転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霓霞霖

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第十八話 故郷の中で眠るユメは見られない

「なっ、どうなってんだ!イフリートって使えるのは炎だけじゃないのか!?」

 

 辺りに延焼と氷結が広がる光景を目に納め、リムルは自身の予想していなかった物に驚愕する。

 

「し、知らないでやすよ!少なくとも、『爆炎の支配者』が氷魔法を使ったって話も、炎の精霊が氷魔法を使えるって話も聞いた覚えがないでやす!」

 

 リムルの驚きに返答するギドもリムルと似たような状態で、目の前の光景に理解が及んでいなかった。

 

(大賢者!これはどういうことなんだ!?)

 

(解。不明です)

 

(不明!?)

 

(観測された魔素パターンから、対象・精霊変異体とイフリートとの近似を確認しました。精霊変異体はイフリートから変異したモノと思われます。しかし、そのイフリートが変異した要因は観測できませんでした。推測として、外的要因で変異したと考えられますが、その要因は不明です)

 

(マジか……)

 

 転スラ(この)世界とリムルの前世の世界の知識を持ち、その知識にあるあらゆるエネルギーの観測を行える『大賢者』を以てしても解き明かすことのできない精霊変異体に、リムルは小さな恐れで身震いする。

 

 リムルは思い当たってはいないが、『大賢者』が導き出した答えは精霊変異体が上記二つの世界以外の力が要因である可能性を示すものである。それが分かったからといって、現状の打開に繋がる情報ではないが。

 

「GRRRRRRR……」

 

 両手両足で地面を踏みしめ、喉を鳴らすその精霊変異体の様子はまるで獣の様であった。一切の理性を感じさせず、ただ暴走状態であることを表している。

 

 その精霊変異体と睨み合うリムルたち。気勢の読み合いなどお構いなしに動き出したのは、やはり理性なき精霊変異体の方だ。

 

「GAAAAAA!!」

 

 咆哮が魔素を放射し、その魔素を受けた空気が火の玉、または氷の礫となってリムルたちを襲う。

 

「うおっと!」

 

「あっちぃ!つめてぇ!」

 

「無理!無理でやすー!」

 

「死んじゃうー!」

 

 リムルはランガの背に乗り、ランガが悠々と炎と氷を避ける。カバルたち三人は悲鳴を上げつつもどうにか武器で切り落としたり、魔法で撃ち落としたりで捌いていた。リムルはその三人を見て、まだどうにか保つと判断する。ただ、それも一時であることは分かっている。

 

(何か良い手はないか、大賢者!)

 

(解。有効な攻撃手段の獲得として、精霊変異体の攻撃を取り込むことにより、攻撃を解析及び習得できると思われます)

 

(肉を切らせて、ってやつか……)「ランガ!俺をあいつの真ん前に投げろ!」

 

「しかし、主!いえ、分かりました」

 

 一瞬主を危険の渦中に放り投げる行為に躊躇したランガだが、主であるリムルの意思が固いことを感じ取り、指示に従う。

 

「よっと!」

 

(告。炎魔法及び氷魔法の解析、習得に成功しました)

 

 放たれる炎と氷をリムルが『捕食者』で取り込み、『大賢者』が一瞬で解析し終える。

 

「食らいやがれ!『氷炎大魔散弾(アイスファイアショット)』!」

 

「GURAAAAAAAAA!!」

 

 即興で作り上げたリムルの魔法散弾が精霊変異体に命中し、相手は痛みに鳴き上げる。リムルは確かな手ごたえを感じた。

 

「GRRR……、GAAAAAAAAAA!!」

 

 しかし痛みに怯むはほんの数秒で、精霊変異体は次なる手を打つ。炎と氷の塊が成形され、精霊変異体と同一の形を成していく。

 

「これは……!」

 

 理性はないとはいえ、精霊変異体はその生存本能で脅威を選択し、標的を定める。作り出された分身の多く、特に氷の分身がリムルを取り囲み、炎の分身がカバルたちを牽制する。

 

「リムルの旦那!」

 

 囲んだ氷の分身たちが逃げ道を塞ぎ、そうしてリムルの足元に魔法陣が浮かび上がる様子をカバルが警告するが、それは遅すぎた。魔法は行使され、リムルは氷柱に閉じ込められる。

 

(クソ、まさか今世は氷に包まれた凍死なんて。シズさんを救えずに終わるのか。無念だ……)

 

 なす術もないと勝手に思い込んでいるリムルは自身も凍り付く時を待ちながら、悔しさを噛みしめる。

 

(転生して数ヵ月。思えば短い人生、いや、スライム生だったな……。……これ、いつまでモノローグすれば良いんだ?全然凍る様子がないし苦しくもないんだが)

 

(……告。『熱変動耐性』の効果により氷結の無効化に成功しました)

 

(あ!!)

 

 待てどもその時が来ないリムルに『大賢者』は呆れが伝わってくるような多少遅れた報告をする。リムルは『大賢者』への毒付きを胸の内に潜めながら、氷を内側から捕食した。

 

「GU!?」

 

「悪いな、元イフリート。俺に炎と氷は効かないんだ」

 

 数秒前の失態などどこ吹く風。リムルは精霊変異体を『粘糸』で捉えた。

 

「シズさんを返してもらうぜ」

 

 かっこつけながら『捕食者』を発動する。対象は、シズに同化する精霊変異体のみ。

 

(告。精霊変異体のみの捕食に成功しました)

 

 『大賢者』の平静な報告を聞き、リムルは倒れ掛かるシズを受け止める。

 

「あり、がとう……。スライムさん……」

 

 シズはか細い感謝を伝え、ぎりぎり保っていた意識を途絶えて眠りについた。

 

◇◇◇

 

 シズが眠りについて一週間。彼女の眠るすぐ横で目覚めを待ち続けるリムルは、彼女が眠り続ける原因を『大賢者』から聞かされていた。曰く、「彼女はイフリートとの同化で延命していた」と。曰く、「彼女はぎりぎりのところで耐え、永くはなかった」と。

 

「スライムさん……」

 

「シズさん、気が付いたのか!ちょっと待ってろ、今水を―――」

 

「良いよ。もう、必要ないから……」

 

「え……」

 

 シズの諦めに似た言葉に、リムルは動きを止めてしまった。

 

「何十年も前にこっちに来て、辛いこともたくさんあったけど。良い人たちにもたくさん出会えた……」

 

 語られるのは、遺言のようなそれ。物語の締めくくりのような言葉。

 

「レオンとは、最後まで話し合う機会はなかったけど。一言くらい、感謝を伝えたかった。カイさんや時の勇者様にはたくさん助けられた。先に逝ってしまうのは、不孝者かもしれないけど。今でも、感謝してる……」

 

 シズは多くの出会いに感謝をしていた。自身に様々な不幸が降りかかっていたことを自覚しつつ、それでも自身は幸福な存在だと思っていた。

 

「可愛い教え子たちにも出会えて。カバルさんたちみたいな、良い冒険者仲間にも出会えて。そして最期に、リムルさんと出会えた」

 

 レオンに延命してもらい、時の勇者に育ててもらい、カイに導いてもらい、リムルに助けてもらった。シズは感謝していた。神などではなく、目の前のリムルも含めた恩師たちに。

 

「心残りがないわけじゃないけど。私は充分生きたから」

 

 シズは「もう良いのだ」と、何処か寂しそうな笑顔で暗に語っている。

 

「シズさん……。俺に、何かできることはないか?心残りがあるなら言ってくれ」

 

「リムルさん……」

 

 リムルはそんな妥協したような彼女の顔に満足できずに口を開く。シズはリムルに自身の無念を背負わせたくないと、言葉を詰まらせた。

 

「あんたの力になりたいんだ。言ってくれ」

 

「……じゃあ、私を食べて。リムルさん」

 

「シズさん、それは……」

 

「懐かしい故郷の景色の中で、眠りたいの……」

 

 リムルの強硬に折れ、シズはそれに甘えてしまう。まるで止めを頼むようなことに、リムルは血の気が引くが、シズはリムルにしか頼めないことを頼む。最期は帰れなかったあの故郷の中で眠ることを、幻想(ユメ)だと分かっていても、シズは頼んだ。

 

「分かった、シズさん」

 

「ありがとう、リムルさん」

 

 シズの最期の願いを聞き、静かになってしまったシズを、リムルは苦汁をなめながら捕食した。せめて安らかな眠りを、リムルは祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「まさに幻想(ユメ)だね。静江ちゃん?」

 

「え?」

 

 意識が闇に落ちる感覚、暖かく柔らかいモノに包まれる感触を味わった静江は、それで終わりを迎えず覚醒する。目に入った景色は木造の一室。かつて通っていた学び舎の教室のような場所だった。

 

「か、カイさん?」

 

「やぁ、おはよう。井沢静江ちゃん。長い人生お疲れ様」

 

 カイはいつもの笑顔で教卓に腰掛けている。

 

「ここはいったい……」

 

「ん?ああ、あの世とこの世の狭間に僕が現実を受け入れなかった(作った)空間だよ。安心院さんが封印されてた場所を真似て作ったつもりなんだけど。ちょっと古めかしくなっちゃったね。まぁ良いか。とりあえず、あの世に行く前に君に用事があるんだ」

 

 何食わぬ顔でカイが告げるその異常に静江は固まるが、しかしカイの不死たる所以に触れた気がした。あくまで気がしただけの勘違いだが。

 

「君の異常。ああ、異常と言っても異常(アブノーマル)かどうかは定かじゃないけど。君はあのリムルですら測れない力に目覚めかけていた」

 

 固まったままも静江を置き去りに、カイは得られた情報を整理して至った一つの事実に笑顔を浮かべる。

 

「目覚めるも良し、目覚めないも良し。ここで最後の一押しを、てね」

 

「!?」

 

 目を見開いた不気味な笑顔のカイに指さされ、静江は自身の体に何かが起こったことを感じる。自身の悪性を暴かれるような悪寒が走り、その悪性が形を持とうとしている。そんな感覚に静江は恐怖を抱いた。が、それもすぐに収まった。

 

《確認しました。過負荷(マイナス)遺魂(ラストリゾート)』を獲得。更に『当然変異(オルタナティヴェイト)』によって『遺魂(ラストリゾート)』が分化・変異されたことにより消失。新たに過負荷(マイナス)不幽霊(スリーピー・ホロウ)』と異常性(アブノーマル)結言状(ダイイングメッセージ)』を獲得しました》

 

「は?」

 

「え?」

 

 唐突に聞こえた機械音声のアナウンスにカイも静江も呆けた。カイは「世界の言葉」が『過負荷(マイナス)』や『異常性(アブノーマル)』という別世界の単語を使ったことに。静江は聞き覚えのないその二つの単語、四つのスキルと思われる固有名詞を聞いたことに。

 

「く、あははははははははは!」

 

「か、カイさん?」

 

 先に呆けから抜け出して笑い出したのはカイだった。

 

「いやいや、これはほんとに面白いね!いつの間に過負荷(マイナス)なんて持ってたんだい?それが新しく手に入れた過負荷(マイナス)を変化させて過負荷(マイナス)異常性(アブノーマル)を生み出すなんて!あっはっはっはっ、これはめだかボックス主人公(めだかちゃん)も安心院さんも驚くよ!」

 

「?」

 

 無邪気な子供のように邪気まみれで腹を抱えるカイ。最初の会った時のようにわけも分からず静江は首を傾げ続ける。

 

「はー……、いやー笑った笑った。ここまで面白可笑しいことになるとは思ってなかったよ。ということで、笑わせてもらったお礼だ。色々と教えてあげよう。本来ならそんなこともしないんだけど、今日この場に限り、君に限り、特別だ」

 

 高笑いを止めてから、それでもいつもの不気味さにウキウキとした高揚感を含む笑みのカイはフィンガースナップを鳴らす。そうすると黒板に今までなかった文字が書き出された。『めだかボックス』には一切触れていないが、カイの独自解釈でありつつも『過負荷(マイナス)』と『異常性(アブノーマル)』、そして、その力を持ちうる人種に関する詳細がそこに記されている。

 

「こ、これは……」

 

 記された多くの情報を読み解きながら、静江は自身が如何なる力を手に入れたか理解して息を呑む。それはつまり、「幸運と不運を約束された力だ」と、静江は解釈した。

 

「カイさんも、この力を……?」

 

「そうだよ?逆に言うと、僕は『過負荷(マイナス)』しか持ってないんだぁ」

 

「カイさんがよく襲われたり、死んだりするのはその力が原因ってことですか……?」

 

「良く襲われたり死んだり、そういう不運だから過負荷(マイナス)であるとも、過負荷(マイナス)だから不運であるとも言える。どっちが先かを考えるのは無意味さ。結局は不幸(マイナス)なんだから」

 

 その答えに静江はカイの見え方が変わった。「過負荷(マイナス)であることを諦めて受け入れた悲しい人」にも、「過負荷(マイナス)であることを楽しんで受け入れた狂っている人」にも映り出す。兎角、静江は目の前に居る存在が、怪物のような人間に見えた。

 

「私も、不幸になるんですか?」

 

「不幸になる、というか不幸だったよね。まぁ、君は異常(アブノーマル)でもあるみたいだから、そうだね。幸と不幸の上がり下がりが激しいとか?」

 

 『過負荷(マイナス)』と『異常性(アブノーマル)』を両方持つ人物は存在した。しかし、その人物が不幸なのか幸運なのかは不透明。そも、幸不幸は個々人の尺度によるもので、明確な区分などないのだから解明するも何もない。

 

「君の能力について説明しとこうか。長く尺使うのもなんだし、巻きでいかないとね」

 

 カイは再びフィンガースナップをすれば、黒板の文字が書き換わる。書かれているのは静江が今持っている『過負荷(マイナス)』と『異常性(アブノーマル)』についてだ。

 

当然変異(オルタナティヴェイト)

〇分類不明。おそらく『過負荷(マイナス)

〇スキル保有者の保有するモノ(物質・非物質問わず)を分化・融合させる。分化・融合させる際、絶対に対象が変異し、別のモノになる。元に戻すことはできない。

 

不幽霊(スリーピー・ホロウ)

〇『過負荷(マイナス)

〇スキル保有者を魂のような状態で現世に保存する。現世の生物は五感で知覚できるが、相手からは知覚されない。魂でも幽霊でもないので霊感などでも知覚不可。

〇オンオフが可能であり、好きな時に成仏できる。(魂でも幽霊でもないので「成仏」は不適当だが、過程はほぼ合っているので便宜上「成仏」と表現している)

 

結言状(ダイイングメッセージ)

〇『異常性(アブノーマル)

〇スキル保有者の死後、伝えたい相手に伝えたいことを伝える。

 

〇補足

・『不幽霊(スリーピー・ホロウ)』で現世に保存された状態は死後の状態として扱われるため、現状はいつでも『結言状(ダイイングメッセージ)』が使える。

 

「これが、私の力……」

 

 静江は目覚めた実感のないそれらの力をどう扱うべきか、全く分からなかった。

 

「さぁ、色々と悩んでいるところ悪いけど。君に選択肢を提示しよう」

 

 カイは静江の机の前に、一枚の紙、「進路希望調査」と見出しが付けられたそれを置く。そんな見出しがあるのに内容は「留まる」と「成仏する」の二択に、「前の質問で「留まる」を選んだ人にお聞きします。留まって何がしたいですか?」という質問に対する空白の解答欄だった。

 

「……」

 

 静江は何も書けない。しっかり芯のとがったHB鉛筆も角張った消しゴムもあるのにである。

 

「まぁじっくり悩むと良いよ。しばらくはここに居て良いしね。ついでだ、判断材料も置いておこう」

 

 カイは棒で取っ手を引っ掛けて黒板の前のスクリーンを広げ、最前列真ん中の席にプロジェクターを置く。映し出されたのは、転スラ(あの)世界の何処かの街並みである。

 

「僕の居る辺りを映すようになってるから、映画鑑賞気分で見ててね。じゃあ僕はこの辺で。じゃね、バイビ」

 

 にこやかに手を振り、ここから消える。スクリーンには確かにカイが映され、光景はカイの歩みに追従する。

 

「……」

 

 ただ一人、取り残された静江はそのスクリーンを黙って見ていた。




※捕捉
過負荷(マイナス)遺魂(ラストリゾート)
〇『過負荷(マイナス)
〇スキル保有者を魂のような状態で現世に保存する。現世の生物は五感で知覚できるが、相手からは知覚されない。魂でも幽霊でもないので霊感などでも知覚不可。
○『不幽霊(スリーピー・ホロウ)』と違ってオフにできない。一度使えば現世を永久に彷徨い続け、世界が滅んでも永遠に揺蕩い続ける。
○『不幽霊(スリーピー・ホロウ)』なら五感及び霊感以外で知覚可能であり、何らかのスキルによって知覚できる可能性がある(カイは自分のスキルで知覚できるようにしている)。しかし、こちらはあらゆる知覚を拒絶する。


 カイ君がプロジェクターみたいなの出してますが、自分の周辺限定かつカイが作ったあの世とこの世の狭間空間内限定です。他の場所を映したり、狭間空間外に持ち出すような都合の良い事はできません。そこら辺が『幻実当避(オールイズファンタジー)』の限界です。

 いやはや投稿お待たせしました。ようやく忙しい時期が終わって、執筆がいつものペースに戻せます。更新ペースも2週に一度に戻るのでよろしくお願いします。
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