君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第38話です
千聖編です


第38演目 NO,Thank You!

これは、月明かりが照らす夜道での一幕だ。

 

「今日はお月様が綺麗ね」

 

「そうだね」

 

その日も、私は日課の家事を終え、雅と共に家路についていた。

季節は秋半ば。段々夜は冷え込むようになってきた。今も、否応(いやおう)なしに体温を奪う冷たい風が吹き込んでいる。だけれども、繋いだ手から流れ込んでくる温もりが、私に体温を分け与えてくれていた。

 

「だけど、千聖の方が何倍も綺麗だよ」

 

「へ?あ、ありがとう・・・」

 

そんな時に、雅からのそんな不意打ちをくらい、思わず気の抜けた声が出てしまった。冷たかった頬に、急激に熱が上ってくる。暗い夜道のせいで、おそらく雅には気づかれていないと思うけど、私の顔は今真っ赤になっているに違いない。

 

「き、急にどうしたのよ?」

 

「あはは、なんとなく言ってみただけ。昔見たドラマであったセリフなんだけどね。あのドラマのヒロインも今の千聖みたいな反応してたなー。へ?って。あはっ、へ?だって」

 

「雅?」

 

「ひっ、ごめんなさい。調子に乗りました」

 

どうやら、私はからかわれただけだったらしい。その後の雅の大笑いに、ちょっとイラッとしてしまったので、笑顔で注意しようとした瞬間に雅が謝ってくれたので、良しとしましょう。

そんな時だった。私達の携帯が同時にメールの受信を報せてきたのは。

 

「あら?雅もメール?」

 

「うん。えっと、事務所からみたいだね。明日事務所に来て下さい。大事な話がある。だって」

 

「あら?私も同じ内容みたいね。私にも来たということは、パスパレ関係かしら?」

 

「うーん、それだと僕も呼ばれた理由がわからないけど・・・」

 

確かにそうだ。普段から、パスパレの仕事関係で事務所に呼び出しを受けることはあった。だけど、今回のように雅にまで招集がかかるのは珍しい。

普段から、自主的に雅がレッスン等に参加してくれることはあったが、事務所から呼び出しを受けるとなると、あのパスパレ結成の日以来のはずだ。

 

それに、気になる点はもう一つある。それは、メールの内容そのものだ。ただ簡潔に、事務所に来て欲しいとだけ書かれたメール。招集の理由などが全く記されていない。

これでは、招集理由が良い理由なのか悪い理由なのかもわからない。こんなことも、あのパスパレ結成の一件以来だ。嫌でも、あの日のことを、お披露目ライブのことを、あの日からの時間の止まった日々のことを思い出させられる。良いことも、悪いことも。

 

「まぁ、明日にならないことにはどうしようもないね」

 

「そうね。考えたところで、答えが出るわけでも無いものね」

 

そう、これだけ考慮する材料が少ないとなると、いくら熟考したところで答えを導き出せるわけがない。結局は、明日にならないことには何一つとしてわからない。明日答えを聞いて、それからまた考えればいい。そう私は結論づけた。

 

だけど、私の中には消え去ることの無い一つの不安が確かに存在した。それは、今回の件と、あの日の件の類似性。あの結成日、正確にはその後のお披露目ライブは私に消え去ることの無い爪痕を刻んでいた。全てが解決し、幸せを掴んだ今でも消えない傷跡。夢にさえ出てくるほどに。

 

その日に似た状況。意識するなと言う方が無理な話だ。私は、そんな不安を抱えながら、凍える夜道を雅と歩むのだった。繋がる手の力は、自然と強まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日を迎えた。

昨晩は正直なところ、あまり寝付くことができなかった。また、あの日の夢に起こされたのだ。あの、音が止まったステージの夢に。時が止まった日々の夢に。思わず飛び起きた後は、結局一睡もすることができなかった。おそらく、私は一生この傷跡と生きていくのだろう。これも私の罪なのだから、仕方ない。

 

「おはようございます」

 

「皆、おはよう」

 

「あ、雅君、千聖ちゃん!おはよう!」

 

事務所に入室した私と雅。そんな私達を出迎えてくれたのは彩ちゃんだった。周りを見渡してみると、既に他のメンバーは集まっていた。やはり、パスパレのメンバー全員が呼び出されたようだ。

 

「おはよう皆。もしかして皆も?」

 

「えぇ。ジブン達も昨日送られてきたスタッフさんからのメールに呼ばれて来ました」

 

やはり、皆同じ状況だったらしい。雅と私が同時にメールを受信した時点で察してはいたが、どうやら事務所からの一斉送信だったらしい。ということはもちろん内容も・・・

 

「そうだったのね。ということは皆集まった理由は・・・」

 

「はい。みんなわかりません。これはもしかして、非常事態というものでしょうか?」

 

「非常事態かどうかはわからないけど、なんだかこの感じ、パスパレ結成の時を思い出すね。ううっ、そう思うとなんだか緊張してきちゃった・・・」

 

やはり皆も内容を知らないらしい。どうやら、彩ちゃんもあの日の出来事を思い出している様子。やはり、酷似している。嫌でも、昨晩見た夢の内容を思い出してしまう。雅の夢の妨げになった夢の内容を。そして、暗い考察が私の頭を駆け巡る。思考の海に、落ちていく。溺れていく。そしてもがき苦しむ。

 

「うーん。あたしは大丈夫だと思うけどなー」

 

そんな私を引っ張り上げたのは、そんな日菜ちゃんの発言だった。まるで、今の状況を楽しんでいるかのような、そんな明るい光に包まれた声だった。今の私とはまるで正反対。だけど、そんな彼女の声が、少しばかり私の闇を払いのけてくれるような錯覚を覚えた。

 

「日菜ちゃん、どうしてそう思うのかしら?」

 

「理由なんて特に無いよ-。ただ、なんとなく、るんって来るようなことがあるような気があたしはするなー」

 

「あはは、日菜ちゃんはポジティブでいいね。私は、こういう時悪いことばっか考えちゃうよ・・・」

 

「お待たせしました。皆さん、集まってますね」

 

そんな底なしにポジティブな日菜ちゃんの意見を聞いていると、スタッフさんが部屋に入ってくる。ついに答えを知る時がきた。鼓動が自然と早くなる。耳を塞ぎたくなる。

 

「なんと、みなさんの2時間特番が決まりました!しかも地上波です!」

 

しかし、そのスタッフさんからもたらされた情報は、朗報だった。その言葉を聞いて、私の中の闇が瞬時に退いていくのを感じる。そして、ついにここまで来たかという、達成感のような感情が湧いてきた。これも、皆の努力の結晶とも言えるだろう。

 

「ええー!?地上波で特番ですか!?」

 

「地上波ということは、今よりたくさんの人に見られるということですね。ジブン、考えただけで緊張してきました・・・」

 

「ほら、やっぱりるんってする内容だったね。おねーちゃんにも教えてあげないと!」

 

「あの、トクバンって何ですか?」

 

「皆の特集を番組でするんだよ。言い換えたら、皆の番組が作ってもらえるってことかな」

 

「わ、私達の番組ですか!?素晴らしいです!」

 

確かに素晴らしい。素晴らしすぎる。だけど、冷静になって考えてみると、逆に美味しすぎる気もする。何か裏があるのでは無いだろうか?今度はそんな疑問が湧いてきた。

 

「しかも!放送に合わせて新曲も発売することになりました!」

 

「し、新曲もですか!?ううっ、私嬉しいよ-・・・」

 

「あはは!彩ちゃん涙目になってるー!」

 

「だ、だってー・・・」

 

「フヘヘ、でも、彩さんの気持ちもわかりますよ。ジブンもなんだか感動しちゃって、思わずもらい泣きしちゃいそうですよ・・・」

 

「嬉しいことが一度に二つも。なるほど、これが一石二鳥というやつですね!」

 

「ふふっ、イヴちゃん、それはちょっと違うわよ。そうね、特番と新曲の発売のタイミングを合わせるのは良いことだと思います。だけど・・・」

 

そう言って、私は雅に視線を向ける。既知の通り、私達の曲は全て雅が手がけている。勿論、新曲の制作となれば、雅に知らせがくるはずだ。だけど、私が知る限り、雅にそんな事務所からの制作依頼が入ったとは聞いていない。では、新曲は一体誰が作るのだろうか?

 

「あの、その新曲って誰が作るんですか?」

 

「え?何を言ってるんですか。雅さんに決まっているじゃないですか」

 

なるほど。やはり、新曲は雅が制作するらしい。報せなかったのは、雅へのドッキリ的目論見だろう。スタッフさんの、してやったりと言いたげな顔がその証拠だろう。この事務所のスタッフさんは、雅をからかうのが好きらしい。

 

「そんな話一言も聞いてないんですけど!?」

 

「あはは、それはもちろん、今初めて言いましたから」

 

まぁ、雅のこの反応の良さを見ればそう考えるのもよくわかる。だけど、このままだといつまでたっても、今回の核心に辿り着かない気がしてきた。考察するにしても、核となる材料。私は、思い切ってその部分を聞いてみることにした。

 

「それで、特番の内容はどのようなものでしょうか?」

 

「皆さんが無人島で様々なミッションに挑戦する、というものです。全てのミッションをクリアすることで、その報酬として新曲発売になります」

 

「え?じゃあ、達成できなかったら新曲も無しってことですか?」

 

「失敗の許されないサバイバルゲームですか。ううっ、ジブン、益々緊張してきました・・・」

 

「無人島、私達、生きて帰ってこれるのでしょうか?」

 

「あはは、イヴちゃん大丈夫だよ。だって只のテレビの企画だよ?命に関わるような事態に陥ったら大問題だって」

 

「無人島でサバイバルかー。うーん楽しそー!きっと、さっきはこれにるんってきたんだね!」

 

「それで、その特番、収録はいつからになるんですか?」

 

「3日後です!」

 

無人島でミッションに挑戦。3日後に収録という切羽詰まった日程。どうやら、考える時間もあまり許されないらしい。だけど、地上波での特番というまたとないチャンス。逃す手は無い。裏があっても無くても、このチャンスだけは必ず掴んでみせる。

 

「3日後!?そんな急に・・・」

 

「これは、急いで準備をしないといけませんね。早速、帰りにホームセンターに寄って行きましょう」

 

「私も、お供します!」

 

「ねーねー。おやつは持って行っていいの?」

 

「ふふっ、日菜ちゃん、遠足じゃないのよ」

 

「皆、急な日程だけど、頑張ってきてね」

 

「あ、雅さんもスタッフとして同行していただきますよ」

 

そのスタッフさんの発言に、雅の時間が凍り付いた。まぁ、新曲を作る時間も限られているのに出鼻をくじかれた訳だから、仕方ないと思う。

 

「なんでですか!?新曲を作る時間が欲しいんですけど・・・」

 

「その新曲のためです。雅さんには、無人島でサバイバルをする皆さんをモデルにして、新曲を作って欲しいのです」

 

なるほど。どうやらスタッフさんの嫌がらせで雅を連れて行くわけでは無かったらしい。スタッフさんの考えも理解できるし、賛成できる。名案だとも思う。雅も、納得したと言わんばかりの表情を浮かべている。私としても、雅が同行してくれるというのなら非常に心強い。正に渡りに船だ。

 

「そういうことならわかりました。僕も同行します」

 

「え?雅君も来るの?うーん、益々るんってきた!」

 

「ふふっ、雅も来てくれるのは頼もしいわね」

 

「ミヤビさんが援軍として来て下さるのならば、百人力ですね!」

 

「雅さんはスタッフとして参加するので、援護にはならないと思いますが、頼もしいのは間違いないですね」

 

「よーし!皆、頑張るぞー!」

 

「おー!」

 

そして、私達の無人島サバイバルへの挑戦が決まった。

無人島・・・虫が少ないといいのだけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、収録日当日がやってきた。

暑い。上陸して最初に浮かんだ言葉はその一言だった。季節は秋半ばだというのに、容赦ない日差しが島全体を照らし付けていた。

島全体への感想としては、イメージ通りとでも言えばいいのだろうか?

生い茂る森林も、白い砂浜も、遠く広がる水平線も全て一般的な島のイメージと差異が無い。まさに、あるべき無人島の姿とも言える。

 

「それではパスパレの皆さんは砂浜で待機していてください。雅さんは私達の準備を手伝っていただいてよろしいでしょうか?」

 

「わかりました」

 

そのスタッフさんの指示に従い、雅が離れていく。照りつける日差しが鬱陶しい。こんな暑い場所で待機させず、せめて木陰にでも入らせてくれればいいのに、という不満がつい出てしまう。切羽詰まった日程や、全体の目的以外何も伝えられていない番組内容といい、この番組は本当に大丈夫なのだろうか?といった疑問まで湧いてくる。だけど、不満ばかり溜めていてもしかたない。私に出来ることを全力でする。今はそれだけに集中しようと思う。この番組が私達にとってのチャンスなのは間違いないのだから。

 

「彩さん?さっきからソワソワして、どうかしたのですか?」

 

麻弥ちゃんのそんな声が不意に聞こえてくる。その言葉に釣られ、彩ちゃんを見てみると、確かに落ち着きが無さそうにソワソワしている。

 

「あはは、さっき、スタッフさんに携帯を預けちゃったでしょ?いつも持ってる物が無いとなんだか落ち着かなくて・・・」

 

「スタッフさんが、私物は各自一つしか持ち込んではいけないと言っていたものね」

 

そう。今回の挑戦に先駆けて、スタッフさんから提示された内容として、各自一つしか私物を持ち込んではいけないという物があった。事前に申請した一つ以外は、携帯も時計も持ち込み禁止。上陸する際にスタッフさんに預けていた。

 

「ヒナさんは何を持ってきたんですか?」

 

「あたしはおねーちゃんの写真!これさえあればどんなミッションでもへっちゃらだよ!」

 

「あはは、日菜ちゃんって本当に紗夜ちゃんのことが好きだよね」

 

本当にそう思う。最近は、正確には七夕の頃からだっただろうか?少しだけど、紗夜ちゃんの日菜ちゃんに対する態度が柔らかくなったように感じる。あの日、日菜ちゃんは紗夜ちゃんを七夕祭りに誘って断られたと落ち込んでいたけれども、その後何かあったのかしら?今度聞いてみよう。

 

それは置いておいて、紗夜ちゃんの写真となると、実際にはミッション攻略に使えそうな要素が全く感じられない。日菜ちゃん自身の能力には期待しているけれども、その私物には頼れそうに無い。

 

「千聖さんは何を持ってきたんですか?」

 

「私はふわふわのブランケットよ。固い地面に座らないと行けないときに役立つかと思って」

 

このブランケット。実は昨年の誕生日に雅にもらったものだ。今でも大切に使っていて、汚れ一つ、皺一つついていない。今日一日乗り越えるに当たって、何が一番手元に欲しいかを模索したときに、真っ先に浮かんだのがこのブランケットだった。

 

これならどんな時でも近くに雅を感じていられる。休むときも、安心して休むことが出来る。万全の体制でミッションに挑むことが出来る。ただ、大切な物だから汚れないように気をつけないと。

・・・待って。この無人島という環境。よく考えたらまともに座って休めるような屋内があるとは思えない。要するに、座って休むとなると自然と屋外になってくる。そして屋外で、汚さずにブランケットを敷ける場所があるとは思えない。つまり、ブランケットを使うわけにはいかない。もっと言うなら、もしかして私の持ってきた私物も、日菜ちゃんと同じように無意味?

 

「チサトさん、頭を抱えてどうかしたんですか?もしかして体調が悪いのでしょうか?」

 

「いいえ、イヴちゃん。なんでもないのよ。なんでもないの・・・」

 

「あ、スタッフさんと雅さんが来ますよ。そろそろ始めるのでしょうか?」

 

思わず頭を抱えてしまっていた私に、そんな麻弥ちゃんの声が聞こえてくる。いけない。撮影が始まるのならば頭を切り換えないと。私は女優白鷺千聖。いつまでも下を向いているわけにはいかない。私が目指すのは、いつ如何なる時も上なのだから。

 

「それでは皆さん、そろそろ撮影を始めますよ」

 

「あの、もう少し具体的に内容の説明をしていただけますか?」

 

「そのあたりは、必要があればその都度していきますから、皆さんはミッションに集中して下さい」

 

そうやって、気持ちを切り替えた私だが、いきなり出鼻をくじかれることになってしまった。私は、いつだって最善の準備を行ってから本番に臨みたいと考えている。番組に求められている役があるならば、その役を演じきって番組を引き立ててみせる。それが私の役目だと考えている。だけど、今回の番組は本当に異常だ。あまりにも情報の開示が少なすぎる。こんな状態では、私に何を求められているのかもわからない。番組に対する不信感ばかりが募っていく。

 

「はい、カメラ回りました!パスパレの皆さん、こんにちは!それでは早速、最初のミッションを・・・」

 

「あ、ちょっといいでしょうか?ジブン達はこの島について、全く知識がありません。なので、せめて規模を知るために、ミッションの前に島を一周させてもらえると嬉しいです」

 

そう発言したのは麻弥ちゃんだった。その発言に対して、何故か凍り付いたかのように動きを止めるスタッフさん。別段麻弥ちゃんがおかしなことを言ったように感じなかったけど、何かあったのだろうか?

 

「それって、森の中にも入るってこと?大丈夫かな?もし何か出てきたりしたら・・・」

 

「確かに、危険がある可能性もあります。ですが、それならなおさら、どこが危険なのかを知っておくのも大事だと思います。もしかしたら今いるこの場所が、一番危険ってこともあるかもしれませんから」

 

「なるほど、地の利を得るってことね」

 

「あたしは賛成だよ。お散歩みたいで、楽しそうだもん!」

 

なるほど。麻弥ちゃんの案は正に名案と言える。確かに、私達はこの島に対する知識は一切持っていない。それこそ、島の名前や、日本のどこにあるのかさえ。そんな状況でミッションを熟すために、無闇矢鱈に歩き回るのは只の自殺行為だろう。それならば、まず最初に島を見て学び、知識を得てから挑む方がよっぽど効率的で安全と言えるだろう。そう私が感心していると、スタッフさん達の声が聞こえてくる。小声ながらも、耳をすませば内容を聞き取ることができた。

 

「おいどうする?確か、島を探索するっていうの最初のミッションのはずだろ?」

 

「仕方ない。そのあたりは編集でなんとかするか。しかし、あの大和麻弥って子、すごいな。この状況で、よく冷静にあんな判断ができるもんだ」

 

どうやら、麻弥ちゃんが先回りしてミッションを言ってしまった為に戸惑っていたらしい。スタッフさんの言う通り、麻弥ちゃんの判断力は凄い。私だったら、絶対にそんな判断はできなかったでしょう。麻弥ちゃんの意外な長所を垣間見た瞬間だった。

 

「そうですね、わかりました。では、皆さんに島を回る時間を与えますね」

 

「ありがとうございます!では、直射日光をさけて、森を通っていきましょう。強い日差しに当たっていると、それだけで体力が奪われてしまいますから」

 

私達は、そんな麻弥ちゃんの背中を追って島の探訪に向かうのだった。心なしか大きく見えるその背中を追って。

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間ほど歩いただろうか?島を一周歩くことが出来た私達は、木陰で少しばかりの休憩を取っていた。勿論、私は座ることができないので立ったままだけど。

 

「ひとまず、これで島は一周しましたね。特に危険なところはなさそうでよかったですね。それじゃあ、島の内側も調べてみましょうか?」

 

「はい!わかりました!あれ?皆さん見て下さい!向こうに、何か見えますよ!」

 

そうイヴちゃんが言う。その指差す先にあったものは、小屋だろうか?木造の建物のように見える。

 

「あれは、小屋のようですね。中を調べて安全そうなら、あそこを拠点にしましょうか?」

 

「よーし!あたしがいちばーん!」

 

「あ、日菜ちゃん!先にいったら危ないよ!待って!」

 

駆け足で進む日菜ちゃんを追いかける私達。日菜ちゃんに続いて中に入る。小屋の中は思っていたよりも綺麗だった。少し埃っぽくは感じるが、ここは無人島。そんな贅沢は言っていられない。休める建物があるだけ有り難い。

 

「ここなら、マヤさんの言う通り、拠点にできそうです!」

 

「そうですね。それじゃあ皆さん、少しここで休憩して、これからの計画を・・・」

 

「ちょっと待って下さい!」

 

「え?」

 

私達が本格的に休憩に入ろうとしていた時だった。小屋にスタッフさんの声が響き渡ったのは。心なしか、その声からは強い気迫を感じた。

 

「ここでお待ちかねの、第一ミッションです!」

 

「え?小屋に着いた途端いきなり!?」

 

おそらく、先ほど麻弥ちゃんにミッションのスタートを遮られてしまったせいだろう。気合のこもった宣言だった。その気合が空回りしているような気もしないでも無いけれど、今は置いておこう。

 

「それでは発表します。最初のミッションは、自分達で食べるものを集めるです」

 

「食べ物集め、兵糧攻めですか?」

 

「イヴちゃん、それはちょっと違うわよ。それよりも、やっぱり飲み物以外は自力でなんとかするしかないみたいね」

 

「それならまかせて!食べ物を集めるのなら、きっと私の持ってきた図鑑が役に立つよ!」

 

食べ物集め。私が今回の収録にて最も危惧していた部分だ。最初、私は食べ物ぐらいは用意してくれていると高をくくっていた。しかし、実際にはそんなに甘い収録では無かった。渡されたのは飲み水だけ。食料になるようなものは何も無かった。その時点で、ミッションの中に食料集めが存在するだろうと予想を立てていたけれども、どうやら最初のミッションとして提示されるらしい。実際には最初では無いけれども。

 

だけど、その窮地もまさかの彩ちゃんのファインプレーでなんとかなるかもしれない。図鑑を選んで持ってくるなんて、彩ちゃんも中々良い働きをする。

 

「彩さん、ちょっと見せて下さい。これは凄いですね!食べれるものかそうでは無いものか、わかりやすく載っています!」

 

「さすがアヤさんですね!」

 

「彩ちゃんやるー!」

 

「えへへ、皆の役に立ててよかったよー!」

 

本当に役に立った。それこそ、私なんかの何倍も。ダメね。自分で言ってて少し悲しくなってきた。

 

「では、食べ物を取りにいくメンバーを決めましょうか」

 

「え?皆で行こうよ-。そっちの方が楽しいよ?」

 

「そうだね。皆で行った方が、たくさん食べ物が見つかると思うし」

 

「確かにそうですけど、ジブン達にはまだ土地勘がありません。そんな状況下で全員探索に出て、もし遭難でもしてしまったらミッションの達成は不可能になってしまいます。ですので、ジブンは何人か待機しておくべきだと思います。そちらの方が、今後のミッションの達成率向上にも繋がるはずです」

 

なるほど。本当によく考えている。冷静に、最善の手を考えて提示してくれている。麻弥ちゃんは、サバイバルの経験でもあるのかしら?

 

「うん、麻弥ちゃんの言う通りだね!それじゃあ、早速班分けしよう!待機する人は誰にする?」

 

「うーん、そうだねー。とりあえず、彩ちゃんは残った方がいいと思うな」

 

「え!?なんで!?」

 

「それなら、私は彩ちゃんと一緒に残るわね。彩ちゃんに何かあったら心配だから」

 

「千聖ちゃんまで!?」

 

「アヤさん、たくさん食べ物を集めてきますので、楽しみに待っていて下さいね!」

 

「イヴちゃんも!?なんで私は待機班って決まってるの!?」

 

「皆さん、彩さんのことが心配なんですよ。彩さんは、ジブン達を信じて待っていて下さい」

 

「ううっ、嬉しいけど、なんか複雑だよー!」

 

おそらく、皆の胸中は同じでしょう。彩ちゃんに余計なことをさせてはいけない。彩ちゃんの分も皆で力を合わせて乗り切ってみせる。彩ちゃんがやる気に満ちているときは、逆に心配になってしまう。これは私達の共通認識でしょう。そして、班も決まったことで、私と彩ちゃんを残し、皆が小屋から出て行く。急に静かになる小屋。物音一つしない空間。さっきまで歩きっぱなしで少し疲れていたため、その静けさが有り難かった。食料を探しに行ってくれてる皆には悪いけれど、少し休憩させてもらおう。

 

「皆大丈夫かな」

 

彩ちゃんが不意に呟く。確かに皆のことは気にならないと言えば嘘になる。だけど私は、然程心配はしていなかった。

 

「大丈夫よ。麻弥ちゃんもいるのだから」

 

そう。麻弥ちゃんがいる。その事実が今は心強かった。麻弥ちゃんがいればきっと皆難なく帰ってこれる。そんな安心感が今はあった。

 

「そうだよね。今日の麻弥ちゃん凄かったもんね。きっと大丈夫だよね。・・・ひっ!」

 

そんな話を彩ちゃんとしているときだった。急に彩ちゃんが何かに怯えたような声を上げた。その視線は私の足下に向けられているように感じる一体どうしたのだろうか?

 

「彩ちゃんどうかしたの?」

 

「あの、千聖ちゃん。驚かないでね。今、千聖ちゃんの足下に大きくてウネウネした虫がいるの」

 

「・・・へ?」

 

彩ちゃんが何を言っているのか理解するのに、私は数秒の時間を要した。恐る恐る自身の足下に目を向ける。虫だ。どこからどう見ても立派な虫だった。360度ひっくり返して見ても、立派な虫だった。芋虫だろうか?おそらくそうだろう。私の足下を、徐々にこちらに近づいて這ってきている。見間違いでも幻覚でもなんでも無い。これは現実。夢でも妄想でも何でも無い。これは現実。現実なのだ。そう気づいたときには、芸能人白鷺千聖としての私は完全に消え去っていた。

 

「きゃああああああああああああああああ!」

 

今この場にいるのは、只の女子高生白鷺千聖だ。虫が大の苦手な、どこにだっている女子高生の白鷺千聖だ。もはや私は泣き叫んで、心の中で願うことしかできなかった。助けて、雅と。

 

「千聖!どうしたの!?」

 

程なくして願いは届いたのか、小屋の戸が開かれ彼が入ってきた。私はその姿を確認するなり、形振り構わずに突撃することしか出来なかった。彼の胸の中に顔を埋め、只管に泣きじゃくる。もはやそこには、演技派女優としての白鷺千聖は一欠片も存在していなかった。これは決して演技などでは無い。素だ。恋する女子高生、白鷺千聖としての素の姿だ。愛しの彼の胸の中で泣くことしか出来ない、無力な女の姿だ。

 

「み、雅ぃ・・・」

 

そして、か細い声で彼の名前を呼ぶ。本当にこれは私の声なのだろうか?思わず自分で疑ってしまいそうになる。

 

「えっと、千聖、何があったの?」

 

「う、ううっ・・・」

 

「・・・うん、ダメそうだね。彩ちゃん、何があったの?」

 

「あはは、実は、千聖ちゃんの足下に、急に大きな虫が現れて・・・」

 

「ああ、虫か・・・」

 

それだけで、雅は全てを察してくれたのだろう。当然彼は、私が虫を大の苦手にしていることは知っている。直ぐに虫を追い払おうと行動に移ってくれている。だけど、私は恐怖のあまり、雅にしがみついて離れられずにいた。動きづらそうに行動する雅。申し訳ないと思いつつも、私は終始離れることができなかった。

 

「よし、これでもう大丈夫だよ」

 

「え、えぇ、ありがとう、雅」

 

「あはは、千聖ちゃん、顔真っ赤だよ」

 

「彩ちゃん?」

 

「ひっ、ごめんなさい・・・」

 

虫がいなくなったのを確認して、私にも平静が戻ってくる。平静が戻ってくると同時に、今まで感じていなかった羞恥心が湧いてくる。この場に雅しかいなかったのならば何も問題なかっただろう。だけど、この場に彩ちゃんもいたことが私の羞恥心を加速させた。恥ずかしい。まさか彩ちゃんにこんな姿を見せてしまうなんて・・・

そんな私をからかおうとしてきた彩ちゃんに釘を刺すのは忘れない。

 

「二人ともただいまー!いっぱい食料集めてきたよ-!」

 

「アヤさん、チサトさん見て下さい!果物をこんなに見つけましたよ!」

 

「お、おかえりなさいみんな。ぶ、無事で本当によかったわ」

 

「千聖さん、どうかしたんですか?顔が真っ赤ですけど?」

 

「実は千聖ちゃんがね」

 

「彩ちゃん?」

 

「ひっ、な、なんでもないよ。あはは」

 

「ふーん、おかしな彩ちゃん」

 

帰ってきた皆の手には山ほどの果物が抱えられていた。それこそ、食べきれないほどの。流石に採ってきすぎじゃないかしら?後、彩ちゃんには改めて釘を刺しておくことを忘れない。これは帰ったら口止めりょ・・・プレゼントを贈る必要がありそうね。

 

「それより、みんな大丈夫だったかしら?迷ったりしなかった?」

 

「それが、マヤさんのお陰で全然迷わなかったんです!」

 

「うん!またまた麻弥ちゃん大活躍だったんだよ!」

 

「べ、別に大したことをしたわけでは・・・」

 

「ふふっ、それじゃあ、採ってきてもらった果物を食べながら、麻弥ちゃんの活躍を聞きましょうか」

 

「そうですね!腹が減ってはイクサはできぬ、と言いますからご飯にしましょう!」

 

そして、私達は麻弥ちゃんの大活躍の話を聞きながら食事にありついた。皆が採ってきてくれた果物は、見たことが無い種類ながらも、絶品だった。ほどよい甘さが口の中に広がる。そして聞かされた麻弥ちゃんの話はまたも大いに感心させられる内容だった。今日一日で、麻弥ちゃんには何度驚かされただろう?おそらく、その数はまだ増えるのだろう。

 

「ごちそうさま!とっても美味しかったね!皆、本当にありがとう!」

 

「いえいえ、お役に立ててよかったです!次のミッションも、この調子でいけたらいいのですが・・・」

 

食事を済ませた私達。それを見計らったかのようにスタッフさんが近づいてくる。おそらく、次のミッションが告げられるのでしょう。そしてその予想は見事に的中することとなる。

 

「皆さん、第一のミッションクリアおめでとうございます!それでは、早速ですが次のミッションに行きたいと思います。次のミッションは、幻の花畑を探せです」

 

「幻のお花畑?どこにあるんだろう?この島、結構広いし、見つかるのかな?」

 

「うーん、何かヒントって無いのー?」

 

「それでは一つだけ。この小屋から向かって南にあります」

 

「南・・・」

 

「まずは方向を把握する方向を探さないといけないわね」

 

「あたしはあっちだと思うな。勘だけど!」

 

「日菜さんの勘は信用してますが、ここで方角を間違えてしまうと、時間のロスになりますし、遭難の危険もあります。ここは、とりあえず一度外に出て、何か手がかりを探しましょう」

 

幻の花畑。本当にそんなものがこの島に存在するのだろうか?こんな一見花畑とは無縁そうな無人島に。ヒントは南の方角。方角が正確にわかる場合はもはや只の答えなのだけれども、今の私達には方角を知る術は皆無。とりあえず、何か手がかりを探すために皆で外に出る。出てはみたものの、本当にどこかに手がかりなんてあるのだろうか?ほう

 

「うーん、何も思い浮かばないわね。麻弥ちゃん、何かあるかしら?」

 

「収録前に腕時計で方角を調べる方法を探していたのですが・・・」

 

「その腕時計が無いですね・・・」

 

「はい。まさか、時計も持ち込みアイテム扱いとは・・・」

 

今回ばかりは、流石の麻弥ちゃんでもお手上げなのかもしれない。もはや、勘にまかせて、適当な方向に歩くしか無いのだろうか?

 

「うーん、木に方角とか書いてあれば簡単だったのにな-」

 

「ん?木で南を知る?あ!」

 

そんなことを本気で考えていたときだった。急に麻弥ちゃんが駆けだし、木の根元に座り込んだのだ。何をしているのだろうか?普通はそういった疑問が浮かぶ場面かもしれない。だけど、今は違った。何をしてくれるのだろうか?そういった期待が私の中で膨れあがっていた。きっと、麻弥ちゃんがこの超難問を攻略してくれるという期待が。

 

「マヤさん。急に座り込んでどうかされたのですか?」

 

「はい。ちょっと木の根元を確認したくて・・・」

 

「根元を?コケくらいしか生えてないと思うけれど・・・」

 

「はい。そのコケを探してまして。コケがたくさん生えているということは、そこには陽が射し込まないってことじゃないですか?ということは、その方角がおそらく北だということです。ただ、一本や二本なら偶然という可能性もありますから、皆さんにも探すのを協力してもらえればより絞り込めると思います」

 

正に、期待通り、いえ、期待以上、想像以上の答えが返ってきた。普通そんな発想が閃くだろうか?木が怪しいと考えても、コケまで辿り着ける人がどれだけいるだろうか?少なくとも、私達には到底無理な話だっただろう。思わず、私達は驚きのあまり黙り込んでしまった。

 

「みなさん、どうかしました?ジブン、何か変なことを・・・」

 

「凄いよ!麻弥ちゃん!」

 

「えぇ、本当に。私だったら、絶対に思いつけなかったわ」

 

「これぞ、達人の域というやつですね!」

 

「そ、そんな対したことでは・・・」

 

「よーし、それじゃあ早速麻弥隊長の指示に従って、コケをさがそー!」

 

「ひ、日菜さん、隊長なんてそんな・・・」

 

そう謙遜する麻弥ちゃん。だけど、日菜ちゃんだけでは決して無い。皆が思っていることだ。今日の私達のリーダー、もとい隊長は麻弥ちゃんなのだと。私達は、そんな麻弥隊長の指示を受けて、木の根元の調査に取りかかる。大体30分ほど調べただろうか?そこで隊長から集合の合図がかかる。

 

「よし、みなさんのおかげで早く終わりました!ありがとうございます!」

 

「それで麻弥ちゃん、南はどっちだかわかったのー?」

 

「はい、皆さんから頂いた情報を参考にすると、こっちのはずです!」

 

その麻弥ちゃんの導き出した方角を見て、周りのスタッフが驚愕に包まれているのがよくわかる。どうやら、正解らしい。私達は、意気揚々と麻弥ちゃんが導き出した道を進み始めた。その歩みに、一切の迷いは存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、やっと着いた!」

 

本当に、やっとだった。ここまで来るのにも苦労があった。吊り橋だ。いかにも危険な匂いを醸し出している吊り橋が目の前に立ちはだかったのだ。その吊り橋を渡る上で、また麻弥ちゃんの大活躍があったのだけれど、今回は割愛させていただく。語る余裕が無いほどに私も疲れ果てていた。

 

「え?みんな、見て、この景色・・・」

 

彩ちゃんに言われ、その景色に目を向ける。それは、正に絶景だった。もっと良い言葉が他にもあるかもしれない。だけどおそらく、いえ、確実にどのような素晴らしい言葉を並び立てても、この景色の前では陳腐に感じることでしょう。色とりどりの咲き乱れる花、空を飛び交う花びらたち、そして見渡す限りの水平線に、その水平線に沈みゆく紅い球体。そう、この美しい風景を言葉にするならば、言葉に出来ないほどの絶景とでも言うのが適切だろう。それ以外に言い様がない。

 

「すごいです・・・ヒラヒラと花びらが舞っていて、まるでカブキみたいです!」

 

「ホントだー!見渡す限りお花だね!るるるるんってきちゃったー!」

 

「ふふっ、こんな景色を見たら、疲れも忘れてしまうわね」

 

「はい!ジブンもすっかり疲れが吹き飛んでしまったみたいです!」

 

「これって、苦労したから余計に綺麗に見えるのかな?」

 

「そんなことないと思います!」

 

えぇ、きっとそれだけが理由では無いでしょう。この景色を目に映せただけでも、今日一日の苦労の甲斐があったのでは無いかとさえ思える。今の私からは、既に疲労という概念が跡形も無く消え去っていた。

 

「皆さん本当におつかれさまでした!ここが皆さんのゴールとなります」

 

その言葉に、私は思わず納得してしまう。この絶景が私達の目の前に浮かんでいるのだ。この絶景を前座に出来るような、そんな最終目的地が存在するだろうか?いや、存在しないだろう。ここが終着駅。そうでないとおかしい。

 

「ゴール?ということはつまり全部のミッションをクリアしたということですか?」

 

「そうです!おめでとうございます!」

 

「ほんとですか!?やったー!」

 

「やりました!みなさん、無事に生き残れましたよ!」

 

「ふぅ、ジブンはなんだか、ホッとしました・・・」

 

「えー、もう終わり-?もっと冒険したかったなー」

 

「そうね、確かにミッションが少なかった気がするわね」

 

「はい。実は、ミッション自体はもっと数多くあったんですけれどもね。麻弥さんが発表するよりも前に次々とクリアしてしまったもので・・・」

 

「え?そうなんですか?」

 

これには流石に驚いた。確かにミッションの数が思ったよりも少ないとは私も感じていた。だけどまさか、最初のミッション以外にも麻弥ちゃんが先回りしてしまったミッションが複数あったなんて。

 

「そ、そうなんですか?基本素人なもので、すみません」

 

「大丈夫ですよ。このままじゃ、番組として成り立たないかもしれないと思いましたけど、麻弥さんが逆に頑張って下さったお陰で、良い番組ができそうです」

 

「そんな、ジブンなんか、全然大したことは・・・」

 

「ううん。そんなことないよ。麻弥ちゃんは本当に凄かった。それこそ、僕も思わず見とれちゃうほどだったよ」

 

「み、雅さん、そんな、ジブンなんか・・・」

 

「あ、雅君いたんだー」

 

「いたよ!最初から!」

 

雅の言葉には全面的に同意する。同意はするけど、ただ一部分だけどうしても引っかかる部分があった。見とれたとはどういうことかしら?確かに、今日の麻弥ちゃんが輝いていたのは認める。だけど、見とれてしまったとはどういうことかしら?これはまた後で追求しないといけないわね。そういう意味を込めて雅に微笑みかけると、雅は何故か震えていた。一体どうしてしまったのかは、私にはわからない。

 

「あ!そうだった!」

 

「彩さん、急にどうしたんですか?急に大きな声を出して」

 

そんなどうでもいい疑問を浮かべていると、不意に彩ちゃんの声がする。その声が大きかったため、少し驚いてしまった。だけど、どうしたのかしら?急に大きな声なんか出して。

 

「新曲だよ!」

 

「新曲?はっ、そうでした!」

 

「全てのミッションをクリアしたってことは・・・」

 

「はい。皆さんの新曲は予定通り発売されます。大丈夫ですね?雅さん?」

 

「はい。皆のお陰で、良いインスピレーションが浮かびました。これなら良い曲が作れそうです」

 

「よかったですね彩さん!ジブンも嬉しいです!」

 

「ううっ、頑張ってよかったよー・・・」

 

「と、言いたいところですが、ここで最後に特別ミッションです!」

 

彩ちゃんに言われなくても、勿論私は覚えていた。そう、今回の収録はその新曲の発売がかかったものだった。雅も無事新曲のイメージができあがったみたいだし、問題なく発売できることでしょう。だけど、そう簡単には問屋が卸してくれないらしい。私達の前に、最後の関門が立ち塞がる。特別ミッションという関門が。

 

「それは、山頂で新曲の告知を叫ぶです!」

 

「山頂で、新曲の告知?」

 

「はい!挑戦するのは一人!出来るだけ大きな声で叫んで下さい!」

 

「一人で、ですか。誰が挑戦しましょうか?」

 

「こういう時はもちろん・・・」

 

そう言う全員の視線は、一人の少女に向いている。彼女以上の適任はいないでしょう。

 

「え?なんでみんな私を見てるの!?」

 

勿論、それは私達のリーダー彩ちゃんだ。この場に彼女以上の適任者がいるのならば、是非聞いてみたい物だ。

 

「頑張って、彩ちゃん」

 

「雅君までー!?」

 

その雅の言葉が止めとなった。渋々と彩ちゃんが山頂に向かう。その背中を見つつ私は今日一日を振り返っていた。数多のトラブルには見まわれたけれども全体的に見て素晴らしい収録になったのではないかと思う。放送自体は、麻弥ちゃんが主役になるでしょう。むしろ、そうでなければおかしい。世間には、また違った麻弥ちゃんのイメージが定着するかもしれない。勿論、良いイメージで。このまま、知的アイドルとして駆け上がれるだろうか?きっと駆け上がるだろう。

 

「それでは彩さん!お願いします!」

 

「ぱ、パスパレの新曲の発売が決まりました-!やったー!楽しみにしててねー!」

 

そんな彩ちゃんの気の抜けるような告知と共に、今日の収録は終わりを迎える。本当に、もっと良い言葉はなかったのかしら?まぁ、彩ちゃんらしくていいかもしれないけれども。私達はその後直ぐに帰り支度を済ませ、その日のうちに島を出た。帰ったらすっかり夜になっている。その日は、心地よい眠りを味わうことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、数週間が経過した。

今日は先日の特番の放送日だ。今日は雅も含めた全員で事務所のテレビに食いついている。番組は、予想通り麻弥ちゃんを中心とした内容に仕上がっていた。サバイバル初心者だという麻弥ちゃんの驚愕の知的アイデアの数々が紹介されていき、放送を見ながら麻弥ちゃんは終始恥ずかしそうにしていた。

そんな中での、小屋に繋がるシーンでのことだ。

 

「ここで私達放送班は、Pastel*Palettesの誰にも伝えていないあるドッキリをとあるメンバーに仕掛けてみた」

 

そんなナレーションと共に、小屋へと駆け足で走る日菜ちゃんと、それを追いかける私達の姿が映し出される。ドッキリ。何のことだか、私には最初さっっぱり理解できなかった。皆も反応からして、疑問符を浮かべていることがよくわかる。

 

「我々放送班は、そのとあるメンバーに関する街角イメージを調査した。その結果を見ていただきたい」

 

「なんだか、落ち着いていて年齢の割に大人びている印象ですね」

 

「どことなく計算高そうな気がしますね」

 

「そうですね。なんとなくプライドが高そうな気がします」

 

「等々、全体的に見ると大人びているといった印象が多かった。そのメンバーの名は・・・白鷺千聖。彼女だ」

 

「え?私?」

 

最初、このナレーターが何を言っているのかも理解できなかった。どこか他人事のように放送を聞いていると、急に私の名前が出てくるのだから驚いた。

 

「チサトさん、収録で何かあったのですか?」

 

「いいえ、何も無かったと思うけれども・・・まさか」

 

そこで一つの可能性に私は行き着く。あった。確かに小屋で一騒動あった。まさか、あれが?そんなわけがない。もしあれが地上波で映し出されたとなると、世間の私のイメージが。そんなわけがないと祈り、画面に目を戻す。

 

「今回我々がドッキリを彼女に仕掛けるに当たって、とある人物に協力を依頼した。誰もが知っている、大物司会者大木内マリ氏だ。彼女は、白鷺千聖とも面識が深く、芸能界では親子のような関係を築いているという。そんな彼女に、今回白鷺千聖の弱点を聞いてみた」

 

「千聖ちゃんの弱点?それなら虫ね。あの子はあぁ見えて虫が大の苦手なのよ。昔は小さな蜘蛛が出たぐらいで怖がって私に泣きついてきた物よ。あ、そうそう。もし番組内であの子にドッキリを仕掛けたいのなら、番組の内容はなるべくあの子に言わないことね。あの子は一流の女優よ。あの子は放送の内容から、自分が求められている役を模索して、その役を演じることが出来るの。そんな状態でドッキリを仕掛けても、役を演じてるあの子相手なら効果は薄いわよ。役に徹することで回避されるわ。だけど、その情報があまりにも希薄な場合、あの子は求められている役を導き出すことが出来ない。つまり、素のあの子が出てくるのよ。ドッキリを狙うなら、そういう状況を作りなさい」

 

「という貴重な情報を我々は得ることに成功した。その提供していただいた情報通り、彼女には極最低限の情報以外は提供せずに収録に挑んでもらった。そんな彼女に対して行うドッキリの内容は至ってシンプルだ。狭い小屋の中で、急に苦手な虫が現れるというものだ」

 

「消して!今すぐテレビを消して!」

 

私は、その放送内容を聞くと同時に、思わず叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。この後に行われるのは、私に対する公開処刑以外の何物でも無い。そんな取り乱して、暴れる私を日菜ちゃんが取り押さえる。

 

「なになにー?あの小屋でなんかあったのー?あたしすっごく気になるなー」

 

言葉にはしないが、イヴちゃんと麻弥ちゃんも日菜ちゃんと同じ気持ちなのだろう。その目がこの先の内容が気になると訴えている。この後の展開を知っている彩ちゃんは、どうしたらいいのかわからずワタワタとしており、同じく知っている雅は、頭を抱えて、

 

「そうか。あの時の良い()が撮れたってこの()のことだったのか・・・」

 

なんて訳のわからないことを呟いている始末。そして、ついに放映が始まってしまう。

 

「我々は、このミッションにて白鷺千聖を小屋に残す策略をいくつか用意していたのだが、幸運にも彼女は自ら小屋に残る選択をしてくれたので、その計略は使用せずに済んだ。そして、スタッフが立ち去る瞬間、小屋内に大型の芋虫をバレないように放ち、準備は完了となる。ここからは、小屋に仕掛けられた隠しカメラの映像をご覧頂きたい」

 

「彩ちゃんどうかしたの?」

 

「あの、千聖ちゃん。驚かないでね。今、千聖ちゃんの足下に大きくてウネウネした虫がいるの」

 

「・・・へ?」

 

「白鷺千聖の口から出たとは思えない間抜けな返事を発する。もう一度言おう。彼女は間違いなくあの白鷺千聖だ」

 

「きゃああああああああああああああああ!」

 

「そしてこれまた、白鷺千聖とは思えない悲鳴が小屋に響く。何度も言うが、彼女は間違いなく白鷺千聖だ」

 

「千聖!どうしたの!?」

 

「そして、ここで登場したのは今回の収録に別の目的で参加していたシンガーソングライターの黒城雅だ。彼の登場は、我々放送班としても予想外な展開だった。しかし、この後の展開を考えると、実に素晴らしいハプニングだったのではないかと思う。なんと、白鷺千聖がいきなり、黒城雅に抱きついたのだ」

 

「み、雅ぃ・・・」

 

「更にはか細い声まで上げる始末。名前で呼び合ってる姿を見る限り、彼女達は実に仲が良いのだろう。そういえば、最近では彼女達が交際しているのでは無いかという噂も囁かれていた。あの噂は真実だったということだろうか?」

 

「もう良いでしょ!これ以上はやめてええええええええええ!」

 

私は、これ以上はガマンできないと、日菜ちゃんの拘束を無理矢理振り切ってテレビの電源を切る。だけど、それはあまりにも遅すぎた。その上、私は混乱のあまり、この時失念していた。この番組は地上波で全国放映されている。つまり、この一台を消したところで他の世帯の電波には映像が映っているということを。

 

「へー。あの時小屋でそんな面白いことしてたんだ-」

 

「こ、これは千聖さん、あのその、すみません、なんと言えばいいのかジブンにはわからにです・・・」

 

「きっと、ご愁傷様、ではないでしょうか?」

 

「イヴちゃん、それは縁起が悪いよ。わ!凄いよ!今放映されたばかりなのに、ネットではもう凄い話題になってる!」

 

そう言って、携帯で私のことを検索する彩ちゃん。嫌だ。今私のエゴサなんて絶対にしたくない。

 

「えっと、白鷺千聖ってなんだか近寄りがたいような雰囲気があったけど、急に親しみやすく感じるようになったよ、だって」

 

「こっちには、白鷺千聖と黒城雅が付き合っているっていうあの噂本物だったんだな。正直、黒城雅が羨ましい。ってかかれてますね」

 

「白鷺さん。どうか雅様のことよろしくお願いします。という書き込みもあります!」

 

「あはは、皆祝福してくれてるみたいだよ!よかったね二人とも」

 

「日菜ちゃん、そういう問題じゃないんだよ・・・」

 

そう言って頭を抱える雅。私も今すぐに頭を抱えたい。

 

「えっと、千聖ちゃん。その、気をしっかり持ってね?」

 

これが気をしっかり持っていられるだろうか?いや、いられるわけがない。もはや私は、叫ばずにはいられなかった。

 

「こんなことなら、地上波なんていらないわよ!」

 

その放送の反響はあまりにも大きかった。某SNSツールでは、白鷺千聖と黒城雅がトレンド入りするほどだ。そして、その日を境に私の世間からのイメージは大幅に変わるのだった。

こんなイメージいらないわよ・・・




どうもソウリンです
千聖編は長くなると言ったな?
長くなりすぎたよ!(過去最長大幅更新
はぁ、ほんとはもっとコンパクトに纏めたかったんですけどね。
コンパクトに纏めてもたかがしれていたので、いっそのこと開き直っちゃいました
てへ♪(きもい
さて、今週はついに7thライブですね。自分はチケット見事に落選したので3日間LVで参戦します(涙目
思えば、前々回の投稿って6th前だったんですね。まぁ、前回は今回とセットの回なので、実質前回投稿がですね
いやーそう思うとかなり開きましたね(遠い目
まぁ、バンドリのライブスパンg短すぎる気もしますけどね
あ、次回の投稿が8th直前とかにならないように頑張ります(白眼
まぁ何はともあれ、参戦する人は現地組もLV組も一緒に盛り上げていきましょう!
そして、今回のサブタイトルはけいおん!!より、NO,Thank You!です
豊崎愛生さん繋がりなのは間違いないですけど、メインボーカルではありません(白眼
メインは、我らがソイヤ姐さん日笠陽子さんですね
自分がけいおんシリーズで一番好きな曲です。ほんっとうに神曲ですね
いつかガルパカバーしてくれると信じてます
では、今回はこの辺で
次回は雅編です。またもとあるイベントストーリーのお話です。
今週はライブ等で忙しいので、目標は3月4日午前0時にしておきます。
あ、それはそうと3月3日は雅君の誕生日ですよ(一度だけ作中で触れてる
雅君のこと今後ともよろしくお願いします
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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