君が演じ、僕は歌う   作:ソウリン

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第51話です
雅編です


第51演目 星に願いを君との愛を

年が明けてから、一ヶ月ほどしたある日のことだった。

 

「映画を見に行きましょう」

 

千聖のその一言に(いざな)われ、僕達はショッピングモールにやってきていた。時刻は12時。見る予定の映画の上映は13時から。時間にも余裕があるため僕達は先にランチを食べることにした。休日のこの日、ショッピングモールは当然の如く混み合っている。数多くのカップルから親子連れ。十人十色な人々がモール内を歩いている。それだけの人がいて、今はお昼時なのだ。当然、食事処は何処も満席状態だった。

 

「しょうがない。待ち時間少なそうな所探して、少しだけ待とうか」

 

「そうね。もっと早めに来るべきだったわね」

 

確かに、少し出るのが遅かったかもしれない。まぁ、そんな過ぎてしまったことを気にしても仕方ない。僕達は人混みではぐれないように、手を繋ぎながら空いてそうな店を探した。そして辿り着いたのが、とある人気カレーチェーン店だった。

 

「ここなら待ち時間少なくて済みそうだね」

 

「そうね。上映時間にも十分間に合いそうね」

 

僕達はその店でランチを済ませることに決め、席が空くまでしばらく待つことにした。しばらくと言っても、待ったのはほんの五分ほど。回転も速く、直ぐに僕達は店内へと案内された。

 

「思ったより早く入れて良かったわね」

 

「そうだね。僕、もうお腹ペコペコで倒れそうだったよ」

 

そう言ってお腹を押さえる僕。今年に入って、色々と食べてばかりな気がする。太らないように気をつけないと。まぁ、体力トレーニングはしっかりと熟してるし、きっと大丈夫だろう。大丈夫なはずだ。大丈夫であってほしい。

 

程なくして、店員さんが注文を聞きにやってくる。僕は2辛を、千聖は甘口を頼む。ちゃっかりと、ご飯の量は通常の2倍の600グラムを頼む僕。千聖に少し呆れたような顔を向けられた。食べ盛りなんだから許して欲しい。

 

「それで、今日はどんな映画を見るの?」

 

実の所、僕は今日どんな映画を見るのか千聖に一切聞いていない。千聖とは、たまにこうやって映画を見に来ることはある。まぁ、主な目的は千聖の演技力向上のためのレッスンなのだけれども。だけど、いつも直前までどんな映画を見るのかは聞かないようにしている。理由としては、楽しみは直前まで取っておこうと考えているためだ。聞くタイミングとしては、今みたいな上映前の食事の場で聞く事が多い。僕の質問に対して、千聖が映画のタイトルを教えてくれる。

 

「世界の中心はタイと叫ぶって映画よ」

 

どうやら、僕の耳はこの短時間でおかしくなってしまったらしい。千聖は一体なんと言った?どこからどう聞いても冗談にしか聞こえないようなタイトルが聞こえてきたんだけど。

 

「えっと、ごめん千聖。僕の耳壊れちゃったのかもしれない。もう一回言ってくれる?」

 

「世界の中心はタイと叫ぶよ」

 

「なんだ、壊れたのは耳じゃなくて頭だったか。理解が全くできない」

 

「冗談に思えるかもしれないけれど、本当にそういうタイトルの映画なのよ。通称タイチュー。今大人気の作品なのよ」

 

どうやら僕の頭は壊れていなかったらしい。よかった。だからと言って、理解ができたわけではないけど。一体作者は何を考えてこんなタイトルを付けたんだろう?しかも大人気って。なんだろう。凄い興味が湧いてきた。

 

「因みに、どんな作品なの?」

 

「簡単にあらすじを説明すると、東大を卒業したエリート系の主人公が、自分の夢を追いかけて、いくつもの大企業の勧誘を蹴って単身タイへ移住。そこで、地元の名家出身のヒロインと出会い、お互いに恋に落ちる。その後二人で幾多の苦難を乗り越え、逞しく成長していくラブロマンス、っていうところかしら」

 

あらすじを聞く限りでは、至って普通の作品に感じてきた。なんだか面白そうに思う。どうやら、タイトルに騙されてはいけない作品らしい。

 

「なるほど。思ったより面白そうな作品だね」

 

「えぇ。公開前はそのタイトルのインパクトで話題を呼んでいたのだけれども、公開してからは予想以上の作品のクオリティに注目が集まった作品よ。そして注目すべきは、このような作品にも関わらずメインの出演者は全員日本人なのよ。タイ人の登場人物も全て日本人が演じているわ。流石にエキストラはロケ地で雇ったタイ人みたいだけれども。異国人を演じるなんて、役者の腕の見せ所だと思うわ。要チェックポイントね」

 

「へ、へー。そうなんだー」

 

正直、僕からしたらどうでもいいポイントだった。まぁ、千聖は映画鑑賞目的と言うよりも、演技勉強のために見に来てるようなもの。僕とは見るべき観点が違うのは当然だろう。

 

「お待たせしました。やさいカレーのトッピングチーズ、300グラムの甘口と、ロースカツカレーのトッピングフライドチキンとビーフカツ、600グラムの2辛です」

 

千聖と映画のことについて話してると、注文していたメニューが運ばれてきた。うん、良い匂いだ。カレーの匂いは食欲を強く刺激してくれる。お腹が空いて溜まらない。

 

「・・・ダメだわ。見てるだけで胃もたれしそう」

 

「え?凄く美味しいよ?千聖も食べる?」

 

「遠慮しておくわ。はぁ、牛なのか豚なのか鳥なのか一つにしなさいよ・・・」

 

と、また千聖に呆れた顔をされてしまった。まぁ、仕方ないよね。食べ盛りなんだから。その後も、僕達は今から見る映画のことについて話しながら、食事を進めていった。千聖が、終始胃の辺りを手で摩りながらカレーを食べていたのが印象的だった。このトッピング、美味しいのにね。

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えた僕達は、映画を見る前に売店に並んでいた。ドリンクを買うのが目的だ。開場まで後五分。丁度良い時間だ。

 

「映画と言えばポップコーンは欠かせないよね」

 

「あれだけ食べてまだ食べるの・・・?」

 

「あはは、冗談だよ。流石に僕もお腹いっぱい」

 

僕の冗談に頬をひくつかせる千聖。流石に僕も今はお腹がしんどい。少し残念に思うけど、ポップコーンは諦めよう。

 

「えっと、何にしようかな?コーラか、コーヒーか、世界の中心はタイと叫ぶコラボドリンク、すいかジュース?」

 

「人気映画だから、劇場とコラボしてるのよ。タイは温暖な気候だから、良いスイカが育つのよ」

 

「それはまぁわかるんだけど、今は冬だよ?」

 

冬真っ盛りの今、スイカとはどうなんだろうか?なんというか、風情に欠ける気がする。

 

「でも面白そうだし、それに美味しそうだし、これでいいかな。スイカジュースください」

 

「それなら、私もそれにするわ。二つお願いします」

 

僕達は店員さんに注文をし、商品を受け取る。受け取って一口味見をしてみたが、なるほど。これは美味しい。店員さんに聞いてみたら、材料のスイカもタイから取り寄せているらしい。日本にいながら、タイ気分が味わえるというわけだ。今日一日で僕は一体何回タイと言ってるんだろう?

 

「大変長らくお待たせいたしました。13時ちょうどより上映の、世界の中心はタイと叫ぶの入場を開始いたします」

 

ドリンクを買い終わってしばらくすると、係の人のそんな声が聞こえてくる。その声に従い僕達は入場ゲートへと進んでいく。案内されたスクリーンに入り、座席に座る。それからしばらくすると、スクリーン内は多くの人で溢れかえっていた。休日ということもあるのだろう。どうやら座席は満席らしい。

 

「凄い人だね」

 

「えぇ。それほど人気の映画みたいだもの。始まるのが待ち遠しいわ」

 

始まるのはまだかと心待ちにしながら、スクリーンに流れる映画の予告を眺めている。すると、とある映画の予告が流れてきた。確かこの映画は

 

「これって、千聖が出演している映画だよね?」

 

そう。確か千聖が出演していたはずだ。千聖は、そこまでメインの役では無いと言っていたけれども、そこまで脇役というわけでも無いだろう。現に、予告編に出てくる出演者のカットにも、登場シーンと名前が出ていた。大きなスクリーン一面に好きな人の顔が映るって、なんだか嬉しいけど、こそばゆい気持ちになってしまう。

 

「えぇ、そうよ。タイトルは星が降る夜。大学に入り、天文部サークルを立ち上げた主人公。最初は、特に活動する気もなく、ただ大学でノンビリできる居場所を作るために立ち上げたサークル。そんな彼に付き合って、サークルに入った友人達。彼らが二回生になったある日、天文部サークルにとある新入生の女生徒が押しかけてくる。彼女は、星が大好きな子で、サークルの皆に星の素晴らしさを徐々に教えていく。最初は面倒くさそうにしていたサークルのメンバーも、徐々に星の魅力に触れていき・・・この続きは是非劇場でね」

 

「えー、すっごい気になるんだけど」

 

「公開されたらまた見に行くのはどうかしら?」

 

「もちろん!どんな映画か気になるし、それに何より千聖が出てるからね」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

「それで、千聖はどんな役をやってるの?」

 

「私は主人公の妹役よ。主人公とは違って、星が大好きな高校生。高校では天文部に所属してる高校三年生よ。実はサークルに入ってきた女の子、このお話のヒロインも、私の演じる子と同じ高校同じ部活に所属していたのよ。つまり、正真正銘の先輩後輩の関係という訳ね」

 

なるほど。つまり主人公ともヒロインとも近しい関係にあるというわけか。それって十分メインポジションに思えるんだけど?まぁなんにせよ、内容も面白そうだし、公開が楽しみだな。その後も、何本か予告が上映され、そして遂にその時間がやってきた。物語の始まりだ。デカデカと映る東大の校舎。赤門と呼ばれるその門扉。そして、イケメン俳優が演じる主人公。なるほど。その雰囲気からもエリートの風格が漂ってくる。場面が移り変わり、おそらく主人公の自宅だろう。自宅で、両親であろう男女と主人公が向き合っていた。

 

「俺、タイに行くよ。タイに行って、ムエタイ王者になってくる!」

 

えー、夢ってムエタイ王者だったの。夢を追って移住するとは千聖に聞いてたけど、まさかの夢の内容に衝撃を受けた。当然、猛反対する両親。だけど熱く夢を語って両親を説得する主人公。最終的には、勘当のような形で主人公を追い出してしまう。そして、学生時代にバイトでコツコツ溜めたお金でタイへと飛ぶ主人公。そしてタイに降りたって直ぐに、スリによって全財産を失ってしまう。えー、いきなり苦難だらけなんだけど。

 

当てもなくタイの街中を彷徨く主人公。そんな彼に声をかける人物がいた。なんでも、日本でムエタイをしてた時にお世話になったタイ人のコーチらしい。しかも、元ムエタイ王者というおまけ付き。主人公から事情を聞いた彼は、主人公を家に住まわせてくれるらしい。しかも主人公のトレーニングまでしてくれる。凄く良い人だ。

 

それからしばらく経ったある日、街中をランニングしていた主人公は、路地裏で暴漢に襲われている女性を見かける。直ぐさま助けに入る主人公。六人いた暴漢全員を軽々と伸してしまう主人公。直ぐさま女性に近づき、怪我が無いことを確認し安心する。だけど、暴漢はまだもう一人残っていた。物陰から飛び出した暴漢がナイフで主人公に襲いかかる。その初撃を避ける主人公。しかし何を思ったのか、暴漢は女性に向かってナイフを刺そうとしていた。それを察知し、直ぐさま暴漢と女性の間に割って入る主人公。直ぐさま迎撃しようとするも、タイミングが悪かった。迎撃も間に合わず、腹部にナイフが刺さってしまう。避けることならできたかもしれないけど、避けてしまったら女性に刺さっていただろう。身を挺す形で女性を護った主人公。そして、ナイフが刺さりながらも、最後の一人を伸してしまう。しかし、そこで力尽きて主人公は意識を手放してしまう。

 

次に主人公が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。目覚めて最初に飛び込んできたのは、あの時助けた女性の顔だった。目覚めた主人公を確認し、涙を浮かべ主人公に抱きつく女性。そこで明かされる女性の正体。その女性は、タイ国内で知らない人がいないであろう名家の一人娘だった。あの時は、なんでも身分を隠して街に一人で遊びに来てたらしい。お嬢様が突然消えてお屋敷では大騒ぎになってたらしいけど。なんともアクティブなお嬢様だ。

 

その後退院した後も、(しき)りに主人公を訪ねてくるお嬢様。誰の目から見ても、そのお嬢様が主人公にとある感情を抱いているのは明らかだった。そしてそれは、当然彼の父親も知ることになる。お屋敷で父親と二人向かい合うお嬢様。

 

「いいか!ムエタイ選手なんていうのはな!どいつもこいつも野蛮な男達だ!お前に相応しいような奴らじゃない!わかったら奴から離れるんだ!」

 

「そんなこと、できません!だって私は、私は、父さんが言う野蛮な人の、優しさを知ってしまったのだから・・・!」

 

その後も平行線を辿る親子の論争。え?この作品ここからどうなっていくの?なんだか凄く面白くなってきた。僕は、既にその作品に見入られていた。その後も、食い入るようにその作品を見続ける。上映が終わるまで、僕はスクリーンに釘付けになっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

上映が終わり、スクリーンから出る僕達。同時に出てきた人達は、皆口々に映画の感想を語っている。僕も語りたい。語りたいのだけれども、それどころでは無かった。

 

「いつまで泣いてるのよ」

 

「うー、だって、だってぇ」

 

理由としては、感動のあまり僕が号泣しているためだ。本当に良い作品だった。特に最後の王者防衛戦のシーンは涙無しには見られなかった。現王者に何度も窮地に追い込まれる主人公。追い込まれて、追い込まれて、そして博打のような最後の一撃を放ち、現王者に逆転KO勝ちをし、夢を叶えた主人公。そして、新王者インタビューの場を借りて、ヒロインへと世紀の大プロポーズを行う。それに涙ながらにOKを出すヒロイン。思わずもらい泣きしてしまった。

 

その後のモノローグでの、主人公のセリフがまたグッときた。ただのちっぽけなリングの中心。こんなちっぽけな中心が、今の俺にとっては世界の中心に等しかった。このセリフが凄く良かった。思い出したらまた思わず泣いてしまう。タイトルでちょっと馬鹿にしてごめん。蓋を空けてみたら良いタイトル、良い作品だったよ。

 

「はぁ、思ってたような作品じゃなかったわね」

 

と、そんな感動の渦中にいる僕の横で冷めたため息をつく千聖。えぇ?何この温度差?号泣してる僕が馬鹿みたいなんだけど?

 

「えっと、千聖は面白くなかったの?」

 

「そんなことは無かったわよ。作品としては、完成度が高くて凄く面白い作品だと思うわ。良い脚本ね。ただ、演技面は及第点以下ね。特にあのヒロイン役の女優さん。演技の起伏が下手だわ。もっと感情を表に出すべき面で出さず、出さなくて良い面で出して、演技がちぐはぐなのよ。全ての場面がそうだったわけじゃ無いけれども、そういう場面が目立ったわ。それに、演じてるのはタイ人の役なのに、あれじゃまるっきり日本人のままよ。もっとタイ人について勉強してから出直してくるべきね」

 

うわ、辛辣。流石千聖。演技に関しては妥協を許さないね。話の内容は千聖も気に入ってたみたいだけど、演技面はダメか。僕が見る分にはあまり気にならなかったんだけどな。周りのお客さんの反応を聞く分にも、そういう話は全く聞こえてこない。おそらく、演技に精通した人にしかわからない何かがあるのだろう。

 

「映画も終わったし、これからどうする?」

 

「実は私、もう一カ所行きたいところがあるのよ。そこに行きましょう?」

 

「いいけど、何処に行くの?」

 

「それは着いてからのお楽しみよ。それじゃ、行くわよ!」

 

「え、ちょっと千聖待ってよ!」

 

僕の手を引っ張って急に走り出す千聖。思わず転びそうになってしまう。そういえば、あの映画の中でもこんなシーンあったな。アクティブなお嬢様に引っ張り回される主人公。今日の千聖は、あのお嬢様に似てアクティブモードらしい。

 

「千聖、急にそんなにアクティブになっちゃって、どうしたの?」

 

「実は、次に行くところが今日のメインだったのよ。前から雅と行きたくて、仕方なかったのよね。凄く楽しみだわ!」

 

そう言って、人混みを掻き分け進む千聖。そんな千聖に手を引っ張られながら着いていく僕。目的地に着くまで、そんな状態は続くのだった。そして僕達は気づくことは無かった。そんな僕達を見つめる人物がいたことに。そんな人物に気づくのは、まだまだ先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

千聖に引っ張られてやってきたのは、ショッピングモールの側にあるとある施設だった。

 

「プラネタリウム?」

 

そう、プラネタリウム。星を見るための施設だ。でも、どうしてプラネタリウムなんかに?千聖って、そんなに星に興味あったっけ?

 

「今度私が出演する映画、星が降る夜。その中で私が演じてる役がさっきも言った通り星が大好きな子なのだけれども、その役を勉強する過程で、星について色々勉強したのよ。それで勉強してる内に、私も星に興味が出ちゃって」

 

「それで今日見に来たと」

 

「えぇ。実際には、私一人では既に何度か来てるのよ。今日は雅にも星の素晴らしさを知って欲しいと思って」

 

なるほど。それでプラネタリウムという訳か。確かに、今までじっくり星を見た試しなんて無い。夜空を見上げるにしても、ここは都心だ。そこまで綺麗な星空が浮き上がるわけでもない。だからだろう。今まで星なんて全く興味が無かった。

 

「まぁ、星をじっくり見る機会なんてあまり無いもんね。たまにはこういうのも、新鮮でいいかもね」

 

「プラネタリウムは所詮作り物とはいえ、そう馬鹿にできないわよ?今に雅も星の素晴らしさに取り憑かれるわ」

 

「えー?それはどうだろうなー。ま、楽しみにしてるよ」

 

そして僕達は施設内に足を運ぶ。丁度今から上映が始まるらしい。急ぎチケットを二人分購入し、入場する。開演前の場内は薄暗く、適度なドキドキ感を与えてくれる。

 

「今は冬の星座展を上映してるの。冬の星座は綺麗な物が多いから見物よ。色々と説明してあげるわね」

 

そして上映が始まる。部屋一面に広がる作り物の星空。それは、この都心では到底拝むことのできないような宝石のような輝きを放っていた。

 

「まず有名なのは、やっぱりオリオン座かしらね。等間隔で並んだ三つの星が特徴的よね。オリオンの帯とも呼ばれることのあるこの三つの星。それぞれ、ミンタカ、アルニラム、アルニタクという名前なのだけれども、星の明るさを表す等星の数字はどれも二等星。比較的明るい星よ」

 

等星。確か理科の授業で習ったな。オリオン座という名前は当然僕も知っている。けど、それに含まれる星の名前まではあまり知らないな。

 

「オリオン座には、星座の右肩に位置するベテルギウス、左膝上に位置するリゲルの一等星二つを始め、オリオンの帯の三つ星を含む二等星五つを擁する、比較的明るい星が多くて、都心でも見つけやすい星座だと思うわ。良かったら今夜探してみて」

 

「へー。有名だとは思ってたけど、見つけやすい星座でもあったんだね。なるほど」

 

「次はカシオペヤ座。カシオペア座とも言うわね。この星座は形が好きなのよ。シェダル、カフ、ツィー、ルクバー、附路の五つの恒星がアルファベットのWの形を作っている星座。この星座の周りには明るい星もそこまで無いから、比較的見つけやすい星座でもあるわね」

 

カシオペヤ座も授業で習ったな。僕も、この星座の形は独特だなって授業中に思ったことがある。わかりやすくて良いと思う。

 

「星座以外だと、こんなものもあるわ。おおいぬ座のシリウス、オリオン座のリゲル、おうし座のアルデバラン、ぎょしゃ座のカペラ、ふたご座のポルックス、こいぬ座のプロキオンの六つを結んだ冬のダイヤモンド」

 

「ダイヤモンドなんだ。大三角じゃなくて」

 

「そうよ。勿論、大三角もあるのだけれども、冬にはダイヤモンドもあるのよ」

 

冬のダイヤモンドか。それは初めて聞いたな。冬の大三角なら僕も名前は聞いたことあるけど、ダイヤモンドと呼ばれるものまであるなんて知らなかった。なんだか少し興味が湧いてきた。

 

「そして、雅も言ってくれた冬の大三角。これは、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウスを繋げた物よ。他にも、しし座のデネボラ、うしかい座のアルクトゥールス、おとめ座のスピカを繋げた春の大三角。はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガを繋げた夏の大三角があるわ」

 

「なるほど。秋の大三角は無いの?」

 

「秋には無いのよ。その代わり、ペガスス座の四つの星、アルフェラッツ、シェアト、マルカブ、アルゲニブを繋いだ秋の大四辺形と呼ばれる物があるわ。ペガススの大四辺形とも呼ばれるけど。他に変わりものだと、おおぐま座に含まれる北斗七星、うしかい座のアルクトゥールス、おとめ座のスピカ、そしてからす座全部を結んだ春の大曲線という物があるわね」

 

春の大曲線か。面白いな。機会があれば、春の星座展も見に来てもいいかもしれない。僕は、煌めく星々を眺めながら、千聖の説明に耳を傾け、目を向ける。部屋一面に輝く星々。だけどそんな星々よりも、僕には星について嬉々として語る千聖の方が輝いて見えた。

 

目も眩むような笑顔で、星について僕に説明してくれる千聖。暗い室内においても、その顔はよく見えた。本当に星が好きになったんだろう。その表情がそのことを物語っている。僕はその後も、千聖の説明に耳を傾けつつ、その目映い笑顔に目を奪われ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出る頃には、すっかり空は暗くなっていた。そこには、薄らと星々の輝きも見える。都心故に、さっき見たほど綺麗には見えないけど、それでも中にはここにあるぞとわかりやすくアピールしてる星座もある。

 

「あの三つの星。あれがオリオンの帯だね」

 

「えぇそうよ。ほら、都心でも見つけやすいでしょ?」

 

確かに、あれなら直ぐに見つけられる。さっき、千聖が言ってたとおりだ。特徴的で且つ、明るい星だからこその特権みたいなものだろう。

 

「以前に、日菜ちゃんが天体観測に行ったって言ってたの覚えてる?」

 

「そういえば言ってたね。香澄ちゃんや蘭ちゃん、つぐみちゃんとこころちゃんもいたんだっけ?」

 

「えぇ。私も、いつか行きたいなって思ってるのよ。雅、その時は付き合ってくれるかしら?」

 

「もちろんだよ。どこにだって付き合うさ」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

とは言っても、僕も千聖も多忙な身だ。天体観測に行くとなると、どうしても泊まりがけになるだろう。そんな予定を二人合わせられるのか。難しいかもしれないけど、千聖のためだ。がんばろう。と、密かに一人決意している時だった。

 

「あれ?もしかして」

 

空に一つ、煌めく線が流れていく。その現象を僕は知っている。実際に見たのは初めてだけど、知識としては知っている。間違いないあれは

 

「流れ星だ!」

 

間違いない。流れ星だ。綺麗な軌跡が、空を駆け抜けた。

 

「まさかあんな綺麗に流れ星が見えるなんて。雅、願い事は決まってる?」

 

「うん。もうお願いをしたよ」

 

願い事なんて、そんなものは最初から決まっていた。このままずっと、千聖とお互いに愛し合って、幸せな人生を歩めますようにと。そう星に願った。

 

「千聖はなんてお願いしたの?」

 

「私はね。雅の夢が成就しますようにって」

 

「僕の夢が?それはありがたいけど、千聖、自分のことお願いしなくて良かったの?」

 

「いいのよ。私が願いたいことは、きっと雅がお願いしてくれてると思うから」

 

なるほど。どうやら僕の願いの内容は千聖に完全に読まれていたらしい。確かにこの願いなら、僕達二人のどちらにとっても、効力があると思う。

 

「それにしても、良い物が見れたわね」

 

「うん、そうだね。千聖に言われて空を見上げてたお陰だね」

 

「ふふっ、たまには空を見上げてみるのもいいものでしょ?新しい発見があったりして、楽しい気持ちになるかもしれないわ」

 

「あはは、今正にそうだったもんね」

 

「でしょ?それと、はいこれ」

 

そう言って、千聖は何かラッピングされた箱を僕に渡してくる。これは一体?

 

「空けてみて」

 

千聖に言われ、その箱を空けてみる。中に入っていたのは、星の形をした茶色い物体だった。その正体は、誰もがよく知っているだろう。

 

「これは、チョコレート?」

 

「えぇそうよ。今日は二月十四日。バレンタインデーでしょ?だから、チョコレートを作ってきたの。今日の日に合わせて、星型にしてみたわ」

 

「そうか、バレンタインか。すっかり忘れてたよ。ありがとう。星型っていうのも良いアイデアだね。今日の体験の後だと、より一層美味しそうに見えるよ」

 

「なんでこの体験の後に出てくる感想が美味しそうなのよ。普通綺麗に見えるとかじゃないかしら?」

 

「えーだって仕方ないよ。僕にとっては、花より団子ならぬ星よりチョコだからね」

 

そう言って、二人で笑い合った。たまには空を見上げてみるのもいい。そう教えてくれた一日だった。普段目にしない場所も、たまに目を向けてみると、新鮮な、新しい発見があるかもしれない。下を見ているだけじゃ、何も始まらない。どうせ見るなら、何事もやっぱり、上の方が良いだろう。夢だってそうだ。時には下に目を向けてみるのも大事だろう。だけど、それだけじゃ自身の成長には繋がらない。どうせ見るなら、遙か高みが良い。だれも手が届かないような、遙か高みが。いつかきっと、その高みを見るだけじゃなく、手を届かせてみせる。そう密かに決意した、星が降った夜の一幕だった。




どうも、ソウリンです
千聖ちゃんお誕生日おめでとう!
というわけで、本作も今日で二周年を迎えました。
まさか、二年かけて二章終わらないとは思わなかった・・・
まぁ二章も後ほんの数話なので、がんばっていきますよ
前半タイのダイマ
後半千聖てんてーの星座講座といった感じの構成になってる今話
その中にもあからさまな伏線を一つ入れておきました
あの人物の正体、正直わかる人いないだろうなと思っています
まだ本作未登場のキャラというわけでもないですよ
オリキャラというわけでもないです
ここまでヒントあれば、どうでしょう?
まぁ、その正体がわかるのはまだ少し先の話です
こうご期待
さてそれとお礼を一つ
☆9評価ありがとうございました!
最近評価くださる方増えてて嬉しい限りですね!
これからも頑張って投稿していきますので、お付き合いよろしくお願いします!
そして今回のサブタイトル、うん、たぶん知らない人多いでしょうね
実はギリギリまでUNISON SQUARE GARDENさんのオリオンをなぞるにするか悩んでたんですよね
その場合の千聖編のタイトルも考えてありましたし
ですが、あえてこの曲にしました
決定理由は、まぁオリオンをなぞるよりこっちの方が誕生日投稿のタイトルとしては良いかなと思ったからですね
というわけでサブタイトルは、3B LAB.☆さんの星に願いを君との愛をです
知らない人は覚えていってね
3B LAB.☆さんね。自分の学生時代流行ってたんですよねー
やだー、おじさん年齢バレちゃうー
まぁ、次話タイトルも3B LAB.☆さんの曲から付けてます
自分が3B LAB.☆さんで一番好きな曲です
3B LAB.☆さん知らない方は、これを機会に是非聞いてみてください
で、その次話なんですが、実は今日の投稿間に合いません
年度末から年度初めで仕事バタバタしてて、執筆する時間中々取れなかった現状
最悪人事もあり、泣かされてます・・・
雅編完成したのもギリギリだったんですよね
間に合ってよかった
ほんと、世間はなんでも自粛ムードなんだから、出勤も自粛しましょうよ・・・
バンドリドームも延期になっちゃったし
ゴールデンウィークの遠征無くなっちゃいましたね
代わりに執筆時間ができたよ!わーい!
はぁ・・・
で、その千聖編なんですが、投稿目標は四月中の午後12時とさせていただきます
ちょっと来週からソルジャーになる仕事があるので執筆できるかわかりませんけど、がんばりましゅ
では今回はこの辺で
次回は千聖編です。先ほども言った通り4月中の午後12時の投稿目標です
ではでは、次回もよろしくお願いします!
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