

 ルフィは、後ろへと飛んで距離を取った。そして、思わず笑みが漏らす。

 

『'……?'』

「すげェなお前!!歳、俺と同じくらいだろ!!」

 

 ルフィは、興奮に胸を高鳴らせていた。

 射撃は精密、近接も強力。そう出会うこと

 のない好敵手に、目を輝かせる。

 だが、対照的に向こうの少年は、恐怖から顔を引き攣らせていた。サーベルを持つ腕は震え、目には涙を溜めている。鼻が長い。

 

「なん…な''んな''んだお前!!」

「…?おれはルフィだ!」

『'…いや、そういうことじゃねえだろ。ここは、敵対の意思はないって言ったがいい'』

「え、でも戦いてェのに」

『'戦うのは後でも出来るだろ。たぶんあのガキ執事だぜ。服装がそうだ'』

「ちぇー…おれはルフィ!敵対の意思はねェ!!金持ちの家に、商売に来たんだ!!」

「か、金持ちって…何を売りに来たんだ!?」

「悪魔の実だ!末端価格で一億の、海の秘宝だ!お前ヒツジだろ!案内してくれよ!」

『'ヒツジじゃねえ執事だ'』

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、ウソップは執事なのか」

『'さっき言ったよな'』

 

 ルフィは、ウソップに案内で村に向けて足を進めていた。村の端にある豪邸が、ウソップが執事として仕える屋敷だという。

 

 

「まだ見習いだけどな……その、さっきは撃って悪かった!また海賊が来たと思ってよ!動転してたんだ、本当にごめん!!」

「いいよ、おれゴムだし。それより、お前が見習いってことは、お前より強いのがいるのかっ」

「…え、ゴム…?」

「ゴムゴムの実を食べたゴム人間なんだ。だから、全身ゴムなんだ」

 

 ルフィは、びよ〜んと頬を伸ばしてみせた。

 

 

「ウソップ、その眼帯かっこいいな。おれもしてみたい」

「おっと、これはダメだ。こいつを取ってしまえば…取ってしまって更に目を開けてしまえば、おれの中に眠っている力が暴走して大変なことになる」

 

 ウソップは、表情に影を作り決め顔でそう言った。

 

「何言ってんだお前」

「本当だって」

「じゃあ、見せろよ」

「だから、見せられねぇんだって」

「わかった。いいや」

「いいのかよっ!」

 

 もっと粘られると思っていたウソップは、拍子抜けした。しかし、聞かれないならばそのほうがいい。こんな目、知られたらロクなことにはならないのは分かっている。そして何より、自分が《もたない》。

 

「ーーなあ、お前の父ちゃん、ヤソップだろ?」

 

 その瞬間、ウソップの顔色が変わる。しかし、前を向いて歩くルフィは、その変化に気づけない。

 

「…お前、何でそれを知ってんだ…?」

「やっぱり!何年か前に会ったことあるんだけどさ、鼻以外お前と顔がそっくりだ。ヤソップはさ、お前のこと話してたんだ。おれと同じくらいの息子がいるって」

「へえ…それで?」

『'おい、ルフィーー'』

 

 ルフィは気づけない。かつての記憶を思い起こすように空を見上げ、高らかに言う。

 

「悲しい別れだったけど、仕方なかった!海賊旗がおれを呼んでいたから!…だってさ。立派な海賊だろ?」

「…ああ、よくわかったさ」

「そっか!あ、それとなーー」

「ーーくだらねえってことがな」

「え…?う、ウソップ…?」

 

 ルフィは、そこでやっとウソップの方を向いた。ウソップは立ち止まって、真っ直ぐ海を睨みつけていた。

 

 

『'……'』

 

 ルフィは、何かがおかしくなっていることに気づいた。予想外の事態に、緊張から思わず顔が引きつる。

 

「くだらねェ、くだらねェ、くだらねェ…何てくだらない…!!そんなことで…!!」

 

 近くにいても、その音を耳がやっと拾えるくらいの、小さな掠れ声。

 しかし、ルフィには、それが何よりも強烈な叫びに聞こえた。

 ーー強烈な、怒りを感じた。

 

 

「何かウソップが変だ…!ど、どうしたら!?」

『'落ち着けルフィ。とりあえず黙っとけ'』

「う、うん…」

 

 ウソップに声をかけられないまま、時間だけが過ぎていく。

 ルフィは黙ったまま、俯くウソップの背中を見つめていた。

 

『'…ルフィ、少し変わるぜ'』

「あ、ああ」

「'ーーおい、ガキ'」

「え、な…なんだルフィいきなり…」

 

 実のところ、ウソップの激情は直ぐに鎮火して、逆に冷静になっていた。つまり、気まずくなって俯いていただけだ。あんな状態になった手前、ルフィに声を掛けづらかった。しかし、自分でも制御できないのだから、どうしようもないのだ。

 父のこととなると、突然沸き上がる衝動。少し意識を向けただけでも、身を焦がすそれに今では慣れたつもりだったが、今回は別だったのだ。

 

 そして今度は、ウソップの方が、ルフィの様子がおかしくなったことに気づいた。

 

「'なぁ、このマーク見たことあるか'」

 

 グリードは、自分に代わったことで浮き出た、左手の甲に刻まれたウロボロスを、ウソップの前に出した。

 ウソップは、信じられないものを見たかのように、顔色を変えた。

 

 「左手の甲……グリード…」

 

 ウソップの呟きに、グリードは引きつった笑いを作り出した。

 

 「'やっぱりそうかよ、最悪だぜ…!!そこにいるんだろ!?…ラース…!!'」

 「…」

 「'…っ'」

 

 緊張が走る。

 顎にかけて、冷たい汗が伝う。

 ウソップは、その様子をじっと見つめてーー首を傾げた。

 

 

 「…?…おれは、ラースなんか知らねェよ。会ったことない。もしかして、会えんのか…?」

 「'は…ぁ…?'」

 「なんて言えばいいのか……グリードは出てきたんだ。おれが寝ていた七年間で、みた夢に」

 

 そう言って、ウソップは自分の身の上を語った。

 

 

 

「へえ〜。キング・ブラッドレイ…いや、ラースはじいさんだったのか」

「'…そうだ、アイツは人間ベース…石の中にいるわけねえよな……ん?見た目はな。動きは老人なんかじゃねえ。バケモンだぜアレはーー'」

 

 

 「'ーー君に言われるとはな、グリード君。ーー変わらず強欲な愚か者が'」

 

 

 グリードは、大きく飛び退いた。

 両腕を硬化させーー反射的に首回りを硬化させる。

 

「お、おい…?いきなりどうしたんだ?」

『グリード、どうしたんだ?』

 

 ウソップが目を白黒させている。

 グリードは、ルフィの声で我に返った。息を整え、目の前に意識を置いたまま、ルフィに問いかける。

 

「ルフィ、今…あいつから何か聞こえなかったか…?」

『いや、なにも』

「'…ウソップ?…お前、今俺のこと強欲とか何とか言わなかったか?'」

「…?言ってねェけど」

 

 ウソをついているようには見えない。見つめて数秒、グリードは硬化を解いた。

 

 「'ははっ'」

 

 ああ、何が憤怒(ラース)だ。第一、おれのが強い。

 何を臆しているのかと、グリードは額から流れる汗を乱暴に拭って、自分自身に一笑した。

 

 

「'…そうか。なんか悪かったな。ルフィと代わる'」

「……はら、へった〜…」

「え、おいっ!?大丈夫か!!」

 

 

 

 

 

 




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