投稿延期してたのも合わせて、反省している。だが後悔もしている。バックアップ、取るべきだったな……。
「一体どうして……」
リムルは打ちひしがれていた。
彼の目の前に並ぶのは100を超える配下の死体。リムルが治める魔国の民、国を興すのに助力してくれた仲間、そんな彼らが人間に襲撃された結果である。
リムルが国に居れば、このような事態にはならなかっただろう。イングラシアと
しかし、それは叶わなかった。ルベリオスの聖騎士団長、
リムルは命からがら逃げる事ができたが、そのタイムロスが致命的だった。
「ところで、シオンはどこだ?さっきから姿が見えないんだが」
100人の犠牲でも、リムルは冷静さを、元人間としての道徳を守った。この言葉の、結果さえ目にしなければ……。
「シオン……?目を開けろよ……。目を、開けてくれよ……」
ベニマルに連れられた場所には、シオンの死体があった。前述の配下と同じで、もう目を開けない。
リムルには、彼女ならと、信頼があったのだろう。如何に対魔物の結界が張られたこの魔国においても、その程度の弱体をモノともしていないだろうと、勝手な思い込みをしていたのだろう。
失うはずがないと思っていたモノの喪失。「人間を殺すな」と身勝手なルールを作った結末。治安の良い日本で暮らした日本人の平和ボケ。
いくらでも自身を貶す自虐の言葉がリムルの中に湧いてくる。
それなのに、こんなに悲しく、こんなに虚しいのに、涙は流せない。スライムである自身に涙を流す身体機能はない。それはリムルに自身がもう人間ではない自覚を強くさせた。
「スマン。暫く、一人にしてくれ……」
仲間の死に悼み、主の傷心に悼むリムルの配下は、主の言葉に従った。
リムルは独りになる。
「俺は、どうすれば良かったんだ……。俺は、間違っていたのか……?」
『大賢者』に何度「告。計算不能。理解不能。回答不能」とシステムボイスで返されても、リムルはその問答を止められなかった。
「やぁ、リムル!どうしたんだい、そんな落ち込んで。ガチャで爆死でもしたかい?もしかして、
そんなシリアスムードなど意に介さず、カイがリムルの前に現れる。カイが自身の敵かどうか、優樹に疑念を打ち込まれていたリムルだが、今はそんな事を気にしている余裕がなかった。
「周りを見れば分かるだろう?この死体の山は、馬鹿な俺が作ったんだ」
同じ日本人という認識が強いせいか、リムルはカイを突っぱねず、この無残な光景を生み出した醜態を曝け出した。馬鹿だと他人に罵ってもらえれば、少しはこの虚しさも晴れるのではないかと、期待した。
「何を馬鹿な事を言ってるんだい?この死体の山を作ったのは、魔国の富に目が眩んだファルムス王国のエドマリス国王だよ?より正確に言えば、その人の指令を馬鹿正直に受け取って、正義なんてくだらないモノに酔った兵士だけど。まぁ、兵士は王の手足だし、やっぱりエドマリス国王が全部悪いよ」
ただ、リムルは期待する相手を間違えた。
「富に目が眩んだ……?」
「そうだよ?対外的にはルベリオスから「魔国討つべし」なんて神命を受けて、「魔物を恐れる民草のために」なーんて大義名分貼り付けているけどね。薄皮一枚めくれば、そんな私利私欲がこんにちわ!ってね」
カイは不気味な笑顔を携えて、リムルの道徳に毒を垂らす。
「俺は、俺の仲間は、馬鹿野郎の欲望で死んだって言うのか……?」
「そうだよ、リムル」
口が三日月を描くカイ。いつもだったら不気味さが強く、リムルだって彼の言葉をうのみにしなかったろう。
「彼の王お金大好きなのさ!だから、ドワルゴンから西欧諸国の唯一の窓口としてお金儲けしていた。でも、そこに現れたのが魔国という商売敵。なんだかドワルゴンはそっちを流通路に使っちゃうし、ブルムンドとも仲が良いし。ファルムスは実際それで儲けが減ってる。彼としては、大好きなお金を盗まれたのと同じなのかもね」
「そんな、馬鹿な話が……」
「正しくそんな馬鹿な話だ。君だってお金を横取りするつもりはない。あっちから友好的に話を持ちかけてくれば、それこそ今まで稼いだ以上のお金を稼がせてあげるくらい、君にはできる」
実際、リムルは利益を重視せず、仲の良い政治を目指している。特産品にしようとしている
「ねぇ、リムル。そんな馬鹿にやられて泣き寝入りするなんて、嫌じゃないかい?先にやったのはあっちだ。やり返さなきゃ、つり合いが取れない」
「つり合い……」
カイはまるで悪魔の囁きのようにリムルを報復の道へ誘う。行き場のない怒りを抱えているリムルにはとても甘い囁きだった。
「だが、そんな事したって、シオンたちは帰ってこないんだ……」
それでもリムルは踏み止まる。復讐はいけないのだと、世間に叩き込まれたし、漫画やライトノベルが嫌という程吹き込んできた。
「帰ってくるよ?」
「……は?」
「シオンたちを蘇らせる方法、あるよ?」
嘯くカイにリムルはわざわざ人間形態になって掴みかかる。
「どうすればシオンたちは帰ってくる!どうすれば俺の仲間は蘇らせられる!!」
しかし、それは怒りによるものではない。藁に縋るようにカイを掴んだのだ、どうやってでも仲間を取り戻すために。
「よぉーく考えるんだ、リムル。君は人間じゃない。君は魔物で、死んだ君の配下も魔物だ。主である魔物と配下である魔物は魔力的に密接な繋がりを持っている」
「そういう謎かけは良いんだよ!早く、早く教えろ!」
リムルはカイをガクガクと振り回す。
「駄目だ。しっかり自分で考えるんだ。ヒントは三つ。一つ、魔国に今張られてる結界は魔物を通さない。君レベルじゃないと入出不可能だ、どう足掻いても。二つ、魔物は主が成長すると配下も成長する。君の配下であるランガなんかが例かな?あのワンワン、君の配下になった後にテンペストスターフォックス、じゃなかった
「そ、それが……?」
「
カイはそう言ったきり、どこからくすねてきたのか、ポテトチップもどきを頬張っている。文字通り、頬が張るくらいに物が詰め込まれた口は、これ以上喋る気がない事を如実に表していた。
(『大賢者』、カイの今の話を整理してシオンたちを蘇る方法を考えろ)
(了。整理、演算……。終了)
リムルが『大賢者』に頼めば、それは数秒とかからず答えを導き出す。
(告。周囲に張られている結界は魔物の魂も通行不可の可能性があります。そのため、シオン以下100余名の魔物の魂も残留している可能性が3.14%の確率で存在します)
(円周率かよ!)
(マスターが魔王種である事実を確認しました。これにより、マスターは人間10,000名の生贄で『真なる魔王』への進化が可能です。そして、魂が残留しているマスターの配下はマスターの進化とともに進化すると思われます)
(可能性があって、3.14%で、進化すると思われる……か)
『大賢者』を以てしてもそんな曖昧な結論しか出せない事項に、リムルは逡巡する。
「何を迷っているんだい、リムル。君の進化に必要な者は、敵が用意してくれてるんだ。お膳立ては都合良すぎるくらいに整ってるんだよ?」
「分かってる、分かってるが……」
「君は、大切な者たち約100名と、糞野郎に従う糞野郎10,000名を天秤にかけるのかい?君にとって、君の仲間はその程度なのかい?」
カイの弁舌に、垂らした毒に蝕まれ、リムルの天秤は傾く。
「糞野郎を10,000人殺せば良いんだろ?それでシオンは帰ってくるんだろう?」
リムルの天秤では、自身の道徳心より仲間の命の方が重かった。
(告。可能性は微小ながら存在します)
「保証するよ?僕なんかじゃなくて、世界がね」
『大賢者』の理路整然とした言葉と、カイの意味不明な言葉が後押しする。リムルにとって、それは天使と悪魔に同意を得られたようなものだった。
「ああ、良いぜ。なら、魔王でも何でもなってやる」
それから数日後、ファルムスとジュラ・テンペストの戦争において、戦いとすら呼べない、リムルによる虐殺が行われる。
◇◇◇
「やぁ、ギィ。こんにウボァ……」
ギィ・クリムゾンの居城、ギィの玉座にて、カイは挨拶を言い切る前に腹に穴が開けられる。
「さすがに酷くない?」
「いや、死んでくれないかなと思って」
「キャラブレする程?」
「もちろんだが?」
やりとりこそフレンドリーだが、命のやりとりをしている。カイが一方的に取られているだけではあるが。
ちなみにヴェルザードはカイの気配を感じた時点で何処ぞへと姿を消した。嫌っているという事に関してはまだ会話を交わしてくれるギィの方がマシかもしれない。代わりに一度殺すが。
「何の用だ」
「どうせリムルの事を覗き見してるんだろう?良ければ今リムルがやってる戦争を僕にも観戦させてもらえないかな?現場に行くと落ち着いて観戦できないだろうし」
だいたい飛び火で殺されるのがカイの日常茶飯事である。区別なく皆殺しにしようとしているリムルの元に行けばなおさら死ぬだろう。
「……」
ギィは眉間に堀の深いしわを作りながらも指を鳴らす。すると、カイの前に水晶玉を現出した。
「わぁい!ありがとう!って、何も映ってないじゃないか」
「対価を支払え」
「ええー、そんな
カイは通信料に文句を言おうとしたが、目の前に居るのは政府公認ヤクザより血も涙もない『
カイももうこの手の冗談が通じる相手ではない事を把握しているので、建設的な話を促す。把握しているなら元よりそうしろという話だが、生来の癖は治らない。馬鹿は死んでも治らない実例である。
「お前の持つ未来の知識を一つ寄越せ。あのスライムは覚醒するか?」
「するよ。ついでに、十大魔王の何席かが空くのも教えてあげよう。空席一つはリムルで埋めれば良い」
「何人魔王が死のうと俺には関係ない事だ。くだらん雑魚を間引いてくれるなら願ってもない」
ギィは魔王同士の諍いに関心を抱かず、空席ができる事については素っ気なかった。
「ま、だろうね。『十大魔王』なんて大仰な冠被りながら、その実二人しか覚醒してないとか、肩透かしも良いところさ。ラミリスは特殊だから仕方ないけど」
『十大魔王』というのも実は勝手にできた括りだという話。一時期『真なる魔王』でもないのに「自身は魔王だ」と声高に主張する連中が乱立して争い続けた。それにより魔物全体の疲弊が懸念されたので、暫定的なトップ10を作ったのがその起こりであるらしい。
カイとしては自身を圧倒できる奴だけで構成されていてほしかった、個人的な欲望である。無茶ぶりとも言う。
「……。あのスライムに覚醒する条件を教えたのはお前か」
前述の魔物戦乱期が長かったが故、『真なる魔王』、魔王種のその先は忘れられて久しい。事実その『真なる魔王』であるギィとミリムが御伽噺のように語られ、実在を疑われているくらいだ。魔物の中でも『十大魔王』を全員知っているのは割合として少ない。『十大魔王』とそれぞれの直属配下くらいのものである。しかも、その二人を知った上で『真なる魔王』というカテゴライズも知っているのは、さらに限られるだろう。
だから、生まれたばかりのスライムが知っているはずはないのである。知っているとするならば、誰かが教えたのだ。一番の容疑者は、ギィの目前で気味の悪い笑顔を浮かべる男、カイ・ヤグラである。
「ヒントは上げた。答えは教えてないよ。僕は覚醒に必要な生贄の数なんて知らないしね。あれって個体ごとに変わるんだろう?」
「あのスライムは、必要な生贄の数も算出したのか?」
「さぁ。でも今回の戦争で満たすよ。都合が良いよねぇ、必要な数を、彼の敵が勝手に集めてくれるんだから」
「……」
カイがとぼけているのにギィは感付く。
リムルがヒントだけで答えに至れる何かを持っている。カイはそれを伏せている。どういう思惑なのかは分からないが、この男の思惑に思考を巡らすなど、ナメクジの一日を眺めていた方が収穫のある一日となるだろう。
ギィは手元の水晶とカイの水晶に映像を映した。力づくで聞けないのなら、見定めるしかない。
「おお、ヤってるヤってる。「きたねぇ花火だ」、なんてね」
その水晶に映し出されたのは当然リムルの虐殺劇。『
「
「誰の話だ」
「こっちの話だよ?」
(スカサハ=スカディPUは)何の成果も、上げられませんでしたァ!!