第43話です
雅編です
冬が間近まで近づいてきた今日、その季節を現すかのように冷たい風がこの街を駆け巡っていた。肌寒い。そんな空気にも負けず、熱気に包まれた空間があった。
「まもなく、男子100M走が始まります。出場する選手の皆さんは、入場口までお集まりください」
そのアナウンスに導かれて、入場口に列を作って並ぶ。今日は僕が通う花咲川高校の体育祭だ。僕たちの学校は、普通の学校に比べて体育祭の開催が遅い。なんでも、すっかり肌寒くなったこの時期に開催することで、寒中水泳のように精神を鍛える目論見があるらしい。意味があるのかはわからないが。そして、入場の音楽が流れてくる。
「それでは、選手入場です」
そのアナウンスに従い、列のまま走者待機位置まで移動する。僕の高校は、一学年六クラスで構成されている。体育祭は、そのクラス対抗戦で行われる。学年ごとに、順位を決め、毎年学年内のトップに輝いたクラスには商店街で使用できる一商品無料券が全員に贈られる。まぁ、要するに商店街まとめてスポンサーをやってくれているようなものだ。
「次の走者の皆さん、準備してください」
この競技を担当している、実行委員の指示に従い走者位置につく。次は僕の番だ。周りを見渡すと、一緒に走る五人は、クラスは違うけど知っている生徒ばかりだった。その実力もある程度把握している。全員走力は中の下から中の上といったところだろう。これなら勝てそうだ。
「それでは、位置について!」
実行委員のその言葉が聞こえ、全員クラウチングスタートの姿勢を取る。全員見据えるのは100M先のゴールテープ。もはや隣の走者のことなど意識していなかった。
「用意、ドン!」
その声と銃声が聞こえ、全員が一斉にスタートを切る。時間にしてほんの十数秒。されども、これは男達の威信を賭した真剣勝負。この場の六人の頭には、自信が勝利した未来予想図しか思い描かれていない。だが、その未来に進むことができるのは、たった一人だけ。僕は、その未来を目指して、死に物狂いで足を動かすのだった。
「お疲れ様雅。残念だったわね」
100M走を終えた僕は、生徒に用意された応援スペースに結果報告も兼ねた顔見せをしてから、すぐに保護者観覧スペースに足を運んでいた。そこには、ブルーシートの上に座る千聖の姿があった。僕の両親は、当然のことながら来ていない。ロンドンでの仕事が相変わらず忙しいらしい。渡英したきり、帰ってきたのなんて数度だけだ。体育祭程度で帰ってくるわけがない。まぁ、ある意味千聖が僕の保護者みたいなものなので、この状況は正しいのかもしれない。
因みに、先ほどの100M走の結果は3位と不甲斐ないものだった。周りの実力は確かに男子の平均前後の生徒ばかりだった。だけど、僕だって似たような実力の持ち主なのだ。平均値より少し上程度、言うなら中の上程度。同じような実力の者同士なら、その時のコンディションや運次第で順位が変わる。そして今回僕は、僅差で3位に甘んじる結果となってしまったわけだ。
「あはは、情けないとこを見せちゃったね」
「そんなこと無いわ。すごくかっこよかったわよ。ただ、ちょっと運が悪かっただけ。次は絶対勝てるわよ」
「千聖、うん。ありがとう」
「うむうむ、青春の一ページって素晴らしいですね」
千聖と談笑する僕。そんな僕たちに声がかけられた。千景だ。彼女は、来年この高校を受験する。そのため、学校見学の一環として、体育祭の見学にやってきたのだ。
「はぁ、千景。あなたは校舎の見学でもしてきたら?先生にお願いしてるんでしょ?」
「え?そ、それは私が邪魔だということですか?」
「誰もそんなこと言ってないわよ。ただ、あなただって学校の見学したいんでしょ?そう思って提案しただけよ」
「うぅ、わかりました。ただ、姉さんに追い出されたと思い込んだ私は、ショックのあまりおにいさんのファンクラブ掲示板に姉さんとの有ること無いこと書き込むかもしれませんが」
「やっぱりあなたはここにいなさい。どこにもいかないで」
「え?いいんですか?それじゃお言葉に甘えて」
「あはは、千景は相変わらずだね」
やっぱり、なんというか千景ちゃんは強いと思う。あの千聖がここまで手玉に取られるのは中々見られるものではない。それだけに、千景の口の強さがよくわかる。
「ただいまより、二年生男子による借り物競争の入場準備を開始します。出場する生徒は速やかに集合してください」
と、千聖たちと談笑してるとそんなアナウンスが聞こえてきた。借り物競争。僕が出場する競技だ。
「あ、ごめん出番だからいってくるよ」
「あら?もう出番なの?早くないかしら?」
「うん。まぁこれも戦略の内なんだよ。僕はここさえ乗り切れば最後のリレーまで出番が無いからね。リレーに向けて体力を回復しておく作戦だよ」
体育大会は、全生徒最低三つの種目に出場する決まりになっている。個人種目二つ、団体種目最低一つの決まりだ。個人種目は一人二つの決まりだけど、団体種目は最低全員一つは出場しなければいけないが、一人が何個出ても問題ない。極端な話、クラス全員一つ出る条件さえ守れば、全ての団体競技に出る生徒がいても問題ないのだ。
団体競技には、三つがある。午前の部最終競技の騎馬戦。午後の部最初の競技の綱引き。全体最終種目のリレー。それぞれが、三十人のクラスから十五人の出場が義務付けられる。そして、僕はこの中からリレーにだけ出場する。
僕は、長時間のライブを頻繁に行っていることもあり、体力には自信がある。それこそ、運動部にも負けないほどに。だけど、走力は平均レベルだ。だからこその、大事を取ってのこの作戦だ。
早い段階で僕の個人競技を終わらせて、最後のリレーに向けて体力を回復させる。備えあれば憂いなし。つまり、そういうことだ。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「えぇ、頑張ってね」
「姉さんのことはご心配なく。私がちゃんとお守りしておきますので」
「それは余計心配になるだけよ」
「あはは、まぁ、頑張ってくるよ」
そして、僕は入場口へと足を進めるのだった。次こそは絶対に勝つ。千聖にいいところを見せるために、僕は今一度気合を入れなおすのだった。
そして、借り物競争が始まった。始まったのだが、その競技は混沌とした魔境と化していた。なんと、一つのレースにつき、走破できた人が一人二人しかいないのだ。六人中、一人二人だ。かなり低い確率だ。順番が近づいてくるにつれて、段々不安になってくる。この競技、本当に大丈夫なんだろうか?
「次の走者の方、準備してください」
そして、最終走者である僕たちに順番が回ってくる。周りを見れば、僕の対戦相手は皆他クラスの走力上位勢だった。だけど、この競技に限っては走力は当てにならない。求められるのは、八割の運と二割の判断力。走力は文字通り二の次だ。
「それでは、よーい、どん!」
そして、スタートの合図が出される。全員、お題が記された紙に向けて一目散に駆け出していく。さすが、走力上位勢。早い。僕が紙が置かれたポイントに着く頃には、全員お題の確認を終えていた。
「か、門松?これは、当たりの部類なのか?いや、体育祭に持ってきてる人普通いないだろ・・・」
「大いなる普通・・・って何?え?全く想像もできないんだけど?」
「ブシドー!・・・ブシドー?何?武士道のこと?いや、物じゃねーじゃん!」
「天才少女の姉とか無理ゲーだろ!天才少女だけでも無理ゲーだよ!」
「お題は儚い物だな。なるほど。いや、抽象的すぎてわからねーよ・・・」
だけど、どうやら皆無理難題にぶち当たっているようだ。聞いてるだけでも、走破できる人がいるとは思えない。そして、僕もお題を手にする。
「このお題は・・・」
お題を見た瞬間、僕はその場から駆け出していた。それは、抽象的と言えば抽象的と言えるようなお題だった。人によって、答えが様々な姿に変わるようなお題。そのお題を見た瞬間、僕の頭には一つの答えしか思い浮かばなかった。
「え?雅?」
「おやおや?もしかして、この展開は?」
「ごめん千聖。一緒に来て!」
僕は、そう言うなり千聖の手を取った。そしてすぐさまゴールを目指そうとする。
「ちょっと待って、私今靴も履いてないから」
が、千聖から制止の声がかかった。千聖は、現在観覧席用に用意されたブルーシートの上にいる。当然、土足で上がるはずがない。だけど、今の僕の頭には一秒でも早くゴールに向かわなければ、勝たなければという使命感が渦巻いていた。悠長に千聖が靴を履く時間を待っているのも煩わしい。だからこそ、僕は思い切った行動に出た。
「千聖、ごめん!」
「え?きゃっ!」
「あらあら、これはシャッターチャンスですね」
僕は、両の腕を千聖の肩と膝裏に持っていき、そのまま抱え上げた。所謂お姫様抱っこだ。そのまま、ゴールへと一直線に進んでいく。実況席や、他生徒から歓声やヤジが飛んできているような気がするが、今はそんなの気にならない。そして僕は、千聖を抱えたままゴールテープを切ったのだった。結果、見事一位となった。
「一位おめでとうございます!念のために、お題を確認させてください!」
係の子がそう言ってくる。まぁ、中にはお題に関係ない物を持ってゴールする人がいるかもしれないし、仕方ないだろう。だけど、僕は今お題を渡せない事情があった。
「ごめん。渡したいのは山々なんだけど、この子の靴が無くて、降ろせないんだ。ちょっとだけ待って」
そう。僕は未だに千聖を抱えた状態のままだった。というのも、千聖の靴を置いてきてしまったのだから仕方ない。後先考えず、突っ走った結果、こうなってしまった。結局、後続がゴールしてくる気配はない。要するに、千聖が靴を履く時間を待つぐらい、どうということはなかったのだ。まぁ、結果論と言えば結果論だけど。
結果、千聖にも恥ずかしい思いをさせてしまった。今も、僕の胸に顔を隠して全く見せようとしない。恥ずかしすぎて、熱を持っているのだろうか?寒空の下、やたらと千聖の頭が当たっている胸元だけが熱い。
「はいはい、こうなるだろうと思って、お届けに来ましたよ」
と、そんなやりとりをしている内に、千景がやってきた。その手には千聖の靴が握られている。
「さすが千景。ありがとう」
「本当に助かったわ」
そして漸く地に足をつける千聖。その表情は、真っ赤に染まっていた。よっぽど恥ずかしかったのだろう。本当に申し訳なく思う。そして、僕は係の子にお題の紙を見せる。
「えーっと・・・お幸せに?」
「あはは、うん、ありがとう」
その言葉と一緒に、紙を返してくれる。その係の子の言葉に、白鷺姉妹は表情に疑問符を浮かべていた。まぁ、お題がお題だったから仕方ない。そして、僕はそのまま自クラスに結果の報告だけして千聖たちと一緒に保護者観覧スペースに戻ったのだった。
千聖を連れて報告に行ったところ、クラスメートから手荒い歓迎を受けたことだけ追記しておく。
昼休みになった。
これで競技は折り返しだ。前半戦を終えて、六クラスに大きな開きは無い。まさに団子状態といった様相だ。この昼休みで鋭気を養って、後半戦にスパートをかけたいところだ。
といっても、僕の出番は最後のリレーまではもう無い。それまでは完全にフリーの時間になっている。当初の作戦通り、しっかりと休ませて貰おうと思う。とまぁ、やすむのも大事だけど、まずはランチだ。腹が減っては戦は出来ぬ。空腹の状態で戦に臨んだら、イヴちゃんに怒られちゃいそうだ。というわけで、僕は千聖が作ってきてくれたお弁当を頂くことにした。
千聖が作ってきてくれたお弁当は、豪勢なお重に入れられていた。しかも三段重ねだ。そこにはお弁当の定番とも言える品々が綺麗に詰められていた。だし巻き卵にきんぴらゴボウ、ポテトサラダからたこさんウィンナーまで。見てるだけでも楽しめるような食の芸術だった。
「朝からこんなに作ってくれてたの?大変だったでしょ」
「そんなこと無いわよ。仕込みは昨日のうちに済ませてたから、見た目ほど労力はかかってないわ。さぁ、遠慮無く食べてね」
「はい。では遠慮無く」
「あなたは少し遠慮しなさい」
そう言って、本当に遠慮無くおかずに手を伸ばしていく千景。ぼやっとしているとあっというまに無くなっちゃいそうだ。僕も負けじとお宝に手を伸ばしていく。
「あ、千景。その唐揚げは僕が狙ってたんだぞ!」
「ふっふっふっ、甘いですねおにいさん。世の中には早い者勝ちなんていう素晴らしい言葉があるんですよ。・・・て、おにいさん、その磯辺揚げは私が狙っていた・・・」
「ふっふっふっ、甘いね千景。世の中には早い者勝ちなんて便利な言葉があるんだよ」
「むぬぬ、やりますねおにいさん」
「そう言う千景こそね」
「はいはい、量も余裕を持って作ってきたし、お弁当は逃げないわよ。もっと落ち着いて食べましょうね」
「はーい」
そうやって千景とおかず争奪戦を繰り広げていると、間に入った千聖に止められる。まるでお母さんに止められる遊び盛りの兄妹みたいで少し恥ずかしい。確かに、千聖の言う通りお弁当はかなりの量が用意されている。それこそ、僕達三人で食べても、食べきれるかわからないほどに。
その後も、三人でお弁当を食べ進めていく。最初は多すぎると思っていたお弁当も、食べ進めてみればあっさりと無くなってしまった。久々にまともな運動をしたからだろうか?いつも以上に食欲が凄まじかった気がする。だけど、流石にもう限界だ。お腹がしんどくて、しばらく動けそうにない。
「さて、では私はこれより校舎見学に行って参りますね。お二人はお好きにラブラブしていてください」
「別にこんなところでしないわよ」
「おや?こんなところではしない?ということはする場所もあるということですよね。それは具体的にはどのような場所で」
「いいから早く行ってきなさい!」
「あはは、千景は相変わらずだね」
「本当に、相変わらずすぎて頭が痛くなるわ」
そう言って頭に手を置く千聖。その様子を見るに、家でも散々遊ばれているのだろう。容易に想像することができる。因みにだが、体育祭中は事前に学校に申請しておくことによって、自由に校舎内を見学することができる。そのため、毎年体育祭には来年度の入学を考えている中学生が見学に訪れている。千景もその内の一人だ。
千景が校舎見学に行ったので、その場には僕と千聖の二人だけが残された。二人きりになったと言っても、特に何かをするわけでも無い。ただ、二人でノンビリしているだけだ。別に、千景が言うところのラブラブをするつもりも無い。今はただ、体を休めることに注力しておく。そう考え、ぼーっとしていたのだけれど、急に睡魔が襲ってきた。
ここのところ、作曲が行き詰まり、夜の遅くまで活動をすることが増えてきている。つまり、睡眠時間が減ってきている。それに合わせて、お弁当を食べて満腹になったことにより、今まで隠れていた睡魔がヒョッコリ顔を出したのだろう。ウトウトとしてきた。
「雅?眠いの?」
「うん。お腹いっぱいになったからかな。なんだか眠くなってきたや」
そう、千聖の問いかけに素直に答える。時間を確認すると、僕の出番まではまだ数時間ある。少し寝てても問題無さそうだ。そう思い、僕はその場に寝転がる。
「ごめん、少しだけ寝るよ」
「あ、待って。そのまま寝転がると痛いでしょ?ほら、頭乗せて」
そう言って、千聖は自信の膝を差し出してくる。確かに、僕が今寝転がろうとしていた場所は、ブルーシートが敷いてあるとはいえ、その下は直ぐに地面だ。そんなところで寝ると、頭が痛いに決まっている。だけど、千聖の提案に乗るのは、彼女に悪すぎる。
「いいよ、このままで。そんなことしてもらうなんて、千聖に悪すぎるから」
「私なら気にしないわよ。それとも、私の膝の上なんかじゃ寝れないとでも言うのかしら?」
そう言って、意地の悪そうな笑みを浮かべる千聖。その言い方は卑怯だ。そんなこと言われたら、拒否できるわけが無い。
「うっ、じゃあお言葉に甘えます」
「ふふっ、はい、どうぞ」
満面の笑みを浮かべて僕に膝を差し出してくれる千聖。僕は、少し緊張しつつ、その膝に頭を乗せた。千聖は今日ミニスカートを履いてきている。そのため、彼女の素足の感触が直に頭に襲ってくる。非常にスベスベしていて、柔らかくて、バニラのような良い香りが漂ってくる。その全ての感覚が、僕をドキドキさせる。心臓が鼓動を早める。だけど、とても心地よい。安心する。幸せを実感する。あぁ、千聖が直ぐ傍にいてくれる。そう感じるだけで、そのような感情が湧いてくる。気分は最高だった。
「寝心地はどうかしら?」
「うん。最高だよ」
「ふふっ、それは良かったわ」
その会話を最後に、僕の意識は睡魔によって奪い去られていく。少し緊張はあったけれども、どうやら睡魔がそれを上回ったらしい。僕の意識が完全に無くなるまで、時間は必要無かった。さぁ、起きたら最後の大仕事が待っている。必ず優勝の栄冠を勝ち取ってみせる。その意気込みを最後に、僕の意識は安らかな闇へと消え去っていった。
「雅、時間よ。起きて」
次に僕の意識が覚醒したのは、千聖のその声に呼び起こされてだった。ゆっくりと目を開ける。最初に飛び込んできたのは、僕を優しげな眼差しで見下ろす千聖の顔だった。
「おはよう、雅」
「うん、おはよう千聖」
時間を確認すると、リレー開始時間の十分前といったところだった。ちょうどいい時間だろう。睡眠を取ったことにより、なんだか体も軽い。これなら、いい結果が出せそうな気がする。
「よく眠れたかしら?」
「うん。お陰様でグッスリだよ。ありがとう千聖」
「ふふっ、どういたしまして」
「ゴホン。えーラブラブしてくださるのは大いに結構なのですが、私がいることも忘れないで下さい」
そう、あからさまな咳払いをして千景が言う。正直に言って、彼女のことをすっかり忘れていた。
「あら?千景いたの?ごめんなさい気づかなかったわ」
「おや?ずっといたのに気づかれなかった?これはまさか私、透明人間にでもなれましたか?もしかして今なら、おにいさんが寝ていた間に姉さんがしていたことを言っても、誰にも気づかれないんじゃ」
「ごめんなさい千景。私が悪かったわ。だからやめなさい」
千景の発言に直ぐさま反応して謝る千聖。え?僕が寝ている間に何をしていたの?凄く気になるんだけど。
「千景、千聖は何をしていたの?」
「実はですね、姉さんは」
「ちょっと、千景、やめなさい!」
「ただいまより、、二年生クラス対抗最強リレーの入場準備を行います。参加する生徒の皆さんは速やかに集合してください」
「ほら、呼ばれてるから!早く行って!」
タイミングの良いアナウンスによって、僕の疑問はうやむやにされる。千聖の行動は気になるけれども、集合に遅れるわけにはいかない。仕方なく、僕は集合場所へと足を向けた。
「雅」
「ん?何?」
「頑張ってね」
「・・・うん、勝ってくるよ」
その声を背に受け、足を進めた。今の僕には、負ける気が一切しなかった。
そして、リレーの火蓋が切って落とされる。ただのリレーでは無い。これは最強リレーだ。各クラスから、体力測定の結果を参考に、最速の十五人がエントリーされる。そのメンバーに、僕も選ばれた。そして、僕が今回担当するのは十五走目、つまりアンカーだ。なんで僕なんかがアンカーを努めるかというと、これには歴とした作戦がある。
基本的に、他のクラスは皆第一走者を除き後に行くほど足の速くなっていくように順番を決めている。第一走者だけは走力上位の生徒を置いておき、そこからクールダウンして後半追い上げる、つまり中緩みさせるような順番になっている。そこで、僕達が考えた作戦は、その中緩みで一気に突き放す作戦だ。
具体的な作戦は単純だ。僕達は逆に、後半に行くほど足が遅くなっていくように順番を組んでいる。そうすることによって、先行逃げ切りを狙う作戦だ。つまり、今回でいうアンカーとは、メンバ-で一番足が遅い生徒が努める、不名誉なポジションなのだ。自分で言ってて泣きたくなってきた。
現在の各クラスのポイントは、未だに団子状態となっている。このリレーでトップになったチームが、そのままクラス順位でもトップに躍り出るほどの超僅差。そして、このリレーは最終種目だ。つまり、このリレーの勝者がそのまま優勝者ということになる。不名誉アンカーとはいえ、最後にゴールテープを切るのは僕の仕事。その責任は重大だ。
そして、遂にスタートの合図が出される。先行したのは、当初の目論見通り僕達のクラスだ。そして、その差は一走、二走と進む度に広がっていく。それこそ、半周差を付けようかと言うほどに。しかし、その差が、折り返しを迎えることになると、段々縮まるようになっていく。一走、二走と進むごとに、段々と差が縮まっていく。これも、当初の目論見通りだ。だけど、いざ実際に目の当たりにしてしまうと、焦ってしまう。
そして、十四走目、つまり僕の前の走者にまでバトンが回ってきた。その頃には、トップ争いは二つのクラスに絞られていた。僕のクラスはその内の一つだ。コースに出て、バトンが回ってくるのを待つ。隣には、トップ争いをしているクラスのアンカーが悠然とした面持ちで立っていた。スラリと伸びた長身。長い手足。自信に溢れた相貌。
彼のことは知っている。学年でもナンバーワンの俊足の持ち主、身体能力の持ち主だ。バスケ部でエースとして活躍しており、その脚力も、陸上部よりも速いというとんでもない生徒だ。そんな生徒と、僕は争わなければいけないらしい。少しでも多くリードが欲しいが、そのリードも徐々に縮まっていく。その差は秒換算で三秒ほどだろうか?このハンデをもらって、この百メートルに挑む。
因みにだが、僕の百メートル記録は十四秒台後半、噂に聞くバスケ部エースの記録は十一秒台前半らしい。正直、三秒ほどのリードじゃ心許ない。勝ち筋の方が薄いように感じる。だけど、やるしかない。やれるだけ、やってみよう。それで無理なら仕方ないじゃないか。相手が悪かった。そう言うしかない。
そして、ついにバトンが僕の手に回ってくる。僕にできる限りの全力で足を動かす。腕を振る。後続との差は予測通りきっちり三秒。ここから、約十五秒間で勝者が決まる。前に、前に進む。全力で、最高速で、前に進む。後ろは振り返らない。見向きもしない。ただ、前だけを見て進む。
ゴールテープまで、後三十メートル、というところで直ぐ真後ろに気配を感じる。その距離、約1歩分。速すぎる。もう追いつかれた。次の瞬間にはもう抜かれるかもしれないような、有って無いような、無意味な差。後三十メートル。絶望的な距離。後二十メートル。遂に、横に並んできた。そこで僕は察した。所詮無謀な勝負だったんだと。
いや、相手からしたらこんなもの、勝負ですら無かったのかもしれない。それほどまでに、最初からわかりきっていた結果。チラッと、自クラスの応援席を見てみる。わかりきっていたことだけど、皆が皆、諦めたような表情をしている。皆、これから訪れる結果を受け入れたのだ。僕を含めて。はっきり言って、ここから勝てる確率なんて万に一つも無い。それなのに、僕の勝利を信じるなんて、どうかしている。
「雅!負けないで!」
そんな、諦めようとしていた時だった。その声が聞こえたのは。それが、誰の声かなんていうのは、確認するまでもない。僕が彼女の声を聞き間違えるなんて、そんなことあるはずがない。千聖だ。千聖の声援が、確かに聞こえた。どうやら、千聖はこんな状況でも僕の勝利を信じてくれているらしい。言ってはなんだけど、本当にどうかしていると思う。だけど・・・
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
僕という人間は、本当になんて単純な存在なんだろうと思う。その声援が聞こえただけで、こんなにも力が漲ってくる。やる気が湧いてくる。隣の相手を横目で窺うと、僕の突然の大声に対して、驚いているように見える。だけど、その足は決して緩まるところを知らない。前述したとおり、ここから僕が勝つ確率なんていうのは、万に一つも無い。論理的に見てもありえないことだ。
だけど、これから起こることは、決してそんな論理とかで測れるものじゃない。ただの、感情論なのだから。負けない。負けたくない。千聖の想いに応えたい。その気持ちだけで足を動かす。一歩前よりも速く、次は更に速くと。横目で相手をまた見てみる。その表情はまた驚愕しているように見える。だけど、今度は僕の声に対してでは無い。足に対してだろう。
もう抜けると思った相手が、急に速くなり、いつまでも自分との平行線を走り続けているのだ。それは当然ビックリするだろう。後十メートル。ラストスパートだ。ここまで来たのなら負けたくない。絶対負けたくない。千聖に、勝利した僕の姿を見てもらうんだ。後五メートル。もうゴールは目と鼻の先。さぁ、行け雅!勝利の栄光を、その瞬間を自分の手で掴むんだ!
そして、ゴールテープが切られる。先に切ったのは・・・
「ここで両者ゴール!僅かな差ながら、先にゴールしたのは・・・な、なんと黒城雅だ!信じられません!まさかあの局面から勝利するなんて!これが愛の力なのか!?」
その実況の声を聞き、僕は自信の勝利を知る。正直、最後は走るのに夢中で、ただがむしゃらに走っていたので、自分が勝ったのかどうかなんて全然わからなかった。だけど、どうやら勝利したらしい。
僕はその情報を得ると、観覧席にいるとある少女に向けて拳を突き出す。もちろん千聖だ。彼女も、合わせるように僕に向かって拳を突き出してくれる。その眼には薄らと涙が浮かんでいる。泣いてくれていたのだろうか?何はともあれ、彼女に勝利をプレゼントできてよかった。とはいえ、僕も彼女にプレゼントを貰ってしまった。
先ほど彼女が僕に見せてくれた、涙を浮かべながらも見せてくれた笑顔を、僕は一生忘れないだろう。正に、一生の宝物だ。それほどまでに、最高の笑顔だった。ふと、今日の借り物競走を思い出す。あのお題を見たとき、僕は真っ先に千聖が浮かんでいた。昔の僕なら、きっと違う選択をしていたかもしれない。だけど、今は千聖が真っ先に思い浮かぶ。
それほど、僕の中で彼女が、かけがえの無いものになっているということだ。これからもきっと、それは変わらないのだろう。これからもずっと、千聖を大切にして生きていきたい。そう思わせてくれる、素晴らしき青春の一ページだった。
どうも、ソウリンです
いやー時間が過ぎるのって早いですねー
気がついたら前回投稿から4ヶ月以上経過していました(白眼
本当にお待たせしてすいませんでした(ジャンピング土下座
まぁ、言い訳させて貰うと、マジで四月からの職場の新人事体制が鬼でした
仕事量半端なく増えて困惑してました
今までも周りに比べて比較的多い方だったのに(涙目
マジで執筆する気力引き出すのが一苦労な疲労具合でした
まぁ、そんな中でも色々バンドリのリアルイベント行ったりしましたよ!
5月はNGNCに両日LVで、7月はFILMLIVEのプレミアム先行上映会にLVで、更にはRAS神戸両日現地に、今月もロゼ富士急両日LVで参戦してきました!
もうね、どれもこれも素晴らしいの一言に尽きますね!今更感想言うのもあれなので、省略しますけどね!まぁ、定期的(?)に上げてる活動報告に感想書いたりしてますが(笑)
え?執筆する気力起きなかったのにリアルイベント行く気力はあるのかって?それぐらい許して下さい(白眼
というか、前回投稿からの間にリアルライブ三回も挟んでたなんてビックリですね。次の投稿が11月のラウクレの後にならないように気をつけます(白眼
あ、後リアルイベントなら、自分はポピパファンミ大阪に参戦しますので、当日参加する方はよろしくお願いします
それと、今回のサブタイトルは、劇場版SAOより、LiSAさんのCatch the Momentです。意味は、直訳すると瞬間を掴むといったところですね。シリカ可愛いよシリカ。はい、SAOではシリカ派の自分です。SAOといえばLiSAさん。この曲本当に好き、というかLiSAさん本当に好き。次回千聖編サブタイトルも、そんなLiSAさんに関する曲からつけます。まぁ、雅編の中にも色々ヒント混ぜたし、LiSAさんを知ってる人ならわかると思います。
その千聖編ですが、すいませんまだできてません(白眼
この連休お盆の関係でバタバタしてたら、間に合いませんでした・・・
まぁある程度は出来てるので、来週には間に合うと思います。
来週は来週で、土日両日飲み会入ってるので不安ですけど
というわけで、予定自体は一応19日午後12時にしておきますね
無理だったらすいません
なるべく間に合わせられるように頑張ります
ではでは、今回はこの辺で
次回は千聖編です。前述の通り、19日午後12時投稿予定です
ではでは、次回もよろしくお願いします!