君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第32話です
雅編です


第32演目 Moonlight

その日、僕はとある音楽番組の収録に来ていた。

と言っても、現在はもうそれも終わり、帰途についているところなのだが。夏ももう終わる。それでも、まだ茹だるような暑さは続いていた。既に夕刻を迎えているというのに、まだ熱は冷めそうにない。

 

「あら、雅。今帰りなの?遅かったわね」

 

そして、その帰り道で、僕は千聖に出会った。彼女も今日は仕事。どうやら今はその帰りらしい。聞いていた帰宅時刻よりも遅いけど。

 

「うん、ちょっと収録が長引いちゃってね」

 

「私もよ。雑誌の取材が長引いちゃってもうこんな時間だわ。急がないといけないわね」

 

「そうだね。早く行こう」

 

今日は、毎年恒例の花火大会がある。僕達はそれに共に参加する約束をしていた。この夏最後の思い出作りだ。だけど、僕らは二人して仕事が長引いてしまい、このままでは打ち上げに間に合わないかもしれない。自然と僕達の足は速くなる。そしてその時だった。急に千聖の体が傾いたのは。

 

「あっ」

 

「おっと、大丈夫?」

 

倒れそうになった千聖を、慌てて支える。何かに蹴躓いたようには見えなかった。急に糸が切れたかのように倒れた千聖。これは心配になる。

 

「ごめんなさい。大丈夫よ。少し、疲れてるだけだから」

 

「本当に大丈夫?無理をしちゃダメだよ?なんなら、今日はゆっくり休んだ方が」

 

「本当に大丈夫よ。少しふらついただけだから。それよりも、早く行きましょ?花火、始まっちゃうわよ」

 

そう言って、また早足で歩き始める千聖。確かに、その姿には心配する要素が見当たらないようにも思える。まぁ、僕がしっかり彼女のことを見てたら大丈夫かな。いざとなれば、無理にでも彼女を休ませよう。僕は、一抹の不安を胸に抱きながら、彼女の後を着いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

花火大会がもうすぐ始まる。僕達は一旦別れ、それぞれ準備をし、再び待ち合わせる手はずになっていた。その待ち合わせ場所に、すでに彼女は来ていた。彼女のイメージカラーとも言える、薄黄色の浴衣に身を包んだ彼女。千聖の容姿も相まって、それは幻想的な美しさを纏っていた。

 

「お待たせ、千聖」

 

「来たわね雅。どう?変じゃないかしら?」

 

「変なわけ無いじゃないか。思わず、その、見とれちゃってたよ」

 

「ふふっ、ありがとう。雅も素敵だわ。その浴衣、凄く似合ってる」

 

「うん、ありがとう」

 

そして、どちらからとも無く、お互い手を繋ぎ、人波の中に駆け込んでいく。予想していたことだけど、すでに多くのお客さんで一般道も溢れかえっていた。やっぱり、出遅れたのは手痛かったかな。

 

「予想していた通りだけど、凄い人だね」

 

「そうね、はぐれないように気をつけないといけないわね」

 

人波に流されながら、ひたすら会場を目指す。その途中に、縁日の出ている通りも見える。だけど、一般道ですらこの人混みなのだ。縁日通りなんて、入ったら帰ってこれる気がしない。

 

「これは縁日に寄ってる場合じゃ無さそうだね」

 

「そうね、寄ってたら買う前に花火が始まってしまうわ」

 

縁日の誘惑を断ち切り、二人で一般道を進む。だけど、このままだといくら進んでも、いいスポットが見つかるようには思えない。

 

「だけど、このままじゃ花火大会どころじゃないね。花火が綺麗に見えるような所は、きっと既に人がいっぱいだよ」

 

「そうね、やっぱり出かけるのが遅かったわね。どこか隠れスポット的な場所があればいいのだけれど・・・」

 

仕事だから仕方ない。それは僕達二人ともわかっている。働く者なのだから。だけど、今日ばかりは恨み言も言いたくなる。

 

「うーん、なんだかこのまま人の波に従って進んでてもダメな気がするな-」

 

「そうは言っても、逆に進んでも、そんな都合の良いスポットがあるとは思えないわ」

 

千聖はそう言う。確かに、今の僕の言い方だと、そう捉えても仕方ないだろう。だけど、僕が言いたいのはそういうことじゃない。

 

「ううん、逆走するわけでは無くてさ、どこか人も入らないような脇道の先に実は秘境的丸秘スポットがありましたって感じでね」

 

「さすがに、そんな都合の良い話があるとは思えないけれども・・・」

 

それは僕もわかっている。自分が言っていることが荒唐無稽な話だということは。だけど、それ以外に道が無いようにも思う。まぁ、そんな都合の良い話あるわけないんだし、素直にこのまま進むしか無いのだろうか。

 

「だよねー。うーん、このまま波に従って進むしかないのかな」

 

「そうね、それしか打つ手は無いように思えるけれども・・・あら?」

 

その時、千聖が何かを見つける。その先に目を向けてみると、そこには二人の少女が立っていた。見たこのの無い少女達だった。どうやら、その子達も千聖と面識があるようで、こちらに軽く手を上げて、近づいてくる。

 

「こんばんは、沙綾ちゃん、たえちゃん」

 

「こんばんは、千聖先輩、と、もしかして、隣の人は?」

 

「あ、テレビの中の住人だ」

 

「うん、間違ってないかもしれないけど、それだと千聖だってそうだし、まるで現実に存在してないみたいになってるからね」

 

その内の一人が、出会い頭に放った一言に思わず突っ込んでしまった。なんだか、最近ツッコミが板に付いてきたきがする。個性的な人達と接する機会が最近多いせいかな?あまり嬉しくは無いけど。

 

「と、まぁまずは自己紹介だね。知ってるとは思うけれど、僕は黒城雅。気軽に雅って呼んで欲しい」

 

「初めまして。花咲川女子学園一年生の山吹沙綾です。よろしくお願いします」

 

「同じく、花園たえです。サインは有料ですか?」

 

「いやいや、僕はそんなケチな人種じゃ無いからね」

 

もし、僕にそんなケチなキャラが定着しているんだったらショックだ。沙綾ちゃんとたえちゃんという少女。その中でも、たえちゃんという子はとてもキャラが強い子のようだ。面白い子だと思う。沙綾ちゃんはなんだか、あくまで僕の第一印象だけどしっかりしてて、面倒見の良さそうな雰囲気がある。

 

「今日は二人だけなの?」

 

「それが、他のみんなとはぐれてしまいまして・・・」

 

「手、つなぎたかった・・・」

 

たえちゃんの発言はよくわからないけれども、どうやら彼女達は他にも何人かと来ていたのだけれども、そのメンバーとはぐれてしまったらしい。この人混みの中だ。捜索は困難だろう。

 

「ありゃりゃ、それは大変だね。連絡は取れないの?」

 

「それが、さっきから携帯の電波がずっと圏外になってまして・・・」

 

「あら?本当ね。私も圏外になっているわ」

 

言われて、僕も自分の携帯を確認してみる。そこには確かに、圏外と表示されていた。どうやら、集団での電波障害が発生しているらしい。これもこの人混みのせいだろうか。

 

「うーん、困ったね。何か居そうな場所に心当たりとか無いの?」

 

「全員はわからないですね。一人はたぶんわかります。推測ですけど」

 

「蔵みたいな所」

 

「蔵?」

 

蔵とは一体どういうことだろうか?どうしてそんな場所が浮かび上がるのかがわからない。今日は花火を見に来たんじゃ無かったのかな?

 

「あはは、おたえ、それじゃわからないよ。ところで、先輩方はこれからどうされるんですか?」

 

「そうだね、この人混みに従って進んでも、たぶん良いポジションを取るのは無理だと思ってたんだよ。どこか隠しスポット的な場所があればいいんだけれども・・・」

 

「それなら、たぶん今から私達が行く場所がいいと思いますよ。確実とは言えないですけれども」

 

確実とは言えない?どういうことだろうか?今から行くところといえば、推測で導き出した友人がいる場所じゃないんだろうか?あ、推測だから確実じゃ無いのか。だけど、それが、花火とどう関係があるのだろうか?

 

「確実とは言えないって、どういうことかしら?」

 

「実は私達のメンバーの一人が、誰も知らない絶好のスポットを知ってるみたいなんです。ですが、その場所を聞く前にはぐれてしまいまして。それで、その子の趣向からそのスポットを推測してみたんです」

 

「それが、蔵みたいな所」

 

「どうしてそれが、蔵に繋がるのかはわからないけれども、理由はわかったよ」

 

趣向から導き出したら、蔵に辿り着いたってどういうことだろう?全くもって謎なんだけど。だけど、これで僕達は、目の前に一つの選択肢を提示されたことになる。これは、またとない好機だ。

 

「そうね、雅どうしようかしら?」

 

「うん、このままだと人波に流されるだけだろうし、いいんじゃないかな。可能性があるならそれに賭けてみようよ」

 

「決まりね。沙綾ちゃん、たえちゃん、私達もご一緒していいかしら?」

 

「えぇ、私はいいですよ。有咲には怒られそうですけど」

 

「どうせなら、皆で怒られよう」

 

「あはは、よくわからないけど、怒られたくは無いな」

 

さて、後は沙綾ちゃんの推測に賭けるだけ。その推理が正しいといいんだけど。

 

「それじゃ、行きましょうか。こっちです」

 

その沙綾ちゃんの声と共に、皆で移動を開始する。さぁ、丁と出るか半と出るか。賽は既に投げられた。後はその答えを待つだけ。僕達は、心を躍らせながら、目的の場所を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

その場所は、寂れた神社だった。昼間でも、誰も近づかないような寂れた神社。趣向から推測したら、こんな場所が導き出されるなんて、一体その友人はどんな趣向をしているんだろう?まぁ、僕はこういう雰囲気嫌いじゃ無いけど。音楽のヒントというのは、こういった場所にこそ眠ってたりするからね。

 

「たぶん、ここで間違いないとは思うんですけれど、有咲-!」

 

「有咲、いないね」

 

「あはは、やっぱりこの推理は無理があったかな?」

 

「ううん、この場所、凄く有咲っぽい。沙綾の推理、間違ってないと思うよ」

 

「でも、その有咲がいないんじゃね」

 

どうやら、件の友人はこの場所にいないらしい。となると、この場所は外れだったのだろうか?僕達は賭けに敗れたのだろうか?そう思っていた時だった。

 

ドーン!

 

「あ、始まっちゃったね」

 

花火大会開始の合図を告げる音が響く。腹の奥底に響くような心地よい音。そして、その見えた光景に一同が愕然とする。

 

「す、凄い・・・」

 

まさに、絶景だった。生まれてこの方、ここまで綺麗に花火を見たことがあっただろうか?圧巻の光景だった。そこで、皆が確信する。あぁ、ここが彼女の言っていた場所なんだと。

 

「あ、沙綾、あれ」

 

「どうしたのおたえ?って、あれは・・・」

 

神社の陰だった。たえちゃんが何かを見つけたのは。そこには、人影があった。周囲が暗くて、シルエットしか拝むことはできない。だが、今は花火大会の真っ最中だ。明かりなんて、待ってればすぐに打ち上がる。そして、その打ち上がった明かりが照らし出したのは、金の髪をツインテールにした少女だった。

 

「有咲!」

 

「良かった、ここで合ってたみたいだね」

 

「おたえ、沙綾、どうしてここが・・・って」

 

どうやら、彼女が件の友人で間違いないようだ。良かった。どうやら再会は叶ったようだ。最初は驚いていた彼女も、なんだか安心したような表情を見せる。だけど、その表情もすぐに疑問の色に変わる。その目はこちらに向けられていた。だけど、それも当然のことだろう。この場には関係の無い人間までいるのだから。

 

「私なりに考えてこの場所を探し出したよ。あ、ごめん、ここに来る途中でお二人に会って、良いスポットを探してたみたいだから連れてきちゃった」

 

「旅は道連れ世は情けだよ、有咲」

 

「それは意味がちげーだろ・・・って、は、初めまして、市ヶ谷有咲です・・・」

 

「あ、どうも初めまして。黒城雅です。気軽に雅って呼んで下さい」

 

「こんばんは、有咲ちゃん」

 

「こ、こんばんは、白鷺先輩」

 

市ヶ谷有咲という名前の少女。僕の抱いた第一印象としては、大和撫子を絵に描いたような少女。だけど、なんだろう?なんだか、それは違うような気がする。なんとなく違和感のようなものを覚える。

 

「あー!りみりん!ここすっごく花火がよく見えるよ!」

 

「ま、待ってよ香澄ちゃーん!」

 

そして、そんなことを考えていると、またもやこのお祭りの参加者がやってきた。猫耳のような髪型をした、見るからに元気そうな少女と、少し気の弱そうな少女だ。

 

「か、香澄、りみ・・・」

 

「あ、有咲!みんなぁ!」

 

「こら、抱きつくな・・・抱きつかないで下さい・・・」

 

「あ、千聖先輩も来てたんですね!こんばんは!それと、あれ?どこかで見たことあるような・・・」

 

「あ、香澄ちゃん、この人、黒城雅さんだよ!」

 

「おー!ホントだ!テレビで見たことある有名人にソックリ!」

 

「ソックリも何も、本人だ・・・」

 

「へー本人なんだ!・・・で、そんな有名人が何でこんな所に?」

 

「元々、私と雅で花火を見に来ていたのだけれども、途中で沙綾ちゃんに会って、いいスポットがあるってこの場所を教えてもらったのよ」

 

なんだか、こんなやり取り前にもあった気がするな。確かはぐみちゃんと初めて会った時だっけ?そういえば、はぐみちゃんとこころちゃんには、僕はまだ会ったことが無いことになってるんだっけ?今度もし会った時、初対面の振りをするように気をつけないと。

 

「あ、自己紹介がまだでしたね!私は戸山香澄です!キラキラドキドキしたくて、このメンバーでバンドをやってます!よろしくお願いしまーす!」

 

「わ、私は牛込りみです。はぁうー、ゆ、有名人さんが目の前にいるなんて、わ、私、

緊張して・・・」

 

「あはは、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。僕だって、皆と同じただの高校生だから」

 

皆と何も変わらない。ただ、音楽ができて少し知名度が高いだけのただの男子高校生。それが僕。だから、そんなに緊張しなくてもいいのに。それにしても、キラキラドキドキか。確かにバンドってキラキラしてて、ドキドキするもんね。わかる気がする。

 

「それより香澄、こんな所で立ち話して、花火見なくていいの?」

 

「は!そうだった!あ!おたえもう特等席に座ってる-!ずるいー!」

 

「早い者勝ちだよ、香澄」

 

「じゃあ私有咲の隣-!」

 

「こら、だからくっつくな・・・くっつかないで下さい」

 

「有咲、今更猫被っても無理があると思うけど?」

 

「・・・うるさい」

 

「ふふっ、ほんとに皆仲がいいわね。それにしても香澄ちゃんとりみちゃん、この場所がよくわかったわね」

 

本当に仲が良さそうだ。今まで出会ってきたバンドの中でも指折りかもしれない。これなら、きっと素晴らしいハーモニーを奏でることができるだろう。そして、千聖の発した疑問も気になる。本当によくこの場所に辿り着けたものだ。普通はこんな場所に全員が集まるなんてあり得ないと思うけど。

 

「私は香澄ちゃんに着いてきただけで、何も・・・」

 

「なんとなく、花火が見えやすそうな場所を目指してたらここに着きました!」

 

「なんとなくって・・・」

 

なんとなくって理由だけでこんな場所に辿り着くだろうか?ほんと、どんな嗅覚をしているんだろう。

 

「あはは、香澄らしいね。でも、ホントにこの場所凄いね。有咲もよくこんな場所見つけたよね」

 

「まぁな。花火が見えやすそうな場所は無いか適当に探してたら、偶々見つけたんだ」

 

「有咲、香澄と同じようなこと言ってる」

 

「・・・うるさいおたえ」

 

「あはは、本当に皆仲が良いんだね。うん、いいバンドみたいだね。音を聞かなくてもわかるよ。君たちの奏でる音色は、きっと希望で溢れてるんだろうってね」

 

「おー!有咲!私達、プロの人に褒められたよ!」

 

「あーもう、だから抱きつくなって!」

 

「あはは、有咲、素に戻ってるよ」

 

「それに、ウサギの目みたいに真っ赤になって照れてる」

 

「はぁ?べ、別に照れてねーし!」

 

「で、でも、私もすごく嬉しいよ。プロの人に褒められるなんて、凄いことだと思うよ」

 

「うぅー、弾きたい弾きたい!今、すっごくギターが弾きたい!」

 

「弾くな。それにギター持ってきてないだろ」

 

「じゃあ歌う!」

 

「歌うな!」

 

「あはは、香澄、私達今日は花火を見に来たはずなんだけど」

 

「はっ!そうだった!」

 

「もうそれ二回目だろうが・・・」

 

そして、漸く全員の意識が明るい夜空に向く。今もなお、その空には断続的に芸術品達が明滅していっている。色も形も様々な、芸術品達が。

 

「すっごい!ねぇねぇ、星型の花火は無いのかな?」

 

「あってもおかしくは無いと思うけどね」

 

「じゃあウサギ型は?」

 

「ふふっ、もしかしたらあるかもしれないわね」

 

「りみりんも、チョココロネ型の花火とか見たいよね?」

 

「チョココロネ型・・・」

 

「なんでりみはうっとりしてるんだ」

 

星型、ウサギ型、チョココロネ型。様々な形を思い描く皆。楽しそうで良いことだ。僕だったらどんな形がいいかな?やっぱりギター型かな?うん、僕らしくていいかもしれない。

 

「あ!香澄ちゃんあれ!」

 

「どしたのりみりん?あ、あれは!」

 

りみちゃんが指差した先。そこには、夜空に浮かび上がった五つの星が存在した。夜空に輝く、五つの星が。

 

「星型!しかも五つ!」

 

「うん、まさに私達って感じだね」

 

「ポピパ花火だね」

 

「凄く、綺麗・・・」

 

「まぁ、こういうのも悪くないよな」

 

「あ、有咲がデレた」

 

「デレてねーっての!」

 

楽しげにはしゃぐ皆。だけど、僕の隣で花火を見ている千聖だけは、どこか浮かない顔をしていた。一体どうしたんだろう?やっぱり、体調が悪いのだろうか?そんな心配をしていたとき、僕の視界に、また五つの煌めきが飛び込んできた。

 

「あ、千聖、あれ」

 

「え?」

 

夜空に浮かびあがる五つのハート。それもご丁寧に、ピンク、水色、緑、紫、黄色の五色。正に奇跡的光景。正にパスパレ的光景だった。

 

「まさに、パスパレ花火だね」

 

「・・・えぇ、そうね」

 

そう呟く、千聖の横顔はとても美しかった。先ほどまで帯びていた憂いも無くなり、ただ純粋に花火に見とれている横顔。僕は、そんな千聖に見とれていた。

 

「綺麗だね」

 

「えぇ、凄く」

 

そう言って、僕の肩に頭を預けてくる千聖。僕はその千聖の頭を、軽く撫でてあげる。綺麗だね。そう呟いた僕。だけど、果たしてそれは、何を対象に呟いた言葉だったのだろうか?正直、自分でもよくわかっていなかった。夜空に輝くあの美しき花々に大してだったのか?それとも・・・

 

「千聖?」

 

そこで、僕は少し違和感を覚えた。隣の千聖が全く身動きをしなくなったのだ。心配になり、隣に顔を向けてみる。するとそこには、静かに寝息を立てて、僕の肩を枕にして眠る千聖がいた。

 

「ありゃ、寝ちゃったか」

 

まぁ、それも仕方ないだろう。千聖は疲れている。今日、倒れそうになっていたほどだ。彼女は頑張りすぎだと思う。僕の世話もしてくれていて、それでいて、パスパレの活動に、舞台活動等々、さすがに頑張りすぎだと思う。今日はこのまま寝させてあげよう。と考えていると、周囲からの視線に僕は気がついた。目を向けてみると、ポピパの皆の視線が僕達に集まっていた。

 

「どうしたの皆?」

 

「いえ、なんと言いますか、その」

 

「出会ってそんなに間は無いですけど、千聖先輩のこんなに安心しきった顔初めて見ました!」

 

香澄ちゃんの言葉に合点がいった。確かに、千聖は普段から気を張り詰めていることが多い。私が皆を支えないと。そう考えている節が強い。

 

「相当、雅先輩に心を許してるんですね」

 

「早く結婚した方がいいのでは?」

 

「いや、おたえそれは気が早すぎるだろ」

 

「でも、なんだか羨ましいな」

 

「わかるよりみりん!なんだか、今の千聖先輩、凄く幸せそう!」

 

幸せそう、か。本当に千聖が今に幸せを感じてくれてるなら、僕は嬉しい。言うまでもなく、僕は幸せだ。だけど、果たして本当に千聖は今に幸せを感じてくれているのか?そう感じてしまうことが時折ある。と、こうしてる場合じゃ無いね。花火大会はまだ終わっていない。だけど、千聖をこのままにしておくわけにはいかない。僕は、千聖を起こさないように、慎重に肩から千聖の頭を降ろし、彼女を背中に負ぶった。

 

「それじゃ、僕達は先に帰るけど、皆は花火大会楽しんでいってね」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「お幸せに」

 

「千聖先輩にもよろしく伝えて下さい」

 

「あ、ありがとうございました」

 

「ありがとうございました。あ、この場所は秘密にしていただけると」

 

「あはは、わかってるよ。今日はありがとうね。それじゃバイバイ」

 

そう言って僕は、千聖と共に、夜道に足を向けた。その間も、夜空には煌めく花がもたらす人工的な明かりと、僕達を見守ってくれているかのような、美しい月からもたらされる、天然的な明かりが道を照らし出してくれている。

 

「うーん、雅・・・」

 

背中から、そう呟く声が聞こえてくる。一体どんな夢を見ているんだろう?少し気になってしまう。その寝顔は、さすがに今の体勢だと見ることが叶わない。

 

「千聖、僕は幸せだよ。凄く」

 

その呟きに帰ってくる言葉は無い。千聖、君は幸せに感じてくれているのだろうか?なんて、ちょっとナイーブになりすぎかもしれない。そんなこと今はどうだっていいじゃないか。もし、今に幸せを感じてくれていないのだとすれば、これから先、忘れられないような幸福を与えてあげればいいだけ。その方法までは流石に思いつかないけど。だけど、今はそれでいいじゃないか。考えることは、いつだってできる。きっと僕らの未来は、この夜空のように明るいはずだ。そう考えて、僕は明るく照らされた夜道を、千聖と一緒に歩んだ。月明かりが祝福する、未来へと繋がる道を。




どうも、ソウリンです。
今回のサブタイトルは、米津玄師さんのMoonlightでした。
というわけで、先に千聖編を投稿したのは、最後のシーンを入れたかったからです。本当はもうちょっと長く書きたかったんですけど、あんまり引っ張りすぎてもグダりそうだったんで、このぐらいで。
さて、ガルパでは今日からアフグロ2章が始まりますね。全力で走りたいがために、ブースト溜めておきましたよ!あ、次回更新遅れたらすいません!イベのせいにならない程度に執筆もがんばりますよ!ただ、次のお話内容的に少し時間かかるかもしれません。ご容赦下さい・・・
さて、短いですが今回はこの辺で。
次回もお話の都合上千聖編から投稿します。季節が変わり、とあるイベントストーリーに入ります。
投稿目標は、ちょっと余裕を持たせて三連休明け、18日の午後12時までとします。いい加減最初の目標に間に合わせたい(白眼
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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