千聖編です
あのイベントから二週間が過ぎた。
私と雅が付き合い始めたことはすでに周りの主立った人には報告した。だけど、返ってくる反応は予想通り、何が変わったのかわからないという意味合いの反応ばかりだった。私本人としても、何が変わったのかよくわからないような状態だから仕方ない。
わかっていたことではあるけれども、やっぱり私と雅は、付き合う前からかなり近い距離にいた。それこそ、恋人と同じくらい近い距離に。だから、いざ付き合うってなっても、あまり以前との違いを実感できないでいる。
「雅、準備できたわよ。行きましょう?」
朝の家事を済ませて、私達は家を出た。そして直ぐさま、私は雅の指に、自分の指を絡めにかかる。絶対に離さないという意を込めて、強く握る。私達が付き合うようになってからの些細な変化がこの恋人つなぎ。
付き合う前は、付き合うまでは我慢すると決めて、手をつなぐ行為を自制していたけれど、やっとの思いで付き合うまでに至った今は、もう自制する必要は無い。思う存分つないでいる。握っている。
「そういえば、あの話はどうなったの?」
「あの話ね。私としては、どちらかというと参加に反対なのだけれど、皆で話し合った結果、参加することに決まったわ」
「あらあら、がんばってね」
あの話というのは、とあるイベントへの参加以来のこと。先日、私達の事務所にとあるガールズバンドのメンバーが訪ねてきた。彼女達が言うには、今度、最近話題のガールズバンドを集めてライブイベントを行うから、私達にも参加して欲しいとのこと。
皆は楽しそうだと参加に前向きになっている。だけど、私は決して肯定的では無かった。
「本当は、もっと大きなステージで演奏したいのだけれども、こういった地道なライブ活動からファンを獲得していく方向でいくそうよ。スタッフさんの決定だから従うけれども、ガールズバンドである以前に、私達はアイドルでもあるのだから、もう少し出るステージを考えてもいいと思うのだけれど・・・悪評が広まっていた時ならまだしも、今はそうでも無いのだから」
そう、私達は、一ガールズバンドであるのは確かだけれど、一アイドルグループでもある。聞いた限りでは、そのイベントはとあるライブハウスで行うらしい。私の偏見かもしれないけれど、ライブハウスで行うイベントと言うからには、あまりイベントの規模に期待はできない。
今の私達には、間違いなく勢いがある。前回のイベントの成功による勢いは計りしれない。早乙女仁が主催するイベントでの成功というのはそれまでに大きな意味を持つ。今なら、それなりに大きな規模のステージにだって立てるはず。
だから、私は今回の件に関して比較的反対意見を挙げている。もっと大きな規模のイベントを探そうと。
「でも、他のバンドの人達と交流を持つのはいい刺激になると思うよ。大きなステージとかは今は置いといて、他バンドとの交流を優先してみたら?」
「・・・そうね、確かに、他のバンドの人達の演奏技術も気になるわ。ガールズバンドというカテゴリーの中ではライバルになるものね。私達も、バンドとして負けてるつもりは無いけれども、得られるものは多いかもしれないわね」
確かに、雅の意見もわかる。私達は、今まで他のバンドと同じイベントに出たことは無い。前回のイベントも、共演者は全てアイドルだった。バンドとはまたジャンルが違う。だから、私達の今の実力を計る比較対象がいなかった。
だけど、今度のイベントは違う。私達と同じ、ガールズバンドが集まるイベント。ということは、周り全てが比較対象になる。私達の現在の実力を知り、足りない部分を知ることが出来るかもしれない。そういう意味では、他バンドと交流を持てる今回のイベントは有意義かもしれない。
「そうそう。だから、成長の為のプロセスと考えて、気軽に参加してみてもいいと思うよ?」
「そうね、わかったわ。これも良い経験と考えて、参加してみるわね」
そもそも、事務所のスタッフさんや、他のメンバーの意見ですでに参加は決まっている。だったら、参加するならするなりに、意味のあるイベントにしよう。雅のおかげで、私がするべきことも見つかった。私達はまだまだ成長できる。今は、その成長を優先しよう。大きなステージは、今じゃなくても上がれるのだから。
「ふえぇ・・・ここどこ?」
仕事の帰り、迷子に会った。そもそも、仕事の帰りという表現は正しくない。今日は、ライターさんの取材の仕事だったのだけれど、約束をしてたフリーライターの人が急遽風邪を引いてしまい、取材できなくなったと連絡が入った。そのため、無駄足になったと少しイラッとしながら約束していた喫茶店を後にした時だった。
出た瞬間に迷子に出くわしてしまった。迷子と言っても、つい先ほどまで一緒に学校で授業を受けていたのだけれども、どうしてこんな所にいるのだろうか?確か、彼女は今日、最近始めたバンドの練習があると言っていた。
練習を行う予定のスタジオは、学校を出てから、この喫茶店と反対方向なはず。相変わらずの方向音痴のようで、安心したような、ガッカリしたような、微妙な心境になる。
「花音、こんなところでどうしたの?」
「あ、千聖ちゃん。よかったぁ」
私を見るなり、安心したように笑顔を浮かべる彼女、私の親友松原花音。どこか放っておけないような、少し心配になる性格だけど、心から気を許せる数少ない子。そういう意味では、雅に非常に似通っている気がする。
「実は、スタジオに行こうと思って道に迷っちゃって、スタジオって、どこ?」
「花音、あなた学校から逆方向に来てるわよ」
「ふぇ?」
気が抜けたような声を出す花音。その声を聞いて、私も気が抜けそうになる。
「花音は相変わらずね。いいわ、スタジオまで一緒に行きましょう?私もちょうどその方向に行こうと思ってたし、話し相手がいた方が、私も嬉しいわ」
「千聖ちゃん、ありがとう」
そして、私達は二人でスタジオに向けて歩き出した。一人でつまらなく歩く予定だった距離も、花音と二人なら、楽しく歩くことができる。私としても有り難い。
「そういえば、千聖ちゃんは、今から雅君のところ?」
「えぇ、そうよ。本当は私も仕事だったのだけど、急に無くなってしまって、だから雅の家に今から行くわ。とは言っても、雅も今日は仕事なそうだから、行ってもいないでしょうけど、たまには掃除でもしておこうかと思ってるわ」
「あははっ、本当に、千聖ちゃんは雅君思いだよね」
「そうかしら?いえ、きっとそうね。最近、益々雅のことが愛おしくて仕方ないの。きっと、恋人関係になれたことが理由でしょうね。愛おしくて愛おしくて、仕方ないの」
「いいな、そういうの、すごく羨ましく思う。私も、いつか、そういう人に出会えるかな?」
「花音ならきっと出会えるわよ。私が保証するわ」
「千聖ちゃん、ありがとう」
「でも、雅より素敵な人は現れないでしょうけど」
「あはは、本当に千聖ちゃん、雅君のこと大好きだよね」
私は、雅以上に素敵な男の人なんていないと思ってる。だから、例え花音であろうと、私より素敵な人に出会えるとは思えない。これは、千景にも言えること。千景も、毎日のように運命の人に会いたいって言っているけど、私より素敵な人に出会うことは決して無い。確信を持って言える。
「でも、本当に時々、千聖ちゃんが羨ましく思うの。私には無いものを一杯持ってて、素敵な恋人さんもいて、本当に羨ましく思う時があるの」
「花音・・・」
そう語る、花音の表情は少し悲しそうだった。本当に、私のことを羨ましく思ってるのだろう。本当に、余計な羨望だと言うのに。
「花音。人は誰しも、得手不得手ってものがあるのよ。持っている物、持っていない物っていうのがあるのよ。私には無いけれど、花音にあるものだってある。私のことを羨ましく思うのは、花音自身が持ってない部分だから、余計に目立ってるだけよ。花音にしかない魅力だって、たくさんあるのだから、あまり自分を下に見る物じゃないわよ?」
「千聖ちゃん・・・そうだね。ごめん、少し弱気になってたみたい。私ももっと、変わらないと。ハッピー、ラッキー、スマイルイエイ!」
独特な掛け声。これは、最近花音が入ったバンドで使われている掛け声らしい。花音は、この掛け声を言うと、なんだか元気が出てくるといって、普段からよく使う。花音がいいのなら、それでいいけど、正直日常的に使うのはどうかと思う。
「ほら、花音。着いたわよ」
そして、二人で他愛ない会話に花を咲かせていると、目的地であるスタジオにはすぐに到着した。一人だと長く感じる距離も、二人だと、短く感じることが出来た。迷子になってくれた花音に感謝しないと。
「あ、ほんとだ。千聖ちゃん、ありがとう」
「いいのよ。私も、花音がいてくれたおかげで、楽しかったわ。それじゃあ、練習がんばってね」
「うん、千聖ちゃん、また明日」
そう言って、花音はスタジオの中に入っていった。集合時間に遅れているために、その足は速い。私も、早く雅の家に行こう。雅が帰ってくるまでに、終わらせておきたい家事もある。そう思い、私も足を急がせるのだった。
今日一日も無事終わった。私は今、雅と二人で夕食後の憩いの時間を過ごしている。仕事は中止になり、迷子の花音を見つけたりと、色々あったけれども、やっぱり雅と二人でいる時間が一番落ち着く。私が一番幸せを感じる時間。
「そういえば今日、偶々薫に出くわしたよ」
「薫に?珍しいわね」
薫は私の幼なじみだ。私達の両親に親睦があり、その縁で知り合った。雅と出会ってからは、三人で過ごすことが多かった。中学に上がった頃からは、連絡を取る回数も減っていたけれど、どうやら元気にしているらしい。
「うん、相変わらずだったよ。それとビックリなんだけど、薫もなんとバンドを始めたんだって」
「薫がバンドを?どういう風の吹き回しよ」
薫を一言で表すならば、演劇バカという言葉がしっくりくる。それほどまでに、薫という人間は、演劇に力を注いでいる。それこそ、一日二十四時間役を演じているほどに。それほどまでに、演劇に時間を割いていて、尚かつ天才でもあるのだから、手に負えない。私も一表現者として、負けているつもりは無いけれど。時折羨ましくもなってしまう。
ダメね。これじゃ、今日の花音と一緒だ。自分が持っていない部分だからこそ、その部分が目立って羨ましくなるだけ。私と薫では、演じ方のベクトルが違う。薫の演技を私が真似できないように、私の演技を薫も真似できない。要するに、演技に関してはお互い様。そこに優劣は無い。
「だけど、演劇の方は大丈夫なのかしら?薫の事だから、バンドも演劇の一環とか言いそうだけれど」
「あはは、確かに言いそうだね。薫も、意味のわからない言い回しで、問題ないって言ってたし」
「ふふっ、本当に相変わらずみたいね。花音もバンドを始めたみたいだし、段々周りの皆がバンドを初めていくわね。その内、薫や花音と集まって、セッションするのもいいかもしれないわね」
「ははっ、それいいね。その時はギターボーカルは務めるよ。薫も見たところギターみたいだし、花音ちゃんがドラム、千聖がベースで、バランスを考えてキーボードのイブちゃんでも誘ってみようか。楽しそうだね」
「えぇ、きっと楽しくなるわ」
きっと楽しくなる。私はそう確信していた。私達幼なじみが集結して一つのことに取り組むなんていつ以来だろう。きっと楽しい時間になると思う。そこに花音とイブちゃんが加わればなおさらだ。
私は、いつかそんな日が来てもいいな、と考えながら、まったりとした時間を過ごした。近い未来にきっとそんな日が来るはず。そんな期待に胸を膨らませて、私は今の幸せを享受するのだった。
どうもソウリンです。
2章は5000字~6000字が目安と言ったな?あれは嘘だ(おい
いやー本日分の2話とも実は4500字ほどしか無いという。
両話とももう少し増やそうと思えば増やせるんですけど、なんか蛇足になりそうな気がしたのでやめときました。
この先も、2章に関しては文字数のばらつきが結構出てくると思いますので、ご了承下さい。
ま、1章も割とばらつきあったけどね(白目
そして、今回のサブタイトルは林原めぐみさんの集結の園へです。林原さんの曲ほんと大好きです。90年代の林原さんとかほんと神のような存在ですよね。閣下!閣下!
まぁ、この曲はそこまで古い曲でも無いですけど。21世紀以降も色褪せないヒットメーカーですよねほんと。
後、この小説とは直接関係無いのですが、文字数抑えてることもあり、この先執筆時間ちょーっと浮く気がするので、もう一つ小説を筆休めに書こうかと思っています。筆休めに執筆とはこれいかに。
まぁ今考えてるのは完全にネタと趣味に走った小説を考えてます。
まぁ、あくまでメインはこっちですので、この小説の周一更新が途切れない程度で書いてみようかと思います。その内投稿するかと思いますので、気になる方はよかったら読んでみて下さい。完全にネタと趣味に走ります(大事なことなので2回言いました
では、今回はこの辺で。
次話は雅編です。とあるイベントストーリーのお話を予定しています。5月26日午前0時までに更新する予定です。遅れそうな場合は活動報告に載せます。
ではでは、次回もよかったらお願いします!