転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霖霧露

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第二十一話 無茶苦茶加減はユメの如し

 その男(カイ)は一切の気配もなく、存在感もなく、唐突に現れた。

 

「伊達巻に揚げ出し豆腐、こりゃまた懐かしいな。思えば300年間食べてなかったのかぁ」

 

 そして、カイはリムルが提供した覚えのない重箱を突いている。

 

「お前、いつの間に!」「貴様、いつの間に!」

 

 リムルとガゼル王の驚愕の声が重なる中、カイは心底不思議そうに箸を止めた。

 

「ん?「いつの間に」って、最初から居たけど?」

 

「貴様をこの場に呼んだ覚えはない!」

 

「えぇ~、酷いなぁ。古くからの親友にそんな態度を取るのかい?」

 

「親友?馬鹿を言うな。貴様と仲良くなれるような精神をしていたら、俺の国はとっくに破綻しておるわ!」

 

「え?本当に忘れちゃったの?」

 

「な、何をだ」

 

 口をへの字にするほど疑うカイに、ガゼル王は動揺した。

 

「君の国に魔王たちが侵攻しないよう取り持ったのは僕だったじゃないか」

 

「そ、そんなはずは……」

 

「君が僕との友好を忘れるはずがない。誰かに記憶を操作されちゃったのか?」

 

 ショックを受けているようなカイに、カゼル王は何故か自身が信じられなくなった。

 

「リムル、リムルの方は?」

 

「え?俺?」

 

 カイは次にリムルへ視線を移す。

 

「ベニマル、当時は名前のないオーガだったけど。彼らが襲ってきた時や、豚頭魔王(オーク・ディザスター)と戦った時だよ。僕は君と共に戦ったじゃないか!」

 

「そ、そんな覚えはないんだけど……」

 

「そんな……、リムルまで僕のことを。いったい誰がこんな酷い事をしたんだ……」

 

 箸を落として項垂れるカイを見て、リムルは自身の記憶の整合性を疑い始めた。

 

「まぁ!真っ赤な嘘なんだけどね!」

 

 さっきまで項垂れていたカイが打って変わって気味悪く口の端を吊り上げる。リムルもガゼル王も目を丸くした。

 

「どう?どうだった、僕の演技。なかなか堂に入っていたろう?」

 

「き、貴様ぁ!」

 

 おちょくるカイにガゼル王は激昂して剣に手を掛ける。

 

「まぁまぁ、そんな怒るなよ。ちょっとしたお茶目じゃないか。こういうユーモアを忘れちゃうの、僕駄目だと思うなぁ」

 

 カイは悠々と立ち上がり、今にも剣を抜きそうなガゼル王を気にせず横を通る。何をしようとしているのか、全く予想できないリムルとガゼル王はただ出方を窺っていた。そうしてカイはそのまま縁側まで歩き、外に出る。

 

「リムル、食事はとっても美味しかったよ。モドキだけど日本食を食べれたのは感動だね。だから―――」

 

 振り返ったカイが不気味な気を放つ。それが生命として根幹に根差す受容器を揺るがす。命を脅かされるような恐怖心に二人は総毛立たせた。

 

「お礼をしよう」

 

 カイが言葉を言い終えた後、二人が一つ瞬けば、景色は一変する。

 

「なっ、これは!」

 

「お、俺の屋敷が!」

 

 会食していた屋敷は消え去り、カイを中心に空間をくり抜いたかのように砂が広がっている。くり抜かれた端、砂の終端の先に何の異常もないリムルたちの町がある光景が、本来当然の光景を返って異常に思わせる。

 

(リムル様)

 

「こんな時になんだソウエイ!今ちょっと色々ありすぎて頭が―――」

 

(無礼を承知で報告します。西の空を高速で飛び去るモノを確認。リムル様の元へ一直線に向かっています)

 

「えっ!?」

 

 わざわざ口に出さなくても良い『思念伝達』で口に出してしまうほど混乱しているリムルに、彼の配下である鬼人・ソウエイから追加の異常事態が報告された。

 

「あ、ちょ、マジだ!こっち来てる!」

 

「いったい何事だ、リムル!」

 

「いや、凄い魔素の塊がこっちに飛んで来てるんだ!」

 

 リムルは報告の裏を取るまでもなく、『大賢者』により大容量の魔素の接近を警告されて危機感を覚える。事態が転々とする現状に、ガゼル王は威厳を保つので精いっぱいだ。

 

「ああ、やっぱりすぐに来るよね。砂に変えたの(これ)が無駄にならずに済みそうだ」

 

 それを余所に、カイは自然体のまま来る者を待った。それはもうカイですら目視できる。

 

「カイーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 少女の声と共に、その高速飛来物体はカイのすぐそばに着弾した。

 

「くっ」

 

「うおっ」

 

 着弾の余波に体を吹き飛ばされそうになるが、ガゼル王とリムルはその場で持ち堪えた。巻きあがった砂が、徐々に晴れていく。

 

「カイ!抜け駆けは許さんのだ!」

 

 爆心地の真ん中に居るのは少女。感じられる魔素量とさっきの爆発のような着地に目を瞑るなら、幼げで活発そうな少女だ。現実見るなら少女の形をした化け物だ。もちろんリムルもガゼル王も現実を見た。

 

「狸寝入りなどしても騙されぬぞ!起きるのだ、カイ!」

 

 少女の形をした化け物・ミリムはカイの胸倉を掴み上げ、ガクガクと振り回す。カイは無反応、というか白目を剥いて首が曲がってはいけない角度まで回っている。明らかにそれはもはや物言わぬ死体だ。しかし、ミリムはまだ起こそうと高速横回転を見舞っていた。遠心力で服が千切れていないのは奇跡である。

 

「狸寝入りどころか永眠してるんだけどなぁ。全く、酷いじゃないか、ミリム。僕はね?君に勢いよく飛び込まれただけで死んじゃうような脆弱な人間なんだよ?そうして君はいったい何人の罪のない僕を殺すんだ」

 

 突然に掴まれていたカイが消え、それと同時に屋敷が復元される。砂の空間が幻想だったかのように元通りになっている。

 

「まぁ!オールイズファンタジー(全部幻想)なんだけどね!」

 

 その屋敷の中で、カイは何事もなかったように食事を続けていた。

 

「いったい、何が起こっている……」

 

「何が何やら……」

 

「カイーーー!」

 

 ガゼル王とリムルが困惑に陥っているのを余所に、ミリムはカイに再び突撃する。

 

「おいおい、危ないじゃないか。食べ物が吹っ飛ぶところだったよ。食べ物を無駄にしちゃいけないって習わなかったのかい?」

 

「カイ、貴様という奴!魔王に推薦してやったのに全然面白い事をしないで、あまつさえワタシより先に面白そうな奴に会いに行くとは!恥を知るのだ!」

 

 ギリギリ重箱を避けておくことでミリムの突撃から食べ物の窮地を救ったカイはまたミリムにガクガクと振るわれる。一応事前に注意されたから威力を抑えているようだ。

 

「あ、そっちも?そっちも怒る原因だったの?でも困るなぁ、僕に「面白い事しろ」だなんて。滑る事請け合いだよ?それよりほら、美味しいものでも食べて落ち着かない?」

 

「「それより」とはなんだ、「それより」とは!ワタシの暇つぶしにもならぬのなら、今ここで滅ぼsむぐっ」

 

 虚無崩壊の予兆で本当に滅ぼされそうになったカイは、無理矢理ミリムの口に伊達巻を突っ込む。

 

「……」

 

「どうだい、味の方は」

 

 無言で咀嚼するミリムに問うまでもないだろうが、カイはしっかりと答えを確認しようとする。

 

「な、なんなのだこれは!?今までこんな美味しい物、食べた事がないのだ!!」

 

 ミリムは見た目相応の無邪気で天真爛漫な笑顔を咲かせた。

 

「そこの彼が作らせた料理だよ。料理人は違うけど、アイディアは彼のモノさ」

 

「え!?このタイミングで矛先向けるのか!?」

 

 ほぼカイとミリムで話が成立していたところ、急に話題に出されたリムルは驚きつつ嫌な予感を覚える。

 

「そうか。つまりアイツを部下にすれば、ワタシは美味しい物食べ放題という訳なのだな」

 

「いいぃぃ!?待った、本気で待った!おい、どうにかしてくれよ、お前が連れて来たんだろう!?」

 

 リムルは『大賢者』のおかげでミリムとの戦闘に勝機がない事を分かっている。そんな相手がやる気満々なのだから藁にも縋りたくなるだろう。ただ、縋った藁がカイなのは誤りだ。

 

「リムル、僕の好きな事を一つ教えよう」

 

「な、なんだよ。今と関係あるんだろうな……」

 

「投げっぱなしジャーマン!!じゃね、バイビ」

 

 一言言い残して、カイの姿は幻想のようになくなった。

 

「アイツっ、押し付けるだけ押し付けて逃げやがった!!!?」

 

 縋った藁はまさに藁。いや、それどころか何かを掴んだ幻覚だった事を知り、リムルは激怒やら困惑やらを綯い交ぜにして叫ぶ。

 

「どうするのだ?そっちから来ないのなら私から行って良いのか?」

 

「ま、待て。話せば分かる」

 

「うむ、降伏なら受け入れるのだ!」

 

「話聞いてない!」

 

 ほぼ一方通行の会話に愕然としつつも、リムルは平和的解決と負けない方法を思案する。

 

「そう、そうだ。美味しい物が食べたいんだよな?」

 

 ミリムは「美味しい物食べ放題」が目的である事を思い出し、リムルはそこに一縷の望みを託す。

 

「うむ、「伊達巻」だったか。あれをたくさん寄越すのだ!」

 

「伊達巻だけで良いのか?本当に?他にもっと美味しい物を食べたくないのか?」

 

「だ、伊達巻以外にもあるのか……、この世に美味しい物が……!」

 

 好奇心に目を輝かせ、食欲に涎を垂らすミリムをリムルは見逃さない。そこにゴールが見つけた。

 

「あるぞ?そして、これからも増やす予定だ」

 

「増やす……!」

 

「でも俺なぁ、上司に縛られると新しい美味しい物が思い浮かばなくなるし、作らせたくなくなるんだよなぁ……」

 

「それは良くない、良くないのだ」

 

「そうだろそうだろ?」

 

 ミリムの食いつきようで勝利を目前とするリムルは、余裕を取り戻しつつも慎重に言葉を選んでいく。

 

「よ、良し!ワタシに良い考えがあるのだ!お前を部下にするのは諦めよう!」

 

「ほほう?」

 

「も、もちろんそれだけではない。今後ワタシがお前たちに手出しをしないと誓おう。その代わり、お前たちはワタシに美味しい物を食べさせるのだ!……どうだ?」

 

 互いが対等になる条約など考えた事のないミリムが、美味しい物食べたさに頭を捻ってどうにか捻りだす。しかし、拙い事に自覚があるのでミリムに自信はない。

 

「う~ん、まぁ仕方ないなぁ。その条件で呑もうじゃないか」

 

 少し悪戯っぽく、自身の方が優位であるように取り繕ってリムルは頷いた。

 

「おう!お前、なかなか話が分かる奴なのだ!」

 

 さっきの自信のなさはどこへやら。ミリムはリムルの両手を掴んだ大仰なシェイクハンドで喜びを余すことなく表現した。リムルはシェイクハンドに付き合いながら、小さくほっと溜息を吐く。

 

 こうしてどうにか、リムルは危機を脱却したのだった。

 

 ちなみに、ガゼル王は色々放棄し茶をすすって事の成り行きを見守っていた。




 ああもう無茶苦茶だよ。
 まぁ、カイ君も待ちに待った待ち人だからね?そりゃテンションもおかしくなりますよ。

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