転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霖霧露

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第二十話 故郷の味を食べられるなんてユメのようだ!

「まだっかな、まだっかなぁ」

 

 狭間空間。一回死んだカイはすぐに蘇る事なく、机に腰掛けて足をブラブラ揺らしていた。行動も言動も、あからさまに何かを待ちわびている。隠す気がない、というよりは、隠す気が起きないという感じだ。ワクワクし過ぎて、そのワクワクがカイから溢れていた。

 

「何がそんなに待ち遠しいんですか?」

 

 カイが先程旅途中の落石で圧死した光景に似つかわしくない程上機嫌なので違和感を覚えつつ、理由は言動にあると考えて静江は訊ねた。

 

「う~ん?いやぁジュラの大森林で魔王種が死んだみたいだからさぁ、そろそろあの森の不可侵条約が撤廃される頃だなぁって。あ~~早く会いたいなぁ~~~」

 

 どうすれば魔王種が死んだ事が不可侵条約撤廃に繋がるのか、原作知識など持たない静江には到底理解できず、首を傾げるばかりだった。そも、何処から魔王種が死んだ事を知り得たのか。その疑問にカイの固有能力を静江は思い出した。

 

「カイさんの『過負荷(マイナス)』は未来予知とか情報収集ができるスキルなんですか?」

 

「そいえば僕の『過負荷(マイナス)』について全然説明してなかったね。ま!僕は最近ミステリアスボーイを気取りたい気分だからスキルの詳細は秘密さ!情報収集というか、知りたい情報を知る事が僕のスキルの一部だとは言っておくよ。小出しに情報出していくの、ラスボスっぽいだろう?」

 

 「ラスボスっぽいかは知らないが、カイさんらしくはある」というのが静江の感想だった。そんな感想を述べるよりも、静江はカイを推し測るべく、その言葉の一部を拾い上げる。

 

「カイさんは、その「ラスボス」、最後の敵になりたいんでしょうか」

 

 この狭間空間でカイを観察し続けているが、静江にはどうにも彼の目的が見えてこなかった。落石で死んだり、酒場で喧嘩に巻き込まれて死んだり、食中毒に当たって死んだり、その他諸々多種多様の死亡シーンだけで何が目的か当てられたら名探偵を名乗って良いだろうが。

 

「……少し違うかな。うん、君に打ち明けるのはどうかと思うけど。まぁ『過負荷(マイナス)』の先達として、一つの在り方を示しとくのは悪くないかな」

 

 少しの逡巡、少しの恥じらいを挟んだ後、カイはその口を重たく開く。さっきの上機嫌とは打って変わって、しわがれた哲学者のような雰囲気を携える。

 

「何度も見せてるから分かり切ってるだろうけど、僕はとにかく死にやすい。スキルのおかげでそんな現実から逃避できてるけど、それでも何度も死ぬ。ただの事故で、ただの不幸で」

 

 いつもの笑みは消えている。薄く開いている目も、悲し気に下に向けられていた。

 

「面白くないだろこんなの。特別な力を持ってるんだ、僕は。そんな僕が、何の物語もなく死ぬ?ふざけるな、ふざけるな……っ」

 

 悲しみは怒りに注ぐ燃料となり、炎を燻らせる。

 

「僕にはもっと相応しい死があるはずだ、僕にはもっと満足できる終わりがあるはずだ!世界がそれを約束してくれないのなら僕は世界を無茶苦茶にしてやる!そうされたくなくば、僕に宿敵を用意しろ!僕に本気で渡り合える相手を用意しろ!!僕に満足の行く終わりを用意しろ!!!」

 

 カイは燻りを業火へと変貌させ、その業火を体現するかのように荒々しく叫び上げる。

 

「この僕にっ、終わりを受け入れさせてみろ!!!!」

 

「……っ!」

 

 静江は息を呑んだ。

 

 そこにあるのは狂気だった。そこに居るのは負の塊だった。悍ましく、痛ましく、恐ろしく。しかし純粋な感情。一滴も正の感情が混ざっていない、清らかな負の感情。人が持つ、悪性の本性。

 

 「ああ、これが『過負荷(マイナス)』か」と、静江に直感させる。カイはそれほど頑なに『過負荷(マイナス)』なのである。

 

「ま!オールイズファンタジー(全部幻想)なんだけどね!」

 

 カイは悪を体現していたかと思えば、コロっといつもの笑顔に変わった。

 

「ほら、なんかそれっぽい事語ってるとラスボス感増すでしょ?」

 

「そ、そうですね」

 

 激しい温度差に付いていけず、静江は生返事な対応をするしかなかった。

 

「まだっかな、まだっかなぁ!ああこういう焦らされ方は悪くない気分だけど、やっぱりどうしてもじれったいなぁ。僕自身が撤廃できれば良いんだけど、それは都合が良すぎるし。まぁまぁ、待つんだカイ・ヤグラ。300年も辛抱強く待ったんだ。後数年、ほんの数年待てば良いんだ。ステイ、ステイだカイ・ヤグラ。今までの300年を無駄にしてはいけない!君は、今までの犠牲を無駄にするつもりか!?」

 

 何やら独り芝居を始めてカイをどうすれば良いか分からず、静江はただただその『過負荷(マイナス)』を観察していた。

 

「我が右腕にぃ!憑りついたぁ!悪霊がぁぁぁぁ!」

 

 観察、というか呆れながら見ていた。

 

◇◇◇

 

「それでは、ジュラの大森林不可侵条約の撤廃に賛成、という事で間違いないですか?」

 

「ああ、文句つける奴もいないだろう」

 

「ええ。私にとってはもとより邪魔な条約だったのよね」

 

「うむ!」

 

 魔王クレイマンの招待に応じた三柱の魔王、カリオン、フレイ、ミリムがそれぞれ条約の撤廃に賛同する。

 

 条約が結ばれた背景にあったヴェルドラの封印はもうない。そこに居るのは詳細不明の新勢力。隣接する国を治める魔王たちが見過ごすはずもなく、彼らは調査に動こうとしていた。そのための条約撤廃だ。しかし、その条約撤廃が、とある魔王を喜ばせるモノになるとは―――

 

「くっ、ふふふっ!ふーーーーーはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」

 

 その気味の悪い高笑いを聞くまで思いもしなかっただろう。

 

「な、てめぇ!カイ・ヤグラ!」

 

「どうしてここに!?」

 

「そんな事はどうだっていいじゃないか!重要な事じゃない!」

 

 カリオンとフレイの驚きを、カイはその泥沼の底のような瞳で黙らせた。クレイマンはカイの様子を黙して注意深く見張る。ミリムは何か面白い事をし始めるんじゃないかとウキウキで見守る。

 

「そう!最も重要なのは、ジュラの大森林不可侵条約が撤廃された事!僕があのジュラの大森林に行ける事!いやいや、それも少し遠回しだ。一番重要なのは、僕がリムル(あのスライム)に会いに行ける事だよね!!」

 

「貴方はまさか、この瞬間を待ちわびていたと……?」

 

 クレイマンは冷や汗をかく。まさか、自身の行動が読まれ、彼の思惑に嵌まってしまったのではないか。もしかしたら地獄の窯の蓋でも開けてしまったかもしれないと、不安を募らせる。

 

「誰でも良かったんだ。君たちじゃなくても良かったんだ。でも、君たちが確実だった。君たちならばやってくれると信じていた。ありがとう、本当にありがとう!心の底から感謝するよ」

 

 口で弧を描くカイの笑みはミリムを除く三柱の背筋を凍らす。

 

「カイ!抜け駆けするつもりか!」

 

「僕たち魔王は利害の一致で協力する事があっても基本敵対関係。それに、こういうのって早い者勝ちだろう?」

 

「ぬぅ、行かせぬぞ!カイ!」

 

「いいや!限界だ、行くね!」

 

 ミリムがカイを抑えようとした時にはもう遅く、カイはその姿を忽然と消した。

 

「ふぬぅぅぅぅ!こうしてはおれん、ワタシも行くのだ!」

 

 三柱を置いてミリムは飛び出し、その慌ただしさが鎮まり出した頃にようやく彼らの思考回路は再起動する。

 

「あの食道楽の魔王が、いったい何の目的でスライムを?」

 

「あのスライムが立ち上げた国にはそんな旨いものが……。いや、アイツは一番重要な事に「あのスライムに会いに行ける事」を上げてたな。食事目的じゃねぇのか?」

 

「……カイ・ヤグラが一時期、魔王候補や勇者候補とも呼ぶべき強者たちに戦いを挑み続けていました」

 

 カリオンとフレイの見当違いな憶測をクレイマンは修正する。そのように弱気を零してしまうほど、現状を受け入れたくなかったのかもしれない。

 

「あれだけ喜んでいたっていう事は、とびっきりの強者が居るって事?」

 

「……」

 

 クレイマンはフレイの質問に沈黙し、流す冷や汗を隠せなかった。

 

◇◇◇

 

「魔物の危険度?」

 

「そうだ、大まかな区分だがな」

 

 リムルの拓いた町が王都と呼べるくらいに隆盛した頃、ジュラの大森林に隣接する魔王領地以外の国、ドワルゴンのガゼル王がその町の調査に訪れていた。

 

 リムルとしてはドワルゴンは技術者を(追放という形だが)提供してくれた恩ある国であり、これから国として繁栄させた場合の隣国となる。協定を結べるなら結びたいのがリムルの本心だ。

 

「魔王ならば上から二番目、S級・災禍級(ディザスター)といった区分だ。間違っても手を出すなよ。怒りを買っても助けてやらんぞ」

 

「出さないって。ああ、でも「レオン」って奴にはちょっと用事があるな」

 

 手出しするなと注意されても、リムルはシズの残した言葉が気になっていた。どれほど危険だろうと、彼女が抱いた思いを伝えなくてはリムルの気が晴れないのだ。

 

「「レオン」、『白金の悪魔(プラチナデビル)』か。かつて英雄視されながらも魔王となった男だな」

 

「は?英雄だったのに魔王になったのか?」

 

「目的が不鮮明だが、魔人を狩りつくしていたのだ。今に思えば、魔王となるために魔人から力を奪っていたのかもしれんな」

 

「へぇ~~」

 

 200年前の個人の行動だ。詳細な記録など残っておらず、対外的な事実から有識者が推測するに留まってしまう。ガゼル王が事実と異なる解釈をしたとしても無理はなく、リムルはシズの言葉から受け取っていた印象の解離に頭を回した。

 

「あ、そうだ。「カイ」って奴は知ってるか?そっちにも用事あるんだけど」

 

「んぐっ!ゲッフ、ゴッホ!」

 

「お、おい!どうした!?」

 

 ついでに思い出した「カイ」の名前をダメもとで聞いてみれば、ガゼル王はむせ返って咳き込む。自身の言葉に理由があるのを察しても、まさかむせるほどガゼル王が動揺するとは思ってもみなかった。

 

「貴様、よもや「カイ・ヤグラ」の事を、あの『災禍級(ディザスター)』よりも災禍(ディザスター)な魔王の事を言ってるのではあるまいな!」

 

「え、いや、「レオン」と一緒に並べて言ってたから、多分魔王だと思うんだけど……」

 

 ガゼル王の焦りようにヤバい奴を話題に出してしまったかと、リムルは言葉の尻をすぼめていく。

 

「悪い事は言わん、あの魔王だけには関わるな。いや、ここの料理を思うにあの魔王が立ち寄ってもおかしくない」

 

「うんうん、やっぱり日本食は最高だからね!」

 

「え?何?その魔王グルメなの?」

 

「ああ、世界中の美食を求めて旅をしているという噂だ。俺の国にも来たが、丁重に食事を振る舞って追い返した」

 

「うん、ドワルゴン料理も中々おいしかったね!」

 

「ええ~~~~……」

 

 リムルはガゼル王の語りに微妙な気分を味わった。目の前の威厳溢れるガゼル王が「飯食わせて追い返した」なんて言えば、それは微妙な気分にもなるだろう。

 

「その美食巡りがあの魔王の行動範囲を広めていると考えれば怖気が走る。気分を害せぬように扱うのは神経をすり減らす思いだ」

 

「えっと、どうしてそんな怖がってるんだ?今んところグルメってのしか分かってないんだが」

 

 ガゼル王すら怖がっているという事実は分かったが、リムルには何故怖がっているかの理由が分からない。

 

「ああ、すまぬ。あの魔王の危険性を話していなかったな。端的に言えば、物理的な被害は一切ない魔王だ」

 

「……尚更訳が分からなくなったんだが」

 

「魔王カイ・ヤグラに挑んだ者は多かった。今も度々いるくらいだ。ただ、挑んだ者全てが無気力になって帰ってくる。挑んだ冒険者は冒険者業を止めて田舎に引っ込んだ。退治に乗り出した王は王を辞めて怠惰になった。対峙した兵士には自刃する者すらいたらしい」

 

「……え?」

 

 急にその危険度のスケールが上がった事にリムルは理解が追い付かない。

 

「奴が持つ異名はいくつかある。『最弱にして最凶の魔王』、『番外魔王(エクストラ・イビル)』。だが、俺が最も奴を表していると思う異名は『マイナス』。全てを負に堕とす魔王だ」

 

「……」

 

 鬼気迫るガゼル王の解説に、リムルは恐怖を伝えられて固まってしまった。

 

「別にそんなに怖がらなくても大丈夫だって。僕に酷い事しなきゃ、僕は何もしないよ。ほら、よく言うじゃない?「やられたらやり返す、倍返しだ!」、なんてね」

 

 さっきから聞こえていた少年の声。何故か先程まで存在に違和感を覚えなかった少年に、やっと二人は目を向ける。

 

「あ、これえびの天ぷらかい!?おほ~~、二度と食べられないって覚悟してたよ~~!さっすがリムルだね!」

 

「貴様はっ、カイ・ヤグラ!」

 

「えっこいつが!?」




 今更も今更な話。本作はweb版を準拠してますが、書籍版、というか漫画版の設定を一部入れてたりします。魔王たちの条約とかね。私が漫画版から入ったもんだからそっちの話の流れが好きなせいでそうなってます。が、漫画版6巻以降設定は使いませんので今話と次話までくらいで完全にweb版の設定を守るつもりです。

 まぁ、私の好みの問題で独自設定が混じってたりしますが。クロエのレオンに対する態度が軟化してたり。うん、レオクロはいいぞ。

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