君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第10話です
雅編です


第10演目 そして僕にできるコト

あのお披露目イベントから3日が経った。

あれから、千聖とは一度も会っていない。会おうとは何度も思った。

実際に彼女の家まで何度も会いに行った。だけど、結局会うことは叶わなかった。

体調が悪いから会うことができないと、千景に断られるばかり。顔を見ることもできていない。

メールを送っても、返事が返ってくることは一度も無い。

なんとももどかしい日が続いていた。

 

あの日から、僕の方も大変だった。毎日マスコミの質問攻めにあう日々。学校どころではない。

 

僕はあの日以来学校を休んでいる。理由としては、マスコミのこともあるが、行く気にならなかったというのが最大の理由だ。千聖が苦しんでいるというのに、のんびり学校に通う気になんて到底ならなかった。

 

毎日、千聖が回復する方法を探す日々。千景が言うには、精神的な問題が原因らしい。具体的に、どういった問題なのかがわからないと、復調は難しいだろうとも言っていた。後は、千聖自身でなんとかするしかないらしい。

 

だけど、それを聞いても諦めきれず、僕は毎日回復方法を探した。結果はやっぱり見つからなかった。やっぱり、千聖に直接聞くしかないと思う。それができたら苦労しないんだけれども。

 

だけど、方法がそれしかないのなら、やってみるしかない。僕は、千聖の家に行ってみようと思い、家を出ようとした。そして気づいた。雨が降っているということに。激しい雨だった。考え事をしていたせいで、全く気づかなかった。いつから降っていたのかもわからない。確か、お昼ご飯を食べ終わった時点ではまだ降っていなかったはずだけど。

 

行くか行かないか躊躇している時だった。チャイムの音が鳴り響いたのは。こんな雨の中一体誰が?チャイムの音は、よっぽど急用なのか、こちらを急かすように、2度、3度と連続して鳴り響く。まるでイタズラみたいだ。

 

「はいはい。そんなに慌てなくても今出ますよ。どちら・・・様・・・?」

 

僕は玄関を開けて驚愕した。開けた瞬間に、誰かが飛びついてきたのだ。僕の服が、勢いよく水分を吸収していく。それだけで、その人物が現在びしょ濡れになっていることがわかる。よっぽど慌てていたのか、傘も差さずに来たのだろう。

 

そして、顔は見えないが、僕にはその人物が誰なのかがすぐにわかった。顔は見えなくても、頭は見える。この、薄黄色のツーサイドアップ。見間違えるはずがない。

 

「千景?どうしたの?一体何があったの?」

 

そう、千景だ。僕にしがみつく千景の体は小刻みに震えている。泣いていた。千景は確かに泣いていた。そんな千景を見て、僕も段々と嫌な予感がしてくる。そして、その予感は的中することとなる。

 

「姉さんが、姉さんが帰ってこないんです・・・!」

 

その言葉を聞いて、僕の頭に強い衝撃が走ったような気がした。千聖が帰ってこない?そもそも何故彼女は家を出たんだ?

 

「千景、手短に詳しい話を聞かせてくれる?」

 

僕は、出かける準備をしながら、千景に事情を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

千景が言うには、千聖は雨が降る前、昼過ぎに出かけたらしい。最初は、心配した千景も一緒に行こうとしたのだけれど、千聖に一人で考える時間が欲しいからと断られたらしい。せめてもの譲歩として、今日は夕方から雨が降ってくるから早く帰るように言ったのだけれど、未だに帰ってこない。そして、慌てて僕の家に助けを求めにきたらしい。

 

僕は現在、傘を片手に千聖の捜索を行っている。千景は先に家まで送っていった。もし、探してる内に千聖が帰ってきてもいいようにだ。そして僕は、テレビ局まで足を運んでいた。

特にここに探しに来た理由は無い。当てもなく、手当たり次第に探していたら、たまたまここに来ただけだ。

 

「お久しぶりね、雅君。そろそろ来る頃だと思っていたわ」

 

そして、この方と出会ったのも本当にたまたまだ。知る人ぞ知る名司会者。芸能界の大御所の一角であるこの方。どうやら僕が来るのを予知していたらしい。恐ろしすぎる。

 

「お久しぶりです。まるで、僕がここに来るのがわかっていたみたいですね」

 

「ええ、わかっていたわ。そのために、わざわざこんな雨の中、外で待っていたんですもの。目的は千聖ちゃんでしょ?彼女ならあっちの方向に行ったわよ」

 

そう言って、ある方向を指差す大御所。本当に全てお見通しだったようだ。そして有益な情報が手に入った。どうやら、千聖はここに来たらしい。ここに来たのも無駄骨では無かったようだ。

 

「ありがとうございます。では、僕は急ぎますので」

 

「ええ、でしょうね。雅君、ここからはあなたの仕事よ。後は、あなたにできることをしっかりやりなさい。千聖ちゃんを、大切にするのよ」

 

「言われなくてもそのつもりです」

 

決意を込めた僕の言葉を聞くと、大御所さんは満足したかのように微笑みその場を後にした。本当に、あの人にはお世話になりっぱなしだ。この恩は、千聖を大切にすることで返すとしよう。そう改めて決意し、僕は足を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

次にやってきたのは病院だった。この病院もなつかしい思い出の場所だ。千聖を探しながら、まるで思い出巡りをしているような気持ちになってくる。

 

「なんとなく来る気がしてたけど、やっぱり来たわね。雅君久しぶり。元気にしてた?」

 

そして、ここにもエスパーがいた。最近の看護師さんは予知能力でもあるのだろうか?いや、きっとこの人だけだろう。この看護師さんにも非常にお世話になった。僕が入院したときに、担当してくれたのがこの看護師さんだった。今でもたまにお世話になっている。それにしても、どうしてみんな、僕の行動がわかるのだろう?怖すぎる。

 

「お久しぶりです。僕が来るのがわかっていたんですか?」

 

「なんとなくだけどね。千聖ちゃんの様子を見てたら、なんとなくそんな気がしただけよ。千聖ちゃんならあっちに行ったわよ?早く行ってあげなさい」

 

そう言って、指を指し教えてくれる看護師さん。なんとなく、千聖が近づいてる気がする。そんな予感がした。

 

「ありがとうございます。では、急ぎますので。それじゃ」

 

そう言って、僕はその場を立ち去った。きっと、もう少しで、彼女に辿り着ける。

 

「雅君!きっと、千聖ちゃんは心のどこかではあなたが来るのを待っているはずだから!千聖ちゃんのこと、大切にしなさいよ!」

 

その看護師さんの言葉に、僕は振り向かず、手だけを振って応えた。振り向いてる時間ももったいない。千聖のもとまで走り抜ける。激しい雨に負けず、僕は足を前へと進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

いない。看護師さんに教えてもらった方向にひたすら走ったが、千聖の姿はどこにも見当たらない。看護師さんが示したのは、千聖の家がある方向だった。彼女がもうすでに帰ったのかとも考えたが、それは無いだろう。

 

理由としては千景の存在だ。白鷺家には、現在千景が待機している。彼女には、千聖が帰ってきたらすぐに電話してくるように言ってある。その彼女からの電話がない。千景に限って、連絡を忘れるなんてことは無いだろう。あの子は本当にしっかりした子だ。

いくら、千聖のことで、気が動転していたとしても、そんな初歩的な失敗を起こすような子じゃない。

 

故に、まだ千聖は帰っていない。だけど、千聖はどこにも見当たらない。段々、千聖の家が近くなってきた。このままでは、見つかる前に家に着いてしまう。まさか、途中で千聖と違う道に進んでしまったのだろうか?

 

僕の心に、不安が募る。そんな気持ちを押し殺して、僕はひたすら走った。走って、まだ走って、さらに走って、そして止まる。

 

止まるつもりなんて元々無かった。このまま、千聖の家までノンストップで駆け抜けるつもりだった。つもりだったのだが、僕の足は何かに縛られるようにその動きを止めてしまった。

 

そこにあったのは公園だった。懐かしい。ここも、千聖との思い出が残っている公園だ。

 

だが、それだけなら、僕の足はきっと止まらなかっただろう。懐かしいとは思いつつも、止まらず駆け抜けたはずだ。だけどなぜか止まってしまった。誰かに呼ばれたような気がした。何故だろう?別に声が聞こえたわけでは無い。ただ、何故か呼ばれたような気がした。僕は、自分でもよくわからない内に、まるで誰かに導かれるかのように公園の中へと足を進めた。

 

そこに、彼女はいた。公園の真ん中で、何をするわけでも無く、何かを大事そうに握りしめて立ち尽くしていた。その背中は、僕の知っている姿よりもかなり小さく見える。僕は、そんな彼女の背中を見て、いてもたってもいられず、直ぐさま近づき、彼女に傘を差した。

 

「こんなとこで何してるの?そんなにびしょ濡れになって、風邪引いちゃうよ?」

 

そう声をかけると、ゆっくりこちらを振り向く彼女。振り向いた千聖の顔は、思わず目を背けてしまいたくなるほど、やつれていた。ここまで弱っていたとは、正直予想外だった。

 

そして千聖は、僕の姿を確認すると、逃げるかのように走り去ろうとした。その足はフラついていて、いつ倒れてもおかしくない。僕は、そんな千聖の腕を取り、自分の胸に抱き寄せた。

 

「そんなフラフラな体でどこに行こうっていうの?ちゃんとご飯食べてる?睡眠取ってる?そんなんじゃ、すぐにでも倒れちゃうよ」

 

今の千聖の姿は、どことなくあの時の僕に似ている。別に、内面的な意味では似てないだろう。おそらく、あの時の僕が抱えいたものと、今の千聖が抱えているものは全く別種の物だ。

 

だが、外面的、身体的には似た状況に見える。睡眠も食事もろくに取らず、いつ倒れてもおかしくない。

 

「ほうっておいて!私がどうなっても、あなたには関係無いでしょ!」

 

「あるよ!」

 

思わず大きな声を出してしまう。いけない。(たしな)める側の僕まで興奮してしまったら、説得力が無くなってしまう。だけど、それも仕方ないことだろう。それほどまでに、彼女が言った言葉は見過ごせなかった。

 

「あるに決まってるでしょ!千聖の体は、君だけのものじゃ無いんだよ!千聖が倒れたら、どれだけの人が悲しむと思ってるの!千聖の両親に、千景ちゃん、パスパレのみんなに花音ちゃんや薫、もちろん僕だってそうだ!それに、千聖だけはそれを言っちゃダメでしょ!それを千聖が言うということは、あの時の千聖を自分自身で否定することにつながるんだよ!」

 

「っ!」

 

中学1年の時、僕は病院で千聖に暴言を浴びせた。その暴言の中には、今の千聖が言ったのと、全く同じ内容のものも含まれていた。そんな僕に、彼女が言った言葉。その言葉はすごく印象的で、今でもよく覚えている。

 

「この世に生を受けたからには、傷つくことを誰にも悲しまれない人間なんていない。そう言ったのは千聖、君自身だよ!その言葉を他でもない君自身が否定してどうする!もう一度言うよ!君が倒れたら、僕は悲しいんだ!」

 

「わ、私は・・・」

 

僕の胸の中で、千聖は震えている。その声も震えている。千聖は泣いていた。そんな千聖を見て、僕の目からも自然と涙が溢れてくる。

 

「僕は千聖が心配なんだ。ううん、僕だけじゃ無い。千景だって、パスパレのメンバーだって、みんな千聖のことが心配なんだ。教えて、千聖。一体どうしたの?何が君をそこまで追い詰めてるの?」

 

「そ、それは・・・」

 

千聖の口から答えは出そうにない。よほど言いたくないのか、一向に出てくる気配はない。だけど、聞き出さないわけにもいかない。そうしなければ、千聖はきっと前に進めない。

 

「千聖、黙っててもわからないよ。わかってるでしょ?僕は人の気持ちに疎いんだ。千聖が考えてることなんてなんにもわからない。言ってくれなきゃわからないよ。ねぇ千聖、悲しいなら言ってよ。僕も一緒に泣いてあげるからさ。嬉しいなら言ってよ。僕も一緒に笑ってあげるからさ。道に迷ったなら言ってよ。僕も一緒に悩んであげるからさ。ねぇ千聖。なんでも言ってよ。僕も一緒に答えを探してあげるからさ。僕にできることなんて、たかがその程度のことだからさ」

 

「雅・・・」

 

千聖の声に、決意の色が浮かび上がった気がする。どうやら、ようやく言ってくれる気になったようだ。

 

「私は、怖いの。この前のお披露目イベントの時、私達は嘘がばれた。そのせいで、私達だけじゃなくて、雅までもが罪を犯したと世間には思われてる。雅、あなたの夢は世界一の音楽家。だけど、私はそんなあなたの経歴に傷をつけてしまった。私があなたの夢の壁になってしまった。私は、怖いの。このままあなたと一緒に居れば、今回だけではなく、またあなたの壁になってしまうかもしれない。それが怖くて、怖くて、仕方が無いの。だから、あなたから距離を置こうかと考えた。それが、あなたの夢のために、私ができる、最良の道だと思う」

 

「なんだそんなことか」

 

「そ、そんなことって、私がどれだけ悩んで、苦しんだと思ってるの!」

 

僕の一言に怒ったのか、声を荒げる千聖。だけど、僕からしたら本当にその程度の悩みでしかなかった。いや、こんなのは悩むようなことでもない。答えはわかりきっているのだから。

 

「千聖、確かに、千聖が僕から離れることによって、僕の前に今後立ちふさがる壁は減るかも知れない。だけど、それは決してゼロにはならないっていうのは千聖も理解してるよね?もし、千聖が僕から離れて、一人で壁に立ち向かわないといけなくなった時、僕は自信をもっていえるよ。乗り越えることができないってね。だけど、もし、千聖、君と二人だったら、例えより多く、より強靱な壁が立ち塞がっても、全てを乗り越えることができるって自信をもって言えるよ」

 

「雅・・・」

 

これが僕の嘘偽り無い、心からの本音だ。千聖と二人だったら、どんな困難だって乗り越えられる。僕はそう信じている。僕個人は、数字で表すとたかが1でしかない。そんな存在が壁に向かっていっても、勝てる見込みは0だ。だけど、僕+千聖は、(むげん)の可能性を秘めていると思う。そんな二人の前だと、どんな壁だって太刀打ちできないだろう。

 

「だからこそ、言うよ。千聖、お願いだから僕から離れるなんて二度と言わないで。ずっと僕の側に居て欲しい。僕の一番近くで、僕の夢を見届けて欲しい。千聖がいないと、僕ダメみたいだからさ」

 

「雅・・・」

 

これならもう大丈夫だろう。千聖の迷いも消えたはずだ。そして、あんなに激しく降っていた雨も、いつのまにか止み、空には太陽が姿を現していた。雨は夕方からと言っていたのに、夕方になる前に降って、また夕方になる前に止んでしまった。当てにならない予報だ。いや、降ることには降ったのだし、当てにはなるのだろうか?

 

千聖の震えも止まった。どうやら落ち着いたらしい。これならもう離しても大丈夫だろう。僕は、今まで抱きしめていた千聖から少し離れた。千聖は大事そうに何かを握りしめて、静かに涙を流していた。どうやら、この前の千聖の誕生日に買ったお揃いのネックレスのようだ。僕も今同じ物を付けている。それを、大事そうに、愛おしそうに握りしめていた。

 

そんな彼女の顔には、笑顔が浮かんでいた。涙を流しながらも、その顔は太陽のように輝いて見えた。久々に見る彼女の笑顔だ。数日見なかっただけなのに、随分久々に見た気がする。まぁ、これまで毎日見てきた物が、急に数日間も見れなくなったのだ。そう感じても仕方ない。僕は、この笑顔をもう無くしたくない、無くさない、と静かに決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、僕は千聖と一緒に帰路についていた。一緒といっても、千聖はフラフラで、歩くのも覚束ない。この体でよく今まで歩き回ってたとある意味感心したほどだ。そんな彼女をこれ以上歩かせるわけにはいかない。では、どうやって一緒に帰っているのか?

 

「雅、大丈夫?重くないかしら?」

 

「大丈夫だよ。むしろ軽すぎて心配するほどなんだけど。ほんと、ちゃんと食事は取りなよ?」

 

僕の背中に乗っていた。所謂、おんぶだ。僕の背中に乗っている彼女は本当に軽い。本当に乗っているのかと疑問に思うほどだ。

 

「ふふっ、雅の背中、あったかい」

 

そして、非常に機嫌がいい。甘えるかのような声が背中から聞こえてくる。普段、彼女が出すことの無いような、甘ったるい声。僕も滅多に聞いたことが無い。非常にレアな声だ。手が使えたら録音するのに、と心の中で少し悔やむ。

 

「雅、本当にありがとう」

 

「いいよ、今の千聖を歩かせるわけにはいかないからね」

 

「いいえ、それもあるけど、違うの」

 

彼女のお礼。僕はそれが今行ってるおんぶに対するものだと思った。だけどどうやら違ったらしい。

 

「私は、雅が後少しでも来てくれるのが遅かったら、取り返しの付かない選択をしてしまうところだった。雅のためと思った選択が、雅を追い込む結果でしか無かった。ここに来るまでに、ある人に私は、雅のことをちゃんと考えてるって言ったの。でも、実際は違った。私は何も雅のことなんて考えてなかった。そう思い込んでただけ。実際は、私自身のことしか考えてなかった。こんな私を、正しい選択に導いてくれて、ありがとう。そして、雅のことを考えずに、勝手に選択を選んでごめんなさい」

 

「何も謝ることじゃないよ。それに、千聖は千聖なりに僕のことを考えてくれてたでしょ?それで十分嬉しいよ。だから、これに関しては謝罪もお礼も無し。これでいい?」

 

「ふふっ、えぇ。私は、雅のことならなんでもわかるって思ってたのに、実際はそうでも無かったみたいね。もっと雅のこと勉強するわ。雅、ここまででいいわ。もう家の前よ」

 

「あ、本当だ。通り過ぎるところだったや」

 

僕は、すっかり千聖との会話に夢中になっていた。そのせいで千聖の家に着いたのに全く気づいていなかった。危うく通り過ぎてしまうところだった。僕は、家の前で千聖を背中から降ろした。

 

「雅、ありがとう。そうね、何かお礼をしなくてはいけないわね」

 

「だからお礼はいいよ。さっきも言ったでしょ」

 

「さっきのは私の選択に対するお礼の話よ。おんぶのことは別じゃないかしら?そうだわ。雅、ちょっとだけこっちに近づいてくれる?」

 

「何?」

 

千聖に近づくように催促された僕。言われたとおりに、千聖に近づくと、僕の唇に、柔らかい何かが触れた。さらには、いつの間にか、千聖の顔が超至近距離にまで来ていた。そして離れる柔らかい感触。

 

「え?」

 

「雅、あなたのタイミングでいいから、いつでも言って。私、待ってるわ」

 

そう言って、家の中に入っていく千聖。先ほどの柔らかい感触が、千聖の唇だと気づいたのは、彼女が見えなくなった後のことだった。僕の脳が、ようやく先ほどの行為がキスだったということを認識する。あまりにも遅い処理能力だ。まぁ、フリーズ寸前まで行っていたから仕方ないのだけれど。

 

そして、先ほどの行為と、千聖の最後の言動を照らし合わせて、僕の中でようやく全ての答えが出た。

 

「なんだ。僕の片思いじゃなかったのか」

 

「気づくの遅すぎですよ。おにいさん」

 

不意に後ろから声が聞こえる。この声と、おにいさんという呼び方は間違いない。千景だ。

 

「千景、いちお聞くけど、見てた?」

 

「もちろん、最初から全部見てましたよ。お二人のことが心配で、外で待っていたら、遠目に何やら良さげな雰囲気のお二人が来たものですから、邪魔してはいけないと思い、電柱の裏に隠れてこっそり見てました」

 

なんということだろうか。これは恥ずかしすぎる。穴があったら埋まりたい。いっそのこと埋葬してほしい。

 

「おにいさん。姉さんはずっと待ってるんですよ。おにいさんからあの言葉を言われるのを。姉さんは、鈍感なおにいさんとは違って、おにいさんの想いにずっと気づいていましたからね。姉さんのこと、大切にして下さいね?それでは、私は今から姉さんで遊んできますので。姉さんのこと、本当にありがとうございました」

 

そう言って、家の中に消えていく千景。この後、千聖は千景の餌食になるのだろう。僕には助けることができない。それにしても、千聖を大切にしてくださいか。今日一日で、3人に同じことをお願いされた。正直、僕はみんながなんでそんなことをお願いしてくるのかわからない。

 

「そんなの、お願いされなくたって、するに決まってるじゃないか」

 

信用無いのだろうか?だとしたら悲しい。だったら、千聖をみんなの想像以上に大切にして、幸せにして見返してやろう。そしていつか、千聖と二人でみんなに言ってあげようじゃないか。あなた達のお陰で幸せになれましたと。言ってあげようじゃないか。できるかぎりの、最大限の満面の笑みとともに。僕にできる恩返しなんて、それぐらいしかないのだから。

 

 

 




どうもソウリンです。
今回のサブタイトルは、ps2版テイルズオブシンフォニアより、day after tomorrowさんで、そして僕にできるコトでした。
シンフォニア大好きです。そしてこの曲、今回のお話に割と合うと思います。前話と同じで、内容にも関係性があったりします。
そして、公園に入ってからの千聖視点のお話なんですけどね、本編に載せるのは蛇足になりそうな気がしたのでカットしたんですけど、いちおプロットは用意してるんですよね。
それでもしよかったらなんですけど、希望者が一定数を超えれば、番外編扱いとして投稿しようかなと考えてます。
もし、一定数を超えなければそのまま本編進行します。
そうですね、まぁそんな多く設定する気も無いので5人ほど希望する方がおられたら投稿します。期限は特に設けません。
希望する方はよろしければ、自分宛にメッセージ下さい。
希望者がもし一定数を超えた場合は、活動報告にて報告します。
集まるまでは、今まで通り本編の投稿を優先します。
1章もうちょっとで終わるんやで
では、今回はこのへんで
次回は雅編です。4月29日午前0時までを目標とします。
番外編次第で遅れるかも?まぁたぶん大丈夫でしょうけど
目標日より遅れる場合は活動報告で執筆状況報告します。
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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