君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第17話です
雅編です


第二章 君が笑み、僕も笑う
第17演目 集結の運命


あのイベントから二週間が過ぎた。

僕と千聖が付き合い始めて二週間。この二週間、思った程の変化は無かった。

周りの親しい人にも、僕達のことは報告したけど、何を今更?とか、今までと何が違うの?とか、そういった反応ばかりが返ってきた。

 

確かに、言われてみれば今までとあまり大きな違いは無い気もする。今まで、そんなこと考えたことも無かったけど、付き合った今だからわかる。以前からまるで恋人みたいな生活を送ってきてたんだと。

 

「雅、準備できたわよ。行きましょう?」

 

そして、今日も僕は千聖と家を出る。今日は平日。当然これから学校だ。暦の上ではすでに夏に入った。それを証明するかのように、外に出ると気が滅入るような熱気が僕達を襲う。まだ6月上旬だというのにこの気候。この先の気候が本当に怖い。

 

そして、外に出ると、直ぐさま千聖が、僕の指に自身の指を絡めてきた。所謂、恋人つなぎというやつだ。これが、僕達が付き合い始めてからの些細な変化。そんな些細な変化が、僕に幸福を実感させる。夢の一つが叶ったんだという実感を。

 

音楽家の頂点という夢は、まだまだ遙か先にある。それこそ、雲に覆われて見えないほどの高みだ。だけど、今の僕はそんな距離に絶望も焦りも感じない。隣に愛する人がいつまでもいてくれる。それだけで、どんな困難だって乗り越えられる気がするから。

 

「そういえば、あの話はどうなったの?」

 

「あの話ね。私としては、どちらかというと参加に反対なのだけれど、皆で話し合った結果、参加することに決まったわ」

 

「あらあら、がんばってね」

 

あの話というのは、先日参加を持ちかけられたイベントのことだ。なんでも、近々とあるライブハウスにて、今話題のガールズバンドを集めてライブイベントを行うらしい。参加者だという、とあるガールズバンドのメンバーが態々事務所まで招待に来たらしい。

 

「本当は、もっと大きなステージで演奏したいのだけれども、こういった地道なライブ活動からファンを獲得していく方向でいくそうよ。スタッフさんの決定だから従うけれども、ガールズバンドである以前に、私達はアイドルでもあるのだから、もう少し出るステージを考えてもいいと思うのだけれど・・・悪評が広まっていた時ならまだしも、今はそうでも無いのだから」

 

確かに、彼女達の評価は、前回のイベントで鰻上りになっている。ビジュアルも演奏も高レベルな新世代アイドルとして、毎日のようにテレビや雑誌で取り上げられているほどだ。

 

「でも、他のバンドの人達と交流を持つのはいい刺激になると思うよ。大きなステージとかは今は置いといて、他バンドとの交流を優先してみたら?」

 

「・・・そうね、確かに、他のバンドの人達の演奏技術も気になるわ。ガールズバンドというカテゴリーの中ではライバルになるものね。私達も、バンドとして負けてるつもりは無いけれども、得られるものは多いかもしれないわね」

 

僕も、今まで多くの音楽イベントに参加してきた。その度に、多くのアーティストの人達と共演し、多くの技術を学んできた。誰もが皆、自分には無い技術を持っている。それを見て学ぶことができるから、こういったイベントは割と好きだ。

 

「そうそう。だから、成長の為のプロセスと考えて、気軽に参加してみてもいいと思うよ?」

 

「そうね、わかったわ。これも良い経験と考えて、参加してみるわね」

 

これがまた彼女達の成長につながる。僕はそう思う。僕だって負けていられない。今よりももっといい曲を作って売り出していかないと。千聖との関係を進展させるという夢は叶った。だけど、その甘い夢に溺れている場合ではない。

 

音楽家の頂点に立つというもう一つの夢はまだまだ終着点すら見えない遙か頂にある。その頂に辿り着くまで、立ち止まっている暇なんて無い。目指す先が例えどんなに遠くても、僕は必ず到達してみせる。僕はそう決意を新たに、今の幸せを噛みしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、儚い・・・」

 

放課後、変人に出くわした。いや、見方によっては僕も変人に思われることもあるから、これだと彼女と同類になってしまう。別にそれはそれでいいんだけど、なんだか複雑な気持ちになってしまう。

 

彼女とはいちお顔なじみだ。というより、幼なじみだ。名前は瀬田薫。僕が音楽バカであるように、彼女は演劇バカと言っていいような人種だ。どうして彼女とエンカウントしたかというと、単純に学校帰りに道で出くわしただけだ。

 

いや、僕が一方的にに発見してしまっただけで、彼女はまだこちらに気づいていない。今なら見つからずにやり過ごせるかもしれない。今日は別の道から帰ろうと、僕は来た道を引き返した。

 

「おや?そこにいるのは間違いない。雅じゃないか」

 

「人違いです」

 

どうやら逃走は失敗したらしい。すぐに見つかってしまった。儚い。

 

「ふっ、相変わらず連れないね。今日は、麗しのお姫様は一緒じゃないのかい?」

 

「千聖?千聖は今日も仕事みたいだからね。一緒じゃないよ」

 

「あぁ、やっぱり私と千聖は、すれ違う運命にあるのだね・・・儚い・・・」

 

「帰っていいかな?」

 

うん、別に彼女のことが嫌いとかそういうわけではないんだけど、一人で彼女の話し相手になるのはすごく疲れる。誰か一緒にいてくれればいいんだけど。

 

「薫さーん。一人で勝手にいなくならないでください・・・ってあれ?」

 

「おや?どうしたんだい美咲?そんなに慌てて」

 

「薫さんが一人で勝手にいなくなるからですよ。ってそんなことよりこの人はもしかして・・・」

 

と、そんなことを考えてる時だった。僕の知らない子だったけれど、思わぬ助け船が入った。艶やかな黒髪をした少女。今の僕には、その子がまるで神様のように思えた。

 

「薫の知り合いかな?初めまして。黒城雅です。よろしくね」

 

「あ、どうも、奥沢美咲です。よろしくお願いします。って、え?本当にあの黒城雅さんですか?」

 

「おや?美咲、雅のことを知っているのかい?」

 

「当たり前ですよ!有名人じゃないですか!そもそも、薫さんと黒城さんが知り合いってことの方がビックリなんですけど」

 

「なに。私と雅は、昔運命的な出会いを果たしてね。それ以来、苦楽を共にしてきたのさ」

 

「うん、単に共通のもう一人の幼なじみを通じて出会っただけだからね。苦楽を共にした経験も特に無いからね」

 

そう、僕と薫は、共通の幼なじみ、つまり千聖を通じて出会った。千聖と出会って間もない頃だった。あの頃の薫は、素直で良い子だったのになぁ、としみじみ思う。今でも良い子だとは思うけど、少し育つ方向を間違えてる気がする。千聖も頭を抱えてため息をついていた。

 

「ふっ、そんなことは些細な事さ。私は確かに、雅との出会いは運命だと感じた。今でも、私が心から信頼できる数少ない友人だと思っているよ」

 

「へー。薫がそんなこと言うなんて珍しいね。誰とでもすぐに信頼関係を築きそうなのに。一方的に」

 

「わぁ。辛辣」

 

「私だって人は選ぶさ。シェイクスピアだってこう言っている。愛は万人に、信頼は少数に、と。つまり、そういうことさ」

 

薫は、会話中にこうやって時折シェイクスピアの格言を引用する。だけど、言葉の意味はあまりよくわかっていないらしい。

 

「ははっ、薫は相変わらずだね。変わりないようで安心したような、ガッカリしたような」

 

「あはは、黒城さんも苦労されてるみたいですね」

 

「雅でいいよ。名字はあまり好きじゃないんだ。美咲ちゃんは薫とはどういう関係なの?見たところ学校も違うみたいだし、薫のファンってわけでも無いでしょ?」

 

薫と美咲ちゃん、二人は今制服を着ている。その制服を見る限り、美咲ちゃんは千聖と同じ花女に通っているようだ。そして薫は、麻弥ちゃんや日菜ちゃんと同じ羽丘女子学園、通称羽女に通っている。この時点で接点が無さそうに思える。

 

だけど、薫の場合例外がある。彼女のファンだ。薫は演劇部に所属しており、その王子様然りとした、ルックスと仕草で学内学外学年問わず、女性ファンが多い。その例に漏れず、美咲ちゃんも彼女のファンだと言うのなら接点として納得もいくけど、美咲ちゃんの様子を見る限りそうでも無さそうだ。全く二人の接点がわからない。

 

「薫さんとは、まぁ、その、バンド仲間ですね」

 

「バンド?」

 

「あぁ、そうさ。どうやら、私の美しさが、また可愛い子猫ちゃんを魅了してしまったみたいでね。スカウトを受けてしまったのさ。あぁ、儚い・・・」

 

うん、素直にビックリした。まさか、あの薫がバンドを組むなんて。彼女は先述した通り演劇バカだ。四六時中役を演じることしか考えてないような筋金入りの演劇バカだ。そんな彼女が誰かとバンドを組む。どういう風の吹き回しだろう?

 

「薫がバンドを組むなんて、どうしたの?演劇はいいの?」

 

「なに、私にかかれば些細な事さ。それに、かのシェイクスピアだってこう言っている。何もしなかったら、何も起こらないと。つまり、そういうことさ」

 

「うん、全くわからないよ」

 

「あはは、ですよね」

 

誰か、通訳が欲しい。彼女が言いたいことを僕に教えてくれないだろうか?美咲ちゃんの様子を見る限り、バンド内でもこんな感じなんだろう。本当に、バンドとしてそれは成立するのだろうか?

 

「美咲ちゃん、バンドの方は大丈夫?ちゃんと活動できてる?」

 

「えぇ、ちゃんとかどうかはこの際置いておいて、今のところはなんとかなってます。自由人が集まったバンドですから、すごく大変ですよ」

 

「あはは、美咲ちゃんも大変みたいだね」

 

「えぇ、常識が通じない世界ですからね。何を信じていいのかわからないですよ」

 

美咲ちゃんの話を聞く限り、どうやらぶっ飛んでいるのは薫だけという訳ではないようだ。もし、薫級にぶっ飛んだメンバーが複数いるのだとしたら、それはもう地獄絵図と言えるだろう。大惨事だ。

 

「そうだ、雅。この後、私達のバンドのレッスンを行うのだが、君も参加してみないかい?王子様と共演できるとなると、私も嬉しい限りだ」

 

「残念だけど、この後僕も仕事が入ってるんだ。またの機会にね」

 

仕事が入ってるというのも本当だ。この後、一度家に帰って準備を行い、すぐに家を出る予定だ。というより、そろそろこの場を離れないと本気で時間が無くなってきた。急がないと。

 

「ふっ、振られてしまったか。あぁ、君はいつもそうやって私の心を弄ぶ。なんて儚いんだ・・・」

 

「うん、ごめん薫。そろそろ急がないと時間なくなってきたや。また今度ね。美咲ちゃんもまたね。薫のことよろしくね」

 

「あ、はい。さようなら」

 

「あぁ、運命の下に、また会おう」

 

彼女達のその言葉を聞き届けて、僕はその場を後にした。まぁ、彼女の言葉を借りるなら、また近いうちに運命の下に会う気がする。なんとなくそんな気がする。まぁ、その際は僕だけではなく、千聖も揃って、幼なじみ三人組集結となる気がする。

 

それはそれで楽しいと思う。むしろ、薫と二人じゃなかったらなんでもいいや。先述したように、別に僕は薫が嫌いなわけではない。むしろ、幼なじみとして好感を持っている。だけど、彼女と二人でいると無性に疲れるから、誰かと一緒がいい。昔はそうでもなかったのに、本当にどこでこんな道に迷い込んでしまったんだろう。

 

僕はそんな些細な疑問を感じながら、家への帰路に着くのだった。

 

 

 




どうも、ソウリンです。
1章を読んで下さった皆様なら思われたはずです。短っ!と。
1章は文字数7000~8000文字を目安に執筆してました。超えることも多々ありましたけど。
2章は文字数5000~6000文字を目安に執筆していきます。
理由としては、自分の仕事が今から8月下旬頃まで忙しくなりまして、執筆時間が減るためです(白目
いや、これまでも割と無理して執筆がんばってたんですけどね。うん、正直この理由はおまけみたいなもんです。
本命は、2章が閑話集的お話だからですね。
1章と違い、ストーリー性も特に無いお話が続くので、あまり文字数長くしてもグダりそうだと思い、このような措置を執りました。
おそらく、3章になったら元の文字数に戻すかと思います。
そして、今回のサブタイトルは林原めぐみさんの集結の運命です。次話も林原めぐみさんの曲から付けます。
では、今回はこの辺で。
次話は千聖編です。午後12時に投稿します。
ではでは、また次回もよかったらお願いします!
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