君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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大変長らくお待たせしました
第33話です
千聖編です


第33演目 All You Need Is Love

「千聖、私と共に演じてはくれないだろうか?」

 

そんな話を持ちかけられたのは、季節が秋口に差し掛かったとある放課後のことだった。それは仕事のために、事務所に向かう際の出来事だった。突然の着信。それだけなら何も大した問題では無い。おかしいこともない。

 

ただ私は、その画面に映し出された発信者の名前を見て思わず顔を歪めてしまった。そこには、ハッキリと、一文字とて間違いなく、瀬田薫と表示されていた。正直、あまり話したい相手では無かった。別に彼女のことが嫌いなわけでは無い。むしろ、幼なじみとして好感も持っている。だけど、 唯々、面倒くさい。そんな相手だった。

 

だけど、彼女から着信が来るのは非常に珍しいことだった。もしかしたら、何か大切な緊急の用件かもしれない。そう思うと、出ないわけにはいかない。私は、渋々ながらその着信に応えることにした。

 

「もしもし?」

 

「やぁ、魅惑のお姫様。今日のご機嫌はいかがかな?」

 

「切ってもいいかしら?」

 

思わず、反射的に電話を切りそうになってしまう。そんな私はきっと悪くは無いと思う。

 

「あはは、相変わらず手厳しいお姫様だね。だが、君の時間を少し私に恵んではくれないだろうか?」

 

「はぁ、それで私に何の用かしら?」

 

「率直に言おう。千聖、私と共に演じてはくれないだろうか?」

 

薫はそう言う。つまり、私と共に舞台に立ちたいと言うことだろう。要するに、これは共演のお誘いということ。

 

「えっと、どういうことかしら?」

 

「なぁに、君もわかっているのだろう?言い換えるならば、私と舞台の上で踊って欲しいということさ」

 

「そういうことを聞いている訳ではなくて、どうして私を誘うのかしら?ハッキリ言って、私とあなたでは立つ舞台が違う。決して、同じ壇上に上がることはないのよ」

 

これは、私の正直な気持ちだった。薫と私では、立つ舞台が異なる。薫が演じるのは大衆演劇。私が演じるのはメディア演劇。もちろん、私だって大衆演劇に出演することはある。以前の、宮川先生の舞台が良い例だろう。

 

だけど、私と薫が同じ舞台に立つことはない。そもそも、立っている舞台(ステージ)が違う。薫は、才能と実力は申し分なくても、立つのはあくまで学生レベルの舞台。対する私は、銀幕やドラマにも数多く出演している、ある程度名の売れた女優。そんな私が彼女の出る学生レベルの舞台に上がれば、それこそ大混乱になるに決まっている。

 

「今度私達が学園祭でする演目が、お姫様に似合うと思ってね。是非、君と演じてみたくなったのさ」

 

「はぁ、つまりは只の思いつきということね。話にならないわ。これから仕事なの。切るわよ」

 

「あ、千聖、少し待って」

 

その薫の言葉を最後まで聞かず、私は通話終了の文字に指を当てた。そんな彼女の思いつきに巻き込まれたくはない。私は、その後の仕事もそつなく熟し、雅の家に向かうのだった。その頃には、薫との通話の内容など完全に忘れ去っていたことを追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日のことだった。その日も私は、放課後事務所に向かっていた。最近では、パスパレとしての仕事も増えてきていた。この間の宮川先生の舞台。その大成功がバンド活動にも影響を与えていた。

 

宮川先生の舞台を切欠に、私の知名度は更に上がっていた。あの演技力が評価され、私への出演依頼も増加した。それに引っ張られる形で、パスパレの知名度も上がることとなった。あの白鷺千聖が所属しているバンド。それだけで興味を持った人達が、私達の演奏を聴いて、その本格的な演奏に惹かれた訳だ。

 

そして、今日も私はパスパレとして雑誌の取材を受けるために事務所に向かっていた。そんな私のスマホに、また今日も着信がかかってくる。そして、そのディスプレイに表示されていた名前は、昨日と同じ彼女の名前だった。

 

「はぁ、もしもし」

 

「やぁ、お姫様。昨日ぶりだね。その後、ご機嫌はいかがかな?」

 

「えぇ、とても機嫌良く過ごせていたわ。あなたの声を聞くまではね」

 

「ははっ、これはまた手厳しいね」

 

「それで、何か用かしら?共演のお誘いなら、昨日も断ったはずよ?」

 

「なぁに、私はその程度ではめげないさ。かのシェイクスピアも言っている。成し遂げんとした志をただ一回の敗北によって捨ててはいけない、と。つまり、そういうことさ」

 

「はぁ、まだ諦めていないというわけね。本当に、昔からあなたは一度決めたことに関しては、徹底しているんだから。しつこいにも程があるわ。まぁ、きっとそれが長所でもあるのね。嫌いじゃ無いわ。そういうの」

 

「千聖、それじゃ」

 

「えぇ、謹んでお断りするわ」

 

「え?千聖、お断りって」

 

そして私は、その薫の言葉を最後まで聞かずに通話を終了した。確かに彼女の勧誘はしつこい。だからと言って、ここで折れるわけにはいかない。折れてしまえば、仕事にも支障が出る可能性だってある。それだけはダメ。仕事は大事。決して(ないがし)ろにすることはできない。最も、優先順位は雅の方が高いけれども。

 

だけど、それからも薫の勧誘はしつこく続くことになる。来る日も来る日も、彼女からの勧誘は続いた。まるで、決して諦めないという彼女の意思を体現するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、その日花音とショッピングに訪れていた。今日は仕事も学校も休み。ノンビリとした休日を親友と楽しく過ごしていた。本当は雅も誘っていたのだけれども、彼は生憎と仕事が入っていたためここにはいない。

そして、その時は帰り際に訪れた。

 

「やぁ千聖。こんな所で会うなんてまるで運命だね。あぁ、私達はやはり天命の元に出会う運命だったんだ。なんて儚い・・・」

 

「さぁ、花音行きましょうか」

 

「え?いいの?」

 

まるで待ち伏せしていたかのように薫が突然現れた。いえ、彼女はおそらく本当に待ち伏せていたのでしょう。ということは、私の今日の予定を把握していたということ。おそらく、情報を流した犯人は私の隣にいる彼女でしょう。

 

「花音、あなた薫に今日のこと言ったのね」

 

「あはは、聞かれたからつい。千聖ちゃんごめんね?」

 

「はぁ、まぁいいわ。それで薫、大体わかるけれども、用件は何かしら?」

 

「なぁに、お姫様の察してる通りさ。千聖、私は君と演じたい。私と高みに登ってはくれないだろうか?」

 

「えぇ、いいわよ」

 

「そうか、だが私は決して諦めない。君がいいと言うまで・・・千聖、今なんて?」

 

「あら?聞こえなかったかしら?いいわよ、って言ったのよ」

 

正直、私は薫の本気度を甘く見ていたかもしれない。最初の電話から数週間。その間薫は毎日飽きもせず電話をかけてきた。何度断っても諦めもせず、電話をかけてきた。そして今日、私に直接会いにきた。勧誘するためだけに。

 

そこまでするのであれば、許可することも(やぶさ)かでは無い。電話だけでの勧誘では、私はきっと動かなかった。それが今日、こうして直接勧誘に訪れ誠意を見せてきた。そこまでされては、断り続けるのも申し訳なくなってくる。

 

「千聖、本当かい?」

 

「えぇ、ただし今回だけよ。それに、私も暇では無いの。練習も最低限に留めるわ。それでもいいかしら?」

 

「あぁ、私と千聖なら、短い時間で最高級の完成度に達することができるだろう。問題ないさ」

 

「それともう一つ条件があるわ。今私が計画していることにも協力してもらうわ。花音もね」

 

「ふえぇ?私も?」

 

「もちろんよ。薫に今日のことを教えたのだから、それなりの報いをうけてもらうわよ。安心して。きっとこの計画は楽しくなるし、いい経験になると思うわ」

 

「うぅ、ごめんなさい・・・」

 

「もちろん、私も問題ない。それで、計画というのはなんだい?」

 

「えぇ、実は・・・」

 

その後、私は二人に計画の詳細を語っていく。とはいっても、この計画を実行に移すのはまだ先のこと。今は関係無い。今は、目の前の舞台に集中しよう。文化祭の舞台とはいえ、演劇に妥協はしたくない。限られた時間で最高の舞台に仕上げてみせる。私は、自分の計画を語り終えた後、薫から舞台の詳細を聞いて、役に入りこんでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、演劇部との初顔合わせの日となった。その日、私は学校が終わるなり急ぎ羽女に向かった。本番までに、演劇部の皆と合同練習ができる日は限られている。その数少ないチャンスを無駄にはできない。一分一秒を惜しむかのように、私は足を進めた。

 

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

 

演劇部の扉を開けると、そこには薫と麻弥ちゃん、そして多くの生徒が既に待機していた。おそらく、ここにいる人達が演劇部の全メンバー、つまり私と共に舞台を作っていく人達でしょう。

 

「千聖さん!お待ちしてました!今日からよろしくお願いしますね!」

 

「麻弥ちゃん、こちらこそよろしくね」

 

「千聖、君とこうしてまた同じ舞台に立てるなんて、夢みたいだよ。あぁ、なんて儚い・・・」

 

「私は、できることなら遠慮したかったのだけれどもね」

 

その後も、部の人達と軽く挨拶を行い、さっそく読み合わせを行う。私はこの日のために、ありとあらゆるロミオとジュリエットを読み漁り、ジュリエットとしての私をイメージしてきた。その甲斐あって、初めてのセリフ合わせは及第点には到達できていたと思う。だけど、完成度としてはまだまだ。到底白鷺千聖として人前で披露できるほどの完成度には至っていない。

 

対する薫のロミオは、さすがといった完成度だった。彼女は紛れもなく天才だ。こと演技に関する才能は私よりも上。正直、嫉妬すら覚えてしまう。彼女は天才だ。一度台本に目を通せば、その瞬間に役に入ることができる。私にはそんなことできない。

 

私は、ありとあらゆる情報をかき集め、その登場人物の生い立ちから全てを完璧に把握して、その上でその人物として生きる私をイメージして役に入る。薫と違い、非常に時間と労力がかかる。何度、彼女みたいな才能があれば、と彼女のことを妬んだことだろう。両の指ではきっと足りないでしょう。

 

「そろそろ休憩にしませんか?みなさんも疲れているでしょう」

 

「そうね。私も少し疲れたわ」

 

「では、そうするとしよう。私は、もう少しだけ個人練習をしてくるよ」

 

そう言って、薫は部屋の隅へと向かった。本当に演技熱心。普段の彼女からは想像できないけれども、彼女は演劇に関しては純粋なまでに真面目で努力家だ。普段からは本当に想像もできないけれども。

 

「千聖さんお疲れ様です」

 

「麻弥ちゃんお疲れ様。それと、薫の思いつきに付き合わせてしまってごめんなさい」

 

「思いつき?」

 

「えぇ、私を舞台に出演させるっていう薫の思いつきに」

 

「あぁ、そのことですか。それなら大丈夫ですよ。別に薫さんの思いつきでは無いですから」

 

「あら?違うの?」

 

「はい。実は、今回の公演は演劇部創部十周年の記念公演でして、皆の総意で、客演を誰か招くことが決まっていたんです。それで、実力、話題性にも富み、部内に知り合いもいる千聖さんに白羽の矢が立ったという訳です」

 

なるほど。私はてっきり、今回の件が薫の思いつきだと思っていた。だけど、それはどうやら私の思い込みだったらしい。それなら、もっと早く引き受けていても良かったかもしれない。まぁ、何も説明しなかった薫が悪いけれども。

 

「それと、今回の演目を決めたのは薫さんなんですが、その選考基準が千聖さんに相応しい、似合う役だったんですよ」

 

「私に似合う役?」

 

「はい。部長からの指示で、千聖さんと面識のあるジブンと薫さんが選ぶことになったのですが、実はほとんど薫さん一人で決めちゃったんですよね。ジュリエットの奔放な所が千聖さんに似合うと言って」

 

「私が、奔放?」

 

薫の自己評価だろうか?思わずそう思ってしまった。自分で言うのもおかしいかもしれないけれど、奔放なんて私から最も遠い言葉な気がする。

 

「えぇ、ジブンはそうは思わなかったんですけれども、やっぱり幼なじみにしかわからない一面って言うのがあるんですかね。なんだかそういうの羨ましいですね!」

 

「幼なじみにしかわからない一面・・・」

 

そういえば、昔の私は好奇心旺盛な腕白娘な一面があったかもしれない。よく、薫や雅を連れ回して、迷惑をかけていた気もする。その頃の私を知っていれば、確かに奔放という言葉が出てくるかもしれない。もう、忘れてしまっていたほど昔のことだけれども。

 

そのことを思い出して、ふと私は考える。私は、薫が昔に比べて変わってしまったと感じていた。だけど、変わってしまったのは私も一緒なのではないだろうか?私は、薫が瀬田薫という人物を演じているように感じていた。だけど、その一方で私も白鷺千聖という人物を演じていたのではないだろうか?

 

「さて、そろそろ休憩も終わりにしましょうか」

 

麻弥ちゃんのその声で、不意に現実に引き戻される。我ながら、おかしなことを思考していたと思う。そんなことは結局の所、どうでもいいこと。必要ならば、私はなんだって演じる。例えそれが、白鷺千聖という役だったとしても。それが手段として必要ならば、私は迷わず演じよう。それが、白鷺千聖という女優なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからさらに数日が過ぎた。あれから、私の演技力も洗練されて、段々と納得の出来る完成度に近づいてきている。

 

「ふぅ」

 

「千聖さん、今日もお疲れ様です」

 

「麻弥ちゃん、ありがとう。段々と理想に近づいてきた気がするわ」

 

「やっとですか?今でも十分すぎるほどの完成度に見えるのですが、さすが千聖さんですね」

 

「えぇ、この程度の演技で妥協していられないもの。まだまだ上を目指すわ」

 

「さすがだね千聖。私も負けていられないな。どうだい?今日は久々に共に帰らないかい?」

 

「薫と?」

 

それは突然の誘いだった。薫からの誘い。普段の私ならば、間違いなく断っていただろう。だけど、今の私は違った。

 

「そうね。たまにはいいかもしれないわね」

 

私はその誘いに乗ってみることにした。何か、楽しくなりそうな予感がする。その予感に従い、薫の横に並び歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、以外だね。千聖が私の誘いに乗ってくれるなんて」

 

「えぇ、私もそう思うわ」

 

「ふっ、これは丁重にエスコートしないといけないな」

 

薫との帰路は、至って普通のものだった。ただ、薫の話に適当に相槌を打つだけの帰路。これが普通と言えるのかわからないけれども、思っていたよりも普通の帰路だった。

 

「それで、急に私を誘ったりして何を考えているの?」

 

「なぁに、たまには大切な幼なじみとの親睦を深めようとしたまでさ」

 

「そう。説明する気は無いのね」

 

「ふっ、私の考えはどうやらお姫様には筒抜けみたいだね。あぁ、私の想いも見透かされているわけだ。なんて儚い・・・」

 

「とぼけないで。それで、目的は何?」

 

何か目的があって私に声をかけてきていたのは最初からわかっていた。そうでも無い限り、薫が態々私を帰りに誘うことは無いでしょう。いつも練習時間が過ぎても自主練をするために残っている薫が、態々私と帰る為だけに定刻で練習を切り上げるとは思えない。

 

「そうだな。では、言わせて頂こう。千聖、少し思い詰めすぎてはいないかい?」

 

「思い詰めすぎ?」

 

「あぁ、そうさ。今日の君の演技は、何やら思い詰めているように感じてね。何かに囚われたかのように、鬼気迫る演技だった。何が千聖、君をそこまでさせる?」

 

「そんなことね。それは、私が白鷺千聖だからよ。白鷺千聖に妥協は許されない。私は、演技で妥協するわけにはいかないのよ。彼に相応しい女でいるために」

 

そう、私に妥協は許されない。私は雅に相応しい女でいないといけない。雅は、将来世界一の音楽家になる。だったら、私はせめて日本一の女優にでもならないと釣り合いが取れない。そのためにも、たかが文化祭の劇でも妥協は許されない。舞台の上では、常に全力の白鷺千聖で取り組んでみせる。

 

「なるほど、君の言い分はよくわかったよ。だけど、さすがに力が入りすぎだ。そんな演技だと、君の目指す高みには行けない。今の君は、ジュリエットを演じているようには見えない。力みすぎて、まるでジュリエットを演じる白鷺千聖を演じているかのようだ。それじゃ、君の目指す高みには辿り着けない」

 

「私が、ジュリエットを演じていない?」

 

そう考えたことは無かった。確かに、言われてみればそうだったかもしれない。私はジュリエットのことなんてすっかり忘れていたかもしれない。私は、ジュリエットを無視して、いかに上手く演じることができるかばかり考えていたかもしれない。ジュリエットを無視した先に、そんなもの有るわけ無いのに。

 

最初は確かにジュリエットを意識していた。そのために、ありとあらゆるロミオとジュリエットを読み漁ってきたのだから間違いない。いつからだろう。そのことを忘れて、口先だけで上手く演じようとしていたのは。そんなことしても、上手くなるわけ無いと言うのに。

 

「確かに、そうかもしれないわね」

 

「わかってくれたかい?」

 

「えぇ。あなたに言われるのは悔しいけれども、何も間違ったことを言ってないのだから仕方ないわね」

 

「ふっ、これで漸くジュリエットを演じてくれそうかな?」

 

「えぇ、そうね。認めるわ。私は今まであなたの言う通り、ジュリエットを演じる白鷺千聖を演じていた。白鷺千聖としての重圧が私にそんなバカな演技をさせていたのね」

 

「だが、普通は見抜けないほどに君の演技は完璧だったよ。現に、麻弥は君の演技を褒めていただろう」

 

「えぇ、そうね。それだけが救いだわ。こんなことを皆に知られたら恥ずかしすぎるもの。だけど、一つだけ言わせてくれるかしら?」

 

「なんだい?」

 

「あなたも、瀬田薫を演じるのをやめたら?」

 

「・・・え?」

 

薫は瀬田薫という人物を演じている。昔の薫を知る私だからこそわかる。今の薫は、作られた人物。架空の存在。本当の薫は、こんな人物では無い。

 

「私の知る瀬田薫は、あなたのような人では無い」

 

「な、何を言ってるんだい?千聖。私は私だよ」

 

「えぇ、そうね。あなたも瀬田薫かもしれないわね。だけど、少なくとも私の知る瀬田薫では無い。私の知る瀬田薫は、お化けと高いところが苦手で、少し物音がするだけで私や雅の後ろに隠れていた臆病な子だった。そんな瀬田薫はどこにいったのかしら。ねぇ?かおちゃん?」

 

「っ!」

 

かおちゃん。それは瀬田薫に対する昔の呼び方。今ではもう呼ばなくなった呼び方。私達、幼なじみだけが共有している懐かしい呼び方。果たして、最後にこの名を呼んだのはいつだっただろうか?全く思い出せない。

 

「・・・てよ」

 

「え?」

 

薫が何かを呟く。だけど、その呟きは恐ろしく小さくて、私の耳には届かない。そして、再度薫の声が聞こえ、その内容を理解する。

 

「その呼び方は、恥ずかしいからやめてよ。ちーちゃん・・・」

 

「ぷっ。ふ、ふふ、ふふふふ」

 

「もう、笑わないでよ・・・」

 

「だって、ふふっ、だって・・・」

 

「もう。さすがに怒るよ」

 

「ご、ごめんなさい。だけど、そっちの方があなたらしいわよ。かおちゃん」

 

「だからその呼び方はやめてよ・・・」

 

なんだか、懐かしい気分だった。まるで、三人仲良く遊んでいたあの頃に戻ったかのような、懐かしい気分だった。本当に、懐かしい。そして、その後も私達は仲良く二人で帰路を歩いた。本番はもう近い。だけど、きっと私達なら大丈夫でしょう。私にはすでに大成功するという確信があった。根拠の無い確信が。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ついにその時はやってきた。文化祭本番。私達の舞台の時間が。

 

「いよいよ本番ですね!ジブンは裏方からお二人を支えますから、頑張ってきて下さいね!では、ジブンはこれから大事な仕事がありますので!」

 

そう言って早足で駆けていく麻弥ちゃん。大事な仕事。おそらく機材などの最終チェックでしょう。麻弥ちゃんは、照明などの裏方仕事を引き受けてくれている。その仕事の徹底っぷりは凄い。照射角どころか、タイミングを秒単位、役者の歩数単位で調整しているほど。その仕事っぷりには本当に驚かされる。

 

「さて、では私達も最終チェックといこうか。千聖、コンディションはどうだい?」

 

「えぇ、お陰様で万全よ」

 

「そうか、それは良かった」

 

「ただいまより、演劇部による特別講演、ロミオとジュリエットを開演いたします」

 

進行役の子の声が聞こえる。いよいよ始まる。何度経験しても、この開演前の緊張感は無くなることが無い。だけど、嫌いでは無い。心地よい緊張感が私を包む。

 

「そうだ千聖。実は、今回の公演にはサブテーマを設けているんだ」

 

「サブテーマ?」

 

「あぁ。それは、愛こそ全て、さ」

 

愛こそ全て?確かにロミオとジュリエットには似合いそうなサブテーマかもしれない。だけど、態々サブテーマにまでして強調する意味はあるのだろうか?正直わからない。

 

「さて、では行くとしよう。エスコートするよ。お姫様」

 

「えぇ、よろしくお願いするわね。王子様」

 

そして、公演は幕を開けた。予想していたことだけれど、公演は順調に進んでいった。順調すぎるぐらいに。序盤、中盤、何一つミスも無く、終盤まで物語は進んでいく。そして、物語は終盤も終盤。ロミオの最後のシーンに入っていた。

 

祭壇の上で横になる私と、それを見つめるロミオ。私は現在仮死状態に陥っている。ここのシナリオは、この劇でのオリジナル要素になっていた。本来ならば、ジュリエットの墓の前でロミオが自殺をするシーン。

 

だけど、私は今祭壇の上で寝ていた。これは、薫の発案。墓の前でロミオ一人が自殺するよりも、ジュリエットが見える位置にいる状態の方がお客さんにもより一層悲劇のイメージを持ってもらえるはずという発案。なるほど、確かに一理ある。

 

そして、ロミオが小瓶を取り出す。あの中身は毒薬。あれを飲んでロミオは自殺する。だけど、ジュリエットはまだ死んでいない。今はまだ仮死状態になっているだけ。蘇ったジュリエットは、ロミオの死を知り、悲しみに暮れてロミオの短剣を使い後追い自殺をする。これがこの先の物語。そして、今ロミオが毒薬を飲む。

 

「ま、待て!」

 

はずだった。その行為は乱入者による声で邪魔されてしまった。こんなシナリオ、私はしらない。予期せぬ事態?だけどなんでだろう。凄く聞いたことある声だった気がする。私は、薄らと目を開けて、声が聞こえた方向を確認してみた。

 

「誰だ!」

 

「ぼ、僕は怪盗ハロハッピー!そ、その娘は頂く!」

 

そこにいたのは、謎の仮面を被った人物だった。聞き間違いでも見間違いでも無ければ、間違いなくあれは彼。一体何をしてるのよ。物語は最終局面へと突入していく。




どうも、ソウリンです。
アフグロ2章、ちさかのイベ、パスパレイベ、駆け抜けてたら執筆サボり気味になってました(白眼
で、次がハロハピ2章。これはやばいですね。あ、因みに雅編は0時間に合わないです(白眼
ま、まぁ当作品で初めて・・・では無いな9話以来のぶつ切りエンドになったから、後編少し遅れても許してね。
そして、今回のサブタイトルは魔法騎士レイアースOVAより、田村直美さんのAll You Need Is Loveです(マイナー?
是非良い曲なので聞いてみてください。日本語訳は愛こそ全てです。
次話サブタイトルも、レイアースから、むしろ田村直美さんの曲からつけます。(これは簡単
まぁ、若い人にはわからないかもしれない(白眼
では、今回はこの辺で。
次話は雅編です。すみませんがほんの少しだけ開きます。11日、もしくは12日の午前0時とします。11日に投稿が無ければ12日と思って下さい。
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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