レオンは思い知ることとなった。今まで多くの魔物を、魔人を狩ってきた。魔王すら倒すことに成功した。過信をしているつもりはないが、自分は強いのだと思っていた。故に、自分が「強い者」ではあるが「最強」でないことを理解した。
今対峙しているのは魔王。それも倒した魔王、カザリームとは比べ物にならない力を持ち、なおその実力を秘める魔王。その魔王は「ギィ・クリムゾン」と名乗った。何かの書物で見たことのある名前、その書物では確か『最古の魔王』だと記され、伝説の
レオンもそれに否を唱えるつもりはない。読んだ当初こそ眉唾物だと思った伝承が事実であるだろうことを目の前の魔王が如実に語っている。
攻撃が通じない。
「くっ……。はぁ……はぁ……」
体力が限界を迎える。カイとは別ベクトルでどうしようもない敵にレオンは膝を屈した。そも、カイすら生きている現状に生き残れる可能性があるのか疑わしい。
(諦めるな!俺は、クロエに会うまで死ぬわけにはいかないんだっ!)
この絶望的な状況でさえレオンの瞳は輝きを失わない。立つ体力もないというのに、まだレイピアを支えに立ち上がろうとする気力に満ちている。
「ふむ、これは良いな。まだまだ青いが伸びしろもありそうだ」
「お、君も高評価みたいだし。空いた枠を彼で埋めるってことでファイナルアンサー?」
「ああ、実力は申し分ない。前の魔王を倒したのだ。他の奴も文句はないだろう」
「この場合って
「いや、推薦を告知して異論がなければそのまま決定だ。他に候補者がいるなら戦わせて勝った方になる」
魔王二人はレオンが放つ殺気を度外視して何やら話し合う。なめられていると感じたレオンはその気迫を強めるが、ボロボロの姿では様にならない。
「とりあえずおめでとう、レオン・クロムウェル!まだ気が早いかもしれないが君は僕と、いや僕は『
「誰が、貴様らの仲間なんぞにっ……」
「これは決定事項だ。逆らうというなら、ここで死んでもらうだけだが。それでいいか?」
「クソが……」
何食わぬ顔で「死んでもらう」と述べるギィはこれから人を殺す顔には見えないが、そんな気軽さで人を殺せるのだということをレオンは察してしまった。そのため、選択肢がない。魔王と肩を並べるなど屈辱を感じる。しかし、レオンはクロエに会うまで耐え忍ぶ道を選んだ。
「では、後は任せる」
「え?僕に任せるの?」
ギィはカイの言葉に答えず、ワープゲートを通ってこの場から失せた。
「あ、マジで僕に任せるんだ。嫌だなぁ全く。自分でボロボロにしといて回復もしてあげないだなんて。そもそも僕が戦った後に間髪入れず戦闘開始したし。魔王なら魔王らしく挑む前に全回復させるくらいしてほしいよねぇ。あれじゃラスボス失格だよ。せめて戦う直前の部屋に回復もできるセーブポイントを置くくらいしなきゃさぁ」
困った笑顔をまま謎の悪態をつくカイ。レオンは未だ警戒していた。
「ん?ああ、そんなに警戒しなくていいよ。僕は負けたら二度と手を出すつもりはないんだ。諦めない限り勝てる、なんて
急に興奮しだして語り出したかと思えば、急に冷静になって懐から瓶を取り出す。テンションの乱高下にレオンは相変わらず気味の悪さを感じていた。
「いらん。お前の出した物なんて、二度と飲むか」
「あっそ。で、そのまま「ハァハァ」言いながら僕に色々訊くの?興奮してるみたいで気持ち悪いんだけど」
「気持ち悪いのはお前の方だろうチクショウが!これで良いんだろうこれで!」
レオンはカイから瓶をひったくって頭から被る。
「うんうん、素直が一番さ。僕みたいな正直者とはいかないまでも、誰彼構わず噛みついてちゃ世の中生きづらいよ?」
ニコニコ笑顔のカイを睨むレオンの怒りは一層強くなる。
「はいはい。さっさと大人しく色々と話せってね。急かすのはいいけど質問してくれなきゃ僕も答えられないよ?さっきからこんなに饒舌に喋ってるのは君が質問を考えている間を埋めるための僕の甲斐甲斐しい努力なんだ。もし僕の言葉が聞くに堪えない物だとしても早く質問してくれない君のせいだから僕は悪くない」
「……。三つしか答えないと言ったな。それは何故だ」
怒りを抑え、レオンは頭を回転させる。レオンにはカイの「三つしか答えない旨」が引っ掛かった。
「特別にその質問はカウントしないで答えてあげよう。クロエ・オベールという人物はこの世界の重要人物だからだよ。彼女について深く知れば知るほどこの先のネタバレになるからね。だから、無制限には答えられない。三つにしたのは気まぐれさ」
レオンはカイへの警戒度を上げた。この男は、何かを深く知りすぎている。
「何故お前がクロエのことを知っている」
「そんなくだらない質問をするのかい?悪いけどここからカウント開始だ。まず一だね。僕がクロエ・オベールについて深く知っている理由は、「僕が知らないという現実を受け入れなかった」からだよ」
レオンは「現実を受け入れなかった」というのを考察する。これはカイの能力に関することだと考えた。カイは「夢」という言葉を強調して使っていた。そして今の発言に出た「現実」。「夢」と「現」。おおよそであるが、カイの能力は幻影魔法を発展させたモノではないかと予想した。
では、後二つの質問をカイの能力当てに使うか。レオンの答えは否だった。目の前にいる男の力が如何様なものであろうと、邪魔をするなら滅ぼす。それ以上にクロエについての数少ない情報源を失うのは非常に惜しかった。
「何故俺のクロエに関する記憶が曖昧になっている」
「二つ目だね。その答えについては僕も表現が難しいよ。なんて言えば良いのか……。彼女が今曖昧な状態になっているから、かな?」
「曖昧な状態」というのにレオンは焦燥する。まさか、クロエが死にかかっているのではないかという最悪の事態が頭をよぎった。口を開こうとするレオンに対し、カイは人差し指で当てて口を閉ざすことを促した。
「このままじゃ三つ目の質問も面白くなくなるから。補足してあげよう。クロエは死にかけてるわけでも消えかけてるわけでもない。あくまで今は不純物が混ざっているというだけの話さ。君が何かする必要もなく、何れその不純物は取り除かれるから安心しなよ」
表現自体が明確にされていない答えにレオンは視線を鋭くするが、カイはにこやかにそれを受け止めるだけ。これ以上明文化はできないと表していることをレオンは理解する。そして、そもそもこの二つの質問はあまりにも自分の目的に迂遠であることに気付いた。単刀直入に、自分の目的を果たす答えを求める方法を訊けばいいと思い至った。
「クロエを召喚する方法はなんだ」
その質問をした瞬間、カイの口の端は大きく吊り上がった。
「何が可笑しい!」
「いやいや、何も可笑しくはないさ!可笑しくないからちゃんと答えてあげよう!
「ふざけるな!!」
怒りに任せてカイの胸倉を掴み上げる。それでもカイは笑顔を絶やさない。
「おいおいせっかちな奴だなぁ。君はもしかして
「今すぐにでもかき消されたいかっ」
「あっはっはっ!そんなに熱くなっちゃって。僕が嘘をついてると思うなら何度も試してみると良いさ。アドバイスを二つ上げよう。特定の人物を狙うなら条件を絞るために長い年月を準備に当てた方が良い。それと、後々異世界からの召喚が得意な異世界人もこっちに来るから当たってみたらどうかな?」
それを聞き終えると同時にレオンの拳がカイの顔を殴り飛ばす。さすがに本気ではなかったようで1mぶっ飛ばされる程度で済んだ。
「このクソッタレな嘘つき野郎が!貴様の言葉など信じるか!」
「いたた……。全く、僕は逃避癖があるだけで、虚言癖はないんだけどなぁ」
言い訳とも言えぬ言い訳に、レオンはただ侮蔑を以て数秒睨み、舌打ちをしてから踵を返す。
これから彼は思い人のために長い年月を犠牲にするだろう。カイはその背中を見つめて不気味に笑っていた。
「頑張れよ、レオン・クロムウェル。それが君の
正直者(嘘をつかないとは言ってない)。
ギィさん、アルティメットスキルすらコピーできるらしいし、美徳系に対処できるスキルくらい持ってるでしょ。という安易すぎる独自解釈でした。そして今回もギィの戦闘は割愛される。
どうにか応募用が書きあがりましたので、こちらの投稿を再開します。何かリアルでない限りは2週に一度のペースで更新されると思います。なお、その何かは割と頻出する模様。しんどいね、