君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第30話です
千聖編です


第30演目 微笑みサンセット

気が滅入るような猛暑が続く、八月のとある一日のことだった。

その日も私は、普段と変わらない日常を過ごしていた。夏休みに入っても変わることの無い日常。朝起きて、雅の家に赴き、朝食を作るいつも通りの朝の一幕。

何も普段と変わりない一日の始まりだった。ただ、違うことが一つだけ存在した。

 

「千聖、今日の仕事は?」

 

「今日は私は休みよ。特に仕事は入っていないわ」

 

「あら?奇遇だね。僕もだよ」

 

それは、普段なら必ずどちらかは入っている仕事が、二人揃って休みだったということ。普段から、雅と休みが被ることは少ない。それが意味することは、デートできる時間が少ないということ。

 

そんな私達が、今日は二人揃って休み。これは、デートに出かける以外の選択肢は無いわね。折角の夏休み、何もしないなんて勿体ないわ。

 

「ねぇ千聖。だったら今日はデートに行こうか」

 

と、思っていた矢先に、雅がデートに誘ってきてくれた。どうやら、私と一緒のことを考えてくれていたようだ。

 

「ふふっ、奇遇ね。私も今誘おうと思っていたわ」

 

「ははっ、今日みたいな日を逃す手は無いもんね。で、どこに行こうか?」

 

「そうね、折角だから夏っぽいことをしたいわね」

 

夏っぽいこと。いくつか選択肢はある。だけど、一番行ってみたい場所は私の中で決まっていた。そのタイミングで、都合良くテレビのアナウンサーの声が聞こえてくる。

 

「私は今、観光客で多く賑わうビーチに来ております。こちらのビーチは、現時点で既に昨年の利用者数を上回っており、例を見ないほどの大盛況に見舞われております」

 

「これね」

 

「これだね」

 

私達の声がタイミング良く被る。それがなんだか面白くて、私達はどちらからともなく、笑い出した。決まったならば早速準備をしないと。私は、一度雅の家を出ると、自宅へと支度をしに戻った。実は、こういう時のために先日新しい水着を購入していた。まさか、本当に着る機会があるなんて思っていなかったけれども、嬉しい誤算ね。私の足取りは、自身の気分を表すかのように、早足になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、やってきた。青と白のコントラストが美しい、魅惑のビーチへと。そこは、予想通りの賑わいを見せていた。

 

「予想してたことだけれども、すごい人ね」

 

見渡す限りの人、人、人。これだけ人が多いと、私達も一般人の中に紛れることができて都合が良いかもしれないけれども、さすがに多すぎる気もする。そんな人混みに少しうんざりしてると、隣から向けられている視線に気がついた。視線の主は雅だ。

 

「雅、どうしたの?そんなに見られると恥ずかしいんだけれど・・・」

 

「あ、ごめん。その、凄く似合ってて可愛かったからつい・・・」

 

「そ、そう。あ、ありがとう・・・」

 

突然の雅からの発言に、私は恥ずかしくなってしまった。思わず、俯いてしまう。おそらく、顔も真っ赤になっているだろう。すごく熱い。私が買った水着は、ワンピースタイプの物だった。ビキニタイプの物と悩んで、こちらの水着を私は購入した。理由はこの花柄だ。この花が、私の大好きなフクジュソウに似ていた。ただそれだけ。

 

フクジュソウは元々大好きな花だった。だけど、今年の誕生日以来、更に特別な花に変わっていた。理由は雅からの誕生日プレゼントに頂いたポーチ。そのポーチに付けられていた花飾り、それがフクジュソウだった。

 

雅が態々私の誕生花を調べて、買ってくれたポーチだった。私の大切な物。だけど、普段は全く使っていなかったりする。勿体なくて使えないというのが本音。実際に、今日も私の部屋に大事に保管して、持ってきていない。

 

「そ、それより折角来たんだから泳がないと勿体ないよね!いこ?千聖」

 

「えぇ、そうね」

 

そして、程なくして雅から声がかけられる。その頃には既に顔の温度も元に戻っていた。私達は、そのまま手をつなぎ、海に向かう。向かおうと思ったのだけれども・・・

 

「待って雅。準備運動がまだだわ」

 

そう、準備運動をまだ済ませていなかった。危なかった。準備運動は非常に大事なこと。特に私は、運動はからっきしなので、準備ぐらいはしっかりしておかないと。

 

「そうだったね。ごめんごめん。忘れてたよ」

 

「逸る気持ちもわかるけれども、何事も準備が肝心よ。しっかり準備をしましょ?」

 

そして、私達は念入りに柔軟運動を行っていく。元々だけれども、私の体は固い。今はそのような役を演じていないからいいけれども、役によっては演技だけではなく、体の柔軟さも求められることがある。いくら柔軟な演技ができても、それだけではいけない場面がある。少しは体も鍛えた方がいいかしら?本当に運動は苦手なのだけれども。

 

「さて、このぐらいでいいかな?じゃあ、改めて行こうか?千聖」

 

「えぇ、そうね。行きましょ?雅」

 

そして、私達は十分な準備運動を行い、今度こそ念願の海に足を踏み入れた。足を踏み入れた瞬間に、伝わってくる冷感が心地よい。

 

「あー気持ちいい・・・」

 

「ふふっ、そうね。風も、波も、何もかもが気持ちいいわ」

 

本当に、呆れるほどの暑さが気にならないほどの心地よさだった。叶うことならば、このまましばらく何もせずにいたいほどの。

 

「さて、それじゃ思いっきり楽しみましょ?明日の仕事のことなんて考えないで」

 

「あはは、そうだね。明日の仕事は二人して日焼けと筋肉痛で苦しんじゃおうか」

 

だけど、このままという訳にはいかない。私達は今日、思い出の一ページを作りに来たのだ。こんなことで時間をつぶしている訳にはいかない。

 

「雅」

 

「ん?何千聖?ってぶふっ!」

 

名前を呼んで、振り向いた雅に向かって水をぶつける。海で行う、ありきたりなことだけれども、そんなありきたりなことが掛け替えのない思い出に変わる。

 

「ふふっ、今の雅の顔、ふふっ、ふふふっ!」」

 

「千聖、笑いすぎだよ!よーし、こうなったら、えいっ!」

 

「きゃっ!やったわねー!お返しよ!」

 

「わあっ!やったなー!負けないよ!」

 

こんな些細な時間が愛おしかった。堪らなく幸せだった。いつまでも続けば良いと思えた。

 

「ふふっ、こういうのもたまには悪くないわね」

 

「そうだね。なんだか楽しくなってきちゃったや」

 

「そうだわ、雅。今から私に泳ぎを教えてくれないかしら?」

 

「泳ぎを?でも千聖、別に泳げないわけじゃ無いじゃん」

 

「泳げるけれども、苦手なものは苦手なのよ。こういう機会でもないと教えてもらえないし、お願いできないかしら?」

 

「うーん。そうだね。たまにはいいかな。わかったよ。教えるよ」

 

「本当?ありがとう。うれしいわ」

 

「とは言っても、僕も人並み程度にしか泳げないからね。上達しなくても僕のせいにしないでよ?」

 

「ふふっ、勿論よ」

 

私は、ふとした思いつきで雅に泳ぎを教えてもらうことにした。準備運動の時に、私は少しは運動をした方がいいかもと思った。これはその一環。これで、少しは運動力アップにつながればいいけれども。

 

そして、私は手始めに雅に泳ぎを見てもらうことになった。泳いでみて思うけれども、なんだかぎこちないと自分でも思う。だけど、何がおかしいのかまではわからない。

 

「雅、どうかしら?」

 

「うーん、ちゃんと泳げてるには泳げてるんだけどね。どこか違和感があるよね。たぶん足の動きかな?もっと水を強く蹴るように心がけてみようか?」

 

雅に言われたように、足を強く蹴ろうと心がける。だけど、上手く蹴れてる気がしない。さっきと変わりが無いような気がする。

 

「どうかしら?」

 

「千聖、たぶん手の方に意識を持っていきすぎなんだよね。もっと足に意識を持っていって、力強く水を蹴る練習をしようか?初歩的な練習だけど、僕が手を持ってるよ。足だけに集中して、強く蹴ってみよう」

 

そう言って、雅は私に両手を差し出す。言われたとおりに、私は雅の両手に全てを委ねて、足だけに意識を集中する。すると、なんだか先ほどまでよりも足の動きが良くなっている実感があった。

 

「うん、良い感じだよ千聖」

 

「本当?ふふっ、雅のおかげね。・・・って、み、雅!後ろ!」

 

「え?後ろ?」

 

雅は私の声につられて後ろを振り返る。私も気づくのが遅すぎた。そこには、すぐ近くまで迫った大きな波が押し寄せていた。それこそ、雅の頭まで飲み込まれてしまうような大きな波が。気づいたときには、私達には何をすることもできなかった。

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

波の衝撃により、私と雅の手が離れてしまう。咄嗟のことに何もできず、私は波に流されてしまった。幸いなのは、流されたときに水を飲んでしまわなかったことだろうか。だけれども、体が思ったように動かない。これは本格的にマズいかもしれない。そう思っていたときに、薄らと見えた視界の中に救世主の姿が映った。私はその救世主に向かって、ゆっくりと、しっかりと手を伸ばす。果たして、私の願いは叶えられたのか、手を掴み、誰かに引き寄せられる感覚が体に伝わってきた。

 

「ぶふぁっ!」

 

そして私達は、無事生還を果たした。数秒間の出来事だったというのに、太陽を見るのがそれはそれは凄く久しぶりに感じる。意識もハッキリしている。どうやら、二人とも何も問題なかったようだ。

 

そして、安心して気づく。何かが、私の胸に当たっていることに。恐る恐る胸元に目を向けてみると、そこには私の胸を掴む手があった。その手の主には心当たりがある。その答えを確認するために手を上に辿っていくと、案の定それは雅の物だった。様子を見るに、どうやらまだ現状に気づいていないようだ。

 

「あの、雅、手が・・・」

 

「え?」

 

その私の声に誘導され、雅が自身の手に目を向け、そして現状に気づく。その間も、私の顔は凄い勢いで熱くなっていた。おそらくまた真っ赤になっていることだろう。

 

「ご、ごめん!」

 

気づいた雅が、勢いよく手を離して私から離れる。それは、その、凄く恥ずかしかったけれども、そのいつかはそういうことをする日もやってくるわけだし、そうなったら、間違いなく触ってもらう訳だし、これは、その、遅かれ早かれの問題。ただ、できることならその時まで取っておきたかったというのはあるけれども、過ぎてしまった事は仕方ない。それに、雅になら謝られるようなことでも無い。むしろ、私がお礼を言わなければいけない。

 

「い、いいのよ。気にしないで、雅は私を助けてくれたわけだし、何も悪いことはしてないわ。むしろ、お礼を言わなくてはいけないわ。ありがとう、雅」

 

そうお礼を述べる私。だけれど、雅はまだ納得がいっていない様子。雅が変に意識してしまうから、私まで変に意識してしまっている。正直、かなり気まずい。

 

「そ、そうだわ!もうそろそろお昼の時間よね?海の家に行かないかしら?私、お腹が空いてきたわ」

 

「そ、そうだね!行こうか!」

 

そんな気まずい空気を払拭するために、私は雅に一つの提案を出す。正直な話、そこまでお腹は空いていないんだけれども、この際四の五の言ってられない。私達は、その空気から逃げ出すように、真っ赤な顔で海の家へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

海の家は人で溢れかえっていた。店内は見渡す限り人だらけ。座れなかったお客さんが外にも長蛇の列を並べている。そして、そんな店内で接客している店員さん。その中に見知った顔が二人ほど混ざっていた。あれはひまりちゃんとあこちゃん?どうしてこんなところに?

 

「いらっしゃいませ!特別コラボカフェへようこそ!」

 

そしてもう一人見知った顔が外にも。えっと、あなたはこんな所で何をしてるのかしら?

 

「えっと、彩ちゃんこんな所で何してるの?」

 

「あ、雅君!千聖ちゃん!今日は私ここの一日店長なの!」

 

一日店長。その言葉に私は合点がいった。そういえば昨日、そのような仕事が今日入っていると言っていた気がする。だけれども、それはあくまで彩ちゃんだけの話。中で働いている二人は関係無いはずだけれども。

 

「そういえばそんな仕事が入ってるって彩ちゃん言ってたわね。まさかこの海の家だったなんて。ふふっ、面白い偶然ね」

 

「ほんとだね。まさかこんな所で知り合いに会うと思わなかったよ。知り合いといえば、中で見知った顔が働いてるみたいなんだけど、アルバイトか何か?」

 

「それが・・・」

 

「彩ちゃん、悪いんだけど、もう少し中を手伝ってくれないかな?」

 

彩ちゃんが私達の疑問に答えようとしたときだった。タイミング良く一人の男性が彩ちゃんに話しかけてくる。この人は一体?

 

「あ、店長!わかりました!」

 

「店長・・・なるほど、本物の店長さんなのね」

 

「ん?君たちももしかして彩ちゃんのお友達かな?」

 

「えぇ、そうですけど」

 

その言葉を聞いて、心底安心したかのような表情を浮かべる店長さん。そこで、私達はある程度の事情を把握した。なるほど、それであの子達は中で働いているのね。

 

「あぁ、それはちょうど良かった!どこかで見たことあるような子達な気がするけど、きっと大丈夫だろう。よし、突然で申し訳ないんだけど、今人手が足りなくて、少しお店を手伝ってもらうことはできないかな?」

 

そして、飛んでくる予想通りのお願い。私はその返答を雅に委ねてみることにした。まぁ、少しお人好しの気がある彼がどんな答えを出すかなんてわかりきっているのだけれども。

 

「そうね、雅、どうしようかしら?」

 

「そうだね。店長さんも困ってるみたいだし、少し手伝っていこうか」

 

「おー!手伝ってくれるか!すまない!お願いするよ!」

 

そう言うと、店長さんは私達の案内を彩ちゃんに任せ、接客をしに店の中に入っていった。本当に忙しそうだ。そして、彩ちゃんに案内された私達。厨房まで案内すると、彩ちゃんも接客をしにフロアに出て行った。そしてその厨房内には、これまた知っている顔が二人いた。

 

「あれ?雅と千聖じゃん。はっはーん。さては店長に捕まっちゃったねー」

 

「雅さん、白鷺さん・・・こ、こんにちわ・・・」

 

リサちゃんと燐子ちゃんだ。どうやら、二人が厨房を担当しているみたい。リサちゃんはともかく、燐子ちゃんは大丈夫かしら?

 

「リサちゃん、燐子ちゃん、ご苦労様。私も料理を手伝うわ」

 

「千聖が手伝ってくれるの?それは助かるよー。この前ヒナから千聖が料理上手だって話を散々聞かされたからねー。期待しちゃうよ-」

 

「もう、日菜ちゃんったらまた勝手に言いふらしちゃって。だけど、私も日菜ちゃんからリサちゃんが料理上手だって話を聞いてるわ。期待してるわね」

 

「あはは!ヒナの口はふさげないねー!」

 

そんな軽口を言い合いながらも、私達の手は忙しなく動いている。リサちゃんの手際もいい。日菜ちゃんの言う通り、どうやらリサちゃんも本当に料理上手みたいね。

 

「千聖、僕は何をしようか?」

 

「雅は何もしなくても大丈夫よ。大人しくしてて」

 

私に、手伝うことは無いか尋ねてくる雅。だけど、今のこの状況で雅に手伝ってもらえることなんて何もない。大人しくしててくれるのが一番助かる。そして、その後もリサちゃんと二人で手際よく注文を片付けていく。片付けていくのだけれども、そこで一つの問題が発生した。

 

「あれ?そういえば雅は?」

 

「え?」

 

雅の姿が厨房から無くなっていた。リサちゃんに言われるまで気がつかなかった。どこに行ったのかしら?

 

「お手洗いにでも行ったのかなー?」

 

「そうだといいんだけれども・・・」

 

リサちゃんの言う通り、お手洗いに行っているだけだったら問題は無い。だけれども、なんだろう?なんだか少し嫌な予感がする。

 

「リサちゃん、なんだか嫌な予感がするの。少し、着いてきてもらってもいいかしら?」

 

「そうだね。千聖がそう言うならいいよー。大切な大切な雅のことだもんねー」

 

「もう、リサちゃんからかわないの」

 

だけど、本当に嫌な予感がする。雅は本当に何をしているのかしら?そして、リサちゃんと一緒にフロアを覗いたとき、私の予感は確信に変わった。

 

「はい、お呼びでしょうか」

 

「あ、すみません注文したいんですけど・・・ってあれ?店員さんどこかでみたことあるような?」

 

「あ!もしかしてあの黒城雅じゃね?」

 

「あ、ほんとだ!黒城雅だ!でも、なんでこんなところに?」

 

「ほら、あっちで丸山彩が一日店長として接客してるし、その関係じゃね?それよりも俺ファンなんだよ!一緒に写真お願いしてもいいっすか?」

 

「あ、えっと・・・」

 

あの有名人は何をしているのかしら?少し考えれば自分が接客をすればどうなるかわかるでしょう。このままだとまずい。

 

「え?あれって黒城雅?」

 

「あ、ほんとだ。こんなところにいるなんて」

 

案の定、その話題は周りにも伝播していく。これは本格的に早くなんとかしないとまずい。かといって、私がお客さんの間に割って入るのは論外。私も雅と同じ芸能人。火に油を注ぐだけになる。ここは心苦しいけれども、彼女に任せるしかない。

 

「リサちゃん、本当に申し訳ないのだけれども、あのお客さん達をなんとかすることはできるかしら?」

 

「うーん、そうだねー、やれるだけの事はやってみるよー」

 

「ありがとう、それと、ごめんなさいね」

 

「いいっていいって、困ったときはお互い様ってやつ?まぁ、千聖が気にすることじゃないって」

 

リサちゃんは本当に良い子ね。今から難しい仕事をお願いするというのに、こんな簡単に快諾してくれるなんて。

 

「それじゃ、私が急いで雅を中に引っ張り入れるから、その後よろしくお願いするわね」

 

「おーけー。任しときなって!」

 

「それじゃ、行くわよ!」

 

その声と同時に、私は誰にも顔を見られないように細心の注意を払いつつ、最速の動きで雅の腕を掴み、厨房の方へと逃げ込む。後はリサちゃんに任せるだけ。

 

「ね?似てるでしょーあの黒城雅に!あの子実はそっくりさんでねー!アタシ偶々おんなじ学校に通ってるんだけどさー、校内じゃ有名なんだよー!あ、学校は秘密ね!今の時代そういう身バレっていうやつ?がなんか問題になってるみたいだしさー。あ、お待たせしてごめんない!注文お伺いしますね-!」

 

「あーごめんありがとう」

 

「それにしてもソックリさんだったのかー。それにしては似すぎてたような?」

 

「でしょー?ほんと似てるよね-。皆絶対言うことだからよっぽどだよねー」

 

リサちゃんはどうやら上手いことやってくれているみたいだ。本当に、しばらくあの子には頭が上がらない気がする。そして、事の発端となった雅は、反省するかのように俯いている。

 

「もう、何をやってるのよ・・・」

 

「ごめん、何か皆の役に立てることは無いかと思うと、つい・・・」

 

どうやら、皆の役に立ちたくて行った行為が、先ほどの接客だったみたいね。やる気が空回った結果といった所かしら?何にしても、少し浅慮な気がするけれども。

 

「本当に雅は何もしなくても大丈夫よ。本当に音楽関係以外の事はポンコツなんだから大人しくしてて」

 

「ぽ、ポンコツ・・・」

 

雅は、その私の言葉を聞いて膝から崩れ落ちてしまった。少し言い過ぎたかしら?だけど今は心を鬼にして雅の反省を促さないと。といっても、十分反省してるようにも見えるけれども。

 

「ふぅ、終わった終わったー。・・・って雅、何してるの?」

 

「あら、リサちゃんお疲れ様。ありがとうね」

 

「リサちゃんありがとう。それと、僕がポンコツでごめんなさい・・・」

 

「いや、それは別にいいけど・・・ポンコツ?雅本当にどうしちゃったのさ?」

 

心配げな目で私と雅を交互に見てくるリサちゃん。心配させちゃったかしら?そうね、じゃあ雅も十分反省してるみたいだし、それに皆の力になりたいとう思いも十分伝わってきた。しょうがないわね。

 

「はぁ、しょうがないわね。リサちゃん、調理の方は私に任せて、燐子ちゃんとドリンクの方をお願いしていいかしら?」

 

「おーけー。でも一人で大丈夫?かなりの重労働だと思うけれど」

 

「別に一人じゃ無いわよ。雅にもちゃんと働いてもらうわ」

 

その私の言葉を聞くと、途端に雅は顔を上げ、まるで犬が尻尾を振りそうな勢いで私の方に詰め寄ってきた。正直、少し可愛い。

 

「千聖、僕が手伝ってもいいの?」

 

「えぇ、といっても、簡単なことを教えてあげるだけだから、大した仕事では無いわよ?」

 

「それでも嬉しいよ!よし!頑張るぞ!」

 

「あはは!じゃあこっちは問題なさそーだね!じゃあ千聖、雅、まかせたよー」

 

その言葉だけを告げて、リサちゃんは燐子ちゃんの元へと向かっていった。さて、気合を入れていかないと。

 

「それじゃ、やるわよ」

 

「うん!何でも言ってね!」

 

正直な話、雅はやろうとしないだけで、教われば大抵のことはそつなく熟せる能力がある。料理だって当然そう。ちゃんと学べば私レベルにはすぐ到達できるほどの能力はある。最も、今は教えてる時間が無いから、すぐに教えられることだけをお願いして、大方の作業は私が行っている。

 

だけど、私はそんな何気ない時間が凄く幸せに感じていた。今思えば、雅と何か一つの作業を共同でやることなんて、そう滅多にあることでは無い。それが料理となると、まるで夫婦みたいだなって思って、凄く幸せになる。普段から、夫婦みたいと揶揄される私達だけれども、自分でもそう思うのだから、否定できない部分も多い。そして、ふと雅の方を見てみると、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。

 

「雅、急に笑ったりしてどうしたの?」

 

「ん?うん、なんだかこんな時間が幸せだなって思って」

 

「・・・そうね、凄く幸せだと思うわ。こんな、何気ない日常がいつまでも続けばいいのに」

 

「そうだね。本当に、続いてほしいね。この幸せが」

 

どうやら、雅も私と同じ事を思ってくれていたみたいね。本当に、こんな日々がいつまでも続けば良いのに。そう考えていると、背後から視線を感じた。振り向いてみると、そこにいたのはリサちゃんと、燐子ちゃんだった。

 

「二人とも、どうかしたの?」

 

「いやー二人がまるで夫婦みたいだなーって思ってね-」

 

「仲睦まじいです・・・」

 

「ふ、夫婦って・・・」

 

「そうね、私もそう思うわ」

 

「え?千聖も肯定するの?」

 

「あはは、これはごちそうさま、かな?」

 

「お、お幸せに・・・」

 

本当に幸せな時間だった。最初は、このお願いをデートの邪魔をされたと思った瞬間もあったけれども、最終的には受けて良かったと思えた。大切な時間を再認識させてくれた幸せな一時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、お手伝いを終わった時には既に夕暮れ時になっていた。海は綺麗なオレンジ色に染まっている。

 

「やっと終わったよ-!あー海でもっと遊びたかった-!」

 

「まぁまぁひまり。たまにはこういう思い出も悪くないんじゃない?海ならまた来れる訳だしさ」

 

「あこもそう思う!なんだかあこね、途中からお客さんとお話しするのが楽しくなっちゃったの!」

 

「わ、私は、欲しかったものがもらえたから、やって良かったと思います・・・」

 

皆それぞれに感じたものがあったようね。私も、なんだかんだで今日は楽しかったわ。でも、今度はゆっくり、雅と二人で過ごしたいわね。

 

「みんな!今日はありがとうー!ほんとに助かったよ-!」

 

そんなことを思っていると、最後に彩ちゃんが合流してきた。これで全員揃ったわね。

 

「そうだ!皆で今日の記念に写真撮ろうよ!」

 

「お?記念写真?いいねー!撮ろう撮ろう!」

 

「私も撮りたい!これで少しでも海で遊んだ気になっておかないと!」

 

「はいはーい!あこも撮りたーい!」

 

「わ、私は皆が撮るのなら・・・」

 

「記念写真か。たまにはそういうのもいいかもね」

 

「そうね。私も賛成だわ」

 

「それじゃ、皆寄って寄って!撮るよ!」

 

そして、私達は今日一日の思い出を一枚の写真に保存した。今朝、急遽決まった今日のデートだったけれども、本当に来て良かったと思う。素晴らしい思い出の一ページがまた刻まれた一日だった。

 

欲を言えば、今度は雅と二人でゆったりとした時間を満喫したい。そんなことを考える一日の終わり。微笑み絶えない、夕暮れ時の一幕だった。




どうも、ソウリンです。
間に合った(現在時刻朝5時半)
寝てる時間ねーじゃねーか!まぁ別に問題ないですけど(無いのかよ
今回のサブタイトルはみなみけのラジオの曲ですね。微笑みサンセットです。はいマイナー(白眼
ですけど、なんか無性にこの曲の歌詞がみやちさに合うんですよね。なんだか切なくなる一曲です。自分は好きです。気になった方は是非聞いてみて下さい。
そして今回のお話、イベント勢リサ以外空気じゃねーか!と思ったそこのあなた。
申し訳ございません。(土下座
いやー色々なパターンプロットの時点で考えてたんですけどね。一番シックリ来たのがこの流れだったんですよね。致し方なし。
それに、ほんとは最後の場面もっとみんなでキャッキャウフフさせようと思ってたんですよね
はい、見事にカットしました。いつもの文字数の関係ですね(白眼
でも、リサって良い子ですよね?本当に。絶対に結婚したらいい嫁になると思うんですよ。
個人的に、一番良い奥さんになりそうなバンドリキャラ1位です。因みに2位はつぐです。
3位に巴だったりします。(ランキングには個人差があります
では、今回はこの辺で。
次回は話の都合上、千聖編を先に投稿します。要するに、31話が千聖編、32話が雅編になります。
内容としては、ついにあのバンドが満を持して出てきます。
投稿目標は、千聖編が先ということで、21日午後12時とします。
昼投稿が先になりますのでお気を付け下さい。
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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