君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第34話です
雅編です


第34演目 ゆずれない願い

新学期が始まり、数週間が経過した。

暦の上では既に秋。だが、気が滅入るような暑さはまだ終わりそうに無かった。吹き出した汗を拭いつつ、玄関の戸を開ける。

 

わかっていたことだが、その鍵は開いた状態になっていた。別に僕が家を出るときに閉め忘れたわけではない。

そもそも、僕が仕事に行く時間は、まだ家に残っていた人物がいた。僕より後に家を出た人物が。そして、今鍵が開けた状態になっている原因もその人物。

といっても、別に問題があるわけではない。もちろん、家に誰もいないのであれば、大問題だろう。不用心にも程がある。誰も居ないのであれば。

 

その人物は、中にいる。僕より先に帰宅している。それ以外に、鍵が開いている道理が存在しないのだから。

そして、予想通りその人物、千聖はリビングにいた。いつもならば、僕が帰ったことを察すると、玄関まで出迎えに来てくれる彼女。だが今日は、僕がリビングに入っても気づく気配が無かった。夢中になって何かを読んでいる。相当集中しているようだ。すぐ傍に近寄っても全く気づく気配が無い。

 

「千聖?」

 

「あら、雅帰っていたのね。ごめんなさい。気づかなかったわ」

 

声をかけると、ようやく千聖は僕の存在に気がついたらしい。そして、彼女が読んでいた本を閉じる。そうして表紙が露わになったことで、そのタイトルを見ることが出来た。

 

「ロミオとジュリエット?」

 

「えぇ。今度舞台でジュリエット役を演じることになったのよ」

 

ロミオとジュリエット。それはかのシェイクスピアが手がけた戯曲だ。古今東西様々なアレンジを加えられるほどに、幅広く世界中に浸透している。そして千聖が演じるジュリエット。それはタイトルに出てくるほどに重要な人物。物語のヒロインだ。要するに、主演女優というわけだ。

 

「へージュリエット役を!すごいじゃないか!また高名な先生の舞台?」

 

「違うわよ。羽女の文化祭で演じるのよ」

 

「羽女の文化祭?」

 

かなり意外な舞台だった。羽女の文化祭。千聖が通っているのは花女だ。どうして、その千聖が羽女という、他校の文化祭で舞台に上がるのだろうか?全くの謎だ。

 

「薫に依頼されたのよ。私と共に演じて欲しい、ですって」

 

「薫に?」

 

薫は現在羽女に通っている。僕の記憶が正しければ、演劇部に属していたはずだ。まぁ、あの薫の事だから間違いないだろうけど。そんな薫に誘われたのだとしたら、納得ができる。だけど、それでも理解できないことはある。

 

「依頼されて許可したんだね。いつもなら直ぐに断りそうなのに」

 

そう、千聖が引き受けたことが理解できない。別に、許可したことを悪いと言っているわけではない。ただ、いつもの千聖なら断りそうなものなのにと思っただけだ。

 

「しつこく誘われたのよ。ここ数週間毎日ね。いつもは電話だったのだけれども、今日出先にまで直接勧誘に来たものだから、その誠意に免じて引き受けてあげたわ」

 

なるほど。それならば納得もいく。千聖は、基本自分に利が無いことには無関心だ。冷たいと思う人もいるかもしれないが、僕は現実主義な彼女らしくていいと思う。そんな彼女だけれども、筋を通す相手に対しては自分に利が無くても、それなりの見返りを返すこともしばしばある。

 

今回が良い例だろう。正直、文化祭レベルの舞台に上がるのは彼女にとって時間の無駄でしかないと言えるだろう。冷たい言い方になってしまうが、これが事実なのだ。女優白鷺千聖は、今花開いた。正直、早くもっと次元の高い舞台に上がってみたいと千聖自身思っていることだろう。

 

今の彼女なら、それが現実的な選択だ。だが、彼女は文化祭という小さな舞台を選んだ。何故か?それは、薫が筋を通し、誠意を見せたからだ。薫は、基本電話で勧誘してきた。毎日しつこく勧誘していたとはいえ、それだけで千聖の心が動くことは決して無かっただろう。

 

だが、薫はそれだけで無く、千聖の前に直接姿を見せた。その行動が、千聖の心を動かした。ある意味では、薫の粘り勝ちとも言えるだろう。タイミングが良かったとも言える。おそらく、最初の勧誘から姿を見せていたとしても、千聖は動かなかっただろうから。

 

「なるほど。それでロミオとジュリエットを読んでたわけだ」

 

「えぇ。時間が無いから、少しでも多く知識を頭に詰め込めるようにね」

 

彼女は役を演じる際、いつも知識を蓄える所から始める。少しでも多くの役、物語に対する知識を得て、それを演技に応用していくのだ。だからこそ、彼女はその日から本番の日まで、毎日飽きもせずロミオとジュリエットを読み漁っていた。少しでもジュリエットに近づけるために。毎日。毎日。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、文化祭当日を迎えた。

僕はこの日、一般客として文化祭見物に来ていた。有り難いことに、今日は一日オフ。仕事のことを気にせずのんびり過ごすことができる。そんな僕は今日、珍しく伊達メガネをかけていた。もちろん、変装のためだ。

 

といっても、実は僕は街中で黒城雅だと気づかれることは少ない。顔つきに特徴が無いうえに、千聖が言うには、ステージに立っている僕と普段の僕とでは、放っているオーラが全く違うため、気づくのが難しいらしい。気づかれる場合も、大抵この低い身長が原因になっている。泣きたい。

 

といっても、もちろん例外はある。実際に会話する場合だ。以前の海の家でも、僕からお客さんに話しかけたために、黒城雅だと気づかれてしまった。さすがに、真正面から顔を合わせて話すと、わかるらしい。

 

そして今日僕が訪れているのは文化祭。お祭りだ。もちろん、いろんなお店に寄るつもりだ。それだと、さすがに僕のことがバレてしまうかもしれない。そうならないための変装だ。因みに、今日は僕一人できている。千聖は、舞台の打ち合わせ等で公演が終わるまで自由にできないらしい。

 

「占いの館やってます。よろしくお願いします」

 

そして、まずどこから行こうかと辺りを探索していると、いきなり知り合いを発見した。どうやら彼女は、自クラスのチラシ配りをしているらしい。

 

「お疲れ様友希那」

 

「・・・雅じゃない。一瞬誰だかわからなかったわ」

 

彼女、湊友希那のクラスはどうやら占いをしているらしい。占いか。千聖はあまりそういった類いのことが好きでは無いが、僕は割とこういった類いのものが好きだったりする。とはいっても、別に言われる結果を信じるつもりは毛頭無い。何を言われるかわからない、その言われるまでの課程のドキドキ感が好きなだけだ。そういう意味では千聖とあまり大差が無いかもしれない。

 

「ちょうどいいわ。雅、あなた占っていかないかしら?今なら待ち時間無しで占えるわよ?」

 

「ほんと?それは嬉しいな。じゃあ折角だから占ってもらおうかな」

 

「わかったわ。着いてきなさい」

 

そして、僕は友希那の案内に従い、館内に足を踏み入れる。そこは薄暗い部屋だった。その中央に、台に置かれた水晶玉と、ローブを顔が隠れるように着飾った魔女スタイルの女生徒がいた。思っていたよりも本格的な作りのようだ。

 

「いらっしゃいませ。当館では、3つの占いから1つを選択していただきます」

 

そう言って、その女生徒は何やら紙を取り出した。そこには、占いの種別と料金が書かれていた。

一つ目が、今日の運勢三百円。まぁ、オーソドックスな占いだろう。無難とも言える。

二つ目が、恋愛占い三百円。これまたオーソドックスな占いだ。女子高生なら皆食いつきそうな占いだろう。

三つ目が、スペシャルシークレット占い一万円。なんだこれは?一つだけ値段がおかしい。文化祭で請求されるような金額では明らかにない。

 

「えっと、このスペシャルシークレット占いというのは?」

 

「その名の通り、特別な占いです。残念ながら、内容はシークレットです。当クラスのとある生徒の発案で決まった占いです。キャッチフレーズはこの占いに、全てを賭ける覚悟はある?です」

 

なんでだろう。なんとなく誰の発案かわかった気がする。だけど、絶対値段設定はもっと下げた方がいいと思うんだけど。少なくとも、0を一つ無くそう。

 

「あぁ、じゃあ今日の運勢で」

 

「はい畏まりました。前払いで三百円お願いします」

 

言われた通りに彼女に三百円を渡す。すると彼女は、水晶玉に向かって手を翳し、何やら呪文を唱え始めた。

 

「はぁー、キラキラドキドキルンッテキテハカナクブシドーフヘヘフェェツグッテソイヤ」

 

何やら不思議な呪文を女生徒が唱えると、水晶玉が急に光り出す。その光は段々と強くなり、終いには目を開けているのも辛いほどの、強烈な物になる。僕は思わず目を閉じてしまった。

 

「見えました」

 

そして、女生徒がそう言うと、光は段々と収縮を見せる。一体、どうやったら水晶玉をこんなに光らせる事ができるんだろう。謎の技術だ。

 

「今日のあなたは、良い友人を持てたと実感する日になりますね。特に、恋愛面が強く浮き出ています。そちらの方面で、ご友人と何か良い出来事があると水晶玉に出ています。ラッキーアイテムとして、仮面と出ていますね」

 

仮面って何?そんなもの普通は持っていないと思うけど。でも、なんだか本格的な占いだ。思っていたよりも楽しめた。僕はそのまま、意気揚々と館を後にした。でも、本当にスペシャルシークレット占いってなんだったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

館を後にした僕は、今度は喫茶店に来ていた。ここは先ほどの館と同じくどうやら二年生が出店しているらしい。2-A。確か日菜ちゃんがここに所属していたと記憶している。

 

「いらっしゃいー!・・・ってあれ?」

 

と、噂をしていると、いきなり出迎えてくれたのは日菜ちゃんだった。見慣れない白いエプロン姿が、どこか新鮮味を覚えさせる。

 

「あー!みや」

 

「シー!一応お忍びで来てるから、あまり目立ちたくないんだ」

 

「そうなの?芸能人って大変だね-」

 

「日菜ちゃんも芸能人なはずなんだけど・・・」

 

日菜ちゃんは相変わらずなようだ。独特な雰囲気を持つ彼女。その雰囲気が実に日菜ちゃんらしいとも言える。

 

「じゃあ、ここの席に座って!注文は何にする-?」

 

「そうだね。じゃあ折角だから日菜ちゃんのオススメにしようかな」

 

「おっけー!まかせといてー!」

 

そう言って、厨房と思われる場所に駆けていく日菜ちゃん。なんでだろう?何故か少し心配になってきた。それから数分が経つ。すると、日菜ちゃんが漸く顔を出す。

 

「おまたせー!日菜ちゃん特製サイエンスパープルだよ!」

 

「サイエンス、パープル?」

 

そう言う日菜ちゃんの手に握られていたのはフラスコだった。中には何かが入っている。極めて黒に近い紫色。そんな色をした液体が、フラスコの中で泡立っていた。さらには、フラスコからは夥しい湯気が出ている始末。一体これはなんなのか?

 

「えっと、日菜ちゃんこれは?」

 

「ここの喫茶店、色んなオリジナルドリンクを提供してるんだよねー。それでこれは、あたしが考えたドリンク!名付けてサイエンスパープル!」

 

「えっと、因みに何を入れたか聞いても?」

 

「それは企業機密だよー」

 

「いつからこの店は企業になったの」

 

だけど、果たしてこれは飲めるのだろうか?明らかに、胃に入れてはいけないような様相を保っている。

 

「さぁさぁ!雅君、騙されたと思ってグイッと一気にいっちゃって!さぁさぁ!」

 

そう言って、眩しいほどにキラキラした目でこちらを見つめてくる日菜ちゃん。正直、目を合わせられない。その純粋な目が、今は怖かった。

 

「さぁさぁ!」

 

「うぅっ、ええい!もうどうとでもなっちゃえ!」

 

僕は、その純粋な目に負けた。負けて、フラスコの中身を一口、口の中に流し込む。

 

「・・・あれ?」

 

騙されたと思って更にもう一口。口の中に広がる味は、とても形容できる物では無かった。苦いような、甘いような、辛いような、酸っぱいような、とても言い表せないような味。もしかしたら、その全ての要素が混ざり合っていたのかもしれない。だけど、一つだけ確かなことがあった。

 

「・・・美味しい?」

 

そう、何故かそれはとても美味に感じた。感想なんてとてもじゃないが言葉に出来ない。だけど、何故か一言、それだけは確実に言えた。何故か美味しいと。

 

「でしょー!本当に美味しいんだよ!あたしがるんってきたから作ったのに、誰もわかってくれないんだよー!誰も飲んでくれないし、メニューにも入れてくれないし!」

 

「いや、ヒナ。さすがにその見た目は誰も飲まないって。厨房で作り出した時から、雅が倒れないか心配だったよー」

 

そう言って、登場したのはリサちゃんだった。どうやら彼女もこのクラスだったらしい。その手には、何やら皿が持たれている。

 

「やっほー雅、元気してた?これ、ヒナの面倒を見てくれたお礼だよ-」

 

リサちゃんが手に持っていたのは、パンケーキだった。キツネ色の表面がとても輝いて見える。見ただけで思わず美味しいと言ってしまいそうになるほどの綺麗なパンケーキだった。

 

「むぅー、リサちー、あたしは子供じゃないんだけど」

 

「いやいや、今の日菜見てたら子供っぽいって思っちゃうって。雅ならきっと飲んでくれるって嬉しそうにはしゃいじゃって、アタシ達は気が気じゃ無かったんだぞー」

 

「だって、本当にそう思ったんだもーん。雅君見た瞬間すっごくるんってきたんだから」

 

「あはは、リサちゃんありがとう。お礼は有り難く頂くよ」

 

「うんうん、遠慮せずに食べちゃって。アタシの自信作だよ。でも、本当にあれを飲んじゃうとは思わなかったよ。ほんと、お人好しなのはいいけど、そんなんだといつか痛い目にあうよ-?」

 

「それをリサちーが言う?」

 

「何ヒナ?なんか言ったのはこの口かなー?」

 

「んにゃー!いひゃいいひゃい!ヒシャちーいひゃいって!」

 

日菜ちゃんのほっぺを縦横無尽に引っ張るリサちゃん。日菜ちゃんの顔を見る限り、本当に痛そうだ。

 

「あの・・・」

 

そんな二人の様子を見てると、後ろから声をかけられる。そこには、見慣れない女生徒が立っていた。それも、一人だけじゃ無い。数人の女生徒がそこに立っていた。

 

「あの、厨房で氷川さんが雅君雅君ってずっと言ってたから気になっちゃって、雅様ですよね?あ、あの私大ファンなんです!サイン下さい!」

 

なるほど。彼女は僕のファンらしい。そして、他の女生徒も似たようなことを僕に言ってくる。なるほどなるほど。僕の存在がバレちゃったか。そして、そのバレた原因は、全員共通で一人の女の子らしい。

 

「・・・日菜ちゃん?」

 

「あはは、ごめんなさい」

 

結局、僕はその後女生徒達と、数人のお客さんにサインをせがまれるハメになってしまった。ついでに言っておくと、リサちゃんのパンケーキは、日菜ちゃんのドリンクとは別の意味で言葉に出来ないほど美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶店を後にした僕は、その後校内を彷徨いていた。劇の開演まではもう少しだけ時間がある。その残りの時間を校内散策に当てていた。他校というのは、なんだか探索してみたくなる。自分の学校との違いを探すだけで、なんだか楽しかった。そして、しばらく歩き回っていると、また知り合いに出くわした。

 

「つぐみちゃん、お疲れ様」

 

「あ、雅さんいらっしゃいませ!」

 

つぐみちゃんだ。その腕には、生徒会と書かれた腕章が付けられている。生徒会だけに、文化祭の実行委員も務めているらしい。

 

「お仕事中だった?」

 

「いいえ、今ちょうど休憩に入った所です!」

 

そう言うつぐみちゃん。すると、不意に誰かのお腹の鳴く音が聞こえてくる。出所は、誰だかわかっている。目の前で、真っ赤になってお腹を押さえている彼女だ。

 

「す、すみません。朝から何も食べずに働いてたから・・・」

 

「ありゃりゃ。それは本当に大変だね。そうだ、さっきリサちゃんにお土産でもらったんだ。はい、パンケーキ。よかったら食べて」

 

「わぁー!リサ先輩のパンケーキですか?このパンケーキ文化祭が始まる前から校内で評判だったんですよ!いいんですか?ありがとうございます!」

 

そう言って、パンケーキを一口頬張るつぐみちゃん。その顔が一瞬で幸せに包まれたような表情に変わる。

 

「お、美味しい・・・!これは、もしかしたらうちで出してるのよりも美味しいかも。どうやって作ってるんだろう?今度リサ先輩に教えてもらおうかな」

 

どうやら、食べながらお菓子の研究も怠っていないらしい。今日もつぐみちゃんは、元気につぐってるようだ。

 

「おっす、つぐ!差し入れ持ってきたぞ!ってあれ?」

 

「おー、どうもでーす」

 

「・・・お久しぶりです」

 

「み、み、み、みや」

 

「シー。一応お忍びで来てるから、目立ちたくないんだ」

 

やってきたのは、巴ちゃん、モカちゃん、蘭ちゃん、ひまりちゃんの残りのAfterglowのメンバーだった。巴ちゃんの手には、どうやらお好み焼きだろう。美味しそうに湯気を立てた紙皿が持たれていた。

 

「わぁー、みんなありがとう!」

 

「どうせつぐみの事だから、朝から何も食べずに働いてたんでしょ?そう思って皆で買ってきた」

 

「うん、さっき雅さんに差し入れを頂くまでペコペコで」

 

「おー、今日もつぐってるねー」

 

「つぐるのもいいけど、倒れるのだけはやめてくれよ?」

 

「それで、それで、雅様はどうしてここに?」

 

「うん、元々千聖の劇を見に来たんだけど、その前に色々とお店を回ってたんだよね。その途中でつぐみちゃんに会ったんだ」

 

「はむ、雅さん、リサ先輩のパンケーキを持ってきてくれたんだよ?」

 

「えー!あの噂のパンケーキを!」

 

「リサさんのパンケーキ、すっごく美味しかったなー」

 

「なんだ、モカももう食べたのかよ。アタシはまだ行けてないんだよなー」

 

「なんならまた行きますか-。あたしももう一回食べたいなー」

 

「じゃあ、そうしようか。次、そこに行こう」

 

そんな会話を繰り広げながらも、美味しそうにお好み焼きまで平らげていくつぐみちゃん。よっぽどお腹が空いていたのだろう。パンケーキを食べた後だというのに、その食事ペースは衰えを全く見せない。

 

「羽沢さん、休んでるところごめん。演劇部のお客さんの整理が追いついてないの。ごめんだけどヘルプに回ってくれる?」

 

「わかった!」

 

つぐみちゃんがお好み焼きを食べていると、そんな声がかけられる。どうやら、彼女の休憩はもう終わりらしい。

 

「まだ休憩中だって言うのに大変だな」

 

「ほんと、倒れないでよ」

 

「それじゃー、あたし達はお邪魔にならないようにー、パンケーキを食べに行きますか-」

 

「リサ先輩のパンケーキ、うぅ早く食べたい!」

 

「じゃあ僕は、劇に行こうかな。まだ少し早いけど、今の話を聞く限りもうお客さんが詰めかけてそうだしね」

 

「じゃあ雅さん一緒に行きましょうか。みんな、ごちそうさま!」

 

「うん、そうだね。それじゃみんなまたね」

 

そう言って、僕とつぐみちゃんはその場を後にした。千聖の舞台、席に着けるといいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、予想を遙かに上回るお客さんが詰めかけていた。これは計算外だった。まさか、この時点でこんなにもお客さんが詰めかけるとは思ってもみなかった。もう少し早く来てればよかった。

 

「それじゃあ、私は行ってきますね」

 

そう言って人混みの中に消えていくつぐみちゃん。あ、今人波に流されたのが見えた。大丈夫かな?でも本当にどうしよう。このままじゃ、千聖の舞台を見ることができない。

 

「あ、雅さん!お待ちしてましたよ」

 

そう途方に暮れている僕に声がかけられた。麻弥ちゃんだ。確か、彼女は演劇部の部員だったはず。どうしてここにいるんだろう?

 

「麻弥ちゃん、演劇部の仕事は大丈夫なの?どうしてここに?」

 

「大事な仕事として、雅さんを特等席に案内するように頼まれまして。ジブンに着いてきて下さい!」

 

そう言って僕を先導して歩いて行く麻弥ちゃん。頼まれた?千聖にかな?よくわからないけど、どうやら舞台を拝むことができるらしい。だったら案内に従おう。僕はそのまま、麻弥ちゃんの案内に着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、ここ舞台裏じゃん」

 

麻弥ちゃんの先導に従い、着いていくと、通されたのはなんと舞台裏だった。しかも、照明装置が置かれている舞台上部だ。確かに特等席は特等席だ。劇もよく見える。だけど、なんでこんなところに?

 

「ジブンは照明係ですからね。ここに案内しました。それに、下にいると気づかれてしまいますからね。ここから大人しく見ていて下さい」

 

「気づかれる?」

 

一体誰にだろう?麻弥ちゃんが何を言いたいのかよくわからない。と、そんなことを言っている間に劇が始まった。薫と千聖、ロミオとジュリエットが舞台に姿を現す。二人とも、流石と言うべきか、圧巻の演技力だった。見ていて引き込まれる。気づけば僕は、夢中になって舞台を見ていた。

 

そして、早くも舞台は終盤を迎える。どうやら、ここにはアレンジが加えられているらしい。本来ならば、墓場の前でロミオが自殺をするシーン。だけど、そこは墓場では無かった。どこかの室内で、祭壇の上に千聖が寝ている。なるほど。この場面でジュリエットを登場させることによって、より一層悲劇的に感じる。素晴らしいアレンジだ。

 

「さぁ雅さん出番ですよ」

 

「出番?」

 

一体なんのことだろうか?わからない。麻弥ちゃんは一体僕に何を求めているのだろうか?

 

「そこに置いてある衣装に着替えて舞台に上がって下さい」

 

「え?」

 

ちょっと彼女が何を言っているのか理解できない。いや、本当に何を言っているんだろう?舞台に上がる?誰が?僕が?いや、なんで?

 

「麻弥ちゃん?一体どういう」

 

「ほら、時間がありませんよ?早くしちゃってください」

 

「いや、だから説明を」

 

「雅さん、あなたの登場はこの舞台の台本に書いてあるんです。要するに劇の一環なんです。そんな大事な場面にあなたが登場しなければ、舞台は台無しになってしまいます。そうなると千聖さんが恥をかいてしまいますよ?それでもいいんですか?」

 

「うっ、ずるい・・・」

 

それだけは避けないといけない。千聖に恥をかかせるくらいなら、僕が恥をかく。

 

「で、でもセリフがわからないんだけど・・・」

 

「大丈夫ですよ。簡単ですから。待て!僕は怪盗ハロハッピー!その娘は頂いていく!そう言って千聖さんをお姫様だっこで担いで笑いながら舞台袖に消えていくだけです」

 

「お、お姫様だっこ・・・」

 

なんて無茶ぶりだろうか。急にそんなことを言われても、心の準備ができていない。だけど、どうやらやるしか無いらしい。僕は渋々衣装を着ていく。衣装と言っても、どうやら仮面とマントだけのようだ。それを身に纏っていく。

 

「準備は出来ましたか?さぁ、ちょうど出番ですよ。薫さんがビンを取り出したら、さっきのセリフで入っていってください」

 

麻弥ちゃんにそう指示を受け、僕は舞台袖に場所を移す。どうしよう。凄く緊張してきた。そして、その時はやってくる。薫が、懐からビンを取り出した。そして、僕は意を決して舞台に上がった。

 

「ま、待て!」

 

緊張で声が裏返りそうになる。それをなんとか堪えて声を出す。

 

「誰だ!」

 

「ぼ、僕は怪盗ハロハッピー!そ、その娘は頂く!」

 

なんとかセリフを口に出来た。そして、僕は一目散に千聖に近づき、彼女をお姫様だっこする。そして、脇目も振らず、その場を後にした。

 

「ア、アハハハハハハハ」

 

麻弥ちゃんに注文された通り、笑い声も忘れない。なお、僕に演技力を期待してはいけない。不気味な笑い方になってしまった気がする。

 

「じゅ、ジュリエット・・・あぁ、なんてことを・・・ん?これは・・・」

 

舞台の方を見てみると、僕がいなくなった後、途方に暮れていた薫が、何やら床に落ちていた紙を拾い上げていた。すると、ここでナレーションが入る。その声は、麻弥ちゃんだった。

 

「それは、先ほどの怪盗からロミオに向けられた手紙でした。その手紙によると、なんと怪盗の正体は未来から来たロミオだというのです。その手紙には、ジュリエットは必ず幸せにすると力強い文字で書かれていました。そして、更には過去に戻る方法と、ジュリエットを蘇生する方法。そしてお前もジュリエットを幸せにしろと、これまた力強い文字で書かれていたのでした」

 

え?僕ってそういう設定だったの?いや、色々とツッコみたいことだらけで、もはやツッコむ気にもなれない。誰だ?この台本を考えたやつは。

 

 

「あぁ、なんて奇跡だ・・・これは夢では無いのか・・・?本当に僕はジュリエットを幸せにしてもいいのか?あぁ、なんて素晴らしい奇跡なんだ!どうかお幸せに、ジュリエット。後は頼んだよ。未来の僕。さぁ、僕もジュリエットを幸せにする旅に出よう!さらばだ。この世界!もう会うことは無いだろう!」

 

「そう言って、ロミオはその場を後にするのでした。その後、彼を見た者はいませんでした。ジュリエットと共に。ただ、皆には何故か確信していることがありました。きっと二人は、幸せに暮らしているのだと」

 

その麻弥ちゃんのナレーションを最後に、舞台の幕は下りる。そして、鳴り止まない拍手がお客さんから送られる。どうやら、あんな幕切れだったがお客さんには受けが良かったらしい。

 

「えっと、雅。ちゃんと説明してくれるかしら?」

 

「え?説明って?僕はこれが劇の一環だって聞いたんだけど?」

 

「そんな訳無いでしょ。もう、誰よこんなシナリオ考えたの」

 

「もちろん、私だ」

 

薫だ。その言葉とともに、薫が僕達の元に寄ってきた。どうやら、こんなシナリオを考えたのは薫らしい。

 

「でしょうね。あなた以外にいないと思ったわ」

 

「それで、どうしてこんなシナリオにしたの?僕、何も聞かされてなかったんだけど」

 

「なぁに、君も楽しめただろ?なら良かったじゃないか」

 

「良くないよ!」

 

「はぁ、あなたに真面目な回答を期待した私が間違っていたわ」

 

全くもってその通りだと思う。薫にそんな答え期待するだけ無駄なような気がする。

 

「私には」

 

そう考えていると、薫が話し出した。その雰囲気は、彼女らしくなく、声色も真面目な様子がうかがえる。

 

「誰にも、ゆずれない願いが一つあるんだ」

 

「ゆずれない願い?」

 

「そう。それは、雅、君を幸せにするのは千聖。千聖、君を幸せにするのは雅。そして二人には、幸せになってほしいという願いがね。これだけは誰にもゆずれない。例え、劇の中であってもね。悲劇を演じる千聖を見たくなかった。だからシナリオを変更した。雅に千聖を幸せにして欲しかった。だから雅に千聖を攫ってもらった。つまり、そういうことさ」

 

「薫・・・」

 

正直、驚いた。まさか彼女がそこまで僕達のことを考えてくれていたなんて、思いもしなかった。だけど、だったら僕達にも言いたいことがある。

 

「だったら、最初からロミオとジュリエットを選択しなければいいじゃん」

 

「え?」

 

「そうね。それに、私を劇に誘わなければいいだけの話だわ」

 

「え?そ、それは、つ、つまりそういうことさ」

 

「どういうことよ」

 

「あはは、でも薫、ありがとう。まさか薫がそこまで僕達の事を思ってくれてたなんて。素直に嬉しいよ」

 

「そんなの当たり前じゃないか。君たちは私の大切な幼なじみなんだ。大切に思うのは当然だろう?君たちの愛こそが全て。幼なじみ達のことを陰から支える私。あぁ、なんて儚い・・・」

 

「あはは、それは儚いかもしれないね」

 

「儚い、のかしら?」

 

「まぁそれはともかくだ。シェイクスピアはこう言っている。ほどほどに愛しなさい。

長続きする恋はそういう恋だと。まぁ、君たちに対しては、いらぬ心配だろうが、いつまでも長続きすることを願っているよ」

 

「えぇ、余計な心配だけど有り難く受け取っておくわ。ありがとう、かおちゃん」

 

「あはは、懐かしい呼び方だね。そうだね。本当にありがとう。かおちゃん」

 

「そ、その呼び方は恥ずかしいからやめてよ二人とも・・・」

 

その薫の声を聞いて、僕と千聖は顔を見合わせて笑い合った。それにつられたように、薫も笑い出す。久しぶりに、この三人で笑い合った気がする。昔はよく見た光景。だけど、いつの間にかあまり見ない光景になってしまった。

 

だけど、本当に僕は良い友人に恵まれた。改めて実感する。僕は幸せ者だと。その後も、三人で笑い合いながら、僕はそう実感するのだった。あぁ、なんて幸せなんだと。強く、強く実感するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、占いの結果完璧に的中したんだけど、あの占い師さん一体何者だったんだろう?

 

 




どうも、ソウリンです。
昨日結局間に合わなかった(白眼
文字数が多くなりすぎたせいですかね。おそらく、過去二番目に長かったのかな。これでも書きたい話まだ端折ったんですけどね。このイベントのメインとも言える薔薇の話や、イベントピックアップ千聖のメモリアルエピの話等々。色々端折ったんですけどね。ちかたないね。
そして、今回のサブタイトルは、魔法騎士レイアースより、田村直美さんでゆずれない願いでした。作品は知らないけど、この曲は知ってるって人も多いんじゃないでしょうかね?本当に有名なアニソンですね。ちょっと古いですけど、今でもよくカラオケで歌います。
それと、嬉しすぎたので一つ報告を。ハロウィン日菜ちゃん、イベント終わってからですがお迎えすることができました!いやー前話投稿してから今話投稿するまでの間に、必死で無償石をかき集めて最後の悪あがきをした結果、なんとかお迎えできました(泣
ドリフェス爆死してほぼほぼ諦めてたんですけどね。やっと愛が通じたんですかね。
もうね嬉しすぎて急遽日菜ちゃんの登場増し増しに変えちゃいました!(昨日投稿できなかった理由
いつか日菜ちゃんヒロインの作品も書きたいですね。一応プロットは温めてるので。
ただ、最推しなだけに絶対失敗できないってプレッシャーが凄いんですよね(汗
では、今回はこの辺で。
次回は雅編です。オリジナル設定からのオリジナルストーリーです。19日午前0時投稿予定です。たまには間に合わせたい(白眼
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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