君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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大変長らくお待たせしました
第27話です
雅編です


第27演目 フラワー

それは、美しい歌声だった。

聴く者を問答無用で惹きつける声。それを助長する立ち姿。一言に纏めるならば、カリスマ性に溢れていた。

 

プロにもここまでの歌声を持ったものはそう多くは無い。プロである僕が言うのだから間違いない。そんな歌声を、目の前の少女が発していた。彼女は湊友希那。最近僕の親友になった少女だ。そして、この場にいるのは僕達2人だけではない。

 

彼女の歌声を後押しし、魅力を最大級にまで引き上げる奏者(なかま)達、つまり彼女が率いるガールズバンド、Roseliaのメンバーが集結していた。

 

ここはとあるスタジオ。ここで僕達は、合同練習を行っていた。友希那と出会って以降、僕達はことあるごとにメールで音楽談義に花を咲かせていた。あの時予想したとおり、僕達は非常に気が合った。まだ出会ってほんの数週間。だけど、僕達はまるで数年来の友人であるかのように意気投合していた。

 

そして、この日僕達は合同練習を行う約束をしていた。直接会うのはあの初めて出会ったライブの日以来となる。今日千聖は、パスパレのみんなとのレッスンがあるためにいない。ここにいるのは、僕とRoseliaのみんなだけだ。そして、今響いているのは彼女達の演奏(こえ)

 

合同練習するにあたって、音を合わせるためにまずは彼女達の現在の技量を再確認するため、演奏を聴かせてもらっていた。とはいえ、そんなのはただの建前だ。彼女達の技量なんて、今更再確認なんてしなくてもわかっている。

 

単純に僕は一人のファンとして、彼女達の演奏を聴きたかっただけだ。ただ、面と向かってそう伝えるのが恥ずかしかっただけ。だけど、本当に聴いててよかった。あれから数週間しか経っていないというのに、彼女達の演奏は予想を上回る成長を遂げていた。

 

あの日の演奏をベースに考えていたなら、僕は彼女達の演奏に遅れていただろう。現時点では僕の演奏は彼女達にまだ負けていない。だからこそ、彼女達に合わせる余裕が僕にはまだある。だけど、このままのペースで彼女達が成長を遂げるとすると、遠くない未来には追い抜かれてしまうかもしれない。そんなネガティブな思考が嫌でも思い浮かぶ。そう思ってしまうほどに驚異的な成長スピードだった。

 

そして、演奏が終わる。現実とは思えない、素晴らしき演奏(ゆめ)が。

 

「雅、どうだったかしら?」

 

「正直、驚いたよ。あの日見たバンドとはもはや別人みたいだった。恐怖すら覚える成長スピードだね」

 

「友希那ってば最近、誰かからのメールのおかげで張り切っちゃって、おかげでみんなの練習もハードになったからねー。嫌でも成長しちゃうよー」

 

「ちょ、ちょっとリサ。余計なことは言わなくていいの」

 

「どうどう雅様-?あこ、かっこよかったー?」

 

「うん、あこちゃんもすっごく決まってたよ」

 

「ほんと?やったー!雅様に褒められた!」

 

「えぇ、全体的に良かったと思います。ですが宇田川さん、最後のパート、少しリズムが走りすぎていました。ドラムのリズムが崩れると、周りの演奏にも悪影響が出ます。決まったリズムから外れないように気をつけて下さい。白金さんは、最初の入りが僅かに遅れていました。演奏の入りは、お客さんの印象にも強く残ります。決してタイミングがズレることの無いように気をつけて下さい」

 

「は、はい、ごめんなさい・・・」

 

「うぅ、ごめんなさい・・・」

 

相変わらず紗夜ちゃんは周りにも自分にも厳しいみたいだ。確かに彼女の指摘する部分は的確だけど、あまり気にならないぐらいに演奏は完璧だったから、もっと褒めてあげればいいのに。まぁ、だからこそ彼女達はここまで成長できたんだろうけど。

 

「あはは、でも、これは僕もうかうかしてられないね。みんなに遅れを取らないようにもっと頑張らないと。のんびりしてるとあっという間に追いつかれちゃいそうだよ」

 

「おー現役バリバリのプロにそんなこと言われるとテンション上がってくるー!アタシも、みんなの足を引っ張らないようにもっと頑張るぞー!」

 

「あこも、もっともっと頑張って、雅様やおねーちゃんにもっともっと近づきたい!」

 

「わ、私も、せ、精一杯頑張ります・・・」

 

「ふっ、みんな良い状態のようね」

 

「えぇ、全員がやる気に満ちあふれているようです。これならば、予想を上回る成長も期待できそうです」

 

お?紗夜ちゃんからそんな言葉が出てくるなんて。これは、今後のRoseliaのパフォーマンスからは目が離せないね。近い将来に、僕と同じ舞台(ステージ)に立っているかもしれない。むしろ、僕から合同ライブにでも誘ってみようかな?うん、それも面白いかもしれない。

 

「さぁ、立ち止まっている時間は無いわ。練習を再開しましょ」

 

その後、僕達はお互いの技術を高め合うかの様に、練習に精を出した。友希那と僕の歌声が室内に響き渡る。素晴らしい時間だった。本気で、僕達が組めば世界の頂点だって夢ではないんじゃないかと思えるような、素敵な時間だった。

 

だが、友希那には否定されてしまった。いや、否定という訳ではないか。頂点を取るにしても、それは僕とでは無いらしい。決して彼女は誰と取るかまでは言わなかった。だけど、そんなことは言わずとも、皆がわかってるだろう。

 

いつの日か、響き渡る日が来るかもしれない。頂点へ狂い咲く、青い薔薇の旋律が。彼女達と、頂点を争う日を夢見ながら、僕はその後も歌い続けた。まだ見ぬ頂点の光景を、想像しながら、歌い続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達との合同練習を終え、家に帰宅する。我が家では、すでに千聖達が晩ご飯の用意をしてくれていた。そう千聖『達』が。今日は千聖一人では無かった。家に帰ると、そこにいたのは・・・

 

「あ、ミヤビさんが帰ってきました!」

 

「あ、雅君!おかえりなさいっ!」

 

「雅さん、お邪魔してますね」

 

「雅君遅いよー。あたしもうお腹ペコペコだよー」

 

パスパレのみんなが見事に勢揃いしていた。うん、なんで?

 

「雅、おかえりなさい」

 

「ただいま千聖。で、この状況は一体何?」

 

「それが・・・」

 

「千聖ちゃん、雅君も帰ってきたんだから早く食べようよ。ご飯冷めちゃうよー?」

 

どうやら日菜ちゃんはかなりお腹を空かせているようだ。とりあえず事情は後で聴けばいいか。と思い、僕は手早く手を洗い、席に着いた。そこには、普段よりも豪勢な料理が所狭しと並べられていた。今日なんかあったっけ?

 

「それじゃ、雅君も帰ってきたことだし、乾杯するよ!千聖ちゃん!宮川タカユキ先生の舞台に出演おめでとう!千聖ちゃんの成功を祈願して、乾杯っ!」

 

なるほど、千聖の舞台出演が決まったのか。これはそのお祝いの場ということか。しかも、あの宮川先生の?さすがの僕でも知っている。今の日本演劇界を代表する大物監督の一人だ。まさか、そんな大先生の舞台に出演することになるなんて。驚いて、言葉も

出ない。だけど、言葉が出なかったのは僕だけじゃ無かった。みんなが彩ちゃんのことを見て固まっていた。

 

「あれ?みんなどうしたの?私、なんか変なこと言った?」

 

「いえ、決して変ではなく、むしろその逆と言いますか・・・」

 

「アヤさんは素晴らしかったです!素晴らしかったのですが・・・」

 

「普通彩ちゃんだったらこういうこと言う時噛むよねー?なんで噛まなかったのー?」

 

「ひ、日菜ちゃんひどいよ!あ、もしかして皆も日菜ちゃんとおんなじこと思ってたの?わ、私だっていつも噛んでるわけじゃないよ!」

 

「そ、そうよね。彩ちゃんだって偶々噛まない時だってあるわよね。彩ちゃん、ごめんなさい」

 

「ち、千聖ちゃんそれフォローにもなんにもなってないよ・・・」

 

むしろ(とど)めだよね。見るからに落ち込む彩ちゃんの姿がそこにはあった。

 

「そんなことより、このエビフライ本当に美味しいよ-?彩ちゃんも食べなよ!」

 

「ひ、日菜ちゃんそんなことって・・・あ、でも本当だ。すごく美味しい」

 

「このタルタルソースがまた絶品ですね。エビの美味しさを押し上げてるような感覚がしますよ!」

 

「さすがチサトさんです!料理のウデマエは天下一品ですね!」

 

どうやら、エビフライがみんなから好評のようだ。僕も一口囓ってみたけど、本当に美味しい。そして、この安心感すら浮かぶかのような食べ慣れた味付け。間違いない。千聖の料理だ。て、千聖のお祝いの為の場なのに、千聖が作ったの?

 

「あはは、最初は私達が作ろうとしたんだよ?だけど、千聖ちゃんの手際が凄すぎて・・・」

 

「結局ジブンたちは何も手伝えませんでした・・・」

 

「面目ありません・・・」

 

「そんなこと無いわよ。食器だって用意してくれたし、このサラダだって野菜を切ってくれたのはみんなじゃない」

 

「あたしもそう思うなー。皆気にしすぎじゃない?なんでも適材適所だよ。一番適してたのが偶々主役の千聖ちゃんだったってだけだよ。それに、千聖ちゃんも愛しの雅君に自分の料理を食べて欲しいだろうしねー。でも、本当に千聖ちゃん料理上手だよねー。これならいつでも雅君のお嫁さんにいけるねー」

 

「お、お嫁さん!?ちょ、ちょっと日菜ちゃん、急に何言ってるの・・・?」

 

「あ、チサトさん顔が真っ赤です!」

 

「こんな千聖さんも貴重ですよね」

 

「そうかな?なんだか雅君が絡むとよく見かけるような・・・」

 

そう言ってる間にも、千聖の顔は更に赤くなっていく。でも、千聖がお嫁さんにか。もちろん、僕だってそんな日を想像したことがある。いつも夢に見てきた。だけど、誰かに声に出して言われると、余計に想像が膨らむ。いつか、純白のドレスに身を包んだ千聖と、並んで歩きたいものだ。

 

「あ、今雅君も満更でも無いって顔してたよねー?」

 

「ひ、日菜ちゃん、な、なんのことかな?」

 

「雅さんも顔が真っ赤ですね」

 

「ミヤビさんもチサトさんも、日の丸弁当みたいになってます!」

 

「イヴちゃん、それは違うと思うよ。だってご飯の部分が無いもん」

 

「彩さんもそういう問題では無いと思いますよ」

 

その後も僕達は、楽しく千聖の料理に舌鼓を打った。だけど、大先生の舞台に抜擢されるなんて、千聖も本当に階段を順調に上ってるんだと認識する。僕も遅れるわけにはいかないね。Roseliaといい、千聖といい、皆いい刺激を与えてくれる。僕は一人気合いを入れ直し、料理へと箸を伸ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経った。

その日、僕は久しぶりに事務所に来ていた。理由はパスパレのレッスンを見るためだ。ついこの間、僕は彼女達の新曲を完成させた。今日はその曲の初レッスンを行っている。その様子を見に来たのだ。だけど、そこには千聖の姿は無い。彼女は今、宮川先生のもとで、舞台の稽古を行っている。ここ数日の彼女は、本当に忙しそうだ。風の噂で聞いた話によると、舞台の仕上がりも順調とは言えないらしい。千聖のことだから、大丈夫だろうとは思うけど、ちょっと心配だ。

 

「みなさん、レッスンお疲れ様です。突然ですが、今この近くのスタジオで千聖さんが舞台の稽古をしているんです。見学したい方はおられますか?」

 

ちょうど今日のレッスンが終わったタイミングだった。事務所スタッフさんの一人がそんな話題を持ちかけてくる。そうか、確かに千聖も練習スタジオが事務所から近いと言っていた気がする。

 

「え?私達がお邪魔してもいいんですか?」

 

「私、行ってみたいです!」

 

「ジブンも、行ってみたいですね。演劇部の裏方をやっているので、プロの裏方に興味があります!」

 

「そうだねー。あたしも行こうかなー。このまま帰ってもやることないし、なんだか面白そうだしね」

 

「それじゃ、みんなで差し入れを持ってお邪魔しようか」

 

そして、僕達は近くのコンビニで差し入れを調達し、スタジオへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スタジオに入ると、そこは緊迫した空気に包まれていた。スタッフ、役者、ありえないことだが、演劇に関わる道具までもが過度の緊張感に包まれているように感じる。これが宮川先生の稽古。過去、幾度となく千聖の舞台稽古風景は目にしてきた。だが、ここまでの緊張感を帯びた稽古は初めてだ。見たことが無い。

 

「す、すごい緊迫感ですね。まるで時代劇の殺陣シーンのようです!チサトさんの今度の舞台は時代劇なのですか?」

 

「ううん、確か病弱な姉思いの妹と、女優を目指す妹思いのお姉さんの物語だよ。千聖ちゃんはその妹役なはず」

 

「設定を聞くからに、シリアスなお話みたいですけど、こんな緊迫した空気になりますか?」

 

「あたしにはこんなの無理だねー。女優にならなくてよかったー」

 

女優なんてそう簡単になれるものじゃないっていうツッコミと、日菜ちゃんなら簡単になれそうだという感想が同時に出てくる。まぁ、それは置いておいて、本当にこの空気は異常だと思う。だけど、原因はなんとなくだがわかる。

 

「ストップ!白鷺君!そこはもっと感情を押し上げないとダメじゃないか!役にもっと感情を込めるんだ!」

 

おそらくこれが原因だろう。僕達が来て、まだ僅かな時間しか経過していないが、

もう幾度目かになる宮川先生の叱咤が飛ぶ。素人目に見る分には、千聖の演技には一切のミスがあるようには見えない。それどころか、さすが演技派女優。素晴らしい演技に見える。だが、それでもどうやら宮川先生の出す合格点には届いていないらしい。

 

「チサトさん、大丈夫でしょうか?」

 

「宮川先生、厳しい先生だとは聞いてたけど、ここまでだなんて・・・」

 

「千聖ちゃん大丈夫かな-?なんだかるんってこない雰囲気だけど」

 

「休憩時間に励ましてあげるのがいいかもしれませんね」

 

「いや・・・」

 

千聖のあの目。長い付き合いがある僕だからわかる。不満の色が在り在りと浮かんでいる。おそらく、自分でも何が悪いのかわかっていないのだろう。千聖的には完璧に仕上がっているはずの役作り。それが全く通用しない舞台(せかい)。千聖も悔しいはずだ。理由もわからぬまま、一方的に叱咤されて、千聖(じょゆう)としてのプライドも傷つけられているに違いない。

 

千聖には、気持ちを整理する時間が必要だろう。今、僕達が話しかけるのは千聖にとって逆効果になりかねない。ストレスを与えるだけの結果になりかねない。

 

「今日の所は帰ろう。千聖も、一人で考える時間が必要だと思うよ?」

 

「それもそうですね。ジブン達の存在が今は千聖さんに余計な負担を与えることになりかねないですもんね」

 

「そうだねー。今の千聖ちゃんなんだかるんってこないし、それでいいんじゃない?」

 

みんなからの許可も得て、僕達はその日は事務所に帰ることにした。差し入れだけを舞台スタッフさんに預け、事務所への帰途につく。その間も、千聖の表情は晴れないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ!千聖ちゃんに皆で気がついた点を教えてあげようよ!」

 

事務所に帰るなり、そう提案したのは彩ちゃんだった。ここに帰ってくるまでの道すがらでも、ブツブツと何かを考え込んでいる様子だった彩ちゃん。どうやら千聖のために自分達ができることをずっと考えていたようだ。

 

「気がついた点?アヤさん、どういうことですか?」

 

「うん、なんだか千聖ちゃん、何が悪いのかわからなくて苦しんでるように見えたの。こういう時って、自分一人の意見じゃいくら考えても答えが出ないものだと思うの。だから、皆で色んな視点から気づいたことを千聖ちゃんに伝えてあげるの!」

 

「なるほど、それはいい案かもしれませんね」

 

「へー面白そう!なんだかるんって来たよ!」

 

確かに、彼女の案は名案に感じる。千聖のことを想って、自分たちにできることを精一杯考えてくれる。本当に千聖は良い仲間に恵まれた。

 

「それじゃ、みんなで手紙に書こう!」

 

「え?直接伝えるんじゃないんですか?」

 

「うん、直接伝えるのもいいかもしれないけど、それだとまた千聖ちゃんに余計な気を使わせちゃう気がするの。それに、普段しないことだからこそ、余計に伝わる気持ちってあると思うんだ」

 

「私は、アヤさんに賛成です!なんだか果たし状みたいで楽しそうです!」

 

「あはは、イヴちゃん果たし状は送っちゃダメだよ!でも、手紙かー。面白そうだね!またまたるんってきたよ!」

 

手紙かー。確かに、普段しないようなことだからこそ、その思いが相手に強く伝わることってあるよね。彩ちゃんなりに色々考えてくれてるみたいだね。さすがパスパレのセンターだね。その後、僕は彼女達が書いた手紙を預かって事務所を後にした。僕の手で千聖に渡して欲しいらしい。これは重大な任務だね。僕は、彼女達からの手紙(あい)を大切にカバンにしまい、我が家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それからさらに数週間が経過した。

今日は舞台の公開初日だ。僕達は今日、千聖からの招待を受けて舞台を見に来ていた。

あの日以降、千聖のレッスンは見ていない。だけど、千聖からの話を聞く限りは、皆からの手紙を受け取って以降、それまでの状態が嘘だったかのように順調に仕上がっていったらしい。

 

彼女曰く、今までの私は蕾のような存在だったらしい。今日、その蕾が進化を遂げるとも言っていた。それは是非見てみたいものだ。(ちさと)の新たな姿をこの目で見させてもらおう。

 

そして、待ちに待った舞台の幕が今上がり、美しき花が咲き誇る時間がやってきた。

 

「すごい・・・」

 

それは誰の声だったのだろうか?僕の声だったかもしれないし、共に舞台を見に来たパスパレの誰かの声かもしれない。はたまたその他大勢の観客の声かもしれないだろう。だけど、そんなことは些細な事だ。誰の声だったかなんてそんなのどうだっていい。何故ならその感想は、等しく全ての観客が感じていることなのだから。

 

圧巻の演技だった。今まで千聖の演技は数え切れないほど見てきた。だけど、今回の千聖は、どの千聖とも重ならない。正に、新しい千聖。いや、そもそもあれは千聖なのだろうか?姿は正しく千聖そのものだ。だが、そこにいるのは病弱で姉思いな少女。千聖とは何一つ被らない。

 

最初からそのような存在の少女だった。千聖としての生は偽りの生だった。そう思わせるほどに、彼女の演技は完璧で、全ての観客を等しく魅了していた。これが、進化した千聖の演技。今までの、演技が静だとするならば、今の千聖は激。むき出しにした感情が観客の心に訴えかけてくる。彼女の、病弱な少女の想いを。

 

「これが、千聖・・・」

 

正直、惚れ直した。僕は千聖の演技から目が離せなくなっていた。もちろん、他の役者さんの演技も総じてレベルが高い。だが、彼女のそれは特別だ。まるで、高校野球のトーナメント表に、1チームだけメジャーの球団が混ざっていたような、そんな圧巻の演技。カーテンコールの幕が下りるその瞬間まで、僕は千聖から目が離せなかった。

 

「す、凄かったですね・・・ジブンもう感動しすぎて言葉も無いですよ・・・」

 

「ま、まるでチサトさん私の憧れる侍のようでした・・・」

 

「うん、間違ってないかも知れないよー。演技という刀一本で多くの観客の心を切って落としていく侍そのものだね。雅君も千聖ちゃんの刀にメロメロで、恋に落とされちゃったでしょ?」

 

「うん、そうだね。まぁ、僕の場合もうとっくの昔から落とされてるけど」

 

「えっと、ごちそうさまです?」

 

「あはは、彩ちゃんその言い方面白い!」

 

何はともあれ、やっぱりみんな千聖の演技に魅了されたみたいだ。周りを見ると、舞台が終わってもなお余韻を噛みしめるかのように残っている観客も多い。

 

「それじゃ、千聖のところに行こうか」

 

僕の言葉に続いて皆が立ち上がる。皆千聖に早く会いたくて仕方が無いのだ。僕も含めて。僕達はそのまま、千聖がいる控え室を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆、見に来てくれていたのね。ありがとう」

 

控え室の扉を開けると、そこにいたのは千聖だった。何を当たり前のことを、と思うだろうが、僕はそれに安心感を覚えた。正直、中にいるのが千聖ではなく、病弱なあの少女だったらどうしようと思っていた。そんなわけが無いんだけど。

 

「千聖ちゃん!ほんっっっっっとうに良かったよ!私感動しっぱなしだった!」

 

「彩ちゃん、舞台の間ずっと泣きっぱなしだったもんねー。それが面白くてあたしは舞台に集中できなかったよー」

 

「だ、だって本当に感動したんだもん!」

 

「まぁ、ジブンは彩さんの気持ちもわかります。本当に言葉にするのも困難なぐらい素晴らしい演技でしたからね。ジブンも思わず泣いちゃいましたよ」

 

「はい!私もです!鬼の目にも涙ですね!」

 

「いや、いつからイヴちゃんは鬼になったの。でも、皆の言うことは本当だよ。本当に、今まででも最高の演技だった。正に進化形白鷺千聖だね」

 

「皆、ありがとう。私自身も、本当に素晴らしい舞台にできたと思うわ。皆のおかげね。本当にありがとう」

 

そう言う千聖の顔には、満開の(えがお)が咲いていた。本当に、満足のいく完成度だったのだろう。そこには、自分のことを蕾に例えていた少女は存在しなかった。

 

「白鷺君、失礼するよ。初日の上演ご苦労だった。客の反応も盛況だ。明日からも期待しているよ」

 

千聖との談笑に花を咲かせている時だった。控え室の扉を開き、一人の男性が姿を現した。この舞台を演出した人物、宮川タカユキ先生だ。

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「ん?この子達は・・・」

 

「私が所属しているバンド、Pastel*Palettesのメンバーと、お世話になっているシンガーソングライターの黒城雅さんです」

 

「おー!君が噂の白鷺君の彼氏さんか!」

 

よし、ちょっと待ってもらおうか。どこだ、どこでそんな噂が広まってるんだ?あの例の掲示板か?あの掲示板が原因か?

 

「み、宮川先生、一体どこでその噂を・・・?」

 

「うん?この前飲みに行ったときに大木内君が言っていたが?」

 

あの大御所さん一体何してるの?もしかして色んなところで言いふらしてるんじゃないだろうね?僕と千聖が付き合う上で、大変お世話になったから付き合うことになったと報告したけど、それが間違いだったかな?

 

「マリさん、本当に何をしているのかしら・・・」

 

「わはは、まぁ若い間は存分に青春しなさい!ということは、白鷺君の本気を引き出してくれたのも彼氏君だったかな?」

 

「いえ、今回僕は何もしていませんよ。今回は千聖本人と、Pastel*Palettesの皆の功績ですよ」

 

「そ、そんな、私達もそんな大したことはしてないですよ!」

 

「そうそう、あたし達は何もしてないですよ。千聖ちゃんががんばっただけ!」

 

「そうです!チサトさんはすっごく努力してました!」

 

「そうですね。ジブンたちはただ見守っていただけです!」

 

「そうか。白鷺君はいい友人に恵まれたみたいだな。では、私は挨拶まわりがあるから失礼するよ」

 

そう言って、宮川先生は部屋を後にしようとする。これから全員に挨拶まわりを行うのだろう。公演が終わったばかりだと言うのに忙しいことだ。

 

「宮川先生、待って下さい!一つだけ、聞かせて下さい。どうして私を起用してくださったのですか?私と似通った演技力、容姿の女優はいくらでもいます。その中で、どうして私だったのかと」

 

「そうだな。君が開花したら、面白いものが見れそうだと思ったからだ」

 

「面白い?」

 

「以前からテレビ等で君のことは知っていたよ。年齢の割に、とても器用な演技をする子だと思っていたが、役に対する熱意や本気というものがあまり見えなかった。そんな君が本気になった時、何が観られるんだろうと興味があったんだよ。だが、結果を見る限り、どうやら私の目は曇っていたようだ」

 

「え?」

 

その言葉はあまりにも予想外なものだった。あの演技では、宮川先生の求めるものに届いていなかったと言うのだろうか?だとしたら、厳しすぎる。

 

「あぁ、曇っていたようだ。君の本気は、私の想像をはるかに凌駕(りょうが)していた。私の予想も当てにならないものだ。良い意味でね。明日の公演もこの調子でよろしく頼むよ。それだけじゃない。また君に私の作品をお願いしたい。これからも期待しているよ、白鷺君」

 

「宮川先生・・・はい、よろしくお願いします!」

 

それだけを言い残すと、宮川先生は笑みを浮かべて部屋を後にした。本気の千聖。確かに、その演技力は他の追随を許さない演技力を秘めていた。宮川先生が今後に期待するのも頷ける。

 

開花した千聖の演技は、おそらく今後も各方面で話題になるだろう。進化を遂げた演技派女優として。彼女も順調に、女優としての階段を上っていっている。ほんと、嫉妬すら覚えるほど順調に。

 

僕も遅れを取るわけにはいかない。僕だって、少しずつ、本当に少しずつだけど、音楽家としての階段を上っていっている。今は、彼女に比べて、遅れを取っているかもしれない。だけど、必ずいつか追いついてみせる。彼女が頂点に辿り着く前に。最後のゴールテープは二人で並んで切りたいから。

 

そう、彼女の笑顔を見ながら改めて誓った。それがいつになるかはわからない。だけど、いつかは、きっと。必ずきっと・・・

 

 

 




どうも、ソウリンです。
遅くなって申し訳ないです!石投げないで!忙しかったんです!マジで!
今回のサブタイトルはKinKi Kidsさんのフラワーです。次話もKinKi Kidsさんの曲からつけます。まぁわかるかと思いますが、今回のお話の題材となったイベントタイトルとかけています。
後、今回投稿遅れたもう一つの理由。執筆文字数が多かった(白目
いやー自分基本アナログ人間ですからね。タイピング速度も遅いからこの文字数は辛かった(涙目
単純な文字数で言えばいつもより少し多いぐらいなんですけどね。雅編が一万文字とちょっとですし。
ただ、今回のお話見ててもしかしたら気づいた方もいるかもしれませんけど、雅編と千聖編でガラッと場面が入れ替わります。雅とのシーンでも、あえて雅編では描いてないシーンもあるんですよね。そっちの方が今回のお話的に良さそうだったので。
何が言いたいかと言うと、同じセリフまわしがほとんどないからコピペ戦法での手抜きが(ry
まぁ、実際同じセリフが多い回とかもあったので、読んで下さってる方の中には、雅編だけ読んどこう。千聖編だけ読んどこうという方もおられるかもしれません。ですが、今回は両方読んでいただきたいです。雅編だけではわからない場面とか多いと思いますので。
そして、今回の冒頭のロゼのお話。あのシーン本当は入れるつもり無かったのですが、急遽加えました。え?理由は何かって?ロゼの地上波初登場に触発されたからだよ!(迫真
いやー本当に良かったですね!ルフラン最高でした!興奮するあまりロゼを出したい欲が強まって、急遽書き加えました。まぁ、元々はあの放送前に投稿してる予定なんですけどね(白目
まぁ、これはこれで結果オーライだと思います。出すんだったらロゼの演奏してるシーン書きたいと思ってたんですけど、今後のお話、しばらくそんなシーン加えれなさそうなお話が続くんですよね。詳細はネタバレになるので省きますけど。なので、ちょうどいいタイミングだったと思います。
後、ロゼと言えばニューシングルRが発売しましたね!自分も勿論購入して、ファンミにも応募しました!当選するといいですね!Rほんといいですよね!皆さんは、Rの意味どう捉えましたか?自分は、リスタートですね!中島由貴さんを加えた、新生ロゼとしての、リスタート。Rの最後の部分の歌詞がほんと好きで、このRが思い浮かびましたね。まぁ、色んなRがあると思います。こういう答えが一つじゃない問題って面白いですよね。自分大好きです。
ではでは、今回はこの辺で。
次話は千聖編です。午後12時に投稿します。
ではでは、よかったら次回もよろしくお願いします!
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