千聖編です
「千聖ちゃん、進路はどうするの?」
それは街が秋色に染められた帰り道での何気ない会話だった。花音が急にそのようなことを言ってくる。私は知っている。最近花音が進学先で悩んでいることを。花音は大学進学を目指している。しかし、花音が目指している志望校は、今の花音の学力では届かないらしい。決して花音の学力が低いわけでは無い。単純に大学のレベルが高いのだ。それで、別の大学を目指すのか、このまま今の志望校を目指すのかを悩んでいるというのが今の花音の現状。
だからだろう。急にこのような話題が出てきたのは。
「そうね。今のところは花音と同じよ。必死に受験勉強をして、大学進学を目指しているわ」
私にも、目指している大学がある。その大学も、花音の志望校ほどでは無いにしても、大学としてのレベルは十分に高い。今の私では、まだ手が届かない。それこそ、必死に受験勉強をしてやっと手が届くような大学。決して油断はできない。
「そっか。じゃあ千聖ちゃんも、来年の今頃は遊んでる余裕なんて無いかもしれないね」
そうかもしれない。おそらく、私も花音も来年はセンター入試を受けることになるだろう。センター入試は、毎年一月頃に開催されることになる。となると、来年の今頃は必死に追い込みにかかる時期ということになる。当然、遊んでる余裕は無くなるだろう。仕事はどうしようかしら?
「私もね、来年の今頃は勉強に必死で遊んでる暇なんて無いと思うの。だけど、ハロハピの皆との活動はやめたくなくて、どうしようかなって考えてるの。だけど、きっと、両立なんてできないことだよね?志望校のレベルを落とせばできると思う。だけど、そのために志望校のレベルを落とすのもなんだかおかしい気がしちゃって・・・私、どうしたらいいんだろうね?」
そう告げる花音の表情は真っ暗だった。花音が受験の事で悩んでいるのは知っていた。だけど、まさかここまで悩みが深刻だとは予想だにしていなかった。そして、その答えを私が言うわけにはいかないだろう。安い気持ちで、そのような重要な答えを言うべきでは無い。これは花音自身で悩んで、悩み抜いて、導き出すべき答えなのだから。部外者とも言うべき私が、土足で踏み込んでもいいような問題ではない。
「花音。ごめんなさい。私にはその答えがわからないわ。これはあなた自身の問題よ。必死で悩んで、悩んで、悩み抜いて自分が納得のいく答えを見つけ出しなさい。頼りない友人でごめんなさい」
「千聖ちゃん・・・。ううん、ありがとう千聖ちゃん。そうだよね。やっぱり私が自分で考えないといけない問題だよね。うん。私、頑張って悩んでみるよ。やっぱり千聖ちゃんは頼りになるな」
「ふふっ、少しでも花音の気休めになれたのなら良かったわ」
この問題は決して簡単な問題では無い。もしかすると、入試で出題されるようなどんな問題よりも難しいかもしれない。だけど、最終的には必ず答えを導き出さないといけない。私には、そんな花音を見守ることしか出来ない。
バンドとしての活動を心配する花音。だけど、これは決して私にとっても他人事では無い。女優としての活動。パスパレとしての活動。それらの活動をどうするか。私も決めなければいけない。雅のお世話だけはその間も継続するとして、他のことに関しては何を続けて、何を
そして、雅のことを考えて、私の脳裏にあることが思い浮かぶ。それは雅との想いで作りだ。おそらく、まともに過ごせる高校生としての秋は今年が最後だろう。今年の秋も、二度の文化祭、無人島ロケと、思い出は作ってきた。だけど、今年で最後と考えると、まだ少ない。この秋、冬で来年の分も思い出を作らなくてはいけない。そう考えると、時間が非常に少なく感じてしまう。どうして今まで気づかなかったのだろうか?いや、気づかなかったと言うよりは、気づかないふりをしていたのだろう。目をそらしていたのだろう。だけど、意識してしまったからにはもう目を背けることはできない。これから一生忘れないような秋、冬の思い出を雅と作っていけばいい。
そして、明日は丁度おあつらえ向きのイベントがある。ハロウィンだ。思い出作りにはもってこいのイベントだと言えるだろう。このハロウィンで、一生思い出として残るような体験をしてみせる。高校生として、参加できるハロウィンはこれがおそらく最後。そして、恋人になってから参加するハロウインはこれが初めて。きっと素敵なハロウィンになるだろう。そう確信しながら、帰り道を花音と歩くのだった。
「ハロウィン競争?」
それは、夕食後雅に明日のことを話そうと思っていた矢先のことだった。先に雅からハロウィンの話が出てきた。ハロウィン競争。その言葉を聞いただけでは、どういった内容なのか全く想像が付かない。
「うん。今日の帰り道でこころちゃんと美咲ちゃんに誘われてね。二人一組のチームで誰が商店街の人に一番お菓子をもらえるか勝負するんだって」
「そう。雅は参加したいの?」
「そうだね。折角誘ってもらったんだから、どちらかと言うと参加してみたいかな。まぁ、こころちゃん達には千聖次第とは言ってあるけれども」
「そうね・・・」
なんとなく予想はしていたが、どうやら発案者はこころちゃんらしい。雅は、参加することに前向きなようだ。このような催しに参加するのは、芸能人として好ましくない。一般人の目が多い場所での目立つ行動。知名度のある人間がすると、いらぬ混乱を生み出す結果になってしまう。それは避けるべきだ。
普段の私なら、間違いなく断っていたでしょう。普段の私なら。だけど、今の私には時間が無かった。雅との思い出を作る時間が。その思い出作りに、この催しを利用させてもらおう。本来なら、もちろん二人きりの方が好ましい。だけど、今から明日の計画を二人で決めるにしても、時間が足りない。明日も学校が私達にはある。夜も遅くなってきているし、いつまでも起きているわけにはいかない。
だったら、最初からやることが決まっているこのイベントに参加するのも
「いいわ。参加しましょう」
「え?」
そう結論づけた私は、雅に参加意志を伝えた。しかし、それを聞いた雅から飛び出したのは、間の抜けたような驚きの声だった。おそらく、私は反対するものだと思っていたのでしょう。当然、その判断は正しい。だけど、今は本当に時間が無かった。おそらく、高校生活でまともに思いで作りが出来るのは後一年も無い。一年もある、と感じる人もいるかもしれないが、私にとってその数字はあまりにも短く感じてしまった。それこそ、心に焦りを生み出すほどに。
「あら?私が参加するのはご不満だったかしら?」
「あ、いや、そういうつもりじゃなくて・・・」
「ふふっ、冗談よ。そうね。普段だったら断っていたかもしれないわね。芸能人として軽率な行為は取れないもの。だけど、今回は特別よ。時間が無いのよ」
「時間?」
「・・・いいえ。なんでもないわ。ごめんなさい。さぁ、そうと決まったら仮装を考えないといけないわね。ハロウィン競争ということは、皆仮装してくるのでしょう?」
「あ、うん。そうだね」
そして、私達は明日の仮装の話をしていく。仮装が決まるまでに、私が想定していたよりも長い時間を要してしまった。仮装だけでこれだけの時間がかかった。もし、一から計画を練ってとなると、やっぱり明日に差し支えるほどの時間を要していたかもしれない。そして、私達は明日の放課後事務所に、考えた仮装を借りに行くと決めた。貸してくれるという確証は無いけれども、おそらく大丈夫でしょう。何かしらの交換条件を付けられそうだけれども。
それにしても、仮装して過ごすハロウィンなんて、小学校の時以来だから実は少し楽しみだったりする。明日は皆どんな仮装をしてくるのかしら?きっと楽しく、思い出に残るような一日になるでしょう。私はそうして、明日に思いを馳せるのだった。それが、無駄な思いになるとも知らずに。
そして、翌日の放課後がやってきた。事務所に仮装を貸してくれるように頼みにいった私達は、案の定交換条件付きでの貸し出し許可を得ることができた。その条件というのが、私達二人の仮装を事務所ホームページに掲載するというものだ。全くもって予想通りの内容だった。あの無人島番組の放映以降、私と雅の仲は公然の物となってしまった。
その反響は大きく、私達二人の写真がホームページにアップされるだけで、相当数の反応が寄せられるようになったらしい。つまり何が言いたいかというと、私達の写真を掲載するということは、事務所にとって非常に大きな宣伝効果を得られるのだ。そして今日はハロウィン。そんな日に仮装写真を掲載すれば、通常以上の反応を寄せられることが予想される。事務所としては、こんなに美味しい話は無い。
もしかしたら、私達に仮装を貸し出したのも、街中での宣伝効果を期待してのことかもしれない。とはいえ、背に腹は代えられない。事務所の思惑に乗せられるのは
そして、無事仮装を借りることができた私達は商店街を目指し歩いていた。因みに仮装は、私が魔女で雅が狼男だ。れおんみたいでなんだか可愛い。
「あら?来たみたいね!」
そして商店街に到着した私達。そこには既に多くの子達が集まっていた。いの一番にこころちゃんが私達に声をかけてくる。ジャック・オー・ランタンの仮装に身を包んだこころちゃん。天真爛漫な彼女と相まって、そのオレンジを基調とした仮装が非常に似合っていた。
「あ、来て下さったんですね」
そして、これまたカボチャをモチーフにした仮装に身を包んだ熊の着ぐるみ、ミッシェルに身を包んだ美咲ちゃん。別にそんな衣装を着なくても、着ぐるみの時点で仮装していると思うのは私だけかしら?
「あ、み、雅さんお久しぶりです。千聖先輩もこんにちは」
「おや?これは意外なお客さん達だね」
そして、私と同じ魔女タイプの仮装に身を包んだりみちゃんと怪しい仮面を付けた人物。りみちゃんは、その小動物の様な容姿と背中に付けた羽が相まって、魔女というよりも、天使のように見える。仮面の人物は、この際割愛しましょう。
「おっと、これは強敵登場だな」
「み、み、み、雅様も参加するの!?」
そして、二人してヴァンパイアの仮装に身を包んだひまりちゃんと巴ちゃん。巴ちゃんの言う通り、私達は強敵に該当するでしょう。この中では、世間一般的な知名度で言えば、私と雅は当然飛び抜けて高い。その気になれば、人が勝手に寄ってくるようにすることだってできる。雅には無理かもしれないけれども。ひまりちゃんの反応は、いつも通りね。
「雅、あなたも参加するのね」
「み、み、み、雅様も参加するの!?」
そして、猫の仮装に身を包んだ友希那ちゃんと、天使の仮装、いえ、きっと彼女のことだから堕天使の仮装かしら?に身を包んだあこちゃん。人のことを言えないかもしれないけれども、友希那ちゃんが参加するのは意外だった。彼女は決してこのような催しに参加するような性格では無いと思っていたから、かなり意外だった。おそらく、あこちゃんに巻きこまれたのかしら?あこちゃんはあこちゃんで、反応がひまりちゃんと完全に被っている。本当に二人とも、雅のことが好きみたいね。私としても、こんなに雅を好きでいてくれることをとても嬉しく感じる。その気持ちが、恋愛感情にならない限りは。
「うん。皆よろしくね」
「ふふっ、お手柔らかにお願いね」
「それじゃ、早速始めましょ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
早速、こころちゃんがイベントを開始しようとした時だった。それに待ったをかける人物が現れた。あこちゃんだ。
「はい!さすがにちさと先輩と雅様のコンビは強すぎると思います!だって二人とも有名人ですよ?だから、あこは平等にするためにチームをクジで決めることを提案します!」
そう提言するあこちゃん。待って。それはダメ。そんなことをされては、私の今日の計画が、雅との想い出作りが台無しになってしまう。それは、それだけはなんとしても避けたい。
「あこちゃん!それナイスアイデアだよ!」
「いいわね!面白そうだわ!」
「はー、あんたならそう言うと思ったよ・・・」
しかし、私の願いとは裏腹に、とんとん拍子に話が進んでいく。周りを見ると、既に大半のメンバーが賛成、もしくは中立の立場を取っているように見える。おそらく、反対勢力は私だけ。そんな中、私が反対意見を出したところで、無意味だろう。それに、主催者であるこころちゃんが既に賛成しているのだ。ゲストである私一人の意見がまかり通るわけが無い。
「それじゃ、クジを用意しないといけないわね!」
「ふっ、それならもう用意したよ」
そう言って、懐から十本の割り箸を取り出す仮面の人物、薫。いつの間に用意したのだろうか。もしかすると、この事態を予測して、予め用意しておいたのかもしれない。その用意周到さが今は腹立たしい。
「すごいわ!怪盗さん!それじゃ、早速皆で引きましょうか!」
「はー、あたし以外に誰があんたの面倒見るんだ・・・」
「うー、緊張するよ・・・」
「心配することは無いさ子猫ちゃん。運命とは、最も相応しい場所へと魂を運ぶもの。つまり、そういうことさ」
「お願いします。雅様と、雅様と組ませて下さい。神様仏様みや神様!」
「おいひまり。もしかしてアタシのこと忘れてないか?」
「お願いします。雅様と組ませて下さい。一生のお願いです!」
「あこ。もしかして貴方、私のこと忘れてないかしら?」
様々な反応を見せる参加者達。皆、既にクジの結果に頭がいっているようだ。反対するにしても、遅すぎた。こうなってしまっては、意見が通る僅かな可能性すら残されていないだろう。黙って、クジを引くしか選択肢は残されていない。
「誰と組むことになるのかな千聖?」
「・・・そうね」
「千聖?」
そもそも、雅と組まないと決まったわけでは無いのだ。クジの結果、雅と組むことができる可能性だってある。まだ、諦めるには早い。
「・・・いいえ、なんでもないのよ」
私は、覚悟を決めて心配そうにこちらを見つめる雅に視線を向けた。どうやら、気持ちが声にも出てしまっていたらしい。私の暗い気持ちが。雅にまで、余計な心配をかけてしまった。気持ちを切り替えよう。そして、皆が順番にクジを引いていく。祈るようにクジを引く私。そして全員が引き終わり、組み合わせが決定した。その結果決まったペアは・・・
「さぁ!いっぱいお菓子をもらいに行くわよ!」
「こころと一緒か。面白くなりそうだな!」
こころちゃんと巴ちゃんペア。
「美咲ちゃんと一緒で良かったぁ・・・」
「あはは、あたしもりみと一緒で安心したけど、宇田川さん大丈夫かな・・・」
りみちゃんと美咲ちゃんペア。
「わーん!雅様と組みたかったのにー!」
「はぁ、良い考えだと思ったんだけどなー・・・」
ひまりちゃんとあこちゃんペア。
「友希那とか。よろしくね」
「えぇ。やるからには頂点を目指すわよ」
雅と、友希那ちゃんペア。
「おや?暗い顔をしてどうしたんだい子猫ちゃん?」
「はぁ、なんでもないわ」
私と、薫ペア。
結果、私は雅とは別のペアになってしまった。それどころか、薫と一緒のペア。最悪だ。もはや、私にとってこのイベントが、地獄にしか思えなくなってしまっていた。こんなことなら、今日に影響しても良いから計画を最初から練るんだった。このイベントに参加するんじゃなかった。
「さぁ、それじゃ始めましょ!」
「はーい、時間を設けないと際限が無くなっちゃうので、制限時間は一時間とします」
「それじゃ、スタートよ!行くわよ!巴!」
「おう!」
そう言って、凄いスピードで駆けだしていくこころちゃんと、そのスピードに驚きながらも、必死に着いていく巴ちゃん。彼女達の姿は、あっという間に人混みの中に見えなくなってしまった。そして、それに続くように他の皆も商店街の中に入っていく。その場に残っているのは、私と薫だけになった。
「それじゃ、私達も行こうか。お姫様」
「・・・そうね」
確かに、こんなところに突っ立っていても仕方が無い。あまり気は乗らないが、行くしか無いだろう。正直、もう帰りたいというのが本音だけれども。商店街の中を、当てもなく二人歩く。私はただ、トボトボと。薫は、歩きながらも、時々通行人や、店の人にお菓子を貰っていた。
この商店街は、近年イベント行事に力を注いでいる。ハロウィンも、そのイベントの一環だ。道行く人々の中には、仮装をしている人も少なくないし、訪れるお客さんも今日は大半がお菓子を持参している。だから、適当な人にトリックオアトリートと声をかけても、高確率でお菓子を貰えるのだ。私は、到底貰う気にならないが。
「ほら千聖。君も道行く旅人達に願いを言ってみてはどうだい?折角のお祭りなんだ。何もしないのは勿体ないだろう?かのシェイクスピア曰く、何もしなければ、何も始まらない。つまり、そういうことさ」
「・・・ごめんなさい。気分じゃ無いの」
到底そんな気にはならない。今の私の心には、暗い暗い暗雲が立ちこめていた。到底、薫に付き合う気分にはなれない。
「ふっ、クールなお姫様だ。暗い森を一人彷徨うお姫様か。あぁ、なんて儚いんだ・・・」
薫のそんな発言を無視して、私は歩く。少し後ろから、儚いという薫の声が聞こえてくる。そんな声を無視して、ただただ、歩く。
「あ、千聖さんだ」
そんな私に声をかけてくる人物がいた。ひまりちゃんだ。その後ろにはあこちゃんの姿も見える。あこちゃんの姿を見た瞬間、私の中に、恐ろしく黒い何かが生まれた気がした。
「ちさと先輩聞いて下さい!あこ、ひーちゃんより一杯お菓子貰ってるんですよ!」
「一杯って、1個差じゃん!直ぐに追い抜いちゃうよ-!」
「はぁ、でも、やっぱり雅様とペア組みたかったなー。あ、ひーちゃんが嫌なわけじゃないんだよ?」
「わかってるよあこちゃん。私も同じ気持ちだもん。雅様と組みたかったよねー」
「ちさと先輩はいいなー。雅様といつも一緒にいられて羨ましいです」
「本当だよ!あー私も一日で良いから雅様と二人っきりで過ごしてみたいな-」
「ひーちゃんそれすっごく良い!あこも過ごしてみたい!」
「でしょ?きっと、一生の宝物になると思うな-」
「・・・て」
「え?千聖さん、何か言いました?」
「いい加減にして!」
柄にも無い、大きな声だった。声を出した私自身が驚いてしまったほどの、大きな声だった。それを聞いたひまりちゃんとあこちゃん、薫までもが驚愕した表情を浮かべている。道行く通行人までもが、近くのお店の人までもがこちらを注目している。私自身、こんな声を出したいわけでは無い。しかし、抑えようにも、私の中の黒い部分は、とっくに制御できる許容量を超えてしまっていた。そして、一度決壊を始めた思いは、せき止めることができない。
「いい加減にしてよ!雅と一緒にいられて羨ましい?雅と二人っきりで過ごしたい?何も知らないくせに!私が、どんな思いで雅といるかを知らないくせに!あなたのせいで私は・・・私は・・・」
そこで、なんとか言葉をせき止める。止めないと、いつまでも言葉の暴力を続けてしまいそうだったから。二人を見てみると、唖然とした表情で私のことを見ていた。私は、そんな二人の横を何も言わずに通り抜け、進む。あまり、この場所に長居はしたくなかった。
「すまないね。子猫ちゃん達。どうやら、今日のお姫様は虫の居所が悪いみたいなんだ」
「いえ、きっと、私が悪いんです・・・私が、軽々しくあんなこと言っちゃったから・・・」
「あこ、もしかして、悪い事しちゃったのかな・・・?」
「そうだね、そんな迷える子猫ちゃん達の為に、一つ昔話をしようか。昔々、あるところに、天才子役と謳われた少女と、天才シンガーと賞賛された少年がいました。少女達は・・・」
後ろから、そんな声が聞こえてくる。だけど、私はそんな声を無視して一人歩く。薫は、彼女達と話していて追ってこない。丁度良かった。今は一人になりたかったところだ。少し、一人で過ごさせてもらおう。私には、気持ちを落ち着かせる時間が必要だ。
あのような事態に陥った原因は理解している。焦り、そして余裕の消失。時間が無い。その事実から生じる焦り。その焦りから直結して発生した余裕の消失。この二つの原因が私の内側に、負の感情、黒い感情を生み出した。この場に、雅がいなくて助かった。雅にだけは見られたくなかった。こんな私の、醜い感情なんて。
「あら?千聖じゃない!」
頭を冷やそうと商店街内をふらついていると、こころちゃんに出会った。正直、今最も会いたくなかった人物だ。その後方には、こちらに向かって走ってくる巴ちゃんの姿も見える。
「はぁ、はぁ、や、やっと追いついた・・・」
「巴!千聖よ!千聖がいたわ!」
「はぁ、はぁ、白鷺さん・・・?あ、本当だ」
「あら?千聖、あなた一人かしら?怪盗さんはどこに行っちゃったのかしら?」
怪盗さん?薫の事だろうか?きっとそうだろう。薫の事は置いてきた。なんて素直に言えるわけが無い。ここは、適当にはぐらかしておこう。
「実は、人混みではぐれてしまったの」
「それは大変ですね。あの人のことだから大丈夫だと思いますけど、少し心配ですね」
「心配なんてないわ!怪盗さんなら絶対大丈夫よ!だから、千聖も暗い顔をする必要は無いわ!」
「え?」
暗い顔?私は今、そんな顔をしていたのだろうか?自分では、顔にまで心情は表れていないものだと思っていた。しかし、実際には表れていたということだろうか?私的には、商店街をうろつき、多少は気持ちが落ち着いた物だと思っていた。だけど、どうやらそれは見当違いだったのかもしれない。
「ほら、笑いましょ!笑顔になりましょ!折角のハロウィンだもの!楽しまなきゃ勿体ないわ」
「・・・ごめんなさい。やっぱり、私にはできないわ」
到底笑う気にはなれなかった。笑顔なんて、嘘でも浮かべる気になれない。やっぱり、私の心はまだ荒天模様らしい。
「どうして出来ないと決めつけるの?笑顔になることってそんなに難しいこと?そんなことないわ!誰だって簡単に笑顔になれるものよ!千聖だって絶対になれるわ!さぁ、みんなで笑顔になりましょう!世界を笑顔にするのよ!」
やっぱりこうなった。こうなることは、予想が出来ていた。だから、彼女とは会いたくなかったのだ。なんで笑顔を強要されなくてはいけないのだろうか?人には誰にだって、笑いたくないとき、気が悪いときが存在する。今の私のように。私の中に、また黒い感情が生まれてきた。
「笑顔笑顔って、あなたいい加減に」
「あ、こころ。あっちにミッシェルがいるぞ。行ってみようぜ」
私がまた、自身の醜い感情を吐き出してしまいそうになった時だった。巴ちゃんの声が私の声を遮る。その行為により、私の吐き出されるはずだった汚い言葉は途切れ、醜い感情は少しばかり薄れた。
「あら?本当だわ!千聖、笑顔になることは素晴らしい事よ?だから、絶対笑顔になるのよ?それじゃ行くわよ巴!ミッシェル!」
そう行って、こころちゃんはミッシェルこと、美咲ちゃんのもとへと駆けていった。その場には、私と巴ちゃんだけが取り残された。
「・・・ごめんなさい。気を使わせてしまったかしら?」
「いいえ、気にしないで下さい。白鷺さん、何があったのかはわかりませんけど、こころが言う通りになんだか暗いですよ?さすがに、誰だって心配になります。言いたくないのでしたら、無理にとは言わないですけど、アタシで良ければいつだって力になりますよ?なんでも相談して下さい」
「えぇ、ありがとう」
巴ちゃんのお陰で、いくらか気分が晴れた気がした。さすが、お姉さんといったところだろうか。非常に頼りになる。それに比べて、私は何をしているのだろうか?自分の思い通りにならずに、辺りに当たり散らして。同じ姉として、情けなく感じてしまう。
昔から私はそうだ。雅が絡むと、普段の私からは想像も出来ないほど取り乱してしまうことがしばしばある。悪癖と言ってもいいかもしれない。それほど、私の中で雅を大事にしているということなのだけれども。
そして、その後も商店街を私は一人でふらついた。そして、イベントの終了まで、残り十分ほどとなったころだろうか。商店街の一角から、不意に歌声が聞こえてきた。美しい歌声が二人分。聞き覚えのある歌声が二人分。私は、その歌声に導かれるように近づいていく。人垣が高く、よく見ることが出来ない。背の低い私には、厳しい高さだ。
私は、なんとか中が見える位置は無いかと、人垣の周りをぐるりと回ってみる。そして、背伸びをすればなんとか中が見える位置を発見した。中を覗いてみると、歌っている人物が見えた。予想通りの人物だ。雅と友希那ちゃん。カリスマ的歌唱力を所持する二人の共演。まさに、圧巻のパフォーマンス。思わず、聞き入ってしまう。
そして、その曲の歌詞を聴いて、思わず私は泣きそうになってしまった。たしか、Roseliaの軌跡だっただろうか?その歌詞を聴き、思わず共感してしまった。まるで、私と雅が今まで歩んできた軌跡を歌っているかのように感じて。今日までの、雅と過ごした日々が思い浮かぶ。その光景を思い浮かべ、泣きそうになる。人の目さえ無ければ、遠慮無く泣いていただろう。だけど、ここは人が溢れる商店街。そのような場所では、涙を流したくない。その一心で、なんとか抑えていた。
そして、感動したのはもちろんなのだが、私の中には、もう一つの別の感情がこの光景を目にして生まれていた。仲睦まじくデュエットを歌う二人。本当に楽しそうに、お互いを信頼して歌っているのが見ればわかる。それこそ、見る人が見れば二人の仲を疑ってしまうほどに。
そう、あろうことか私は今、友希那ちゃんに雅を取られてしまうのではないかと心配していたのだ。雅に限って、そんなことはありえない。そう思っている。思っているのだけれども、万が一があるかもしれないと考えてしまっている自分がいる。
こんなこと、本当は微塵も考えたくない。だけど、つい不安になってしまう。普段なら、そんな思考全く浮かんでこなかっただろう。だけど、今日の私は本当に精神的に不安定だった。こんな状態では、悪い思考しか生まれてこない。雅だって、こんな醜い私を見たら幻滅してしまうかもしれない。友希那ちゃんに気が流れてしまうかもしれない。そんなのは絶対に嫌だ。
そんな不安を抱えながら、友希那ちゃんのことを見ていると、不意に彼女と目が合った。私は、彼女から逃げるように思わず目線を逸らしてしまう。少しの間でも、彼女と目を合わせるのが怖かった。
「素晴らしい歌声だね。思わず天にでも昇ってしまいそうだ。あぁ、儚い・・・」
そんなときに、不意に背後から声が聞こえた。薫だ。いつからいたのだろうか?全くいたことに気がつかなかった。
「えぇ、本当に素晴らしいと思うわ。二人とも、同年代でも圧倒的な歌唱力の持ち主だもの。それも当然よ」
「そうだね。しかし、まさかこんな人混みで歌う人が現れるとは思わなかったよ。面白いじゃないか。私達も、乗っかってみないかい?」
「乗っかる?まさか、歌おうとでも言うの?」
「さすがに、あの歌の直ぐ傍で歌おうなんて思わないさ。人には、自分に合った舞台という物がある。王子様達にとっては、それが歌だった。私達の場合は、演技だ。そうだろう?」
「まさか、ここで演劇でもしようというの?そんな時間も無いし、気分でも無いわ」
「なぁに。私達にとっては、演劇は日常だ。自分を演じることなんて、私達には難しいことでもないだろう?」
「薫、あなた・・・」
その薫の言葉で、私は察した。薫は私に、演技をしろと言っているのだ。私自身の。普段の私自身の。
「・・・言ったはずよ。気分では無いと」
「では、いつその気分になるんだい?子猫ちゃん達に喚いたり、友希那に嫉妬するぐらいなら、自分を演じた方がよっぽどお姫様らしいと思うが?」
「私らしい?私らしいって何?嫉妬しない方が私らしい?演技に身を投じていた方が私らしい?禄に私のことも知らないで、知ったような口を・・・ハム!?」
私が、思わずまた大声を出しそうになった時だった。口を開いた瞬間に、薫が口の中に何かを放り込んでくる。すると、すぐに口内に甘い甘い味が広がっていく。その味で、私は口の中に入れられた物の正体に気がついた。
「・・・チョコレート?」
「少しは落ち着いたかい?甘い物は、心に安らぎを、余裕を作ってくれる。今のお姫様に、最も必要な物だろう」
薫の言う通り、少し心に平穏が戻ったように感じる。とはいっても、少しの気休め程度だろうが。
「どうだい?落ち着いたかい?」
「えぇ、少しだけね」
「その少しでも十分さ。少し落ち着いたなら、冷静に考えてみるがいい。喚き散らすのは、千聖らしい行為なのかい?雅を取られると考えるのは、千聖らしい行為なのかい?」
「それは・・・」
そんなの、違うに決まっている。そんなことは自分でもわかっている。わかっているけれども、自分の感情を抑えきれないから困っているのだ。
「私が知っている千聖は、喚き散らしたりなどせず、悪いことには悪いと冷静に言葉を選んで注意するはずだ。雅を取られるなんて考えず、いつだって雅の事を信じて堂々と構えているはずだ」
「そんなこと・・・」
「あぁ、千聖自身わかっているのだろう?わかってはいるが、自分の感情を制御できずに困っている」
「・・・えぇ、そうよ」
悔しいが、全て薫の言う通りだった。まるで、私のことを見透かされているようだ。そう感じてしまう。
「何があったのかは知らないが、随分と心に余裕が無いみたいだ。だとしたら、やっぱり方法は一つしか無いみたいだ」
「え?」
「心に余裕がある千聖を演じる。それしか方法は無い」
「はぁ、あなたに期待した私が間違っていたわ」
結局は自分を演じるという謎の解決方法に行き着く。こんなことで、問題が解決するとは到底思えないのだが。
「だったら、お姫様は何か解決策があるのかい?」
「それは、無いけれども」
「だったら、騙されたと思ってやってみるといい。ほら、まずは練習をしてみよう。いつもの調子で、心に余裕がある自分をイメージして、私に話しかけてみてほしい」
「わかったわ。かおちゃん」
「ちょ、ちょっとちーちゃん!その呼び方はやめてよ!は、恥ずかしいから!」
「・・・ふふっ」
「ふっ、やっと笑ってくれたね」
薫の言う通り、私は笑っていた。気づけば笑顔を浮かべていた。薫と話している内にいつの間にか、心に余裕が戻ってきたのかもしれない。気が抜かれたというのも理由の一つだろうが。
「うん。やっぱり私は、千聖の笑顔が好きだ。千聖には、ふくれっ面よりも笑顔の方が数百倍似合っているよ」
「ふふっ、そうね。私もそう思うわ」
「さて、それじゃ機嫌を取り戻したところで、皆の所に戻ろうか。そろそろ時間になるころだろう」
「あら?本当ね。もうこんな時間だったのね」
確かに、時計を見てみるとまもなくイベントの終了時刻を迎える頃だった。いつの間にか、雅達の姿も見えなくなっている。
「それでは、行こうか」
「えぇ、そうね。それと、一応お礼を言っておくわ。ありがとう」
「何がだい?私は礼を言われるようなことをした覚えはないのだが。まぁ、一応受け取っておくよ。どういたしまして」
うん。実に私達らしいやりとりだったと思う。こんなやり取りが出来る辺り、心に余裕が出てきた証拠だろう。焦りが無いと言えば嘘になる。だけど、同時に焦っても仕方ないとも思えるようになってきた。確かに、高校生活で雅と想い出を作れる時間は残り僅かかもしれない。かといって、想い出作りを優先するあまり他の人にまで迷惑をかけるのは、雅の迷惑にまで繋がる。それはいけない。雅の迷惑になることだけは絶対にしたくない。だったら、自分の感情を制御できるようになるしかない。最悪、薫の言う通り演技で乗り切ればいい。私は演技には、絶対の自信がある。きっとなんとかなるだろう。そして私達は、二人で皆の場所へと向かうのだった。いつの間にか、私の心には晴れ間が指していた。
「はーい。それじゃー1位の発表をしますよー」
そんな美咲ちゃんの声が聞こえてくる。どうやら、ミッシェルの着ぐるみは脱いだらしい。あんな着ぐるみをいつも着て、大変そうだなと思う。私だったら、一時間も保たない自信がある。
「1位はこころと宇田川さんペアでーす」
「やったわね巴!」
「そ、そうだな・・・あはは・・・」
純真無垢に喜ぶこころちゃんと、震える膝に手を付く巴ちゃん。その顔色は悪いように見受けられる。大丈夫かしら?今にも倒れそうに見えるけれども。私はもしかしたら、薫とのペアで助かったのかもしれない。
「ふっ、どうやら負けてしまったようだね。さすがこころだよ」
「ううっ、負けた・・・」
「あこ、お姉ちゃんに勝ちたかったな・・・」
負けて悔しがる皆。正直、私は勝負には一切の興味が無かったから、そんな感情は全く湧いてこない。
「・・・違うわ」
と、皆が様々な反応を見せていると、こころちゃんのそんな声が聞こえてきた。違う?一体何が違うのだろうか?
「勝ったとか負けたとか、そういうものはいらないわ!あたしは楽しむためにこのイベントを開いたの。それなのに勝ち負けにこだわるのはやっぱり違うわ!」
そうこころちゃんは言う。実にこころちゃんらしい結論と言えるのではないだろうか?それなら、最初から競争なんて銘打たなければいい話だとは言ってはいけないのでしょうね。
「それじゃイベントの後は、皆でお菓子を食べましょう!」
そして私達は、思い思いのお菓子に齧り付く。今思えば、私個人としては、お菓子を一つも獲得していなかった。このお菓子も、薫が取ってきてくれたものだ。本当に、今日私はここに何をしにきたのだろうか?自分の醜い部分をさらけ出すために来ただけではないだろうか?
そして、その後私達はお菓子が食べながら、各々談笑に耽っていった。雅は今、薫と何やら話し込んでいる。何か真面目な話をしているのだろうか?間に入れるような雰囲気では無い。さて、私はどうしようかしら?
「あの、千聖さん」
私が、これから何をしようか考えていると、不意に誰かに声をかけられた。声がした方向を向いてみると、そこにいたのは、ひまりちゃんとあこちゃんだった。あんなことをしてしまったばかりに、少し気まずい。
「その、ちさと先輩、あの、その、ごめんなさい!」
「千聖さん、ごめんなさい!」
「え?」
私は思わず驚いてしまった。まさか、謝られるとは思っていなかったものだから。彼女達は、決して悪いことをしたわけではない。むしろ、悪いのは私だ。自身に余裕が無かったとはいえ、あんなひどいことをしてしまったのだ。何を言われても文句は言えないと言うのに、まさか逆に謝られるなんて、思ってもいなかった。
「その、雅様とちさと先輩のお話を聞きました。それで、ちさと先輩は、凄い覚悟を持って雅様と一緒にいるんだって知って、軽い気持ちであんなことを言っちゃって、それでその、なんだか、ちさと先輩に直ぐに謝りたかったんです。あこのせいで、雅様と別々のペアにまでしちゃって、本当にごめんなさい!」
「私も、あこちゃんと同じです。千聖さんと雅様の話を聞いて、そして考えたんです。もし、私が千聖さんの立場だったら、同じ事が出来るかな?って。そこまで、雅様のことを考えて行動できるかな?って。たぶん、できないと思いました。それで改めてわかったんです。千聖さんの覚悟と、想いの凄さが。それなのに、何も知らずに、考えずにあんなこと言っちゃって、本当にごめんなさい!」
そう言う二人の目からは、涙がこぼれ落ちていた。そのことからもわかる。二人が、心の底から自身の行いに後悔し、謝罪しているということが。おそらく、薫の根回しだろう。不安そうな顔で私を見つめる二人。おそらく、許してもらえるかどうか不安で仕方がないのだろう。そんな心配必要ないというのに。
「二人とも、何も悪くないわ。悪いのは私よ。ごめんなさい。今日の私は、ある事情があって自分に余裕が無かったの。だから、二人の発言に過剰に反応してしまったの。今思うと、本当に馬鹿なことをしたと思っているわ。本当に、ごめんなさい」
「そんな、千聖さんが謝る必要なんて、何も無いです!」
「そうですよ!悪いのはあこ達ですから!」
「えぇ、二人ならそう言うと思ったわ。だから、これでもう今日のことは終わりにしましょう?全員が一回ずつ謝った。それでいいでしょ?これ以上は不毛よ」
「千聖さん・・・わかりました」
「あこ、これからは雅様だけじゃなくて千聖さんのことも応援します!」
「あら?それは今まで応援してくれていなかったということかしら?」
「え!?えっと、それは、その・・・」
「ふふっ、冗談よ。二人とも、これからもよろしくね」
「ちさと先輩・・・はい!よろしくお願いしますっ!」
「うぅっ、千聖さんと仲直りできて良かったよ-!」
その後、私達は二人と軽く談笑してからその場を離れた。二人と仲直りできてよかったと思う。あのまま、仲が拗れたらどうしようかと考えていたため、早い内に仲を修復できてよかった。
「白鷺さん、妹がご迷惑をおかけしたみたいですいません」
そして、二人の場を離れた私に話しかけてくる人物がいた。巴ちゃんだ。そして、その隣にはこころちゃんもいる。
「いいえ、迷惑をかけたのは私も一緒よ。気にしないで。それと、ごめんなさい」
「アタシに謝る必要なんて何もないですよ。あこと仲直りしてくださったんですよね?だったら、それでいいですよ。実は、さっきまであこのやつが泣きついてきて大変だったんですよ。白鷺さんにひどいことをしてしまったって」
「ふふっ、ひどいことをしてしまったのは私も一緒なのにね」
「あら?ちゃんと笑えるようになったのね?」
私が巴ちゃんと話していると、こころちゃんが話しかけてきた。そういえば、こころちゃんには笑顔になるように言われていたのだった。今の私は、ちゃんと笑えているのかしら?
「えぇ、もう大丈夫よ」
「そうみたいね?やっぱり、千聖は笑顔の方がいいわ!笑顔が似合わない人なんて、この世界にはいないもの!」
「ふふっ、こころちゃんらしい考え方ね」
「白鷺さん、ちょっといいかしら?」
そして、こころちゃんと話していると、今度は友希那ちゃんが話しかけてきた。彼女の目線が語っていた。二人で話がしたいと。
「それじゃ、こころちゃん、巴ちゃん、私は友希那ちゃんのところに行くわね」
「はい。あこのこと、本当にありがとうございました」
「笑顔を忘れちゃダメよ?」
友希那ちゃんに着いていくと、皆から少し離れた場所に案内された。ここなら、私達の声は、皆に聞こえないでしょう。こんな所で、どんな話をするのだろうか?
「友希那ちゃん。それで、私に何の用かしら?」
「えぇ。これだけは言っておくわ。私は猫派よ。犬には興味が無いわ」
「え?」
突然、意味のわからないことを言い出す友希那ちゃん。どういう意味だろうかと考えて、一つの推測が思い浮かぶ。
「犬って、雅の事かしら?」
今日の雅は、犬耳を付けていた。正確には狼だけれども。おそらく、雅を表しているのだろう。そして、その推測が正しいのならば、その後の展開もある程度予測ができる。
「だから、あんなに不安そうな顔をしなくてもいいわ。誰も取ったりしないわよ」
やはりそうだ。あの時、歌唱中の友希那ちゃんと目が合った時だろう。あの時に、私の考えていることが、汲み取られてしまったのだ。
「・・・そんなに、わかりやすかったかしら?」
「えぇ。あんなに泣きそうな顔で見つめられたら嫌でもわかるわ。最も、今のあなたを見る限り、心配無さそうだけれども」
「そうね。皆のお陰で、だいぶ落ち着いたわ。もう、大丈夫よ」
「言う必要はないかもしれないけれども、雅を信じてあげなさい。彼は、一途な人間よ。音楽にも、愛にも。その想いに、ちゃんと応えてあげなさい」
「えぇ、ありがとう」
それで、言いたいことを全て言い終えたのか、友希那ちゃんは私から離れていく。雅を信じろ。雅の想いに応えろ。もちろんわかっているし、言われなくてもそのつもりだ。私は、今日精神的に不安定だったとはいえ、一時的に雅を信じることすらできなくなっていた。それだけは、絶対にダメだ。今後あってはならない最悪の事態だ。私自身が恥ずかしくて仕方が無い。今後は、どのような事態に陥っても、雅を信じ切ってみせる。想いに応えてみせる。そう私は固く決意し、皆のもとへと戻るのだった。
その後、私達はほどよい時間で解散し、各々が帰路についていた。私も今は、雅と二人で帰路に着いている。だけど、そこには会話があまり存在しなかった。というのも、雅が先ほどから何やら考え込んでいるのだ。何やら、難しい顔をして考え込んでいる。何かあったのだろうか?
「雅、何かあったの?」
「うーん、そうだね。やっぱり難しく考えず、シンプルに直接聞いてみようか」
「直接聞く?」
「千聖、何があったの?」
「え?」
急な疑問の投げかけに驚いてしまった。まさか、そんな疑問が来るとは予想していなかったので、思わず気の抜けた声が出てしまう。
「薫から聞いたよ。今日の千聖がどこかおかしかったって。一体何があったの?」
「別にどうもしないわ。ただ、今日はちょっとイライラしちゃって、ストレスでも堪っているのかしら?」
「今日だけじゃない。昨日もどこか様子がおかしかったよ?ごまかそうとしてもダメだよ。絶対答えてもらうからね」
そう言う雅の目は本気だった。答えるまで絶対に逃がさないとその目が語りかけてくる。こうなった時の雅からは、逃れようとするだけ無駄だ。本当に、答えるまでずっとこの調子が続くのだから。本当は、雅に余計な気を使って欲しくなかったために、黙っておくつもりだった。だけど、こうなってしまったからには仕方ない。
「雅、実は・・・」
その後私は、雅に全てを話した。昨日の花音との会話のこと。私の受験勉強のこと。高校生活で想い出作りできる時間が残り僅かであること。全てを話した。雅は、そんな私の話を静かに聞いていた。そして、聞き終えてからも、しばらく眼を閉じて、何やら考え込んでいる。そして、数分間その状態を続け、徐に目を開く。
「千聖、確か明日もオフだったよね?」
「えぇ、そうだけど?」
明日は土曜日。学校は休みだ。そして、明日私は仕事も入っていない。所謂、完全オフというものだ。だけど、だからどうしたというのだろうか?確か、明日雅はRoseliaの皆との合同レッスンの予定が入っていたはずだ。それと、何か関係があるのだろうか?すると、雅が急に携帯を取り出し、誰かに電話をかけ始めた。一体誰に?
「あ、もしもし友希那?急にごめん。明日の合同レッスンだけど、ちょっと急用ができちゃって、キャンセルしたいんだ。ごめん。次は絶対参加するから。え?千聖のことをもっと大切にしろって?あはは、そんな事言われなくても当然大切にするよ。急にごめんね。それと、ありがとう。うん、それじゃまた」
そして電話を切る雅。今の会話を聞く限り、どうやら相手は友希那ちゃんだったらしい。しかし、どうして友希那ちゃんに電話を?それに、聞き間違いで無ければ、合同レッスンをキャンセルすると聞こえた。急にどうして?
「雅、今のは?」
「うん、友希那の許可も得たから、明日は思いっきり遊んじゃおう!」
「え?」
私は、事態が飲み込めずに、思わずまた気の抜けた声を出してしまう。まさか、私と遊ぶためだけに、貴重な練習時間を削るなんて。
「そんな、雅、でも・・・」
「遠慮は無しだよ?僕が千聖と遊びたかったからわがままを友希那に言っただけ。だから、千聖は何も気にしなくていいんだよ?これは僕のわがままなんだから」
「雅・・・ふふっ、ありがとう」
「あ、やっと笑ったね。昨日から千聖、笑ってもなんだか表情が暗かったよ。でも、うん、今のは綺麗な笑顔だった。やっぱり僕は、千聖の笑顔が好きだな」
「ふふっ、ありがとう」
「さぁ、それじゃ明日は今日の分も含めて飛びっ切りの想い出作りをしちゃおう!一生記憶に残るような思いで作っちゃうよ!」
その、雅の優しさが嬉しかった。私は最近、雅が自分の音楽に伸び悩んでいるのを知っている。それなのに、貴重な練習よりも私を優先してくれた。その事実が、嬉しかった。あぁ、私のことをこんなにも想ってくれるんだと思うと、思わず泣いてしまいそうになるほど、嬉しかった。
私は、きっと幸せ者なのだろう。素敵な人と出会い、素敵な軌跡を描き、素敵な
いつの間にか、私の心には太陽が顔を出していた。
どうも、ソウリンです
千聖ちゃん、不安定になるの巻、でした。
ガルパも2周年を迎え、皆アニメと同じように進級しましたね。
最上級生に上がったキャラも多くいます。
そして、最上級生ということは、避けては通れない道があります。進路ですね。
というわけで、今回は受験勉強に少し焦点を当ててみました。
まぁ、本来ならハロウィン、違うプロット用意してたんですけどね、アニメでキャラが進級したのを見て、なんだか思いついたのでこのシンリオに変更してみました。
まぁ、突貫工事みたいなことをしたので、粗があったらすいません。
そして、今回のサブタイトルは斉藤和義さんの君の顔が好きだです。古いです!でも、良い曲なんですよ!なお、昔の放送規制が緩かった頃は、今でいう放送禁止用語に歌詞を置き換えて歌ってたりしてましたね。えぇ、良い曲なんですよ?古いですけど!
そして、来月ですね。当作品においても、千聖ちゃんにおいても、一つの節目を迎える日がやってきます。
4月6日、千聖ちゃんの誕生日にして、当作品の投稿開始日ですね。
はい、当作品も一周年を迎えることになります。いやー本来の投稿プランなら、この日から三章に入る予定だったんですけどねー
かなり遅れてますね(白眼
特に記念話を投稿する予定はありません。
ただ、折角の記念日に何もしないのもあれなので、次回投稿をこの日に合わせたいと思います。
千聖編まで投稿できるかはわかりませんが、最低雅編だけは投稿できるようにがんばります。
では、今回はこの辺で。
次回は雅編です。オリジナルストーリーです。前述の通り、4月6日の午前0時投稿とします。意地でも間に合わせます。
ではでは、次回もよろしくお願いします!