雅編です
十二月二十四日
一年三百六十五日の中でも、指折りの特別な日だろう。いや、特別な日の前日というべきだろうか。所謂クリスマスイヴ。聖なる日と言われる、クリスマスの前日。恋人たちにとっても特別な一日。そんな日に僕は、
「彩ちゃん今のは若干入りが早かったよ。逸る気持ちが歌にも出ちゃってるね。もっと落ち着いて、クレバーに。一旦深呼吸してもう一回やってみようか」
「うん、わかった!」
彩ちゃんにマンツーマン指導を行なっていた。明日十二月二十五日、この日は僕とパスパレの皆の合同ライブ当日だ。つまり、本番までに残された時間は今日を残すのみとなっている。その残り少ない時間をこうやって彩ちゃんのために使っているというわけだ。
彩ちゃんももう十分明日の準備はできている。だけど、Afterglowの皆が作ってくれた一曲、Y.O.L.O!!!!!に関して、まだ詰め込める余地があるからと、こうやって前日まで根を詰めているというわけだ。因みに、他の四人はなんでも他の仕事が入っているらしい。彩ちゃんがそれを聞いてなんで私だけ入ってないの?って悲しそうにしてたけど、入ってないものは入ってないんだから仕方ない。明日の準備のために有意義に使わせてもらおう。
「うん、今のは良い感じだったね」
「ほんと?やったー!」
「じゃあ今のが形にできるように、十回連続で今の部分やってみようか」
「み、雅君って結構スパルタだよね・・・」
スパルタ?そうだろうか?これも彩ちゃんのことを思って、彩ちゃんのためにやってるんだけどな。どうやら、彩ちゃんには不満だったかな?
「そっかー、十回じゃ足りなかったよね。ごめん、じゃあ百回いって」
「ううん!十回で十分です!よーし!頑張るぞー!」
と、急に意気込む彩ちゃん。最初からそう言ってくれたらいいのにね。正直、十回なんて少ない方なんだから。そして彩ちゃんは僕に言われた通り、同じパートの練習を十回続けて行っていく。回数を重ねていくごとに、その歌声が洗練されていってるのがよくわかる。うん、この調子ならこのパートはもう大丈夫だろう。
「十回!雅君終わったよ!」
「うん、お疲れ様。それじゃあ、このまま次のパート行ってみようか」
「え!?もう次行くの!?」
彩ちゃんは何を驚いているんだろう?本番まで後一日しかないのだ。こんなところで休んでる暇はない。さぁ、ジャンジャン行ってみよう。
「さぁ、休んでる暇はないよ。次行くよ」
「なんか雅君、今日機嫌悪くない?」
はい?僕の機嫌が悪い?そんなわけがない。いたっていつも通りのはずだ。何もおかしいところは無いはずだ。
「・・・そんなことないよ」
「ううん、絶対おかしいよ!何かあったの?」
「・・・別に千聖とデートに行けなかったからっていじけてないさ」
「あ、うん」
そう、本来なら今日は千聖とデートに行こうと思っていたのだ。なのに、千聖は急な仕事が入ってしまったらしく行けず、特に予定の無くなってしまった僕はこうやって彩ちゃんのレッスンに付き合っているというわけだ。考えたら、余計に悲しくなってきた。
「なんか、ごめんね?」
「別に彩ちゃんが謝ることじゃないよ。千聖も仕事なんだから仕方ないってわかってるんだけどね。はぁ、折角付き合い始めて最初のクリスマスイヴだったのに・・・」
「私もイヴに雅君と二人っきりだなんて、後で千聖ちゃんにお説教されそうな気がしてきたよ・・・」
そうやって、二人でため息をつく僕たち。ため息をつけば幸せが逃げるなんて言うけれど、つく前から逃げられてるんだから、つきたくもなってしまう。はぁ。
「でも皆、なんの仕事なんだろう?」
「さぁ?パスパレ全員での仕事だったら、彩ちゃんが呼ばれてないのもおかしいし、個別の仕事なのかなーって思うんだけど、四人が別々にこんなイヴの日に仕事が来るってことあるのかな?」
今朝千聖に聞いてみたが、仕事の内容までは教えてもらえなかった。さっき事務所スタッフの人にも聞いてみたけど、トップシークレットですって言って教えてもらえなかった。トップシークレットって何?そんな重大任務でもあの四人は抱えてるの?余計に気になってしまって仕方ない。
「二人ともお疲れ様」
と、そんなことを考えていると、スタジオの扉が開き誰かが入ってくる。目を向けずともわかる。千聖だ。どうやら他の三人はいないらしい。
「お疲れ様千聖。仕事はもう大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫よ。雅と一緒に帰ろうと思ってここに寄ったのだけれども、まだ続きそうかしら?」
そう言われて、どうするか彩ちゃんのほうを向くと、気にしないでというように首を横に振られた。それじゃあ、彩ちゃんのお言葉に甘えて今日はこれで上がらせてもらおう。
「そうだね。それじゃあ帰ろうか。彩ちゃんまた明日ね。明日は頑張ろうね」
「うん!最高の一日にしようね!」
「ふふっ、また明日ね彩ちゃん。それと、今度またゆっくりお話しましょうね」
「ひ、ひっ!?」
そういう千聖の顔は、笑顔だった。輝かしいばかりの笑顔なのに、なぜこんなにも圧力を感じるのだろうか?まるで地球の重力が何十倍にもなったように周りが重く感じる。一体、なんの話をするというのだろうか?やっぱり怖いから聞きたくない。
そして僕と千聖はそのまま事務所を後にした。外はすっかり暗くなっていた。少し前までは、この時間もまだ明るく感じたのに、今ではすっかり暗くなってしまっている。
「雅、折角のイヴだし、晩御飯は外食しましょう。お店はもう予約してあるのよ」
「本当?流石千聖!僕、もうすっかりお腹が空いちゃったよ。早く行こう!」
「ふふっ、えぇそうね」
そして僕たちは夜の街へと繰り出した。今日はクリスマスイヴ。イヴの夜はまだまだ長い。そのころには、僕の機嫌もすっかり良くなっていたのだった。
千聖に連れられてやってきた店は、僕も聞いたことのある店だった。地元カップルに大人気のオシャレなカフェレストラン。数多の雑誌にも掲載されるほどの人気店だった。カップルからの支持が高いということで、今日明日の二日間は予約が殺到し、数か月前から予約を入れておかないと間に合わないという超人気店。そんな店を千聖は予約していたらしい。
一体いつから予約していたんだろう?少なくとも今日、昨日、今月どころの話ではないはずだ。どうやら、千聖はずっと前から今日のことを計画していたらしい。誠に恐れ入る。
「このお店、去年放送してたクリスマス番組で紹介されてたのよ。その時に気になってて、今年のイヴに雅と来れたらなーと思ってたの。それで、もう去年の内に予約してあったのよ」
「去年の内って、まだ付き合う前じゃん。ここって、カップルに大人気のお店でしょ?もしまだ付き合ってなかったらどうしたのさ」
「ふふっ、きっとそれでも来てたんじゃないかしら?」
えー。カップルでもないのに態々クリスマスイヴに、こんなお店に?それはちょっと気恥ずかしいような。と思ってそのケースを想像してみたんだけど、なんでだろうか。あまり違和感が無かった。不思議な話だ。
「・・・いよいよ明日ね」
「うん。そうだね。この日のために皆できる限りの努力をしてきた。土壇場で増えた新曲に関しても、皆驚くべき速さで習得してくれた。本当に皆、成長スピードが尋常じゃないよ。ちょっと、嫉妬しちゃうな」
「そうね。皆本当にこの一年で見違えるほど成長したわ。私も、演奏に関しては先輩だと思って安心してたけど、今じゃ追いつかれないようにするのに必死よ。油断してたら直ぐに追いつき追い抜かれちゃいそうだわ」
千聖の意見も
「だけど、千聖の成長スピードも凄いと思うけどな。僕なんかより全然早いよ」
「そうかしら?ふふっ、きっと一番近くに最高の先生がいるからでしょうね」
最高の先生?僕のことだろうか。確かに、僕は家でも千聖にベースを教えることもある。だけど、僕もベース自体を長らく弾いていないから、今では千聖の方が上手いんじゃないかと思う。それでも、教師として務まっているのだろうか?
「本当に僕なんかが教えててもいいの?たぶん、今だったら僕よりも千聖の方がベースの実力は上だと思うよ。なんだったら、ベースの専門家に心当たりがあるから、連絡とってみるけど?」
「ううん。雅がいいの。雅じゃなきゃ、私は嫌よ」
そう頑なに拒む千聖。そんなことを言われると、僕だって当然嬉しくなってしまう。頑張って、少しでも千聖の成長に繋がるように僕も努力しよう。最近は、ギターばっか弾いてたけど、ベースの勉強もまたしてみようかな?
「お食事中のところすいません。少しよろしいでしょうか?」
千聖と談笑しながら、料理に舌鼓を打っていた時だった。不意に誰かが僕たちに声をかけてくる。そちらに顔を向けると、お店のスタッフさんが僕たちのテーブルの横に立っていた。
「黒城雅さんと、白鷺千聖さんですよね?本日は当店をご利用いただきありがとうございます。もし差し支えなければ、当店に飾らせていただきたいので、サインと写真撮影をお願いできないでしょうか?」
そう店員さんは言ってくる。そう言えばこのお店に入ったとき、やけに芸能人のサインと写真が多いと感じていた。それも、所謂芸能人カップルの。中には意外な大物までいてビックリだ。
「このお店はね。サインと写真を提供した芸能人カップルはその後もずっと幸せになれるって言われてるのよ。現に、飾られてた写真に写ってるカップルの皆は、未だに付き合ってたり、既に結婚までしている人ばかりなのよ。破局率驚異の0パーセントというのだから流石に驚きだわ」
そう千聖が教えてくれる。0パーセント。言葉にするのは容易だけど、実際に目標に掲げて、易々と達成できるものではない。それこそ、目に見えない不思議な力が働いているのではないか?そう思わせてくれるような絶対的説得力がある。
「なるほど。それは良いね。是非、飾ってもらおうか」
「ふふっ、雅ならそう言ってくれると思ってたわ。それでは、お願いします」
「ご協力ありがとうございます。では、写真を撮らせていただきますので、お二人とももう少し近くに寄っていただいてよろしいでしょうか?」
快い返事をした僕たちに向かって、スタッフさんがカメラを構える。その指示に従って、僕たちはお互いの頬がくっつくほどに顔を近づけた。僕たちの顔には、自然と笑みが浮かび上がる。これで、僕たちの未来はきっと明るい物になってくれることだろう。そんな僕たちの未来を祝福するかのように、カメラが
だけど、一つどうしても言っておきたいことがある。それは、別にこのような願掛けをしなくても、僕たちの未来は目が
まぁ、もしかすると今回の願掛けによって、限界を超え120パーセントの幸福溢れる未来になるかもしれないが。まぁ、何はともあれ明るい将来が待っているのは間違いないだろう。僕たちは、その後も和気藹々と談笑しつつ、素晴らしい料理に舌鼓を打つのだった。話題は自然と、未来についてのものになっていた。
そして翌日、ついにライブ当日を迎えた。会場には既に多くのお客さんが詰めかけており、大混雑の様相を呈している。
「凄い声援だね。控室にいてもお客さんの声援が聞こえてくるや」
「そうね。皆、私たちのことを待ってくれてるのね」
「わ、私ちょっとお手洗いに行ってくる!」
「あはは、彩ちゃん十分前に行ったばかりだよ!緊張しすぎ!」
「ジブンからしたら、いつも通りでいられる日菜さんの方が不思議ですけどね。ジブンも緊張して頭が真っ白になってきました・・・」
「マヤさんファイトです!もうすぐ合戦の時間ですよ!」
「あはは、イヴちゃん別に今から戦をするわけじゃ無いんだよ」
皆大小の違いはあれど、緊張しているようだ。僕も含めて。といっても、僕の場合は良い緊張感に包まれてると思う。緊張はパフォーマンスの敵と言う人もいるけれども、時には味方になってくれることもある。今なら、最高のパフォーマンスができそうだ。
「皆さん、時間です!舞台の方によろしくお願いします!」
そうスタッフさんが声をかけてくれる。ついに本番の時が来た。今まで積み重ねてきたものを、大観衆の目に焼き付ける時が。
「さぁ皆、悔いの無いように全力で行こう!」
「はい!ブシドーの力で、絶対皆さんが満足できる演奏をしてみせます!」
「そうですね。ジブンも、悔いが残るのは流石に嫌です。ですので、全力で行きますよ!」
「わ、私も、凄く緊張して、覚えたMCも忘れちゃいそうだけど、それでも今日のライブを思いっきり楽しみたい!そのために、皆で頑張ってきたんだから!」
「あはは、皆やる気十分って感じだね。うーん、なんだかあたしもるんってきた!思いっきりぴかってしたステージにするからね!」
「そうね。こんなお祭り、今後参加できるかなんてわからないもの。だから、今できる最大限の演奏で、お客さんの期待に応えてみせるわ。皆、思いっきり楽しみましょう!」
意気込んで僕たちは、控室を後にした。目指すは最高の
開演五分前、僕たちは舞台袖に待機していた。開演を心待ちにしたお客さんの歓声が間近に聞こえてくる。その声を聞き、皆また緊張に包まれていく。ライブ前のこの緊張感、僕は大好きだ。緊張とも、高揚とも取れるこの感じ。この感覚がたまらなく好きだ。今から待っている舞台に、否が応でも期待感を持たせてくれる。そんな感覚が大好きだった。
「それでは、開演します!」
スタッフさんがそう声をかけてくれる。そのタイミングで、会場に流れていたパスパレの曲が消える。そして、沸き起こる期待感の籠った歓声。そして、大音量で流されるBGM。その音楽が、会場全体に僕たちの入場を告げていた。
「皆!行くよ!」
その僕の声に呼応するかのように、BGMのテンポが早くなる。そのテンポに合わせて会場のボルテージも上がっていく。そして、BGMが止み、一瞬静寂が訪れる会場。その会場を再び、灼熱の坩堝と化すために、僕たちは舞台の上に躍り出た。
「みんなー!メリークリスマース!」
今日はクリスマス。それに合わせて、僕たちの衣装もサンタ服をモチーフにしたものになっている。皆に、最高の音楽というプレゼントを渡しに来たサンタ楽団。それが今日のコンセプトだ。
「それじゃー挨拶代わりに一曲行くよー!welcome to my world!」
そして始まる演奏。最初の曲は、僕のライブの定番welcome to my world。花女の文化祭でも最初に披露した曲だ。その曲を、今日はパスパレの皆が演奏してくれている。皆、本当に今日の本番まで頑張ってくれた。今日僕が披露する曲も全て演奏できるようになってくれた。今日の僕の曲は全て特別バージョン。演奏だけでは無い。
「少年少女よwelcome!陽気なworldが出迎える!」
そう彩ちゃんが歌う。そう、今日の僕の曲は全てパスパレの皆と歌う。彩ちゃんとだけじゃない。パートによっては千聖や日菜ちゃん、麻弥ちゃんにイヴちゃんも歌ってくれる。勿論、僕だってパスパレの曲を歌うし演奏する。正にお祭り。正にプレゼント。僕とパスパレの皆からの、盛大なクリスマスプレゼント。全てが特別仕様のお祭りだ。
「パーティーを始めようさぁー・・・イッツ、ショー、ターイム!」
最後のパートを全員で歌い切り、はち切れんばかりの大歓声が僕たちのパフォーマンスに応えてくれる。だけど、まだ休ませる気は毛頭ない。
「まだまだ行くよー! パスパレボリューションず☆!」
彩ちゃんのその紹介とともに、演奏が始まる。そして、迎える大歓声。と同時に起こるどよめき。パスパレボリューションず☆。今となってはパスパレを代表する楽曲となったこの曲。パスパレと言えばこの曲を挙げる人も多いだろう。そんな曲を、こんな序盤に持ってくる。パスパレのことをよく知ってるファンほどどよめく。だからこそ、裏をかいてこの序盤に持ってきた。
今日の合同ライブのタイトルは、黒城雅×Pastel*Palettes Surpriseparty in
Christmasとなっている。つまり、サプライズに主題を置いたライブなのだ。だからこそ、このセトリもサプライズが詰まっている。僕たちのことをよく知っているファンほど、そのサプライズに驚き、歓喜するはずだ。あまり知らない方には、そのまま僕たちの音で、声でサプライズを与えてあげればいい。想像以上に、素晴らしい音楽だったと。
そして今回のパスパレボリューションず☆。この曲もまた特別なものになっている。なんと言っても、僕も演奏し、歌うのだ。この曲を作るにあたり僕は、この曲に僕の色を入れないことをコンセプトに作曲をした。僕のアイドルソングの師匠とも呼べる人物、仁さんの教えの通りに。
この曲は、もうパスパレの五人の色に染まっている。五人の色で完成している。だけど今日は、今日だけは、ここに僕という六色目をむりやり加えこむ。その結果は、演奏が終わった後の地を割る大歓声が教えてくれる。大成功だ。文句なしの。正直、このまま余韻に浸っていたいほどの満足感だった。だけど今日のライブは、まだまだ終わらない。次のサプライズだ。
「次の曲は、僕たちの大切な友人であるバンドからお借りした曲です。聞いてください。Neo-Aspect」
その僕の声に、また大歓声とどよめきが起こる。今日のために、友希那からこの曲を借りる許可をもらっておいた。最も、友希那はメンバーの誰にもこのことを伝えていなかったみたいだけど。その証拠に、観客席にいるあこちゃんの顔が驚きすぎて面白いことになっている。巴ちゃんもあこちゃんんほどではないけど、その顔はその驚きようを現している。あこちゃん達から少し離れたところにいる他のAfterglowの皆も巴ちゃんと同じようになっている。ひまりちゃんの顔はさらに面白いことになっているけど。そこから更に少し離れたところには、他のRoseliaの皆もいた。驚愕しているリサちゃん、紗夜ちゃん、燐子ちゃんに向かって、ドヤ顔をしている友希那。その顔、ちゃんと見えてるからね。後でいじるネタにしてあげよう。
舞台の上からは、意外とお客さんの顔はよく見える。あの人、いつもライブに来てくれるお客さんだ。あの子、僕の学校の生徒だ。先生も来てる。なんてライブ中に思うことは、よくある話だ。と、まぁそんな話は置いておいて、Neo-Aspectだ。正真正銘、Roseliaの楽曲。その意味するところは、新たな姿。この曲によって、僕たちの新たな姿、境地をお客さんに見てもらおう。パスパレにとっては、初となるカバー曲。僕にとっても、カバー曲というのは非常に珍しい。
彩ちゃんが曲に合わせて振り付けを行う。まるで手を、仮面かのように表した振り付け。この振り付けも、事前に友希那にレクチャーしてもらっていた。紗夜ちゃんと同じギターパートを弾く日菜ちゃん。色々と思うところもあるのだろう。その表情からは、哀愁のようなものを感じる。そして、最後のサビが終わり、彩ちゃんががまるで仮面が割れるかのような振り付けを行う。
「うぉーおーおーおーお!うぉーおーおーおーお!うぉーおーおーおーお!うぉーおーおーおーお!」
そして、お客さんと一緒に歌う。声の限り。僕たちに合わせて、客席から見ていてくれてるRoseliaの皆も、Afterglowの皆も声をそろえて歌ってくれている。今、この会場は正しく一体となっていた。そして、曲が終わる。惜しみない歓声と拍手が僕らを出迎えてくれる。
演奏を終えた僕たち。不意に、友希那と目が合った。彼女は、満足気に頷くことで僕達の演奏に応えてくれた。今回、Neo-Aspectを借りることにおいて、友希那に、一つ条件を付けられていた。それは、彼女が満足のいく演奏を本番で披露すること。どうやら、その条件はちゃんと守られたようだ。
本来パスパレの皆が演奏する曲調とは全く異なるこの曲。皆、見事にやりきってくれた。正しく、新たな姿を見せてくれた。今の彼女達には、きっと無限の可能性が詰まっている。僕も、もっと色んなジャンルの音楽を彼女達に与えてあげてもいいかもしれない。
「それじゃここで、メンバー紹介行くよ!」
僕のその声に合わせて、彩ちゃんが一歩前に出る。メンバー紹介は、彼女の仕事だ。
「はい!まん丸お山に彩りを!Pastel*Palettesのボーカル丸山彩です!」
お決まりのセリフとポーズで自己紹介をする彩ちゃん。見慣れたその自己紹介。その短い時間に彩ちゃんらしさがたっぷり詰まっている。
「まずは、ギター担当の、氷川日菜ちゃん!」
「皆ー!今日もギュイーンとしていくから、きらっとして帰ってね!」
その言葉の通り、ギュイーンとギターを弾きながら挨拶する日菜ちゃん。その後に観客席に向かって手を振ってるが、体の向きと視線から見て、紗夜ちゃんに向かって振ってるようにしか見えない。いや、きっとそうなのだろう。
「ベース担当、白鷺千聖ちゃん!」
「皆さん!今日は最後まで、私達のサプライズな演奏を楽しんでいってくださいね!」
そう言って、歓声に手を振り応える千聖。非常に様になっている。流石の貫禄と言ったところだろうか。
「キーボード担当、若宮イヴちゃん!」
「私も、ブシドーを胸に精一杯頑張ります!私のブシドー、最後まで見ていてくださいね!」
イヴちゃんは、そう言うと静かにキーボードを奏でた。まるで、多くは語らずとも、この音でブシドーを皆に教えてみせるとでも言うかのように。
「ドラム担当、大和麻弥ちゃん!」
「ジブンも、今できる精一杯の音で 皆さんの期待に応えようかと思います!ジブン達の演奏最後まで見ててください!」
そう言う麻弥ちゃんの表情は、まだ少し硬い気がする。まだ緊張が解けないのだろう。それでも、ここまでの三曲は、立派に演奏してくれた。麻弥ちゃんがリズムを作ってくれたからこそ、三曲の成功があった。それは間違いないだろう。
「そして最後は、私たちの大切な、最高の友人、ギターボーカル、黒城雅!」
千聖にそう紹介され、軽くギターを弾く。今日も相棒の調子は良さそうだ。きっと僕に、最上級の音を奏でさせてくれるだろう。
「黒城雅です!今日も皆さんに、最高の音を届けるために来ました!それじゃ早速、次の曲を聞いてください。Voice of Love」
愛の声。この夏にリリースした、僕の比較的新しい楽曲だ。告白したくても、その一歩が踏み出せない。そんな愛に悩む人を主題に置いた曲だ。そんな人へ向けた、応援歌の一面も持っている。
「とーどーけー!あいーのこーえよー!さーけーべー!あいーのまーままにー!」
届け、叫べの部分はお客さんも一緒に歌ってくれるようになっている。まだライブで披露したのは数度だけど、既に定番になってきている楽曲だ。客席にマイクを向けて煽るのも定番になってきている。
「はーしーれー!あいーのほーうにー!すーすーめー!あいーととーもにー!めーざーせー!あいーのごーおるー!つーかーめー!あいーすひーとをー!さーあーさけべー、マーイラーヴ!」
そして曲が終わる。わかりやすく会場に一体感を与える曲。Neo-Aspectに続き、最高の一体感を観客の皆は見せてくれた。会場の熱気もこれで最高潮に達したのではないだろうか?その後も、僕たちのライブは続いていく。観客に驚きと興奮を与えつつ続いていく。そして・・・
「皆さん!今日は、来てくださって本当にありがとうございます!残念で仕方ないですけど・・・次が最後の曲です!」
彩ちゃんのその宣言に、会場から悲壮感が漂ってくる。皆、心の底から残念に思ってくれているみたいだ。嬉しいと思うと同時に、僕も悲しくなってくる。今日のライブは、本当に最高級のものだった。いつまでもこの時間を共有していたい。そう思うほどに。
「最後の曲は、簡単にできる振り付けもありますので、是非、一緒に踊りましょう!それでは聞いてください!ゆめゆめグラデーション!」
ゆめゆめグラデーション。この曲は、比較的最近皆に贈った曲だ。夢を追う人への応援ソング。この曲を、最後に持ってきた。この曲も、簡単な振り付けによって、会場の一体感を増幅させる。最後の最後まで会場を一体にするセトリ。その効果は絶大で、お客さんの顔はどこもかしこも綺麗な笑顔が浮かべられていた。本当に、この時間が名残惜しい。だけど、物事には必ず終焉が訪れる。それを証明するかのように、最後の曲、ゆめゆめグラデーションが終わりを迎えた。
「皆ー!今日は本当にありがとう!また、会おうね!」
僕の声に続いて、皆舞台袖へと消えていく。鳴りやまない歓声が、僕たちに特大の余韻を与えてくれる。そして、その歓声はすぐに、ある言葉の大合唱へと塗り替えられていく。
「アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!」
僕たちの音をまだ聞きたいと熱望する、この至福の時間をまだ欲する、観客たちの大合唱。その音が、僕たちを余韻から引き戻す。
「ははっ、皆まだまだ元気みたいだね」
「そうね。私達も負けてられないわね」
「あたしもまだまだ弾いていたいな。だって、今日のライブ、すっごくぴかってしてるんだもん!」
「ジブンも、最初は緊張しすぎて、楽しむ余裕もあまりなかったったんですけど、今はこの時間が楽しくて仕方ないです!」
「私も同じ気持ちです!今日という日が、この熱戦がまだまだ続いてほしいです!」
「うん!そうだね!私ももっと歌っていたい!だから、行こう!」
彩ちゃんの言葉に続いて、僕たちは舞台へと再び足を進める。僕たちの姿を再び確認して、お客さんたちから今日何度目かもわからない大歓声が沸き起こる。その声が、僕たちの疲労感を拭い取ってくれる。僕たちの準備はとっくにできていた。
「皆!アンコールありがとう!それじゃ早速・・・」
と、僕がアンコール後最初の曲に入ろうかと思った時だった。舞台の、いや会場の照明が一斉に消えた。まさか、ここにきて証明トラブル?そんな・・・折角のライブでこんなことが起こるなんて。
僕は、どうしていいのかもわからず、舞台上で立ち尽くすことしかできなかった。皆に声をかけようにも、なんて声をかけていいのかもわからない。お客さんの顔も、皆の顔も暗すぎて見えない。唯一、一番近くにいた彩ちゃんの様子だけは見えた。どうやら、彼女も僕と同じ状況らしい。どうしていいかもわからず、声を出すこともままならない。本当に、このまま、ここまできて、このライブは失敗に終わってしまうのか?そう思っていた時だった。
不意に、一点だけが明るくなった。スポットライトだ。スポットライトがただ一点、彩ちゃんだけを照らしていた。訳も分からず、狼狽える彩ちゃん。僕だって、何が何だかわからない。そんな僕の状態を無視するかのように、声が聞こえてくる。
「ハッピバースデートゥーユー」
歌だ。歌だった。それも、誰もが知っているような。知らない人はいないであろうあの曲。誕生日ソングだ。誰が歌っているのか?そんなの声を聞けば直ぐにわかる。千聖だ。千聖が歌っている。
「ハッピバースデートゥーユー」
そして、歌声が増えた。日菜ちゃんが、麻弥ちゃんが、イヴちゃんが、誰かの誕生日を祝っている。誰の誕生日を?そんなの、この状況で該当する人物は一人しかいないだろう。
「ハッピーバースデーディーアあーやちゃーん」
彩ちゃんだ。彩ちゃんに対するお誕生日の歌なのだ。そして、千聖にもスポットライトが当たり、千聖が観客席に向けてマイクを向ける。
「最後は皆さんも一緒にお願いします!せーの、ハッピーバースデートゥーユー!」
そして、お客さんも巻き込んでの大合唱が会場中に響き渡る。ここまで来れば、お客さんも皆事態を理解していたのだろう。千聖の呼びかけに、皆が大きな声で応えてくれた。
「皆さん、ありがとうございます!あさって、十二月二十七日は私たちの愛すべきボーカル、丸山彩ちゃんのお誕生日です!ですので、少し早いですが、この場をお借りしてお祝いをしたいと思います!」
「え、ええええええええええええ!そ、そんなの聞いてないよ!」
うん。僕も聞いていない。え?そんなのいつ決まったの?僕はもしかして仲間外れ?なんか凄く悲しくなってきた。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、スタッフさんが何かを運んでくる。まぁ、何かと言っても、それが何かは一瞬で分かっていた。見ればすぐにわかる。ケーキだ。ろうそくが刺さったケーキを運んできてくれていた。
「昨日私達四人で作ったのよ」
昨日四人で?昨日は皆仕事が入っていたんじゃなかったのだろうか?あぁそうか。仕事というのはサプライズを隠すためのカモフラージュだったのか。皆、素晴らしいことをやってくれる。だけど、やっぱり一つだけ言っておきたいことがある。
「僕にも言ってくれたらよかったのに」
「雅に言っても、直ぐ彩ちゃんにバレちゃいそうじゃない」
くっ、反論できない。昔から、隠しごとが苦手な僕が、彩ちゃんにバレずに普段通り生活できるかと聞かれたら、絶対できるとは答えられないだろう。自分で言ってて悲しくなってきた。
「それじゃ、彩ちゃん。火を消してくれるかしら?」
「思いっきりやっちゃってください!」
「アヤさんのブシドーを見せる時です!」
「うぅ・・・皆、本当にありがとう・・・」
「あはは、彩ちゃん今日もカンキワマリ、だね!」
皆の気持ちが嬉しくて、温かな涙を流す彩ちゃん。僕も思わずもらい泣きしてしまいそうな、美しい光景がそこには広がっていた。パスパレの皆の絆が描く、美しい光景が。
「そ、それじゃあ、行くね・・・」
そう言って彩ちゃんは、涙を流しつつも、一息でろうそくの灯を消して見せた。それと同時に、観客席からも大きな歓声と拍手が送られてくる。
「おめでとう!」
最初に言ったのは誰だっただろうか。僕達舞台上の誰かだったかもしれないし、観客の誰かだったかもしれない。だけど、そんなことは本当に些細なことだ。早い遅いは関係なく、伝えたい想いは皆一緒なのだから。
その言葉は伝播し、やがて会場全体がその一言に覆いつくされる。おめでとう。皆口にする言葉は、その一言。声を揃えておめでとうと。愛情を込めておめでとうと。その後もしばらくの間。その大合唱は続くのだった。彩ちゃんの涙が止まるまでずっと。ライブ中のあまりにも美しすぎる一幕。僕は、いいや、この会場で携わった全ての人は、きっと今日のこの光景を、ずっと覚えていることだろう。何年たっても、ずっと。あぁ、本当に彼女たちと出会えて良かった。そう心から思う、聖なる夜の一幕だった。
どうも、ソウリンです
今回は早いでしょ?(当社比
ま、千聖編同日投稿できるかはわからないですけど(白目
今回のサブタイトルは、AKB48さんの涙サプライズ!でした
千聖編も、AKB48さんの楽曲からサブタイトル付けますね
それとちょいとした今話の裏話を
お気づきになられた方もおられるかと思いますが、ゆめグラですね
この作品、以前にもお話しましたが、投稿前にはプロット粗方できあがってたんですよね
このお話も。その当初から、最後の曲何にするか凄く悩んでたんですよ
で、当初の第一候補はアンダンテだったんですよね
ただ、それだと最後の曲としてインパクトにかけるなーと思いまして、この話投稿する前に良い曲発表されたらそっちにすり替えようと考えました
で、そのごアニメ2期が放映されて、きゅーまいが発表されたんですよね
その時に、あ、これだ!って思ったんですよ。で、その方向でプロットを進めていたわけですが、1月に行われたパスパレ特別講演、彩りSPにて、ゆめグラがライブで初お披露目されたんですよね
その時に、あ、これだ!ってまた思いました(笑)
この曲、ガルパで配信されたときは、良い曲だなーとは思っていたけどそこまでるんっときてなかったんですけどね、ライブだとすっごくるんってきちゃいました!
というわけで、急遽ゆめグラに変えたという裏話でした(笑)
それとついでにリアルライブの話なのですが、5月3日、バンドリドーム、見事にプレシ当選しました!イエイ!
ご一緒される方はよろしくお願いします!
問題は、最近のライブ中止ラッシュよろしく中止にならないかどうかですね
そのころには終息してるといいんですけど
もし中止になったら暴動物ですね(過激派
ま、無事開催されることを願っております!
では、今回はこの辺で
次回は千聖編です!
一応予定では、本日の午後12時としておきますが、もし投稿が無ければ7日の12時だと思っておいてください!
ではでは、次回もよろしくお願いします!