君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

16 / 51
第16話です
千聖編です


第16演目 世界には愛しかない

ここまで本当に長かった。

イベント前夜がやってきた。この一ヶ月、私の時計は壊れてるんじゃないか?と思うほどに長かった。

 

「いよいよ、明日だね」

 

「えぇ、そうね。明日で、全てが決まるわ」

 

明日で私達の全てが決まる。泣いても笑っても、明日で結果が出る。私達が続けてもいいのか?解散しなければいけないのか?雅の夢が動き出すのか?全て明日で決まる。

 

「不安とかはない?」

 

「えぇ、大丈夫よ。これまで頑張ってきたんだもの。いつも通りやればいいだけ。問題も不安ももう無いわ」

 

ここまで、不安が消えるまでやれるだけのことはやってきた。私の中の不安は、もう全て綺麗に消えて無くなっている。明日はいつも通りの演奏をするだけ。レッスンと何も変わらない。ふと、雅の方を見てみると、今にも泣きそうな顔をしていた。昔から雅は感動的場面に弱い。今も、私達のことを考えて感動してくれているのだろう。これは、後一押しで泣いちゃいそうね。

 

「なんで雅が泣きそうになってるのよ」

 

「だって、みんなが本当に頑張ってきたことは僕も知ってるからさ、その努力が報われる時がやっと来たのかと思うと、なんだか感動しちゃって」

 

「ふふっ、昔から雅はそうだったわね。感動物の映画とかに弱くて、映画館でも関係無しにすぐ泣いちゃって」

 

「だ、だってしょうがないじゃん!泣いちゃうものは泣いちゃうんだから!悪い?」

 

「誰も悪いだなんて言ってないわよ。それだけ、雅が私達のことを想ってくれてるってことだもの。感謝することはあっても、悪いなんて思うことは絶対に無いわ。雅、ありがとう」

 

案の定、私のその言葉が引き金になった。抑えていた涙があふれ出している。

 

「ふふっ、やっぱり泣いた」

 

「千聖、ぜ、絶対確信犯でしょ」

 

そんな雅が、有り難く思う。それだけ、私達に感情移入してくれているということなのだから。

 

「だけど、本当に長かったわ。あのお披露目イベントから、言葉にしたらたった一ヶ月の出来事なのだけれど、本当に長く感じたわ。それはもう、まるで時間が止まってしまっていたかのように」

 

本当にこの一ヶ月長かった。それこそ、永久にも感じるぐらい長かった。理由はわかる。私の時間はあの日のお披露目イベントから動いていない。あの日、あの場所で止まってしまっている。明日のイベントは、その止まった時間を動かす契機になる。失敗はゆるされない。

 

「千聖、明日で全て終わりにしようね」

 

「えぇ、当然よ」

 

そう、明日で全てを終わらせる。明日で、全てに決着を付ける。私は改めてそう決意し、前夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当日になった。いつも通りの朝を過ごし、いつも通り雅と家を出る。今日は雅も会場で見守ってくれる。そう思うと、自然と力が湧いてくる。雅に良いところを見せないといけない。やる気は十分だ。

 

「姉さん、おにいさん」

 

会場に着いた時だった。背後から聞き慣れた声が聞こえた。今まで毎日のように聞いてきた声。

 

「どうもです」

 

振り返ると、案の定そこには千景がいた。態々、会場まで見に来てくれたらしい。有り難い。

 

「千景、態々見に来てくれたのね」

 

「ここまで結構遠いのに。千景、お疲れ様」

 

「本当にお疲れです。いやーこんなに姉思いな妹を持てて、さぞその姉は幸せ者なんでしょうね」

 

「えぇ、そうかもしれないわね」

 

「そこは否定しないんだね」

 

否定できるわけが無い。私は、本当に自分が幸せ者だと感じている。千景がいて、雅がいて、Pastel*Palettesのみんながいる。これ以上望むのは贅沢なんじゃ無いかと思うぐらいに幸せだと思う。だけど、望まないといけないことはいくらでもある。

 

もっと大きなステージに立ってみたい。雅との関係を進展させたい。いくらでも望みが出てくるのだから、我ながら欲深い女だと感じてしまう。

 

「では姉さん。私は客席で姉さんの勇姿を見守ってますね」

 

「えぇ、お願いするわ」

 

「姉さん、最高のイベントを期待してますね」

 

「・・・えぇ、必ず今度こそ、最高のイベントにしてみせるわ。千景のためにもね」

 

その千景の言葉に、私は思わず感極まりそうになってしまった。あの日叶えられなかった千景との約束。最高のイベントを見せるという約束。それを果たすときが来た。今日で、あの日に置いてきた物全てを返してもらおう。利子も付けて返してもらおう。

 

そして、千景が会場内に入っていったのを確認して、私達も関係者入り口から中に入った。そして、私達の控え室に着くと、そこには既に私達を除くメンバー全員が揃っていた。

 

「あ、雅君、千聖ちゃん、おはよう!」

 

「おはよう彩ちゃん。みんな早いね」

 

「おはよう。待たせてしまったみたいね。ごめんなさい」

 

「いえいえ、自分たちが早かっただけで、千聖さんが遅刻したわけでは無いですから。謝ることは無いですよ」

 

本当にみんな早い。気合い十分といったところかしら?これなら最高のパフォーマンスが期待できそう。

 

「失礼するよ」

 

そんなみんなに感心していると、控え室に一人の男性が入ってきた。実際にその人物に会うのは初めてのことだった。テレビ等ではよく拝見しているし、マリさんからもよく話は聞いていた。マリさん曰く、変人と天才の境目で彷徨ってる人物、早乙女仁さんがそこにはいた。

 

「仁さんおはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

「グッドモーニングミヤッビー。あぁ、トゥデイは頼むよ。ユー達」

 

「早乙女仁さん。お会いできて光栄です」

 

「OK。堅苦しいのはナッシングだ。ミーはそういうのが苦手なんでね。ユーがミヤッビーのラバー、チーサだね?よろしく頼むよ」

 

私のことをチーサと呼ぶ早乙女さん。いえ、それは今はどうでもいい。今私達のことをなんと言ったかしら?確かラバーと言った。ラバー、Lover、それが表す意味は恋人。誰と誰が?私と雅が。その思考に辿り着いた瞬間、私の顔は真っ赤になり、頭は真っ白になっていった。

 

「ら、らーらららーらら、ららら、ら、ら-、ら」

 

言葉が上手く出ない。みんなが何か言ってるけど聞こえない。だけど、そんなの今は気にならない。私と雅が恋人?確かに、似たような関係だとは思うけど、まだ正確にはなれていない。いつかはなりたいと思っているけれど、雅はまだあの言葉を言ってくれない。だけど、私は雅のことを信じて、愛して、いつまでだって待つ。本当は、そろそろ我慢の限界が来そうだけど、堪えて待つ。そんな思考が延々と続いて、そして現実に引き戻された。

 

「ら、ラバー!?」

 

「あ、チサトさんが帰ってきました!」

 

「ずいぶんと長い旅でしたね。自分少し心配になってきてましたよ」

 

どれぐらいの時間が経ったのかわからないけど、私はそれなりの時間現実から離れていたらしい。かなり恥ずかしい。それにしても、緊張感の無い本番前だと思う。まぁ、私が原因の一端なのだけれど。こんな雰囲気で大丈夫かしら?と少し心配になる本番前の空気だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「Pastel*Palettesさん、スタンバイお願いします!」

 

ついにこの時が来た。現在、私達は舞台袖に来ている。そして、そこでスタッフさんに呼ばれたということは、私達の出番が近いということ。さすがに少し、緊張してくる。

 

うぅっ、なんだか緊張してきたよ・・・」

 

「ふふっ、彩ちゃんは本当に本番に弱いのね。でも、それも彩ちゃんらしくていいと思うわ」

 

「千聖ちゃん、それって絶対ホメてないよね?」

 

緊張してる彩ちゃんのおかげで、逆に私の緊張が少し和らいだ気がする。こんな時に、彩ちゃんの存在は本当に助かる。

 

「あ、そうだ!みんなであれやってみない?あの、本番前にみんなで輪になって手を重ねるやつ」

 

「円陣ね。いいんじゃないかしら?」

 

「自分もいいと思いますよ。なんだか、アイドルって感じがしますね!」

 

「私やってみたいです!これで士気向上ですね!」

 

「おーイブちゃん難しい言葉知ってるねー。いいんじゃない?あたしもなんだかるんってきた!」

 

彩ちゃんの意見に賛同して、みんな順番に手を重ねていく。一番下に彩ちゃん、その上に、イヴちゃん、日菜ちゃん、麻弥ちゃんの順で重ねていく。そして、私の手を重ねる。少しでも、少しでもみんなの支えになれたら。そう想いを込めて、手を重ねた。そして、重ねるべき人物はもう一人いる。私達のことを、いつも影から支えてきてくれた、大切な人。雅の手が重なったのを確認すると、みんな嬉しそうな、満足そうな表情を見せた。

 

「ついに、この時が来たんだね。私、Pastel*Palettesの丸山彩になれて、本当によかった!」

 

「アヤさん、まだ終わったわけでは無いですよ!今から修行の成果をみなさんにお見せしましょう!」

 

「そうだね!今日は絶対、みんなピカッとして、お客さんがグッとくるようなキラッとしたステージにしようね!」

 

「最初は、自分なんかがアイドルなんて絶対無理だって思ってました。だけど、みなさんと一緒に汗を流して、笑っているうちに、なんだか自分でもできるんじゃないかと思えてきました。みなさん本当にありがとうございます。ふへへ」

 

「麻弥ちゃんなら立派にアイドルとしてやっていけるわよ。私が保証するわ。だけど、ふへへは禁止ね。みんな、本当にこの一ヶ月頑張ってきたわ。やれることは全部やってきた。だから、本番だからといって特別何かが変わるわけでは無いわ。レッスン通りやれば私達ならきっと大丈夫よ。みんなで、夢の続きを見ましょう?」

 

「僕は、みんなと一緒にステージに立つことはできない。本当に残念だけどね。だけど、覚えてて。僕の魂はみんなと一緒にいつもいる。みんなの中に置いていくから。だからこそ、あえて言うね。僕達は6人でPastel*Palettesだ。僕の分も思いっきり楽しんできて?」

 

6人でPastel*Palettes。雅のその言葉にまた感極まってしまいそうになる。今日は、涙を堪えるのに忙しい。本当は堪えずにそのまま泣いてしまいたい気分。だけど、どうせ泣くなら全てが終わった後がいい。みんなで、笑って涙を流そう。

 

「よーし、みんな!がんばるぞー!」

 

そうやって、一人で気を引き締めてたからこそ、そんな彩ちゃんの掛け声に思わずずっこけてしまった。がんばるぞ!って・・・

 

「え?みんなどうしたの?」

 

「あ、彩ちゃん。もうちょっと皆引き締まるような掛け声はなかったのかしら?」

 

「えー!そんなの私わかんないよ!」

 

「あはは!いっそのことブシドー!とかの方がよかったかもね!」

 

「ひ、ヒナさん!ブシドーは掛け声では無いですよ!」

 

「ま、まぁこの方が自分たちらしくていいんじゃないですか?」

 

「ははっ、そうかもしれないね。僕もそんな気がするや」

 

確かに、この方が私達らしいかもしれない。変に緊張感を保ってるよりもいいかもしれない。だけどなんだか、泣きそうになってた自分がバカみたいに思えてきた。

 

「Pastel*Palettesさんお願いします!」

 

「はいっ!いこう、みんな!」

 

そして、ついにスタッフさんからのお呼びがかかった。私達の出番が来た。ここで、全てに決着を付ける。私達は、彩ちゃんの声に続いてステージに向かった。皆の表情は気合い十分。約束された最高の舞台(ステージ)が今から待っている。

 

「みんな、頑張ってね!」

 

雅のその声に、全員振り返って微笑みかける。雅には一番近くで見守っててほしい。私達の最高の演奏(ステージ)を。

 

「みなさーん!こんにちはっ!私達、Pastel*Palettesです!まずは一曲聞いて下さい!しゅわりん☆どり~みん!」

 

そして運命のステージが始まった。最初の曲は、あの日最後まで演じることが叶わなかった曲。だけど、今日は何も演じる必要は無い。お客さんには私達の本当の音を聞いてもらう。なんの偽りも無い、本当の音を。

 

私も含めて、みんなの演奏は、完璧と言ってもいいと思う。レッスンの時よりも、さらに高レベルな演奏が出来ていると感じる。弾いてて、気持ちいい。彩ちゃんの歌に関しては、緊張のせいか、時折音が外れることがある。だけど、それが逆にリアリティがあっていい。

 

「これってまた口パク?」

 

「いや、違うだろ。今音はずれたし」

 

「演奏も生っぽいな。すげーレベルたけー!」

 

お客さんの反応も上々。彩ちゃんの歌がやっぱりリアリティを引き出してくれたみたい。そのまま、1曲目は無事に終了した。

 

「みなさん、改めましてPastel*Palettesのボーカル彩です!今日は来てくれてありがとうございます!最初に、みんなに謝りたいことがあります。私達は、前回のステージで歌も演奏もしていませんでした。みなさんに嘘をついてしまったこと、とても申し訳なく思っています。本当に、ごめんなさいっ!」

 

そして、彩ちゃんのMC。彩ちゃんの謝罪に合わせて、みんなで頭を下げる。あの時は、本当に申し訳ないことをお客さんにしてしまった。あのような失態はもう見せない。必ず、お客さん全員に満足していただけるような演奏を今日は、いえ、これからはしてみせる。必ず。

 

「本当は演奏するつもりだったけど、練習が間に合わなかった・・・って言っても言い訳にしかならないですよね。ごめんなさい、忘れて下さい。こうしてまたチャンスをいただけたことをとても嬉しく思っています!本当にありがとうございます!そして、これからもPastel*Palettesをどうぞよろしくお願いしますっ!」

 

そして、彩ちゃんのお願いに合わせて、またみんなで頭を下げる。そんな私達に送られたのは、暖かい歓声と拍手だった。

 

「パスパレいいぞー!がんばれー!」

 

「彩ちゃん応援してるよー!」

 

お客さんの声に、つい嬉しくなってしまう。私達は、みんなに無事受け入れられた。これを喜ばないわけにはいられない。ふと彩ちゃんの方を見てみる。その表情は、今にも泣きそうになっていた。これはまずい。彩ちゃんはMCを務めている。そのMCが泣いてしまっては進行が滞ってしまう。ここは私がなんとかしないと。

 

「みなさん、ベース担当の白鷺千聖です。こんにちは。生演奏ならではの臨場感をみなさんに楽しんでいただけたみたいで、何よりです!彩ちゃんのおかげね」

 

「ええっ!?そ、そうかな?ていうか、喜んでいいのかな?それ」

 

「私達はまだまだ未完成ですが、少しずつ、夢に向かって前に進んでいます。もっともっと前に進むために、応援よろしくお願いします!」

 

なんとか大丈夫そう。今の内に、持ち直すように彩ちゃんにアイコンタクトを送る。その私からの信号をちゃんと受信してくれたのか、彩ちゃんは必死に涙を堪えようとしていた。様子を見る限り、あと少し時間が稼げれば大丈夫そうに思う。

 

「ねーねー、お客さんたちー!日菜ちゃんの演奏もちゃーんと見ててよねー!」

 

「私も、ブシドーのすばらしさがみなさんに伝えられるようにがんばります!」

 

「じ、自分もが、がんばります。す、すいません緊張してて。ふ、ふへへ、あっ、またふへへって言っちゃいました。本番前にも千聖さんに注意されてたのに・・・」

 

「それじゃ、次ももちろん生演奏でみなさんにお聴かせしたいと思います。彩ちゃん、曲紹介よろしくね」

 

私の意思を汲み取ってくれたのか、みんなも次々にお客さんに言葉を投げかけてくれる。その行為が、お客さんのボルテージを上げる手助けもしている。それでいて、彩ちゃんが持ち直す時間稼ぎにもなった。まさに一石二鳥といえる。

 

「は、はいっ!この曲は、今日のために私達のたーいせつなお友達が態々作ってくれた新曲です!聞いて下さい!」

 

あの日、雅が私達に贈ってくれた夢のうた。それを披露する時がきた。この曲が意味するところは私達による革命。今こそ、どん底からの大革命を起こそう。

 

「パスパレボリューションず☆」

 

すごい。演奏している私もそう感じてしまうほどの、最高の演奏だった。個性豊かな別々の色が、高い点で一つに交わり、最高のきらめきを体現している。雅は、この曲にはまだ色が無いと言っていた。そして、今この曲には確かな色が付いていた。目も眩むような色が。

 

「すげー。曲も演奏もすげーレベルたけー」

 

「これってひょっとしたらプロレベルじゃないか?」

 

「あぁ、間違いないって。俺、一気にファンになっちまったわ」

 

「この曲作ったのって、大切なお友達って言ってたけど、黒城雅だろ?パスパレの曲は全部担当するって雑誌のインタビューで確か宣言してたし」

 

「え?黒城って、あの黒城?」

 

「あぁ、あの黒城だよ」

 

「へーすげーな。さすがは黒城ってもんだ」

 

「雅様ってロック専門かと思ってたけど、こんな曲も作れるんだ!」

 

「すげーな。アイドルソング作らせてもこれ、あの早乙女仁に匹敵するんじゃないか?」

 

お客さんから聞こえてくる声も、賞賛ばかり。私達の演奏や、曲を作った雅に対する賞賛の嵐が飛び交っていた。私も、その声に応えないといけない。最高の演奏で。

 

そして、私達の全ての演奏が終了した。客席からは惜しみない拍手と歓声が巻き起こっている。私達は、その声に手を振りながら応えると、舞台袖に入った。そこには、もう一人の私達のメンバーが待ってくれている。最愛のメンバーが。

 

「みんな、お疲れ様。最高のステージだったよ!」

 

「雅君、ありがとう!私、ほんっとうに楽しかった!」

 

「ミヤビさん、ありがとうございます!私も本当に楽しかったです!さぁみなさん勝ち鬨を上げましょう!おー!」

 

「おー!雅君、あたしのステージどうだったー?可愛い日菜ちゃんに見取れちゃったかなー?」

 

「じ、自分は緊張して気が気じゃ無かったです・・・ですが、雅さんが自分の中にもいてくれてると思うと、自然と勇気が出てきました。雅さん、本当にありがとうございます」

 

「雅、本当にありがとう。ここまで来れたのも本当にあなたのおかげよ。今までも、今日も、本当にありがとう。これからも、よろしくお願いするわね?」

 

その言葉を聞いて、もう一人のメンバー、雅は堪えきれずに涙を流した。そろそろ限界なんじゃないかと思っていたけど、案の定だったみたい。

 

「ふふっ、そろそろ限界だろうと思っていたけど、やっぱりね」

 

「あ、ミヤビさんが泣きました!」

 

「おー千聖ちゃんが言ってた通り、ほんとーに感動的場面に弱いんだねー」

 

「ところで、なんで彩さんも泣いてるんですか?」

 

「ふえぇ!?だ、だって、なんだか安心しちゃって、それに雅君の涙を見たらつられちゃって、ううっ・・・」

 

そこからは、みんなで笑い合った。最高のステージだった。本当に、楽しかった。改めて感じる。私はきっと幸せ者なんだと。こんな最高の仲間と、最高のステージに立つことができたのだから。だけど、決してこれは終わりじゃない。これは始まり。私達の道はここから始まる。私達の栄光への道が。私はそんなまだ先も見えない道を想像して、幸せな気持ちに浸るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りはすっかり暗くなっていた。イベントが終わってから、それなりに時間が経過した。メンバーも、私と雅を除いてすでに帰途についた。現在私は、会場の入り口付近で雅を待っていた。その雅はというと、仁さんに挨拶にいっている。私も行こうかと思っていたのだけど、雅に二人で話したいこともあるからと断られた。少し悲しい。

 

「姉さん」

 

そんな、突っ立って雅を待っている私を呼ぶ声が背後から聞こえた。今日二度目の背後からのその声。そこには当然、千景がいた。

 

「千景、まだ残っていたのね」

 

「えぇ、姉さんに一言声をかけて帰ろうかと思いまして。姉さん、本当に最高のイベントでした。約束を守ってくれて、ありがとうございます」

 

その言葉に、今日何度目かの感動の波が来てしまう。だけど、ここでも必死に涙を堪えて千景に応じる。

 

「そんな、私はあなたとの約束を一度破ったのよ?非難を受けることはあっても、お礼を言われるようなことじゃないわ」

 

「あれ?私って約束破られましたっけ?そんな昔のこともう忘れちゃいました」

 

「本当にあなたは・・・」

 

(おど)けたように軽く舌を出して言う千景。その優しさが今は嬉しかった。私は、本当にいい妹に恵まれたと思う。今度、彼女の大好きなミルフィーユをプレゼントしよう。喜んでくれるといいけど。

 

「では、私はそろそろ帰りますね。おにいさんも来たみたいですし」

 

そう言って千景が指差す方向には、確かにこちらに向かって歩いてくる雅の姿があった。そんなの気にしなくても、千景も一緒に帰ればいいのに。

 

「気にしなくても、千景も一緒に帰って大丈夫よ?」

 

「いえいえ、私はまだ馬に蹴られたくはありませんので。では、姉さん。なんでしたら、今日は姉さんが帰ってこないと母さん達に伝えておきますけど?」

 

「ちゃ、ちゃんと帰るわよ!」

 

そう言って、手を振りながら帰っていく千景。最後に投下された爆弾発言のせいで、私の顔は赤くなっている。

 

「おまたせ、千聖。どうしたの?顔を赤くして」

 

「な、なんでもないわ」

 

雅にもやっぱり指摘された。恥ずかしい。

 

「さっきここにいたのって、千景だよね?どうやら、気を使わせちゃったかな?」

 

「そうみたいね。別に、気にしなくてもいいのに」

 

「うん、普段ならそうなんだけどね。今日は、有り難かったかな」

 

どういうことだろう?雅なら、そんなこと気にしなさそうなのに。何か千景がいたらまずいことでもあるのかしら?

 

「千聖、今までよく頑張ってきたね。お疲れ様」

 

「えぇ、ありがとう。でも、皆が、雅がいてくれたおかげよ。本当にありがとう」

 

本当に、みんなで頑張ってきた。今日の成果は、皆の努力の結晶。本当に、みんなよく頑張った。

 

「千聖、僕が鈍感だったせいで、今まで待たせてごめんね」

 

「雅・・・本当よ。ま、待ちくたびれすぎて、おばあちゃんに、なるかと思った、わ」

 

雅のその言葉で、私はようやく雅が今から言うことを察することができた。察すると同時に、今日一日堪えていた涙が堰を切らして溢れそうになる。だけど、まだ堪える。彼の最後の言葉を聞くまでは。

 

「千聖、本当におまたせ。良いことを言おうかと思ったけれど、なんにも思いつかないや。だからシンプルにいくよ。好きだ。愛してる。僕と付き合ってほしい。そして、いつまでも僕の側にいてほしい」

 

その言葉を聞いて、ついに私の涙腺は決壊した。それは、私が今まで彼の口から聞きたかった言葉。愛してる。単純にして、幸せになれるその言葉。あぁ、私は本当に幸せ。もう、おかしくなってしまいそうなほどの幸福感が今の私を包み込んでいた。

 

「えぇ、えぇ・・・!私も、愛してる。本当に、この日を毎日、夢に見ていた。私も、ずっと、雅に側にいてほしい。二人、しわくちゃになってもね」

 

そう言って二人して笑い合った。だけど、二人の目からは止めどなく涙があふれ出している。そんなの気にしないとばかりに、二人の距離が近くなる。そして、お互いの唇が重なり、涙が混じり合う。

 

この瞬間、この世界(くうかん)には愛しかなかった。私達のいるこの場所が世界の全て。他のものなんてどうだっていい。ただただ、幸せだった。ただただ、愛おしかった。この幸せがいつまでも続いてほしい。そう願いながら、私達は星空の下、愛を誓い合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

君が演じ、僕は歌う

 

                              第1章 君が愛し、僕は夢見る

 

                 

                   《終》




どうも、ソウリンです。
今回のサブタイトルは欅坂46さんの世界には愛しかないです。
これにて、今作第一章完結です。
本作は、全3章構成となります。
そして第2章なのですが、実は閑話集的な構成になります。
というのも、実は本来今作は1章と、3章だけの2部構成の予定だったんですよね。
ただ、1章終了後から3章までの間、結構時間軸が開くんですよね。それだと、なんだか味気なくなりそうだなと思ったので、急遽3部構成にしました。
まぁ、今のところストーリー性のある話はほぼほぼ無いかと思います。ついでに言うとシリアス展開も。
まぁ何が言いたいかというと、千聖ちゃんとイチャイチャしたり、他バンドキャラと絡んだり、千聖ちゃんとラブラブする話がメインになります。
ストーリー性やシリアス展開を期待されてる方は申し訳ないですが3章までお待ち下さい。
3章はどの付くシリアスストーリーになる予定なので(白目
後、今更なのですが、感想、評価いただけるとありがたいです(本当に今更
では、今回はこの辺で。
次話は雅編です。次話から2章に入ります。5月19日午前0時までの投稿を目標にします。遅れそうな場合は活動報告に掲載します。
ではでは、次回もよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。