君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第39話です
雅編です


第39演目 歌うたいのバラッド

それはある日の放課後のことだった。

オレンジ色に彩られた商店街を僕は一人歩いていた。

オレンジ色に染まった街。決してこれは夕日が理由では無い。カボチャだ。カボチャのランタンが街のいたる場所に飾られているのだ。

そう。ハロウィンだ。今年もこの時期がやってきたのだ。とは言っても、今日がその日というわけでは無い。明日だ。明日がハロウィン当日。前日の今日からその準備で街が衣替えしているのだ。

 

「あら?あなたもしかして(まさ)じゃない?」

 

今日は仕事が入っていないため、家に帰ろうと思っていた時だった。僕の背後からそのような声が聞こえてきた。(まさ)?今の声は確かに僕に向けられて発された気がした。だが、(まさ)とは一体どういうことだろうか?人違いだろうか?と考えて後ろを振り向き、そこで納得する。

 

そこに立っていたのはこころちゃんだった。こころちゃんが腰に手を当てた状態で堂々と立っていた。そういえば、彼女には、正確には彼女のバンドには一度そのように名乗った記憶がある。確か、その時は勘違いされたまま別れた記憶がある。どうやら彼女はまだ勘違いしたままのようだ。そして、彼女の後ろから息を切らせて追いかけてくる人物が見受けられる。どうやら美咲ちゃんのようだ。彼女は今日も苦労が絶えないようだ。

 

「こころ、待ってって。あー、今日はミッシェルじゃなくてよかった・・・ってあれ?」

 

「美咲!(まさ)だわ!(まさ)がまた日本に来てたのよ!」

 

「あー、違うよこころ。その人は正真正銘の黒城(みやび)さんだよ」

 

「あら?そうなの?それじゃ初めましてね!あたしは弦巻こころよ!あなたが雅なのね!あなたのお話は皆から聞いているわ!」

 

「あーこころちゃんね。えっと、弟から話は聞いてるよ。よろしくね。美咲ちゃんも久しぶり」

 

「はいお久しぶりです。それとご迷惑をおかけします」

 

その美咲ちゃんの言葉に思わずため息が出てしまいそうになる。まるで、今から何か僕にとって迷惑になるようなことが起こるとでもいいたげな言葉に。前回の彼女との会合では本当に大変な目にあった。まぁ根本的原因は僕の幼なじみ、いや僕本人にあったのかもしれないが。いや、僕は悪かったのだろうか?こればかりは答えが出ない永遠の謎といえるだろう。

 

「そうだわ!雅、あなたもハロウイン競争に参加しなさい!」

 

「ハロウィン競争?」

 

「あはは、そうなると思ってたよ・・・雅さん、あたしから説明しますね」

 

僕は、美咲ちゃんからハロウィン競争についての詳細を聞いた。美咲ちゃんの説明を要約するとこうだ。こころちゃんが何かハロウィンらしい事をしたいと言い始める。そして色々試行錯誤した末、偶々出会ったポピパの沙綾ちゃんとりみちゃんを巻き込んで、二人一組のチームで誰が商店街の人に最も多くお菓子をもらえるか競争をするらしい。沙綾ちゃんは都合が合わないので不参加らしいが。

 

そして、他にも参加してくれるメンバーを探して今商店街を走り回っていたらしい。その結果、Afterglowの巴ちゃんとひまりちゃんが参加してくれることが決まったらしい。後、沙綾ちゃんがいなくなたけど、りみちゃんのパートナーになる代わりの人は決まっているらしい。誰かはわからないけど。

 

「なるほど。事情はわかったよ」

 

「雅さん。無理ならはっきりと断って下さって大丈夫ですよ。雅さんは芸能人としての立場もあるでしょうし、仕事の都合もあるでしょうから」

 

「うーん、そうだね。僕個人としては参加しても問題無いんだけど、パートナー次第かな?」

 

僕としては、明日も特に仕事が入っていないので参加するのに問題はない。だけど、問題はパートナーだ。まぁ、僕の場合パートナーとして誘うのは必然的に千聖になるわけだが、その千聖が問題だ。別に、千聖に仕事が入っているわけでは無い。一応、千聖のスケジュールは把握しているが、確か明日はオフだったはずだ。

 

問題は、千聖の意思だ。僕が知る限り、彼女はこういう催しには参加したがるタイプでは無い。芸能人として、あまり人前で目立ったことをしたがらない彼女がはたして快く参加してくれるだろうか?

 

「まぁ、千聖に聞いてみるよ。参加できそうな場合は明日行くということで」

 

「わかったわ!仮装もしてくるのよ!」

 

「仮装?」

 

「あはは、一応ハロウィンなんで・・・あ、できたらでいいので」

 

「うん、まぁ考えておくよ」

 

「そう?期待しているわね!それじゃ、行きましょう美咲!」

 

「あ、ちょっと走らないでって・・・雅さん本当に無理だったら遠慮無く断って下さっていいですから」

 

「うん。その点は心配無いよ。千聖が無理って言ったら潔く断るさ」

 

「そうしてください。それじゃ。ちょっと、こころ待ってって・・・」

 

その言葉を最後に、人混みの中に消えていく美咲ちゃん。どうやら、彼女の苦難は終わらないらしい。

 

「さて、千聖はなんて言うかな」

 

正直、参加する可能性は低いと思っている。まぁ、こころちゃんとも約束してしまったので、誘うだけ誘ってみよう。その結果、断られてしまった場合は仕方が無い。美咲ちゃんも言ってくれていたし、遠慮無く断らせてもらおう。僕は、その後千聖をどのように誘うか考えながら家路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハロウィン競争?」

 

家に帰り、晩飯を終えた僕は、早速千聖に声をかけてみることにした。帰り道で、色々と千聖に効果的な誘い方を考えてみたけれども、何も思い浮かばなかったので結局直球的に誘ってみることにした。そんな言葉考える力僕には無い。

 

「うん。今日の帰り道でこころちゃんと美咲ちゃんに誘われてね。二人一組のチームで誰が商店街の人に一番お菓子をもらえるか勝負するんだって」

 

「そう。雅は参加したいの?」

 

「そうだね。折角誘ってもらったんだから、どちらかと言うと参加してみたいかな。まぁ、こころちゃん達には千聖次第とは言ってあるけれども」

 

「そうね・・・」

 

そう呟いて、下を向いて何やら考え込む千聖。どうやら、即却下という展開は逃れたらしい。だが、それでも最終的には断られる。そう僕は考えていた。

 

「いいわ。参加しましょう」

 

「え?」

 

だからこそ、この千聖の返答に思わず驚いてしまった。まさか、そんな答えがいきなり返ってくるとは思っていなかったのだから。

 

「あら?私が参加するのはご不満だったかしら?」

 

「あ、いや、そういうつもりじゃなくて・・・」

 

「ふふっ、冗談よ。そうね。普段だったら断っていたかもしれないわね。芸能人として軽率な行為は取れないもの。だけど、今回は特別よ。時間が無いのよ」

 

「時間?」

 

「・・・いいえ。なんでもないわ。ごめんなさい。さぁ、そうと決まったら仮装を考えないといけないわね。ハロウィン競争ということは、皆仮装してくるのでしょう?」

 

「あ、うん。そうだね」

 

僕は、千聖の言葉に疑問を覚えたが、今は聞かないことに決めた。僕が知る必要のあることならば、彼女は言ってくれるだろう。だけど、彼女は言わなかった。それは僕が知る必要の無い情報だということに違いない。気にはなる。だけど、こういう場合の彼女は決して内容を語ろうとはしない。だから、聞かない。僕は、その後そんな会話の内容なんてすっかり忘れて、仮装の内容を千聖と模索していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日の放課後となった。僕と千聖は、考えた結果事務所から仮装を借りることにした。事務所からは案外スムーズに許可が出たのでビックリした。まぁ、その見返りに仮装した僕達の写真を事務所のホームページに載せるらしいが。先日の無人島放送以降、僕と千聖の記事や写真をホームページに載せると反響が大きくなったらしい。正直、あの番組のことは思い出したくもないけれども。

 

そして僕達は、衣装に着替えて商店街に向かっていた。因みに仮装は、千聖が紫をベースにした魔女衣装で、僕が狼男の仮装だ。犬耳までご丁寧に付けられて、ちょっと恥ずかしい。千聖には、れおんみたいで可愛いと言われたけれど。男なのに、可愛いって言われるのはどうかと思う。因みに、れおんとは千聖が飼ってるゴールデンレトリバーの名前だ。

 

「あら?来たみたいね!」

 

こころちゃんだ。集合場所に到着すると、既に多くのメンバーが待機していた。おそらく僕達が最後だろうか?周りを見渡してみる。ジャック・オー・ランタンの仮装に身を包んだこころちゃん。カボチャ柄の服を着たピンクの熊の着ぐるみ。・・・着ぐるみ?なんで着ぐるみがこんなところに?

そして、羽の付いた魔女の仮装をしたりみちゃんと、その横に立った仮面を付けた人物。おそらく薫だろうか?たぶんそうだと思う。

巴ちゃんとひまりちゃんのヴァンパイアコンビもいる。更に、天使の格好をしたあこちゃんと、猫耳と尻尾まで付けた友希那。まさか友希那まで参加するなんて。意外だった。

 

「あ、来て下さったんですね」

 

熊の着ぐるみが話しかけてくる。その声で察したが、どうやら中身は美咲ちゃんらしい。どうしてそんな格好をしているのだろうか?

 

「あ、み、雅さんお久しぶりです。千聖先輩もこんにちは」

 

「おや?これは意外なお客さん達だね」

 

りみちゃんと薫が話しかけてくる。りみちゃんとは本当に久しぶりだ。この前の花女文化祭の時にステージ上から姿は見ていたけれども、直接話すとなると、花火大会以来だろうか?あまりポピパの皆とは会えていない気がする。薫は久しぶりというわけでも無い気がするが、薫の言う通り、僕達の登場は意外だっただろう。僕自身そう思っているのだから。

 

「おっと、これは強敵登場だな」

 

「み、み、み、雅様も参加するの!?」

 

そして、巴ちゃんとひまりちゃん。彼女達とは羽女文化祭以来だ。そんなに久しぶりな気はしない。相変わらずひまりちゃんには崇拝するような目で見られている。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。

 

「雅、あなたも参加するのね」

 

「み、み、み、雅様も参加するの!?」

 

友希那とあこちゃんだ。Roseliaのメンバーとは定期的に合同練習を行っているので、久しぶりというわけでは無い。友希那とも定期的に音楽談義を行っている仲だ。あこちゃんには、毎回同じ反応をされてる気がするけど。そもそも、ひまりちゃんと反応が完全に被っているわけだが。

 

「うん。皆よろしくね」

 

「ふふっ、お手柔らかにお願いね」

 

「それじゃ、早速始めましょ!」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

こころちゃんが競争を開始しようとした時だった。それに待ったをかける人物が現れた。あこちゃんだ。

 

「はい!さすがにちさと先輩と雅様のコンビは強すぎると思います!だって二人とも有名人ですよ?だから、あこは平等にするためにチームをクジで決めることを提案します!」

 

そう提案するあこちゃん。クジで?そうなると、千聖以外の人と組むことになるかもしれないわけか。

 

「あこちゃん!それナイスアイデアだよ!」

 

「いいわね!面白そうだわ!」

 

「はー、あんたならそう言うと思ったよ・・・」

 

乗っかるひまりちゃんに、賛同を示すこころちゃんと、諦観したようなため息をつくピンクの熊、いや美咲ちゃん。こういうことにはもう慣れてしまっているのだろう。

 

「それじゃ、クジを用意しないといけないわね!」

 

「ふっ、それならもう用意したよ」

 

そう言って、自身の懐から十本の割り箸を取り出す薫。その先端には五色の色が塗られている。いつの間に用意したのだろうか。

 

「すごいわ!怪盗さん!それじゃ、早速皆で引きましょうか!」

 

「はー、あたし以外に誰があんたの面倒見るんだ・・・」

 

「うー、緊張するよ・・・」

 

「心配することは無いさ子猫ちゃん。運命とは、最も相応しい場所へと魂を運ぶもの。つまり、そういうことさ」

 

「お願いします。雅様と、雅様と組ませて下さい。神様仏様みや神様!」

 

「おいひまり。もしかしてアタシのこと忘れてないか?」

 

「お願いします。雅様と組ませて下さい。一生のお願いです!」

 

「あこ。もしかして貴方、私のこと忘れてないかしら?」

 

皆が様々な反応を示している。さて、僕は誰と組むことになるのだろうか?そして千聖は誰と組むことになるのだろうか?ちょっと楽しみだったりする。

 

「誰と組むことになるのかな千聖?」

 

「・・・そうね」

 

「千聖?」

 

千聖から返ってきた返事にはなんだか元気が無かった。気になって彼女の方を見てみると、その表情もなんだか暗い気がする。

 

「・・・いいえ、なんでもないのよ」

 

そう言う千聖の顔には、既に笑顔が戻っていた。僕の気のせいだったのだろうか?だと良いのだが。そして僕達はクジを引いていく。その結果決まったチームが・・・

 

「さぁ!いっぱいお菓子をもらいに行くわよ!」

 

「こころと一緒か。面白くなりそうだな!」

 

こころちゃんと巴ちゃんペア。

 

「美咲ちゃんと一緒で良かったぁ・・・」

 

「あはは、あたしもりみと一緒で安心したけど、宇田川さん大丈夫かな・・・」

 

りみちゃんと美咲ちゃんペア。

 

「わーん!雅様と組みたかったのにー!」

 

「はぁ、良い考えだと思ったんだけどなー・・・」

 

ひまりちゃんとあこちゃんペア。

 

「友希那とか。よろしくね」

 

「えぇ。やるからには頂点を目指すわよ」

 

僕と友希那ペア。

 

「おや?暗い顔をしてどうしたんだい子猫ちゃん?」

 

「はぁ、なんでもないわ」

 

薫と千聖ペア。

以上の五チームだ。

 

「さぁ、それじゃ始めましょ!」

 

「はーい、時間を設けないと際限が無くなっちゃうので、制限時間は一時間とします」

 

「それじゃ、スタートよ!行くわよ!巴!」

 

「おう!」

 

その言葉と共に、こころちゃんと巴ちゃんが駆けていき、あっという間に人混みの中に消えてしまう。凄いスピードだ。

 

「それじゃ、僕達も行こうか」

 

「そうね」

 

そして僕達もそれに遅れて人混みに入っていく。商店街は多くのお客さんで賑わっていた。毎年この日はいつもそうだ。ハロウィンが日本社会に浸透してきた近年、全国各所でハロウィンに因んだイベントが執り行われている。その一環として、この商店街は道行くお客さんまでもが全員お菓子を持参して歩いている。いつでも誰かに渡せるようにだ。なので、態々お店を回らなくても、道行く通行人に声をかければお菓子ぐらいもらえる。もらえるのだが・・・

 

「友希那。ほら、誰かに声をかけてよ」

 

「嫌よ。雅にお願いするわ」

 

「僕も、知らない人に声をかけるのはちょっと・・・」

 

もらえるのだが、声をかけなければ意味が無い。そんなことぐらい、僕達もわかっている。わかっているのだけど、声をかけれずにいた。僕も友希那も、見知らぬ人に気軽に声をかけることができるタイプでは無かった。二人して、気ままに商店街内をうろついているだけ。これじゃなんの意味も無い。

 

「そもそも、雅あなた有名人よね?なんで誰もあなたに声をかけないのよ?」

 

「あはは、千聖が言うには普段の僕には芸能人オーラが全く無いらしいよ」

 

その影響で、街中で僕が声をかけられるのは希有なことだ。開始前は、今日は仮装までして目立ってるんだから、もしかしたら気づかれるかもしれないなんて思っていたけれど、よく考えれば今日仮装しているのは僕だけでは無い。僕達以外にも、仮装している人が商店街には大勢いる。そういう人達の影響で仮装効果も帳消しになっているようだ。誰にも気づかれる気配が無い。

 

「あら?友希那!雅!調子はどうかしら?」

 

そして途方に暮れていた僕達に話しかけてくる声が聞こえてきた。こころちゃんだ。その後方から、走ってくる巴ちゃんの姿も見える。

 

「はぁ、はぁ、ちょっと待てってこころ!なんでそんなに速いんだよ・・・」

 

巴ちゃんは息を切らせてこちらに向かってくる。見るからに巴ちゃんは運動ができそうだ。そんな巴ちゃんが息を切らせて追いかけてきているというのに、追われるこころちゃんは息を乱すどころか汗をかいているようにも見えない。こころちゃんの身体能力の異常さがわかる。

 

「はぁ、はぁ、あぁ湊さん、雅さん、どうもです・・・」

 

「やぁ、巴ちゃん。大丈夫?」

 

「あはは、さっき美咲にも忠告受けたんですけど、これは尋常じゃ無いですね・・・」

 

「・・・私のクジ運が悪くなくて良かったわ」

 

ごもっともだ。こころちゃん自体は凄く良い子なんだけど、残念ながら今回は只のハズレ枠になってしまっているようだ。

 

「それで、調子はどうかしら?」

 

「あはは、実は全然なんだ」

 

「あら?こんなに人がいるのだから、誰にでも声をかけていいのよ?」

 

「それはわかっているんだけどね」

 

それができないから困っているのだ。できるならお菓子の一つや二つぐらいとっくにゲットしている。

 

「なんだか、そっちも大変そうですね」

 

「えぇ、全くよ」

 

やれやれ使えない相方だとでも言いたそうに呟く友希那。お言葉だけど、これは友希那も同罪である。

 

「ふーん。まぁいいわ!二人も思う存分楽しみましょ!それじゃ、行くわよ巴!」

 

「おい待てって!それじゃ、アタシ達はこれで」

 

そしてまた人混みに消えていくこころちゃん達。僕はその後ろ姿を見て、巴ちゃんの無事を祈ることしかできなかった。彼女は最後まで無事こころちゃんに着いていけるのだろうか?甚だ疑問である。

 

そして、その後も僕達は商店街を二人で歩き回った。しかし、いつまで経っても話しかけられずにいた。友希那に至っては、それはあなたの仕事よと言わんばかりに黙している。

 

「あ、雅さん、湊さん、どうも」

 

「み、雅さん、友希那さん、こんにちは」

 

そして彷徨い歩いていると、今度は着ぐるみを着た美咲ちゃんと、りみちゃんに出会った。その手を見るに、少しずつだが、確実にお菓子は集まっているようだ。

 

「やぁ、二人とも順調そうだね。見たところ、りみちゃんは知らない人に話しかけるの苦手そうだけど、美咲ちゃんが集めてるの?」

 

「確かにあたしが集めたのもありますけど、りみが集めたのもちゃんとありますよ?」

 

「み、美咲ちゃんが傍にいてくれるとなんだか安心して、知らない人にもトリックオアトリートって言えたんです」

 

「やるわね・・・」

 

僕達にできないことを平然とやってのけるりみちゃん。思ったよりも強い子なのかもしれない。少なくとも、僕達よりは。

 

「お二人は、まだ何も集めてないみたいですね」

 

「あはは、知らない人に話しかけるのはちょっとね・・・」

 

「本当に、早く集めてくれないかしら?」

 

「友希那は人のこと言えないからね?」

 

そう返すと、態とらしく僕から視線を外す友希那。先が思いやられる。だけど、りみちゃんだって勇気を出して頑張ってるんだ。僕にだって、やれるはずだ。やれないわけがない。

 

「よし、二人を見てたらなんだかやる気が出てきたよ。ありがとうね」

 

「なんだかよくわかりませんけど、お役に立てたようなら何よりです」

 

「お、お二人とも頑張って下さい」

 

「うん、ありがとうね。それじゃ、いこうか友希那」

 

「えぇ」

 

そして、人混みに消える僕達。なんだかりみちゃんを見てるとやる気が出てきた。今なら上手く話しかけられる気がする。よし、やってみせる。

 

そう思っていたのだけれども、結局は話しかけることができずに、時間ばかりが無駄に過ぎていく。あぁ、結局僕は弱い人間だったようだ。

 

「雅。さっきの威勢はどうしたの?」

 

「何も言い返せないけど、何もしてない友希那には言われたくない」

 

そして、制限時間も残り十分ほどに迫ってきていた。このままでは、0個という衝撃的な記録を作ってしまう。それだけはなんとしても避けたい。もう僕に、手段を選ぶ余裕は無かった。最終手段を選ぶ以外の余裕は。

 

「はぁ。仕方ない。友希那。最終手段を使うよ」

 

「最終手段?」

 

「うん。人に話しかけて注意を引くことが出来ないなら、話しかける以外の方法で注意を引けばいいんだよ」

 

「話しかける以外の方法?そんな方法があるの?」

 

「友希那。僕達はシンガーだよ?シンガーの意思表示なんて一つしか無いでしょ?」

 

「・・・そうね。愚問だったわ」

 

そう。僕達はシンガーだ。歌を歌うのが本職だ。そして、僕と友希那の実力があれば人を惹きつけることなんて容易い。惹きつけてしまえばこっちのものだ。

 

「曲はどうするの?」

 

「そうだね。折角だから人の心にしみるバラード系のナンバーにしようか。僕、Roseliaのあの曲好きだな」

 

「・・・わかったわ。けど、あの曲はデュエットソングじゃ無いわよ?」

 

「即興で合わせるよ。着いてこれる?」

 

「当然よ。私を誰だと思ってるの?」

 

「・・・そうだね。愚問だったよ」

 

そう言って、僕達は互いに不敵な笑みを浮かべた。僕達はシンガーだ。根っからのシンガーだ。そんな根っからのシンガーに、歌うための舞台なんて必要無い。歌いたいと思えば、そこはもうライブ会場だ。例え、そこが商店街であっても。

 

「準備はいいかしら?」

 

「うん。いつでもいいよ」

 

「それじゃ行くわよ。・・・軌跡」

 

そして、僕達の舞台が始まる。演奏するための楽器なんて当然持ち合わせていない。要するにアカペラだ。友希那の声が、僕の声が商店街に響き渡る。響き渡り、道行く人々の耳に届く。すると、一人、また一人と僕達の周りに人だかりができていった。

 

僕達の周りが人で埋め尽くされるのにそう時間は必要無かった。サビに入るまでもなく、三百六十度人の壁が完成する。そして、その壁はサビに入ることによってさらに厚みを増していく。僕達の歌が交わる。声が重なる。互いをさらなる高みへと押し上げる。

 

気持ちいい。それが僕が抱いた最大の感想だった。おそらく、友希那も同じ感想を抱いているのではないだろうか?何故なら、彼女の顔にも僕と同じ笑顔が浮かんでいたのだから。その感情は歌声からも伝わってくる。楽しいという感情と、止めどない高揚感が。

 

そう。高揚感だ。僕達は今、高揚していた。興奮していた。自分達の歌の更なる可能性

に出会えて。友希那とのデュエットは決して初めてというわけではない。定期的に行っている合同練習でも実践していることだ。しかし、客を前にしてというのは初だ。僕達は根っからのシンガーだ。その本領は、客を前にしてこそ発揮される。

 

普段の練習が戯れに過ぎないかのような完成度だった。別に、普段の練習で手を抜いているというわけでは無い。そんなことをすれば、Roseliaのギター担当である紗夜ちゃんにどのようなことを言われることやら。想像もしたくない。練習でも間違いなく持てる限りの力を出し切って取り組んでいる。ただ、その限界値を今は超えてしまっているだけのこと。

 

シンガーとは、いや、シンガーに限らずパフォーマーというのはそのような生き物なのだ。客がいることによって限界以上の力を容易く発揮できてしまう。そんな理不尽な生き物なのだ。とはいえ、そんなことができるシンガーも限られているだろうが。僕と友希那は、間違いなくその枠組みに入っている。現に、今できているのがその証拠だ。

 

僕だって場数を踏んできたプロだ。このような経験をするのは何も今回が初めてというわけではない。しかし、ここまで自身の能力を引き出せたのは初めてだ。おそらく、これも彼女の影響なのだろう。今改めて僕は思う。彼女となら、世界の頂点を容易く狙えると。そんなことを感じている内に、僕達の舞台は幕を閉じていた。

 

「すげーな兄ちゃん達!こんなすげー歌生まれて初めて聞いたぜ!」

 

「あの、もしかして雅様ですか?こ、こんなところでお会いできるなんて・・・」

 

「あれ?もしかしてRoseliaの湊友希那さんですか!?私大ファンなんです!サイン下さい!」

 

歌い終わった僕達は、お客さん達にもみくちゃにされていた。わかってはいたけど、やっぱり注目を集めれば僕の正体にも気づかれる。その後僕はファンからのサイン攻めに合っていた。そして、それは友希那も一緒だった。どうやら、彼女のファンも多いようだ。まぁ、あれほどの歌声を持っていれば当然だろう。そして僕達は、五分ほどでなんとかお客さんの輪から抜け出して一息をついていた。

 

「ふぅ、やっと抜け出せたね。ちょっと疲れたかな」

 

「全くだわ。少し休みましょう」

 

二人して安堵の息を吐く。そして落ち着いてから、思い浮かべるのは先ほどの光景。先ほどの歌声。先ほどの高揚。本当に彼女となら頂点を目指せる。そう思うと、興奮せずにはいられなかった。行動に移さずにはいられなかった。

 

「友希那。さっきのパフォーマンスを見て改めて確信したよ。君となら頂点を目指せると」

 

「そうね。私も同じ事を思っていたわ」

 

やはり、彼女も同じ事を考えていたらしい。だったら話は早い。僕には何一つの迷いも存在しなかった。

 

「友希那。改めて言うよ。僕と一緒に頂点に上り詰めてみない?僕達なら絶対に大成するよ」

 

彼女への勧誘。これが僕の目標に対する最大の近道となるだろう。果ての見えない終点への道がやっと拓けたように僕は感じていた。

 

「・・・そうね。雅となら間違いはないでしょうね」

 

彼女の反応は上々だった。間違いは無いという顔にも、輝かしい笑みが浮かんでいた。これはあるかもしれない。そう考えてもおかしくないだろう。

 

「だけど、私が共に頂点を目指す相手はあなたでは無いわ」

 

そして返ってきた返答は、僕の予想通りのものだった。また僕は振られてしまったらしい。

 

「そうか。うん、そうだろうね」

 

「はぁ、わかってて誘う必要があったの?」

 

「あはは、少しでも可能性があったら僕は乗るよ」

 

「少しも無かったわよ」

 

どうやら、微塵も可能性は無かったらしい。悲しい事実だ。とそんなことを考えている内に、一つの疑問が湧いてきた

 

「そういえば、僕達どうしてあんな場所で歌ってたんだっけ?」

 

「どうしてって、それは集まったお客さんにお菓子をもらおうと思って・・・あ」

 

そこまで思い出して、僕と友希那は二人して血の気が失せていくのを感じた。そうだ。僕達の目的はお菓子だった。歌うことが目的だったわけではない。それは只の手段だ。なのに、いつの間にか歌うことが気持ちよくて、それそのものが目的であるかのように考えていた。要するに、お菓子をもらい忘れたのだ。歌い終わった後も、サインを書くのに忙しくてすっかり忘れてしまっていた。

 

「ちょっと待って。もしかして、今僕達が集めてるお菓子って・・・」

 

「0個ね」

 

「せ、制限時間は・・・」

 

「後三十秒といったところね」

 

「終わった・・・」

 

そうして、僕達のハロウィン競争は、0個という驚くべき成績で終演を迎えたのだった。泣きたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい。それじゃー1位の発表をしますよー」

 

そう、美咲ちゃんが言う。どうやら熊の着ぐるみは脱いだらしい。僕達の結果を聞いたときの彼女の乾いた笑みは忘れない。どうやら、気を使ってくれたのか全体への発表は一位だけするらしい。

 

「1位はこころと宇田川さんペアでーす」

 

「やったわね巴!」

 

「そ、そうだな・・・あはは・・・」

 

喜ぶこころちゃんと、膝に手をついて苦しそうにしている巴ちゃん。その膝は小刻みに震えていた。もしかしたら、今回一番の被害者は彼女かもしれない。

 

「ふっ、どうやら負けてしまったようだね。さすがこころだよ」

 

「ううっ、負けた・・・」

 

「あこ、お姉ちゃんに勝ちたかったな・・・」

 

負けて悔しがる皆。だけど、僕達には悔しさなんて微塵も無かった。それもそのはずだ。そもそも、勝負することすらできていないのだから。0個で誰に勝てと言うのだろうか。

 

「・・・違うわ」

 

と、皆が悔しそうにしていると、こころちゃんが急に言葉を放った。違うという否定の言葉を。一体何に向けられた言葉なのだろうか?

 

「勝ったとか負けたとか、そういうものはいらないわ!あたしは楽しむためにこのイベントを開いたの。それなのに勝ち負けにこだわるのはやっぱり違うわ!」

 

なるほど。実にこころちゃんらしい。だけど、だったら最初から競争とつけなければ良いような気もするけれど、そこに触れるのは無粋というものだろう。

 

「それじゃイベントの後は、皆でお菓子を食べましょう!」

 

そして僕達は、思い思いのお菓子に齧り付いた。甘い。心が安らぐような甘さが僕の口内に広がっていく。これで、僕が実際にもらったものだったら最高だっただろう。だけど、実際に僕がもらったお菓子はここには無い。これも、誰かがもらってきてくれたものだ。悲しい事実だ。今回は残念な結果に終わってしまった。正直、悔しいという思いも少しはある。だけど、それ以上に楽しかった。

 

こころちゃんも言っていた通り、勝ち負けよりも楽しめたかどうかが重要だろう。そういう点では、僕達はもしかしたら勝者かもしれない。まぁ、勝ち負けはどうでもいいのだが。

 

本当にあの歌っているときは楽しかった。自分の新たな可能性を見出せたような気がして、嬉しかった。そして僕は確信した。僕はまだまだ上を目指せると。最近僕は自信の実力に伸び悩んでいた。いくら時間を費やしても、伸びている気がしない。苦悩と言ってもいい感覚を味わっていた。だけど、今日の一件で自分の実力に自信を持てた。僕はまだまだやれる。上を目指せる。きっと近い将来に高みに上り詰めることが出来る。そのような高揚感に包まれた、素敵な素敵なハロウィンの一幕だった。




どうも、ソウリンです
今作のヒロインは千聖です
今作のヒロインは千聖です(大事なことなので(ry
え?千聖分が足りない?千聖編を待って下さい
今回のサブタイトルは斉藤和義さんの歌うたいのバラッドです
最近(?)ではやさしくなりたいの大ヒットで知られる斉藤和義さん
そんな彼の代表曲ですね。数多くの有名アーティストの方々がカバーしている名曲です
自分も大好きです。次話タイトルもそんな斉藤和義さんの曲名からつけます
古いです。自分のサブタイトルに使ってる曲でも最も古い曲になります
知名度?知らない子ですね(すっとぼけ
それはそうと、先日バンドリ7thLIVEがありましたね
皆さんは参加されましたか?自分は3日間LVで全通しました。本当に3日間全て素晴らしかったですね!ロゼもRASもポピパもそれぞれの持ち味が発揮された素晴らしい三日間でした!中でも自分はRASが一番良かったですね
いやー最近自分の中でRAS熱が本当に熱かったんですよね。もうね、今回の7thでその熱が爆発しましたね!RAS最高!7月の神戸は必ず現地参加したいと思ってます!関西方面での開催とあって今から本当に楽しみで仕方ないですね!両日頑張って取りますよ!
後、最後にお礼を一つ
☆9評価ありがとうございました!なんだか久々に評価いただけた気がして、凄く嬉しいです!
これからも、いただいた評価に恥じない作品を目指して頑張っていきますので、完結までおつきあいいただけたらありがたいです!これからもよろしくお願いします!
では、今回はこの辺で
次話は千聖編です。すいません。活動報告にも載せたのですが、現在風邪を引いており、千聖編の執筆が進んでおりません。申し訳ないですが、投稿は18日午後12時を目処に考えております。これよりも早くなることはあっても、遅くなることは無いと思いますのでご了承下さい
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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