至高の棋士   作:夜叉

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今回のプロローグ、棋士との出会い、名人と竜王の評価及び感想の結果により連載開始予定です。


プロローグ 名人と竜王

 

 

 言葉が出てこなかった。

 目の前にいる、久瀬一という一人の棋士に私は自分自身の今を重ねてしまった。両親が遺してくれた将棋、それを誰の記憶にも残されずに消えていくのは嫌だ、家族との大切な思い出が消えていくのは嫌だ。私は証明する、お父様が居たから、居てくれたから今の私があるんだと。

 

 

「私は強くなりたい。竜王と呼ばれる人物より、名人と呼ばれる人物より、誰よりも強い女流棋士になりたいのよ……あなたに私を棋士として最後まで責任を持って面倒見ることは出来るのかしら」

 

 生半可な気持ちで女流棋士を目指すつもりなんかない。私はまだ子供だけれども、覚悟はすでに出来ているつもりなんだから。

 九頭龍先生との先の対局だって負けてしまったけれど無駄にはなっていない。敗北は次に活かすことが出来るチャンスになるんだから。

 負けた悔しさとお父様のことを覚えてくれていなかった哀しさで泣いちゃったけど。

 

「夜叉神さんとの約束を守るために、天衣さんを弟子に迎えさせてください。君を至高の棋士と呼ばれるに至るまで面倒を見ます」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 黒の着物に身を包む彼は身体を精一杯に折って頭を下げ、その流れるような綺麗な動作に思わず私も頭を床に向かって下げていた。

 お父様は一体、久瀬一先生とどのようなやり取りをして私を弟子に迎えるように約束をしたのか気になってしまうじゃない。

 

「……ねぇ、約束ってーー」

 

「ーー久瀬名人!!?」

 

 廊下をドタバタと走ってきたであろう九頭龍先生の素っ頓狂な声で私の声は掻き消されてしまった。

 

「ん? お久しぶりですね、竜王。竜王戦以来でしょうか」

 

「え、あ、はい!! 竜王戦以来です……って久瀬名人はこちらに何用で……」

 

 実は、と口を開いた久瀬先生は九頭龍先生と私の顔を交互に見て何か納得したような表情を浮かべる。

 

「ちょうど僕の用は済んだところです。竜王、ここ最近の棋譜を見る機会があったのですが調子が悪そうでしたが大丈夫でしょうか」

 

「ええ……竜王としての立派な将棋を指せずに心苦しい限りで。連敗中です」

 

 確か九頭龍先生は現在、公式戦で負け続きだったはず。正直、タイミング的にも負け続きで勝ちを模索する棋士の邪魔をするのも嫌だから弟子入りに関してはもう少し時期を見ようと思ってたのだけれど。

 お父様の件、といい苦虫を噛み潰したような表情を見る限りでは相当なプレッシャーがかかってるみたいね。

 

「ふんっ。お父様のこと忘れるから、クズ竜王……」

 

「な、なんだって!!」

 

「落ち着いてください、竜王。丁度良い機会なので非公式ではありますが……僕と一局、指しませんか? 棋譜を見た限りでは不調の原因を僕は分かってます。将棋を通してお伝え出来るかと思いますから」

 

 棋譜を見た限りで不調の原因が分かる、というのは本当なのかしら。名人ともなれば他のプロ棋士とは一線を画す、のかもしれないけど。

 相手は仮にも竜王であって現在は負け続きとはいえども史上最強とも言われる相手なんじゃないの。私だって4枚落ちで負けてるのに久瀬先生は勝てるのかしら。

 

「こちらとしては願っても無いことです! 是非ともお願いします!」

 

「負けてしまえばいいのに。あ、口が滑ってしまったわ。ごめんなさい」

 

 久瀬先生が後手番一手損角換わりの戦法で勝負していくなら九頭龍先生の居飛車は先手相がかり、後手一手損角換わり。お互いに泥臭い力戦調の将棋になるのは免れないはず、どちらが勝つのかしら。

 

 




評価よろしくお願いします。
連載開始が決まった場合、3月31日よりの投稿を持って連載開始の合図とさせていただきます。多くの読者に愛される作品になれるよう、協力のほどお願い致します。

※4月1日より連載開始。
プロローグの評価、感想の結果により連載開始を決めさせていただきました。投稿まで今しばらくお待ちください。

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