転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霖霧露

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第十三話 番外魔王の番外編~「最弱」と呼ばれる理由~

 カイは世間で最も有名な魔王である。他の魔王たちが自分の領地に引きこもっていたり、目立たないようにしたりと、他の魔王が目立った行動をしないのも原因だが、それにしてもカイ・ヤグラの目撃報告はとても多い。故にカイは世間によく認知された通り名がある。

 

 『番外魔王(エクストラ・イビル)』や『過負荷(マイナス)』は通り名と言うより二つ名、カイの自称という認識が強い。そちらで呼ばれないこともないが、カイの通り名とされているモノは『最弱にして最凶の魔王』というモノだ。

 

 カイが多くの冒険者に挑まれたことは周知の事実であり、イングラシア王国の兵隊とも戦ったのは知られている。それらとの戦闘において生き延びているカイが何故『最弱』と冠するのか。メタな話をすれば「過負荷(マイナス)だから」と言えるだろうが、それはカイとそれについて良く知る者たちの結論である。

 

 では何故『最弱』と呼ばれるのか。単純な話、そんなに強くない者たちに負けた事実があるからである。

 

 基本的にカイは自分に敵対した者に対して勝敗が付く前に相手の心を折る。勝負を有耶無耶にする方法で対処する。しかし、相手が攻めてきてしまっている以上、勝負は始まっているのだ。なら、その勝負に負けるのは過負荷(マイナス)なのだから当然。カイが心を折る前に不運(マイナス)で敗北を喫することもある。

 

 では、その敗北が如何なるモノか。その時のことをご覧いただこう。

 

「こちらが確認のVTRです、なんてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇Case1

 

「ま、待ってくれ!お、俺たちは魔王を襲うつもりはっ、ひぎぃあぁ!?」

 

 盗賊団の一人が腕を釘で貫かれ、情けない悲鳴を上げる。

 

「するつもりがなかったら許されるのかい?実際僕は襲われたのに?幌馬車の旅を楽しんでたのにさぁ。その幌馬車が襲われてこれから徒歩で向かわなくちゃいけないんだ。で、そうされた僕はそうした君たちを許す必要があるのかい?」

 

 あまりにも不気味な笑顔を浮かべた男が盗賊団のアジトである洞窟へと踏み込んでいた。

 

 事の発端はそう難しくない。盗賊団はいつものように行商人と旅人の馬車群を略奪目的で襲っただけだ。だがいつもとは違い、その旅人の馬車にカイが同乗していたのである。実際いつもだったら馬車を故意的に壊すことはないが、護衛役だった冒険者たちの抵抗が激しく、勢い余って攻撃を当ててしまったのだ、カイが乗っている馬車に。

 

「た、助け……」

 

「ねぇねぇ、訊きたいんだけどさ。君って襲った人たちに似たような台詞言われたこととか記憶にない?」

 

 釘を刺されている盗賊はカイの質問の意味を深く考えることなく、それに答えれば助命されると勘違いして縦に首を振る。

 

「あるんだね?じゃあ、その台詞を聞いて助けたことって、あるのかなぁ?」

 

 盗賊は察した。質問は自分を助けるモノではなく、むしろ追い詰めるためのモノであると。盗賊は気づいて冷や汗を流すが、この質問に首を縦に振れなかった。

 

「ないんだね?じゃあ、似たような台詞を聞いて、それを助けなかった君を。その答えを聞いた僕が助けると思えるかなぁ」

 

「あ、あああああああ!!」

 

 盗賊は助けてもらえると思えなかった。震えて立てない体を、釘が刺されてうまく動かない腕を引きずってでも這いずる。少しでも助からない未来から遠ざかろうと夢を見る。

 

「正しく幻想(ユメ)でしかないね。じゃあ、おはよう」

 

「か、はっ……」

 

 胸を釘に貫かれ、その盗賊は静かに横たわった。

 

「そんなところで見てたって仕方ないよ?そんなバレバレな隠れ方してたら盗撮役は任せられないなぁ。あ、でも盗撮風に見せるのならありかな?僕はそっち系に詳しくないから知らないけどね!」

 

 積み上げられた樽の影に隠れていた男が恐怖で震え、樽を崩してしまった。樽はカイの傍まで転がるようにばら撒かれ、もう隠れられる影はない。

 

「ゆ、許してください。か、金なら出しますから、命だけはっ」

 

 男は跪きながら硬貨が入った腰巾着を両手で掲げて差し出す。

 

「そうか、お金はあるんだね?旅をするにも美味しい物食べるにもお金はいるんだ」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「うん!お金取った後に報復されるのとか怖いから、殺してから貰うね!」

 

 一縷の望みが砕かれた男は絶望する。ゆっくりとこちらに近づいてくるカイの姿に男は死神を幻視した。

 

「く、来るなっ、来るなぁ!」

 

「来るなって。そっちから来たんじゃないか」

 

 男は破れかぶれに物をカイへと投げつける。腕が震えているせいか狙いが定まらず、一つたりともカイに当たらない。いつも持っている酒瓶も地面に落ちて割れ、地面と樽を濡らすだけ。足元に落ちていた石も洞窟を照らす松明に当たり、それを地面に落とすだけで終わってしまう。

 

「殺さないでくれ!死にたくない!」

 

「君に良い言葉を贈るよ。「殺しているんだ。殺されもするさ」ってね」

 

 壁際まで追い詰められた男へカイが釘を振り下ろすべく掲げる。

 

「じゃあ、おは……。ん?なんか焦げ臭い?」

 

 カイは何かが燃える匂いに鼻腔をくすぐられ、何が燃えているのか確認しようと振り返る。見れば、酒が引火して樽を燃やそうとしていた。

 

「あ、落ちが読め―――」

 

 樽が爆ぜ、天井が崩れる。盗賊は目を瞑って死を覚悟するが、音が鳴りやんでも痛みが来ず、目を空ける。

 

「ば、爆発落ちなんてサイテー……、なんてね……」

 

 崩れた天井の岩に下半身を潰されたカイがその言葉を残して力尽きた。

 

「い、生き残った、のか……?」

 

 岩は奇跡的にカイだけを潰し、道は塞がれていなかった。男は命からがら、未だその死体が動くのではないかと恐れてその場を逃げ出した。その放って置かれた死体は、大きな音を聞きつけた冒険者によって洞窟より引っ張り出された。その後、大々的にカイの死亡が世界に報じられた。遺体は嘗て確認された再生能力を考慮し、封印を得意とする者たちで多重に過剰に封じられた。

 

「まぁ!オールイズファンタジー(全部幻想)なんだけどね!」

 

 後日確認された封印場からは、カイの遺体が幻想だったかのように消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇Case2

 

「冒険者なんてやっててさぁ、命をチップに金を稼いで。死ぬかもしれない相手に挑んで、君たち程度じゃ三日くらいの生活費をしか得られない。ねぇ、君の命ってそんなに安いのかい?生きるか死ぬかを賭けて、三日分だよ?冷静に考えよう。そんなことしてるより、機を織る、畑を耕す、鶏を育てる。その方が安全だろう?基礎さえでき上ってしまえばそれで一生暮らしていける。夢が見たい?僕を倒せば一攫千金?なぁ、自分が大層な幻想(ユメ)を見ていることに気付こうよ。そんなのはオールイズファンタジー(全部幻想)さ」

 

「ああ、そうだったな……」

 

 盾役の甲冑を着込んだ冒険者が項垂れ、膝を屈する。彼は幻想(ユメ)から覚めてしまった。

 

「さぁ、君たちも僕とお話をしよう。幻想だと知る(目が覚める)ような良い話を聞かせてあげるよ」

 

 カイの目の前に居るのは斧を持つ前衛、弓を持つ後衛、杖を持つ支援の三人。先程の盾役とチームを組んでいた冒険者たちだ。カイにかけられた多額の懸賞金に目が眩み、たまたま街道で見つけたカイに襲い掛かったのだ。何人も心折られているという事実に目を瞑って、彼らは一攫千金を得る幻想を見てしまった。

 

「な、仲間の敵!自らの死で償え!」

 

 弓を弾き、矢を放つ。自身めがけて飛んで来るそれを、カイは避けようともしない。

 

「ナイスショット。良い腕してるね、君」

 

 見事に眉間を射抜く。これでカイの頭を貫く矢が()()になった。

 

「う、うあああああああ!!」

 

 叫びにも似た気合の一声と共に斧でカイの肩を叩き切る。

 

「右肩の次は左肩かぁ。両腕を失っちゃった。酷いことをするね。これから両腕の使えない僕はどうやって生きればいいんだい?」

 

 両肩に深い傷を負いながら、痛みなど感じさせない不気味な笑みを浮かべる。使えないと言いながら、その両腕をグルングルン回している。

 

「どうして、頭を射られて、両肩を深く切られて、死なないの……」

 

 何もできない支援役がただただその様子を言葉にし、絶望している。

 

「君たちってさぁ、「因果応報」って言葉知ってるかい?ああ知らない。大丈夫だよ、体に教えてあげるから」

 

 両肩を切った前衛の両肩に、頭を射抜いた後衛の頭に、釘が穿たれる。後衛はもちろん動かなくなったが、前衛は痛みで絶叫している。使えなくなった両腕は握っていた斧を取りこぼした。

 

「悪いことをしたら自分に返ってくるんだ。いやぁ為になったねぇ。これからはしっかり善行を積むと良いよ。良いことしたら良いことが返ってくるって言葉でもあるからね」

 

 そこまで声を張っているわけでもないのに前衛の絶叫に潰されることなく、まるで脳に響いているがごとくはっきりと聞こえた。支援役にとってそれはカイの不気味さを際立てるモノにしかならなかった。

 

 カイはゆっくりと五体満足な支援役に歩いて行く。支援役は恐怖で腰が抜け、その場に尻餅をついて動けなくなった。

 

「ご、ごめんなさい……。戦いを挑んでごめんなさい殺そうとしてごめんなさい倒せると思ってごめんなさい仲間が盾で叩いてごめんなさい弓で射貫いてごめんなさい斧で切り裂いてごめんなさい」

 

 涙を流しながら、ひたすらに謝罪の言葉を並べる。

 

「おいおい。女の子が泣いちゃったら、まるで僕が悪いみたいじゃないか。勝手に泣いて勝手に悪者扱いして勝手に先生に通報して。それで謂れもなく先生に怒られてる僕を陰から見て笑うんだろう?君たちの方から殺しに来たんだから正当防衛だろう?僕は何も悪くない。だって攻撃してきた君たちが悪いんだから」

 

 一歩、カイはその少女に近づく。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 壊れた機械のように同じ言葉を繰り返す。カイはその号泣の彼女ににっこり微笑んでこう言った。

 

「だから?」

 

「許し―――」

 

「許すわけないだろ」

 

 少女の衣服を何本もの小さい釘で地面に縫い付ける。逃がす気はさらさらないという意思を表明する。

 

「っ!ーーーー!」

 

 少女はもはや恐怖で声を発せない。ただただ一歩一歩、カイが近づく音だけが聞こえて来る。

 

「あ」

 

 何かが地面に落される音がした。丁度、人間くらいの重さのモノが地面に落ちるような音だ。何が起こったのか、顔だけでも上げようとした少女の横に何かが転がってくる。

 

「っっっ!!!」

 

 それは、カイの首だった。突然不気味な笑顔のままのカイが首だけで転がってくるのを目前で見て、少女は気を失った。何故か少女の股の辺りが濡れている。

 

 真相は盾役の盾に躓いて転んだ先に、奇跡的に刃を上に向けて落ちている前衛の斧が丁度カイの首を捉え、見事カイの頭と体は別れを告げることとなったのだ。

 

 誰もが動けない状態にあったその場に街道巡回の騎士が通り、冒険者は保護され、カイの死体は騎士によって騎士の国に納められたのである。その冒険者たちはカイと死闘を演じて討伐を果たしたモノと勘違いされ、多額の懸賞金を得た。その後、その四人が大きな牧場で畜産を始めたのはまた別の話。

 

 カイは封印ではどうにもならないと、完全に焼却されることが決まり、多くの炎の魔術師によって火葬された。

 

「まぁ!オールイズファンタジー(全部幻想)なんだけどね!」

 

 業火の中から燃えながらも飛び出し、何処ぞへと走り去るカイの姿が確認された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「ま、そんな感じにたくさん討伐報告も上がってるから『最弱』って話さ。あ、ちなみに。僕が誰か殺したなんてオールイズファンタジー(全部幻想)だからね?」

 

 カイは世界にその名を轟かせる。

 

 壊しはせず、殺しもせず、しかし心を壊す魔王。

 

 『番外魔王』『最弱にして最凶の魔王』―――

 

 『過負荷(マイナス)』と……。

 

「じゃあ今日の話はここら辺で。じゃね、バイビ」




 相手の強弱に関係なく『過負荷(マイナス)』は勝てない。当たり前な話さ。『過負荷(マイナス)』は虚弱(マイナス)不幸(マイナス)弱者(マイナス)なんだから。

 はい。カイ君が世間で『最弱にして最凶の魔王』と呼ばれる所以を語る回でした。本編の進みにはあまり関係なく、原作キャラと全く絡まない回でしたが、まぁ最弱って言われる理由を書いとかないとモヤモヤするかなと。

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