転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霖霧露

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第二十八話 嫌われてるのを努々忘れるな。ユメだけに

「さて、状況の説明から行こうか。Web版を原作とした二次創作なんだから、そっちを読んで察してくれって言いたいけど。この小説独自の設定とかもあるしね。大筋はしっかり説明するよ。まぁそれでも詳細は読者の想像力に任せちゃうけどね」

 

 狭間空間にて、カイは教卓に座りながら謎の解説を始める。

 教室に似た趣の空間に、静江は居ない。静江が出て行った、とかではなく静江が居る狭間空間とは別の場所。言うなれば別教室だ。

 

「まずはファルムスとジュラ・テンペストの戦争について。まぁ前回で軽く触れたけど。ファルムスからの15,000の軍勢をリムル一人が虐殺して終了。なんの事はないね」

 

 戦場に出てきた一兵卒から将軍に至るまで、リムルは一人たりと逃さず殲滅。文字通りファルムス軍は軍事における全滅ではなく、文字通り全滅した。ただ、エドマリス国王を除いて。

 

「リムルは敵国の王だけを生かして尋問。「魔国討つべし」なんて神命を偽装し、エドマリス国王を唆した枢機卿を聞き出した。国王はその枢機卿を差し出す事で自身の命と国の存亡を守ったんだ。唆されたのは自分で、結局号令をかけたのは自分なのにね。しかも、金に目が眩んでいた事は伏せてたし。まぁリムルはそれを察した上で見逃したみたいだけど」

 

 エドマリス国王は尋問で多少痛い目にあいながらも拷問を受ける事なく、代わりに枢機卿を生贄として捧げたのだった。

 何にせよ、もうエドマリス国王の心は折れている。二度とジュラ・テンペストに仕掛ける事はないだろう。

 

「そこからリムルはその枢機卿を拷問。こっちは本当に拷問ね。それで、その枢機卿が繋がっている、神聖法皇国ルベリオスのこれまた枢機卿を聞き出した。区別のために、ファルムスの枢機卿を枢機卿A、ルベリオスの枢機卿を枢機卿Bとしようか」

 

 エドマリス国王から生贄として差し出された枢機卿Aは、まさしく拷問を受けて共謀者を吐いた。それがルベリオスに居た枢機卿Bである。

 

「とりあえず、AとBは共謀してジュラ・テンペストを潰そうとしていた。どっちも魔国討伐への貢献って名誉を得るためだね。功績を得てさらに偉くなろうとしてたんだ。浅ましい話だね。それで、枢機卿Bは「魔国討つべし」という神命を偽装して、こっちは聖騎士団を動かした。リムルを抹殺しようとしてた連中だね」

 

 聖騎士団長、日向も偽装された神命で操られていたのだ。だから、彼女は「魔国討つべし」という神命を受けながらファルムスとジュラ・テンペストの戦争には混ざらなかった。神命の本物か疑わしくなったために、日向は動けなくなったのだ。

 

「で、間接的に戦争唆したルベリオスだけど。神命を偽装してたって事で枢機卿Bを処断。彼に全責任を負わせた。最初っから神命が偽物と気付いていた癖にね。魔物を良く思っていない西方正教会としては、あわよくばそのまま魔国が倒せちゃっても良かったのかな?」

 

 「魔国討つべし」と神命を偽装されても、法皇も他の枢機卿も枢機卿Bを邪魔せず、西方正教会の主神たるルミナスも訂正しなかった。

 

 そもそも、西方正教会の教義で「魔物討つべし」とあるのだ。法皇と枢機卿たちはそれに従って止めなかったし、ルミナスは魔物の新興勢力が狩れるならそれで良しとしていた。

 そのため、失敗しそうになったから手のひら返し。罪の所在を明らかにして裁き、自分たちは悪くないと主張したのである。

 

「それでそれで。ここからはリムルもルミナスも知らない情報だけど。実は、AとBはクレイマンに思考誘導されていたのさ。非常に迂遠に、欲望のタガをほんの少し緩め。非常に狡猾に、欲望の矛先をほんのちょっと定めた」

 

 枢機卿AとBはクレイマンに操られていたのだ。しかし、直接彼らに助言したのではなく、上の地位が欲しくなるようした。片や不祥事が露見して立場が危うくなったり、片や高級品の味を覚えさせたり。より強固な立場を、より金が回ってくる立場を、欲しくなるように唆した。

 そして、その二人の前に、分かりやすい餌を用意したのだ。魔物の国という、分かりやすい敵を、分かりやすい名誉を。その情報を適当に、彼らの張る情報網へ乗せただけなのだ。

 

 それでどうなったかは上述の通りである。

 

「そして今、クレイマンは魔王達の宴(ワルプルギス)を発令した。用件は、カリオン殺害の疑いがかかっているリムルについて。まぁ、でっち上げだよね。カリオン行方不明は事実だけど、リムルはその時戦争やってた。アリバイはある。でも、分身だの何だの使えば無理じゃないだろうし、そもそも情報のアンテナ建てていない奴も居るかもしれない」

 

 枢機卿を唆し、自身の手を汚さずにジュラ・テンペストという新興勢力を潰す手立てはなくなった。万策は尽きた上で、最後の賭けにクレイマンは出たのだ。

 

 別の思惑で洗脳していたミリムを使い、カリオンを抹殺。その罪をリムルに着せようと、洗脳中のミリム、共謀中(という事になっている)フレイと共に魔王達の宴(ワルプルギス)を発令した。リムルが口を出せないところで決着を付けようとした。

 

 しかし、そこでラミリスがその魔王達の宴(ワルプルギス)へのリムルの出席許可を打診。これが賛成多数で許可されてしまったのだ。

 

「まぁ、もうクレイマンは捨て駒なんだろうね。ルミナスを城から一旦離せれば、もうそれで良いんだろう」

 

 カイにはその最後の賭けすらクレイマンが失敗するのは分かっている。カイじゃなくても、事の顛末を把握していた者は最後の手の杜撰さに察する事だろう。

 

「うん。説明はこれくらいで良いかな?2000字くらい使ったし、なんだか面倒くさくなってきちゃった」

 

 カイは自分から始めた解説に飽き、教卓から降りる。

 

「じゃあ、魔王達の宴(ワルプルギス)の前に。ギィの様子でも見てこようか!」

 

◇◇◇

 

「という事でこんにt―――」

 

 カイがギィの玉座の前に現れた瞬間、眩い閃光に包まれてカイは灰となった。その閃光は、レオン・クロムウェルの『純潔之王(メタトロン)』である。

 ギィの玉座の間には、丁度ギィに呼ばれたレオンが居たのだ。なんと間の悪い事か。でもいつもの事である。

 

「いきなり燃やすなんて……。この人でなし!レオン・クロムウェル、君には人間のここr―――」

 

 カイは何事もないかのように復活するが、言葉を言いきる前にまた灰にされた。

 

「……」

 

「……」

 

「……何の用だ、カイ・ヤグラ」

 

 口を開くと灰にされて話が進まなそうなので口を閉じるカイ。口が開いた瞬間に灰にする準備をしているレオン。二人に呆れたギィがカイの発言を許した。

 

「いや、君が魔王達の宴(ワルプルギス)に参加するのか聞きに来ただけなんだけどさ?まぁレオンの方も気にはなってたから丁度良かったけど。……まぁ文句言うとまた焼かれそうだから止めるよ。それで、君たちどうするの?」

 

「俺は参加する。ミリムの考えは分からんからどうでも良いが、ラミリスが打診してきたので興味が湧いた。それに、あのリムルとか言うスライム。直に観察すべきと判断した」

 

 ギィは勿体ぶる事もなく答え、カイを睨む。

 

 ギィの中でリムルへの関心は強まっている。ミリムとマブダチになっているし、ラミリスもリムルを魔王達の宴(ワルプルギス)に参加させようとする程気に入っているようだった。古い友人が揃って特定の存在に肩入れしているのだ。その特定の存在に興味が湧かない訳はない。

 それに、目の前の男、カイによっても関心が強められている。この不死身で不気味な男が目を付ける存在、リムル・テンペスト。そいつを水晶越しでもなく直に見られる、見定められる機会。ギィに逃すつもりはない。

 

「そう。まぁ散々僕が興味を煽ってるしね、予想通りだったよ。それで、そっちは?」

 

「貴様に「そっち」呼ばわりされると腹が立つ」

 

「名前呼びの方が良い?」

 

「……ギリギリ異名で呼ぶ事を許してやる」

 

「そう……」

 

 「そっち」呼ばわりも「レオン」呼ばわりも嫌だったので、レオンは『金髪の悪魔(プラチナデビル)』呼びで妥協した。むしろその呼び方は許すのかと、カイは苦笑する。

 

魔王達の宴(ワルプルギス)は俺も参加する。議題なんぞはどうでも良いが、リムルとか言う奴には俺も興味がある」

 

「へぇー。具体的にどの辺が?」

 

「……そのスライムはイザワの最期に関わったんだろう?」

 

 静江がジュラの大森林で亡くなった当時、不可侵条約が撤廃されていなかったために詳細は把握できていないが、レオンは静江がジュラの大森林で亡くなった情報をしっかり得ていた。

 同時に、カイが静江をジュラの大森林に送ったという情報も。だから、言い逃れを許さぬが如く、レオンは鋭い視線をカイへ突き刺している。

 

「意外だね、君がそんな情報に耳を傾けてるなんて」

 

「放任したとはいえ、イザワは俺が召喚した人間だ。そいつの最期が報われていないと、俺はクロエに顔向けできない」

 

「あ、やっぱそっち方面なのね」

 

 相も変わらずクロエ一筋のようで、納得するカイだった。

 

「ま、最期についてはリムルに聞いてよ。一応僕はリムルから静江ちゃんの最期を聞いてるけどさ。僕の言葉なんて信用しないだろう?」

 

「当然だな」

 

 レオンから信用できない事を信用されているカイは肩を竦めるに留めた。不満を言葉にしてまた灰にされるのも、さすがのカイも面倒だ。

 

「そういう貴様は参加するのか」

 

「ちょっと遅刻ウボァ……。君らさ、人の話を最後まで聞かない?」

 

 遅刻の旨を伝えようとした瞬間に、カイは外的物理的要因で胃に穴が開くのだ。開く、と言うか消滅しているが。一瞬で穴を塞げるカイでも、悲しみを覚えない訳ではない。

 

「理由を答えろ」

 

「……。ルミナスが煩いからさ、最初から僕が顔出してると話が始まらないだろう?もちろん欠席はしないよ。とりあえず、クレイマンの議題が終わってから顔を出そうかなって。だから、遅刻するって話」

 

 最初から理由を言うつもりだったのにあの仕打ち。カイは涙を飲んでギィに素直に答えた。

 

 ルミナスはずっと『時の勇者』関連でカイを追っており、その事について決着していない。まぁ、カイが死ぬまで決着が付かないのだから、死なないカイでは永久に決着が付かない。

 でもそれも、そろそろ根本的に解決する事なのだ。『時の勇者』はそろそろ封印が解かれる。そのため、カイはその時まで逃走を続けているのだ。

 

 なお、『時の勇者』が解放されても、ルミナスのカイに対する恨みは消えない。是が非でも探し出す事は止め、姿を見つければ殺すくらいにはなる。顔を合わせるだけでカイを殺すグループ、ギィとレオンたちに晴れてルミナスも加わるだけだ。

 

「ま、一応それまでの話も聞いてはおくよ。結果は見えてるけどね。という事で、僕の用はこれで終了。今度は魔王達の宴(ワルプルギス)でね!じゃね、バイb―――」

 

 何処か満足そうで不気味な笑顔が気に入らなかったので、ギィがカイの腹に風穴を開け、レオンがカイの体を灰にする。

 

 二人が一瞬きした後、灰の一欠けらも残さず消え去っていた。

 

 彼らの前での決め台詞を、カイはもう諦めたのだった。




 「ゆめゆめ忘れるな」とかの「ゆめゆめ」って、少し前まで「夢々」だと思ってました。「努々」なんですね。

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