転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霓霞霖

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連載版 ~原作開始後~
第十六話 ユメが始まった


―俺と友達にならないか?

 

―し、仕方ないな。我が友達になってやるわ

 

 当事者のやり取りとしてはそんな軽いモノ。しかし、このやり取りこそが世界を激震させる大事であり、波乱万丈の物語、その始まりの一ページだった。

 

「やぁ。そんな大変なことが起こってる中、僕を呼ぶのなんて君は大概酔狂だねぇ。ギィ・クリムゾン?」

 

「戯け。自らの居場所を知らせるような事をしたのは貴様だろう。まさか、ヴェルドラ消失と無関係なんて言わないだろうな」

 

 最近大人しかったカイが冒険者に目を付けられて騒ぎを起こし、その存在を知らしめていた。ギィが丁度カイを探していた時に分かりやすく存在を表したのだ。今、世を騒がせている「ヴェルドラ消失」と騒ぎ出したカイが無関係とはギィには考えられなかった。

 

 だからこそギィはまた自身の城に呼び寄せ、その真相を問い質す。今回は隣に透き通るような白い肌と白髪を備える美女(ヴェルザード)も控えている。

 

「いやぁ、最近はルミナスに追われてたからねぇ。彼女の執念は大したものさ。何度殺したって無意味なのにね」

 

「ルミナスと何かあったようだな。いったい何をしたのやら」

 

 カイが人の神経逆なでる行為を得意としているのはギィの知るところ。というか周知の事実だろう。いちいちどう逆なでたのか訊くのも意味がないので、ギィは呆れるだけで興味を抱かなかった。魔王同士の小競り合いも珍しくはない。

 

「誤魔化しは結構です。貴方がヴェルドラ()を消したのか、そうでないのか。素直に答えてください」

 

 ヴェルザードは二人のやり取りに焦れたのか、笑顔でありながら冷気と殺気を放つ。笑顔も営業スマイルだが。

 

「弟?君のような美しい女性の弟なんて、僕には面しk―――」

 

「「誤魔化しは結構」とも、「素直に」とも申し上げました」

 

 警告を無視したカイに対し、ヴェルザードは一瞬でカイを氷塊に閉じ込めた。

 

「全く、酷いなぁ。僕が何でも知っていると思っているのかい?君がヴェルザードで、その弟がヴェルドラのことだって初見じゃ誰も気づけないさ。まぁ!僕は知ってるけどね!」

 

 氷塊は何処ぞへと消え、何事もなかったかのように立つカイは不気味に口の端を吊り上げる。カイへ向けられる殺気と冷気が増した。

 

「はいはい、さっさと答えろってね。ちゃんと話は聞いてるさ。端的に言えば僕は消してないよ?正すならそもそも消されたわけではないしね」

 

「消されてない?」

 

 ヴェルザードは前提を訂正されて疑問を呈す。

 

「僕の質問にも答えてよ。一方的じゃフェアじゃないだろう?ずばり、なんでそんな警戒してるのさ。魔力が高密度大容量で集まった存在とはいえ、生物という体を取ってるんだから、死があるのは当然の話だろう?」

 

「竜種を消滅せしめる力があるとして、それを警戒するのは当然のことではないでしょうか」

 

「まぁ、そういうものか。「恐怖を克服することが生きることだと思う」ってジョジョのDIO(何処かの帝王)も言ってたし、Fateのギルガメッシュ(何処かの慢心王)も友の死を経験して不死の霊薬を探し出すくらいだし、そうおかしくもないのかな」

 

 カイは目の前の長寿兼強者がそんなモノに脅えるのかと頭を傾げるが、自身が上げた例もあることで一応の納得を示した。

 

「君の質問に答えるよ。ヴェルドラは消滅したんじゃなく、異空間に封印ごと転移させられただけさ。封印もそのままだから、相変わらず力は使えないだろうけどね」

 

「竜種を異空間に飛ばす?そんなことができるはず……。いえ、弟も同意したということですか」

 

「大正解」

 

 スキルが全て封印されているとはいえ、それは尋常じゃないエネルギーの塊だ。抵抗の意思があるそのエネルギーを転移させることは不可能であり、故にヴェルザードは早くもその結論に至った。カイはニッコリと笑う。賞賛の言葉のはずだが、ヴェルザードは微塵も嬉しくなかった。

 

「暇にかまけた弟を言いくるめることは難しくないでしょう。ですが、弟が居ることによって並の人間や魔物では危険な場所に入ることができ、なおかつ異空間に飛ばすようなスキルを持っているような存在。そんな者が私たちから身を隠せるとは思えません」

 

「いや、なるほど」

 

「ギィ?」

 

 ヴェルザードがカイの言葉を出まかせと否定していけば、そこになにやらギィが得心して言葉を挿む。

 

「異世界人だな。こちらに来たばかりの、しかも転移した場所が封印の洞窟という大バカ者だ」

 

「くくっ、あっはっはっはっ!正解だよ、ギィ・クリムゾン!彼はある意味で大バカ者。この世界の都合なんて考えず、自身のために世界を改革するアブノーマル(異常者)さ!」

 

 愉快痛快と大笑いするカイにギィは目を鋭くする。ヴェルザードはもう聞きたいことを聞き終わったようで、玉座の横に佇んでいた。

 

「貴様が言っていた『彼』とはそいつか」

 

「ああ、勿体ぶるつもりはない。『リムル()』が僕の待ち人さ。だから間違っても手を付けないでね?僕だって獲物を横取りされれば、むしゃくしゃして無茶苦茶にしたくなるから」

 

 目を見開き、今まで以上の気味の悪さを放つカイ。ギィは本気で言っていることを容易に察する。

 

「他の奴には言わないのか」

 

「ああ、言わないさ。どうせ『彼』の敵になったら悉く踏み台にされるから。君だけは今の彼じゃ無理だし、悪影響を与えかねないと思っただけだよ」

 

 敵となる魔王が全て成長の糧にされる可能性を示唆されたギィは、その『彼』が危険な存在であり、この世界にとって良くない存在であるかを考え、目の前の脅威を度外視して自身が排除に動くべきかを逡巡する。そこで、以前カイが言っていたことを思い出した。

 

「そいつは、世界にとっても魔王にとっても味方なんだな?」

 

 カイが以前言っていたこと。『彼』が世界にも魔王にも敵にならないということ。ギィは改めて確認する。

 

「安心して良いよ。それだけは僕の……何に誓えば説得力あるかな?まぁ何でも良いや。じゃあ安心院さんにでも誓っとこう。その言葉に嘘はないさ」

 

 なんとも釈然としない誓いであるが、糸目に戻ったカイが嘘を言っているようにも見えない。

 

「しばらくは様子見してなよ。きっと『彼』自身が面白いモノを見せてくれるさ。君はただ、より良くなっていく世界を見守ってれば良い。それが君の役目だろう?」

 

「……言われるまでもない」

 

 ギィはとりあえず、目の前の男より『彼』を見定めることにした。その方が結果ははっきりするだろう。ギィ自身、自分らしくない思考にうんざりしてそう切り捨てた。

 

「言いたいことも言い切ったし、僕はそろそろ行くね。じゃね、バイビ」

 

 いつもの如く幻想のように消え去るカイ。ギィはさっきまでカイが立っていたところに視線を留めたまま、これから起こるやもしれない動乱を予見し、考えをまとめようとしていた。

 

「時がくれば、動くだけだ」

 

 結論は単純。『魔王』という役割を知るギィは、平静に、平常に、『魔王』としてあることを決断した。

 

◇◇◇

 

「で、君も僕に用なのかい?今回は雑談パートかな?」

 

「ふざけるのもいい加減にしろ」

 

「ふざけてないし、ふざけてるにしてもまだ一回目なんだけどな。随分と狭量だね、レオン・クロムウェル」

 

 今度はレオンの玉座の前でカイは笑っていた。レオンには睨まれっぱなしだ。

 

「僕も久しぶりにグルメツアーしてたんだ。そこに騎士甲冑を寄越して「すぐに来い」だなんて。僕を便利な情報屋だと思ってないか?君たちは。そう思っているなら対価くらいは欲しいんだけどね」

 

「質問の返答のみ口を開け。それ以外は閉じてろ」

 

「だったら早く質問を言ってくれよ。口で言わなきゃ思ってることなんて伝わらないよ?「壊れるほど愛しても、三分の一しか伝わらない」らしいしね」

 

 意味の分からないカイの饒舌に一筋の閃光が走る。しかし、それがカイに当たることはない。もはやテンプレと化したやり取りで、レオンは青筋立てながら質問のために頭を冷やす。

 

「数年ほど前にクロエとの記憶をはっきり思い出した。それは何故だ」

 

「少しは自分で考えたら?いつも人に聞いてちゃ頭がダメになっちゃうよ?」

 

 また一筋の閃光。が、ダメ。

 

「クロエの不純物が取り除かれたのか?」

 

「人に話を訊く態度じゃないなぁ、これは」

 

 また一筋の閃k(ry

 

「クロエはこの世界に来ているのか?」

 

「ちょっと待って。今閃光を避けるのに集中してるから」

 

「いい加減にしろよお前!?そんなに遊びたいんだったら踊ってろ!!」

 

 レオンは堪えかねて怒りを露にする。幾筋もの閃光が様々な方向から走り、いくつもカイを捉えた。

 

「あっはっはっ!手から以外も出せるようになったんだね。良かった良かった。はいはい分かってるさ。全部しっかり答えてあげるよ」

 

 穴が数か所空きながらも笑顔で両手を上げるカイ。レオンは煮え滾るような思いを一旦溜息と共に吐き出し、玉座に腰を落ち着ける。

 

「一つ目は、そうだね。今クロエはクロエとしてあるから、曖昧になっていないせいじゃないかな?二つ目は、ノーだ。ただ、今は不純物のない方が居るけどね。三つ目は、どっちとも答えられない。来ていると言えば来ている。来ていないと言えば来ていないね」

 

「……」

 

 レオンはカイの答えが余りに矛盾だらけで口を噤む。「曖昧ではない」、「不純物のない方が居る」、「来ているともいないとも答えられない」。曖昧ではないとは?不純物のない方とは?どちらとも言えない状態とは?思考すれどもレオンは答えに至れない。

 

「……これ以上答えるつもりはあるか?」

 

「ないよ?今回答えたのだって特別さ。思い人を甲斐甲斐しく待ち続けるマイナス(か弱い人)へのささやかな慰めだね」

 

 更なる質問が可能か問えば、即座に否を唱えられる。カイは前にも「無限には答えられない」と言っていたことからこの返答をレオンは予想していた。しかし、それでも聞きたかったからレオンはカイを呼び寄せたのだ。しかし、今回も三つまでが限度。拷問も痛みなど知らぬようなカイに対しては徒労に終わるだろう。

 

「そうか……」

 

「で、情報を上げた僕に何か報酬はないのかい?ただ働きは御免さ。働きたくもないんだからn―――。ドッジボールじゃないんだから、顔面はアウトだよ?」

 

 言葉の途中でレオンはカイに向けて金の入った小袋を投げつけ、まさか投げて寄越すとは思っていなかったカイは顔面アウトとなった。

 

「知るか。さっさと去れ」

 

「はぁ、まぁお金貰ったからとやかく言わないよ」

 

 カイは眉を八の字にしたままレオンの注文通り消え去った。旅にもグルメツアーにもお金がかかる。レオンはお金でとはいえ、カイを黙らせることに成功したのだ。

 

「クロエ、お前は何処に居るんだ……」

 

 そんなことに達成感はなく、レオンは隣に居てほしい人が居ない虚無感を呟いた。




 今回は原作開始の第一話をお送りいたしました。時系列として本当に開始初期、行ってて狼と戦ってる辺りです。
 影で暗躍、というか体の良い情報源にされてますが。カイくんが暗躍して上手くいくはずもないのであしからず。メインキャラたちに使われる程度ならそう都合も悪くならないのでね。
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