第35話です
雅編です
千聖の通う、花咲川女子学園高校には、年に二度文化祭がある。
初夏に一度、そして秋に一度、合わせて二度ある。非常に珍しいことであると思う。
聞いた話によれば、なんでも昔大のお祭り好きの校長が在籍していたらしい。その校長が、これまた同じくお祭り好きが集まった生徒会と共謀し、文化祭の数を増やしたのが起源らしい。
もしかしたら、その校長に対して余計なことをしてくれたと思う人もいるかもしれない。だが、そこは花の女子高生。在校生の大半がこれまたお祭り好きだったため、この校長の発案は大いに歓迎され、浸透していった。昔も、そして今も。
さて、僕がどうしてこのような話をしているかというと、今日がその花咲川女子学園高校文化祭、秋の部当日だからだ。そして僕は当然、その祭りにかけつけていた。といっても、午前中少しだけ仕事が入っていたため、到着したのは昼前になってしまったが。
だが、事前に千聖の今日の予定は聞いてある。
千聖のクラスは、今日は喫茶店を開いているらしい。千聖も、午前中は自分のクラスを手伝うと言っていた。そして、そのシフトの時間もあと数十分で終わりとなっている。ちょうど良いタイミングではないだろうか。
僕は、千聖を迎えに、彼女のクラスまで足を運んだ。さすが、芸能人である千聖が所属しているクラスとあってか、その店は非常に賑わっているように見受けられる。店の外には長蛇の列ができあがっていた。これは、中に入るのにもかなりの時間を要しそうだ。
「と、特別招待券をお持ちの方はこちらにお願いしまーす!」
僕が中に入るべきか、外で千聖を待ってるべきか思案していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。どこか弱々しい、護ってあげたくなるようなそんな声。その主はすぐに見つかった。それは花音ちゃんだった。よく見ると、この店の入り口は二カ所にわかれていた。片側の入り口には、長蛇の列ができあがっている。
だが、もう片方の、花音ちゃんがいる入り口の方には、一切人が並んでいなかった。確か花音ちゃんは、特別招待券と言っていた。なんだろうそれは?
「こんにちは、花音ちゃん」
「あ、雅君いらっしゃい!特別招待券は持ってる?」
「特別招待券ってそもそも何かわかってないんだけど、それって何?」
「ふえぇ?千聖ちゃんは雅君に渡してるって言ってたけど・・・」
え?千聖が僕に?なんかあったっけ?僕は、最近の千聖との記憶を辿ってみることにした。千聖と恋愛映画のラブシーンを見てドキドキした記憶・・・は今は関係無いかな。
千聖の取ってあったプリンを知らずに食べてお説教された記憶・・・も今は必要無いかな。
千聖に、文化祭の日に絶対に持ってきてと言われて、何かを渡された記憶・・・ん?もしかして。僕は、自分の記憶に引っかかった物をカバンから取り出した。それは、黄色い紙にMと書かれただけの簡素な物だった。
「もしかして、これ?」
「あ、そうだよ。雅君これだよ。気づかなかった?」
「うん、普通はこんな紙がそんな大事な物だと思わないと思うよ」
あまりにも、適当過ぎないだろうか?本当に、Mと書かれている以外には何も書かれていない。ただの黄色い紙切れだ。
「あはは、そ、それじゃちょっとだけ待っててね。び、VIPカスタマーM様ご来店です!」
「いやいやちょっと待って」
VIPって何?そんな待遇受けるなんて聞いてないんだけど。Mってもしかして雅のこと?一体誰がこんな制度考えたんだか・・・
「あ、準備できたみたいだから、雅君中に入って」
「あーもうどうにでもなっちゃえ・・・」
僕はやけくそ気味に扉を開けた。中は、洋風に綺麗に飾られていた。どうやら、もう一つの入り口から入る部屋とは隔てられてるらしい。そこは完全な個室になっていた。思わず、これが文化祭の喫茶店だと忘れそうになってしまうほどの、完全なる個室だった。そして僕の目の前には・・・
「お帰りなさいませ。ご主人様」
黒と白を基調とした服に身を包み、スカートの両端を軽くつまみ、同じく軽く膝を曲げてお辞儀をする天使がいた。要するに、メイド服に身を包んだ千聖がいた。誰か、今すぐカメラを持ってきてくれないだろうか?
「えっと、一応聞くけど、千聖、なんでそんな格好を?」
「あら?言っていなかったかしら?私のクラスは喫茶店を催しているのよ」
「それは聞いたけど、そんな格好をする必要があるの?」
「えぇ、もちろんよ。喫茶店は喫茶店でも、メイド喫茶だもの。当然だわ」
メイド喫茶?それは初耳なんだけど。そうとわかっていれば、もっと心の準備をしてきたのに。
「それとも、雅は私のこんな格好じゃ不満かしら?」
そう言いながら、悲しそうに下を向く千聖。いや、そんなことがあるわけがない。何故なら僕は・・・
「そ、そんな訳無いじゃないか!だって、その、千聖が眩しすぎて直視することができないほどなんだから・・・」
そう、僕は今現在千聖のことを見ることができなくなっていた。正に太陽。只管に眩しかった。目が眩みそうなほどに。
「そ、そう。あ、ありがとう」
そう言って、顔を真っ赤にし、今度は恥ずかしそうに下を向く千聖。そんな千聖を見て、僕までなんだか恥ずかしくなってきた。
「そ、それより、折角来てくれたのだからおもてなしするわ。ほら、座って」
「あ、うん」
千聖に促されるまま、僕は席に座る。そして、僕が座ったのを確認すると、直ぐさま千聖は僕にメニュー表を渡してきた。
「ゆっくり見てくれていいわよ」
「うん。そうだね。もうちょっと考えてみるよ」
メニューは予想以上にバリエーションに富んでいた。それこそ、本場の喫茶店と変わりが無い。むしろ、ファミレスの域に達しているかもしれない。本当にここは文化祭の出店なんだろうか?
「そういえば、あの特別招待券ってなんなの?」
メニューを決めている間、僕は折角だから気になっていたことを聞いてみることにした。特別招待券って本当になんなんだろう?
「あーあれね。このクラスって、実は恋人がいる子が多いらしいのよ。それで、それを知った委員長が折角だから、恋人を個室に閉じ込めて色々しちゃいなさいって言って、こんなことになったのよ」
色々って何?一体その委員長はこんなところで恋人達に何をさせる気なの?そもそも、委員長って響きだけ聞けば真面目で固そうなイメージがあるんだけど、どうやらこのクラスの委員長はそうでも無いようだ。あんまり聞いたことは無い人物だけど、その一面だけを聞けば、なんともはっちゃけてそうなイメージを覚える。
その後も僕達は、用意された個室で心ゆくまで楽しい一時を過ごしていく。千聖にオムライスにケチャップでハートを書いてもらったり、あーんしてもらったり、心ゆくまで二人の時間を楽しんだ。
「あら、そろそろ時間ね。雅、着替えてくるからちょっとだけ待っててくれるかしら?」
「もちろんだよ」
そう言って、違う部屋に入っていく千聖。数分待つと、彼女は見慣れた制服に身を包み、僕の前に現れた。
「お待たせ。それじゃ、行きましょ?」
その千聖の言葉に従い、彼女に続いて部屋を出る。すると、まだそこには花音ちゃんがいた。
「花音、それじゃ私は行くわね。また後でね」
「うん。あ、そうだ。えっと、お持ち帰りですか?」
その花音ちゃんの発言に思わずずっこけそうになってしまう。彼女は一体何を言っているんだろうか?
「花音?一体そんな言葉誰に教わったのかしら?」
「ふ、ふえぇ、い、委員長に誰かが出てきたら言うようにって・・・」
満面の笑みを浮かべた千聖に、思わずたじろいでしまった花音ちゃん。恐怖値が限界を超えたのか、ほんの数秒で彼女は犯人を白状した。そもそも隠すつもりも無かったと思うけど。顔を真っ青にした花音ちゃんが言うには、どうやら委員長の指示らしい。また委員長だ。一体このクラスの委員長は何を考えてるんだ・・・
「本当にあの委員長は・・・まぁいいわ。それじゃあ雅、行きましょうか」
「うん、そうだね。じゃあ花音ちゃん、また後でね」
「うん、楽しんできてね」
僕と千聖は、その言葉を最後に、その場を去った。だけど、本当にこのクラスの委員長ってどんな人なんだろう?
花音ちゃんと別れて少し歩くと、なんだか不気味な教室を発見する。それは、ある意味文化祭の定番と言える出し物、お化け屋敷だ。どうやら、この出し物は千聖と同じ二年生のクラスが催しているらしい。そして、その入り口には良く見知った顔があった。
「いらっしゃいませー!あ、千聖ちゃん、雅君、いらっしゃい」
パスパレのふわふわピンク担当こと、彩ちゃんだ。どうやら今日はクラスの出し物でお手伝いをしているらしい。
「彩ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ彩ちゃん。ここはお化け屋敷をやってるんだね」
「うん。ウチのお化け屋敷は凄いよー。怖すぎて出てくる人皆放心状態になって出てくるからね」
え?何それ?凄く気になるんだけど。怖い物見たさで入ってみたくなってしまう。と、そんなことを考えていたときだった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
おそらく、出口と思われる場所からそんな悲鳴を上げながら二人組の男が出てくる。モヒカンに、着崩した学ラン、数個付けているピアスと、典型的な不良的容姿をした二人。そんな、度胸には自信がありそうな二人が涙を流しながら、這うように出口から出てくる。
「こここ、こんなの聞いてねーよ!ととと、トイレ!」
「もうやだよ・・・すいませんでした、俺明日から真面目に生きていきます・・・」
そんな泣き言を言いながら、逃げるようにその場を後にする二人組。うん、これは止めておいた方がいいかもしれない。
「ち、千聖、そろそろ行こうか」
「そ、そうね。他の所も回らないと行けないし、行きましょうか」
そう言い残してその場を立ち去ろうとする僕達。だけど、それを良しとしない者がその場にはいた。
「千聖ちゃん、雅君、それじゃいってらっしゃい!」
「え?」
「ちょ、ちょっと彩ちゃん!?」
僕達の背中を急に押す彩ちゃん。そして、僕達の体は偶然だろうか、入り口の方に向いていた。よって、必然的に僕達は、偶然にも開け放たれていた入り口の扉に吸い込まれるかのように押し込まれてしまった。そして、僕達が入場したのを確認すると、無情にも閉まる扉。抵抗する間もなく、僕達は屋敷内に侵入してしまった。
「ちょ、ちょっと彩ちゃん!」
「ダメだ。この扉全然開かないよ。鍵が閉まってる様子も無いのに、どうなってるの・・・」
絶望に打ちひしがれる僕達。隣を見ると、千聖の表情が真っ青になっているのがわかる。
「み、雅・・・」
「はぁ、行くしかないみたいだね。千聖、絶対に僕から離れないでね」
僕だってもちろん怖い。だからと言って、千聖を矢面に立たせる訳にはいかない。千聖に降り注ぐ火の粉は、全て僕が受け止める。そう覚悟を決め、僕は一歩を踏み出した。だけど、僕は直ぐさま拍子抜けしてしまう。出てくる仕掛けが全て使い古された古典的な物ばかりだったのだ。どこにも怖がる要素が無い。
「えっと、これは変に怖がって損したかしら?」
「そうだね。これじゃ怖がる要素が無いね。もしかしたら、さっきの二人組が大げさだったのかもしれないね」
そう気を抜いていた時だった。僕達の耳に、美しい旋律が聞こえてくる。ピアノの音色だ。その音はすぐ近くから聞こえてきた。その音の聞こえる方に目を向けてみる。だけど、そこにはピアノが存在しない。その代わりに、椅子に座る人物がいた。
その顔は俯いているためわからない。だが、そんなことよりも気になる点があった。その手だ。その手が、まるでそこにピアノが存在するかのように、軽やかに動いている。そして聞こえてくる旋律は、その動きと完全にシンクロしている。そして、その人物がゆっくりと顔を上げた。
「ひっ!」
「わっ!」
その顔は衝撃的だった。まるで、
「い、今のは怖かったね」
「そ、そうね。まさか燐子ちゃんがあんなことをするなんて」
燐子ちゃんから離れた僕達は、安堵の息を吐いた。千聖の言う通り、まさか彼女があんなことをするとは思いもしなかった。まだ、鼓動が早足になっている。今日は夢にまで出てきそうだ。
だけど、おそらくあれが最後の仕掛けだったのだろう。僕達の視界には出口と思われる扉が入った。総じて言うならば、最後の燐子ちゃんだけが怖かったぐらいだろう。とはいえ、最初の二人組のような恐がり方をするほどでもない。やはり、あの二人組が特別恐がりだったということだろう。
「無事に出られて良かったね」
「そうね。最初はどうなることかと思ったわ。彩ちゃんには後でお説教しておかないと・・・あら?」
出口へと着々と近づいていた僕達だった。が、そんな僕達の耳に何やら不穏な音が聞こえてくる。カツン、カツン、というような、固い床に何かこれまた固い物をたたきつけるような音。そして、コツン、コツン、という足音。おそらく革靴だろう。そんな二つの音が、暗闇の中から僕達に着実に近づいてくる。
一歩、また一歩と確実に近づいてくる。ゆったりとした歩みながら、確実に近づいてくる。そして、その音の主がついに姿を僕達の前に現した。その主は、これまた僕達の見知った人物だった。
「あら?紗夜ちゃん?」
「燐子ちゃんの次は紗夜ちゃんか。このクラスの知り合い全員登場かな?」
紗夜ちゃんは、一目見ただけではどんな幽霊なのかがわからなかった。服装は普段の制服だ。特徴的なのは、口にしたマスクだろう。おそらくウサギだろうか?何やら可愛らしいような、そうでもないような、よくわからない生き物と、その周りに花が描かれたマスクだ。
そして、最初は上に目がいってて気づかなかったのだが、問題は彼女の所持物にあった。バットだ。しかも、その先端付近に何本もの釘を打ち付けてある。所謂釘バットだ。そんな物騒な物を彼女は所持していた。おそらくこれが先ほどからの音の正体だろう。
「さ、紗夜ちゃんその手に持ってるものは・・・」
「・・・ません」
「え?紗夜ちゃん何か言った?」
「不純異性交遊は、許しませーん!」
「う、うわぁ!」
「き、きゃぁ!」
その言葉を叫ぶとともに、紗夜ちゃんが片手で軽々と釘バットを持ち上げ、そして頭上に掲げて全力疾走で僕達を追いかけてきた。そのスピードは非常に早い上に、不意を突かれた故に僕達のスタートも遅れた。僕達の距離は瞬時に縮まる。
振り返る余裕もない。だが、すぐ後ろからは何かを振り下ろす気配と、ガツン、ガツン、という鈍い音が断続的にしている。隣に目を向けると、千聖が辛そうな顔をしているのが見える。千聖は、運動が苦手だ。そんな彼女に、この緊張状態での全力疾走は酷だろう。このままでは、彼女は出口まで保たないだろう。
「仕方ない。千聖、ごめんね」
「え?きゃっ!」
僕は、彼女の手を取り、そして一息に僕の胸元へ抱え込んだ。俗に言う、お姫様だっこだ。この一連の動作を、走りながら行った物だから、僕は急激に体力を消耗した。千聖が軽くて良かった。千聖の体重次第では、僕の体力も保たなかっただろう。彼女の前では、口が裂けても言えないけど。
「不純異性交遊は、許しませーん!」
そんな行動をしたからか、紗夜ちゃんのスピードもさらに早くなる。このままだと、追いつかれるのも時間の問題かもしれない。だけど、幸い出口までの距離も後僅かだ。このまま逃げ切ってみせる。出口まで後3歩、2歩、1歩、そして・・・
「だはー!」
出口について安堵の息を吐く。生きた心地がしなかった。今ならあの二人組の気持ちもわかる。このお化け屋敷は本当に怖い。お化けは関係無かったけど。
「み、雅、もう大丈夫だから、そろそろ降ろしてもらってもいいかしら?」
「あ、ごめん」
その千聖の言葉で、未だに彼女を抱えっぱなしなことに気がついた。慌てて彼女を降ろす。
「あ、千聖ちゃん、雅君、どうだった?ウチのお化け屋敷楽しかったでしょ?」
そんな僕達に、諸悪の根源である彩ちゃんが話しかけてきた。隣の千聖に目を向けてみると、笑顔を浮かべていた。笑顔だ。人を魅了する魔法がかかった笑顔だ。なのに何故か、背筋が凍るような恐怖を覚える。それこそ、さっきの紗夜ちゃん並に。彩ちゃんに目を向けてみると、どうやら彼女も僕と同じものを感じ取ったのだろう。その体は震え、顔は真っ青になっていた。
「彩ちゃん、ちょっと向こうでお話ししましょうか」
「えっと、どんなお話しをするのかな?」
「決まってるじゃない。お説教よ」
「わーん!ごめんなさああああい!」
彩ちゃんの謝罪も効果無く、彼女は千聖に引きずられていった。その後小一時間ほど、千聖のお説教は続いたのだった。まぁ今回は、彩ちゃんが悪いから仕方ないかな。
それと、これは後から聞いた話だが、どうやら紗夜ちゃんは口裂け女のつもりだったらしい。確かに口裂け女の特徴であるマスクはしていた。その下まではわからなかったけど。ただ一つ言いたいのは、口裂け女は釘バットなんて持ってないということだ。
余談だが、後にここ花咲川女子学園高校には、他校の不良も震え上がらせる都市伝説が誕生することになる。花咲川の番長伝説という都市伝説が。
千聖のお説教が終わったのを確認すると、僕達は体育館に設置されたステージに向かっていた。そろそろ、ステージで行われる公演が始まる時間だ。その道の途中のことだった。また知り合いに出会ったのは。
「キャー!薫様-!」
「あはは、可愛い子猫ちゃん達。私は決してどこにも行かないさ。いつだって君たちの傍にいる。だから、今は見逃してくれないだろうか?大切な人を待たせているんだ」
女の子達に周りを囲まれた薫だ。そんな薫が、なんとか女の子達の輪から抜け出して出てくる。ほんと、歩くだけで騒動を起こす子だ。
「ほんと、何してるのよ」
「おや?千聖と雅じゃないか。こんなところで出会うなんて、なんて偶然なんだ」
「あはは、偶然なような、そうでもないような」
「はぁ、まぁいいわ。時間も無いし行くわよ」
その千聖の言葉に従って、僕達はステージへと向かう。そして、ステージに着くと、その入り口でまた知り合いと合流した。
「あ、チサトさん!ミヤビさん!」
「薫さんも来たみたいだね」
イヴちゃんと花音ちゃんだ。彼女達ともここで待ち合わせをしていた。時間も良い感じ。そろそろ入ろう。
「それじゃ、皆行きましょう」
千聖を先頭に、僕達は中に入る。そこは決して、観客席では無い。舞台裏だ。本来ならステージ関係者しか入ることの無い場所。そんな場所に僕達は入っていた。
「あ、白鷺さん、お待ちしてました!」
そして、その舞台裏にいた一人の女生徒が話しかけてきた。おそらく生徒会の子だろう。千聖に聞いた話だが、どうやらこのステージの司会進行を担当している子らしい。
「それで、どんなパフォーマンスを見せていただけるんですか?」
「この五人で、ライブパフォーマンスをするわ」
「五人?」
そこで、漸く彼女は千聖以外のメンバーの存在に気がついたらしい。彼女の表情が段々と驚愕の色を彩っていく。
「み、雅様!?」
「なるほど、君もそういうタイプの子だったんだね」
なんだか最近、ファンクラブの子と縁がある気がする。それほど、世の中に浸透してくれているということだろうし、素直に嬉しいけど、ちょっと照れくさい。因みに、もう気づいているだろうが、僕達は決してステージを視聴しに来たわけではない。ステ-ジ上で演奏をするためにやってきた。それが今日の、メインイベントだ。
「こ、こうしちゃいられません!それでは、間もなくステージが始まります!私の声に従って、ステージに上がってきて下さいね!」
その言葉を最後に彼女はその場を後にした。どうやら、司会の準備に入ったらしい。
「さて、皆、これは今日限りのスペシャルライブだよ。思いっきり楽しんじゃおう!」
「そうね。こんな機会、もう二度とあると思えないわ。そんなの、楽しまないと損よね」
「あぁ、もちろんだ。輝くもの、必ずしも金ならず。今日という日を輝かしいものにしてみせよう」
「私も、精一杯頑張ります!今日は楽しみましょう!」
「ふえぇ、私は緊張するよ・・・でも、そうだよね。楽しまなきゃ勿体ないよね。私も、頑張るよ」
「大変長らくお待たせしました!間もなく花咲川女子学園高校文化祭秋の部恒例、シークレットステージが始まります!」
僕達が意気込みを見せていると、そんな司会者の声が聞こえてくる。シークレットステージ。それが僕達が立つステージの名称。秋の部ではどうやら毎年開かれているらしい。シークレットの名が現す通り、内容は毎年秘密にされている。だけど、決まりとして学園に関係のある有名人がパフォーマーとして指名されるらしい。それに、今年は千聖が選ばれた。
千聖はパフォーマンス内容に悩んだ。悩んで悩んで、悩んだあげく、僕に白羽の矢が立った。なんでも、指名されたのは自分だけど、パフォーマンス内容で言えば僕の方が会場を盛り上げるのにうってつけ。だからこそ、自分はサブに回って僕にパフォーマンスを任せるらしい。
そこまで千聖に言われては、僕も黙っていられない。彼女の期待に応えられるような、会場の熱気を最大限に引き出すような、そんなパフォーマンスを披露しないわけにはいかない。
「なんと!今回のシークレットステージ、凄い人がパフォーマーとして来て下さってます!はっきり言わせていただきます!今日のステージこそが過去最高のステージになります!今日お集まりの皆さんは、是非歴史の生き証人になってください!それでは、お願いします!」
司会者の声に従って、僕達はステージに上がる。僕達の姿を見た観客の反応は、沈黙。ただ、期待が外れたという無念な思いからくる沈黙では決して無い。
「美咲!見て!
「みんな、驚いて声も出ないんだと思うよ。あたしもこころが居なかったら同じ反応してたかもね。それにあれは、
まぁ、凍り付いたかのような沈黙の中にも、例外はいるみたいだけど、彼女は例外だろう。だけど、いつまでも凍り付いていては盛り上がらない。是非、自分たちの熱気で解凍してもらおう。
「みなさーん!文化祭楽しんでますか!どうも、黒城雅です!知らない人は是非覚えて帰って下さい!」
その僕の声を聞き、一人、また一人と歓声を上げていく人が出てくる。そして、数秒も経てば会場は耳を
「それじゃ、まずは挨拶代わりに一曲聞いて下さい!welcome to my world!」
この曲は、僕が一曲目の定番としてよくライブで歌う曲だ。曲自体、そういった目的で作っている。僕は基本、何かを主題に置いて曲を作る。日常の些細な風景を主題に置くことが多いのだけれど、この曲は珍しく、僕自身を主題に作った曲になっている。
僕のことを皆に知って欲しい。僕の歌を皆に知って欲しい。そういう想いを込めて作った曲。だからこそ、一曲目に相応しい。僕の声が会場に響き渡る。その声に合わせて、薫が、花音ちゃんが、イヴちゃんが、そして千聖が音を重ねる。バンドならではの協調性が、僕に高揚感を与えていた。そんな高揚感の中、一曲目の演奏が無事終了する。素晴らしい演奏になったと思う。
「改めましてこんにちは!黒城雅です!」
僕の声に、会場の皆が歓声で応えてくれる。本当に、ライブのこの空気が気持ちいい。何度味わっても飽きそうに無い。
「それじゃ、今日僕に付き合ってくれる、素敵で最高なメンバーを紹介していきまーす!まずはギター、薫!」
僕の紹介と共に、ソロパフォーマンスを披露する薫。その女子をも魅了する中性的な甘いマスクも相まって、非常に様になっている。
「ベース、千聖!」
そして千聖。そのソロパフォーマンスは、彼女の技量もあって非常にレベルの高い物だった。もしかしたら、ベースの技量なら僕も既に負けているかもしれない。
「キーボード、イヴ!」
そしてイヴちゃん。半年程前までは楽器の演奏なんて全くしたことの無かった彼女。だけど、彼女の努力がそんなハンデを無に帰した。そのパフォーマンスは誰がどう見ても初心者とは思えないだろう。僕だってそうだ。
「ドラム、花音!」
そして花音ちゃん。メンバーの中で一番気弱な彼女。だが、そのパフォーマンスは侮ることなかれ。普段の彼女からは想像も出来ない堂々とした叩きっぷりだった。そして何より、彼女の演奏を見てると、なんだか楽しい気持ちになってくる。本当に、良いドラマーになったと思う。
「そして最後に、ボーカルは僕黒城雅です!この五人で今日は皆に夢のような時間をお届けします!バンド名はエターナル!今日一日限りのスペシャルライブをご堪能あれ!それじゃ次の曲いってみよう!」
エターナル。意味するところは永遠。僕達のバンドとしての活動は今日一日だけで終わる。だけど、それでも、皆の思い出に永遠に残るようなバンドでありたい。そんな想いを込めてこの名前を付けた。皆の、永遠になれますようにと・・・
そして、時間は経ちライブも終演を迎える時間が近づいてきた。楽しい時間ほど、あっという間に過ぎていく物。本当に悲しく感じる。
「皆さん、盛り上がってますか!」
僕の声に、この日最大の歓声で応えてくれる皆。本当に素晴らしい生徒達だった。だからこそ、寂しさがより
「本当に名残惜しいですが、次が最後の曲になります!」
それを聞いて、一目でわかるほどの悲壮感が僕に伝わってくる。僕だって悲しい。寂しい。ライブの終わりはいつだってそうだ。だけど、終わらないわけにはいかない。だけど・・・
「次の曲で今日はお別れになります!だけど、これだけは覚えていて下さい。僕が歌う、いいえ、誰が歌う歌にも決して目に見えた形はありません。だけど、それでも、皆さんの中には、皆さんの心の中にはいつまでも残り続けます!歌に形なんて、必要ありません!そんなもの無くたって、いつだって皆には見ることができるんだから!そのことを胸に留めて聞いて下さい!メモリア!」
そして、最後の演奏が始まる。曲は、僕の始まりの歌、メモリア。謝罪や懺悔の意を込めて作ったこの曲。今日はこの曲に感謝の意を込めて皆に届けよう。ありったけの感謝を込めて。
僕がそんな想いを込めて歌っていると、不意に隣で演奏している千聖と目が合った。そして、どちらからともなく僕達は近づき、背中を合わせる。いつかのライブの帰り道で彼女と約束したパフォーマンスだ。そして、僕達は二人でこの曲を歌う。別に打ち合わせなんてしていたわけではない。
なんとなく、彼女が今それをしたいと望んでいるのをわかったから、了承しただけ。いうならアドリブだ。だけど、結果的にこれで良かったと思う。会場の皆も大いに盛り上がっているのがよくわかる。
それと、先ほど感謝の意を皆に届けると言ったが、別に皆とは観客に向けてだけの話では無い。薫、イヴちゃん、花音ちゃん、そして何よりも千聖に向けてっこの歌を送りたいと僕は思っている。おそらく、その想いが彼女にも伝わったのだろう。千聖の歌からも、同じく感謝の気持ちが読み取れた。僕に向けた感謝の気持ちが。
あの日と同じだ。あの、千聖と行ったカラオケの時と同じだ。あの時、僕に向けられた感情と同じ感情。正直、今もまだ僕はその感情を向けられるのに値しているのかどうかわかっていない。
だけど、いつかは胸を張って言いたいものだ。僕は、千聖の支えになって生きていますと。千聖が、僕の支えになってくれているように、僕も千聖の支えになって生きていきたいと。
そんな事を考える、思い出に残るライブの一コマだった。
どうも、ソウリンです。
一ヶ月以内に更新できませんでした(涙目
ま、まぁ次はなるべく早めに更新できるように頑張ります(いつも言ってる
いやーでもまた長くなっちゃいましたね
けど、本来ならもっと長くなってました(驚愕
いやーこれでも大幅にカットしたんですよね
本来なら花咲川組全員と絡ませる予定でしたから(白眼
出番全員カットされたポピパメンバー。すまん、今度出番作るから(土下座
まぁ、カットした結果終わり方もぶつ切りっぽくなっちゃいましたしね(白眼
そして、今回のサブタイトルはボカロより、dorikoさんの歌に形はないけれど、です。
自分がボカロを語る上で絶対に外せない曲の一つです。dorikoさん大好きです。
ガルパではロミオとシンデレラがカバーされていますね。
他にも良い曲本当に多いので、是非聞いてみて下さい。
次話タイトルもdorikoさんのボカロ曲から付けます。
では、今回はこの辺で。
次話は千聖編です。午後12時投稿予定です。ですが、正直投稿できるか非常に怪しいです。もし、本日午後12時に投稿が無かったら24日午後12時だと思っておいて下さい。そうならないように頑張ります(白眼
ではでは、次回もよろしくお願いします!