転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霖霧露

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第二話 完全燃焼こそ最高なユメだろう

 カイは自らが『過負荷(マイナス)』に目覚めた時から考え続けていた。

 

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 自身が劣等種(マイナス)で有ることは疑いようもなく、それに目覚める下地が有ったことは疑うまでもない。故に、目覚めた理由については「劣等種(マイナス)だから過負荷(マイナス)に目覚めた」という当然のモノであるから疑いもしない。

 

 考え続けているモノは、「この世界に『過負荷(マイナス)』がいる意義」である。

 

 『過負荷(マイナス)』とは、『めだかボックス(その能力者・人種が存在する世界)』では兎に角悪役、主人公の敵役だった。神や世界に愛された者達の敵だった。幸福な者(プラス)(マイナス)だった。故に、カイは「『過負荷(マイナス)』の存在意義とは、プラスの敵であること」と考えていた。

 

 カイが思う「明確なプラス」とは、『異常(アブノーマル)』である。『異常(アブノーマル)』とは、生まれ持った『異常性(アブノーマル)』によって、やる事なす事良い結果となる、まぎれもない神や世界に愛された者達だ。だからこそ、『めだかボックス』において、『過負荷(マイナス)』の統括者・球磨川(くまがわ)(みそぎ)は彼らを目の敵にし、敵対していた。

 

 だが、カイの居た世界には『異常(アブノーマル)』が存在しなかった。如何に「それらを知らない」という現実を受け入れなくても、それらの情報が入ってこない。よって、カイは「この世界に『異常(アブノーマル)』は存在せず、『過負荷(マイナス)』が存在する意義は無い」と結論付けた。だからといって、カイは「意義が無いから自刃する」という思考には至れず、誰かが『異常(アブノーマル)』になるのを待ったり、それらの代わりを探し求めたり等、不確実なことや面倒なことをする性分でもなかった。

 

 彼が至った結論は、「この世界に居ないなら、居る世界に行けばいい」というモノだ。だからこそ、彼は自身のお眼鏡に適う「明確なプラス」が居る『転生したらスライムだった件』に転移した。その世界には、神や世界に愛されていることが明白な者達がいる。多数いる勇者や魔王、そして、『リムル・テンペスト』。彼個人の主観として、あれを『異常(アブノーマル)』と言わずに何と言えばいいか分からない。最上級のチーターであり、やる事なす事良い結果になる存在。それがリムルという存在で有り、まぎれもなく異常(プラス)だった。

 

 故に、カイは『転生したらスライムだった件』の世界で『過負荷(マイナス)』の存在意義を満たすことにした。

 

「あ、長くて意味が分からなかった?簡単に言えばね、僕は『過負荷(マイナス)』らしく、敵役(マイナス)に徹しようって話なんだ。それで、僕を打ち倒す主人公役に、『転生したらスライムだった件』のリムルを選んだわけさ。じゃあそろそろ長話もここら辺で」

 

「この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。イッツオールイズファンタジーってね!え?文法がおかしい?君は言語学者か何かかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 目の前に立つ男はあまりにも不気味だった。寒気も怖気もする、吐き気すら感じるような不気味さの塊だった。だが、時の勇者はそれらで怒りを絶やすこともなく、その男へと剣を振り下ろした。

 

「おっと危ない!やっぱり「勇者」ってなると、もう僕の目じゃ追えないな」

 

 そうおどけつつも彼女の剣は二十五寸もある大きな釘で受け止められている。魔素も何かしらのエネルギーも感じない棒であるというのに、彼女の剣で以ってしても断ち切れず、腕力で彼を弾き飛ばすだけに留まった。

 

「全く、その細い腕のどこに男一人押し退ける力が有るんだい?魔素ってやつはこれだから困るよ」

 

 力でも速度でも勝てないことから、肉弾戦では敗色濃厚であるのに関わらず、その男は笑みを解くことは無い。

 

「貴方は、何故この村の人々を!私と戦いたいというのなら、私だけ害すれば良かったはずなのに!」

 

 また切り込めば、先ほどの再現のようになる。彼女にとってそれでいい。この間近で、彼に問わねばならぬことが、ぶつけねばならぬ怒りがある。

 

「君を殴った程度で、君は怒ってくれないじゃないか。僕は君にね、怒ってほしかったんだ。人間である僕に対して、一切の躊躇も慈悲もなく敵対してほしかったんだよ。それくらいしないと怒らない君が悪いと思わない?君のせいでみんなが死んだって思わない?」

 

「思いません!」

 

 今度は意図的に弾き飛ばし、彼我の距離を空ける。

 

「そうでなくっちゃ。君たちプラス(勇者)は、そうやってマイナス()の言葉なんて聞かず、正義の味方でなくちゃね。この程度で折れるくらいなら期待はず―――」

 

霊子崩壊(ディスインティグレーション)!!」

 

 彼女は彼の饒舌となった時の隙を逃さず、魂さえ打ち砕く光の奔流を放つ。

 

「ははっ!言葉の途中で攻撃とは、ビックリしちゃったよ。まぁそりゃアニメやゲームじゃないんだから攻撃するよね!隙だらけなんだし!」

 

 いつの間にか生えていた大きな釘の平らな頭部を足場にし、彼は効果範囲外となる上空へと逃げていた。直撃した棒の一部は消え去っていたが、彼に傷一つ無く悠々と着地する。

 

(彼が使うスキル、全く全容がつかめない……)

 

 突如現れ、突如村を火の海にし、突如釘を生み出す。全く統一性のない所業から、複数スキルを持つ相手であることを把握するが、既に使われたスキルが如何様なモノなのか、後いくつスキルを持っているのか、未知数にも程がある。しかし、攻めあぐねれば何をされるか、それこそ未知数であるために、彼女はガードしかしていない肉弾戦に活路を見出す。

 

「性懲りもなく鍔迫り合いかい?まぁ!僕の釘には鍔なんて無いん―――!」

 

 2号の打ち合いで切れなかったから油断していた彼は、豆腐を切るが如く進む刃への反応が遅れる。遅れた反応の代償は右腕である。

 

「あっはっはっ、忘れてた忘れてた!『絶対切断』!君がそういうユニークスキルを持ってるのは知ってたけど、まさか文字通りのこともできるとはね!」

 

 彼女の持つユニークスキル『絶対切断』。カイは封印に用いられたことは知っていたから、それは概念にしか使用できないモノと勘違いしていた。現実は物質にも適応できるスキルであり、見事不断の釘と片腕を断ち切ったのである。おかげで右腕の切断面から血を流しているが、彼はそれを『痛覚無効』の所持が疑われるほど気にした様子はない。

 

「……これ以上、続けますか?」

 

「腕一本切り落された程度で反省するような奴に、君は見える?」

 

 彼女はもう一度の攻撃で彼の質問に答えた。釘はもはや防御の役に立たず、無情にも左足に深手を負う。もう立つことには使えないだろう。

 

「おいおい、僕を痛めつけてどうする気だ?残念ながら、僕はしっかり痛みを感じて不快に思う健常者だよ?」

 

 痛みに苦しむ姿を微塵も見せない彼は、不気味だった。だが、彼女はその不気味さで己の意思が折れる程度の者では決してない。彼の左肩を貫き、地面に張り付ける。そして、彼女は真っ直ぐに彼の目を見る。

 

「どうして私を怒らせ、敵対したかったのですか……?」

 

「ああ、その話かい。それは―――!」

 

 彼の顔に落ちる雫。たかだか一滴の雫が、彼の笑顔を引っ剥がした。

 

「私は、貴方に嫌われるようなことを、してしまったのですか……?」

 

 雫の源泉は、少女の瞳だった。彼女は悲しんでいた。「自分のやった行為が、自分の善意が、人の悪意を引き出してしまったのではないか」と、自分自身を疑ってしまったのだ。その顔を笑い飛ばすことは、彼にはできない。心弱い者(マイナス)を笑うようなことは、(マイナス)にはできなかった。

 

「……君だけが、嫌いってわけじゃない」

 

 笑顔を絶やした彼の顔は、哀愁に満ちていた。

 

「僕はね、羨ましかったんだ。幸せそうな奴が、憎かったんだ。両親が優しいなんて奴も、必死に努力して最後に成功を収める奴も、みんなに好かれてみんなと一緒に笑ってる奴も、みんなみんな大嫌いなんだ」

 

 とうとうと語りだす彼の目は、悲しみに満ちていた。

 

「僕は、不幸だった、生まれた時から。生まれる時に母が死んで、それで父は良く暴力を振るって、みんなはそんな怪我した僕を「醜い」って嫌ってく」

 

 彼の顔に雫が流れる。それは、彼女から注がれたモノではない。

 

「ねぇ、僕は何が悪かったんだ?いじめを告発しなかったこと?虐待を訴えなかったこと?それとも、生まれたこと?」

 

 涙を流して、笑っていた。不気味さは消え去っていた。

 

「憎まずにはいられなかったんだ、当たり前の幸福を当たり前に享受してる奴らを。だってそうしなきゃ、僕が何もかも悪いみたいじゃないか」

 

「貴方は……」

 

「まぁ!オールイズファンタジー(全部幻想)なんだけどね!」

 

「え?」

 

 哀愁を幻想のように消した彼の様子に意表を突かれて瞬きをすれば、地面に張り付けた彼はおらず、周りの焦げ臭いにおいも消え失せる。

 

「こ、これは、いったい……」

 

 村が、何事も無かったように復元している。彼女の目には、彼が火の海に変える前の村と区別がつかなかった。

 

「どうしたんだい、時の勇者様。立ちながらうたた寝でもしてたのかい?」

 

 声の発生源を見れば、初見と同じ不気味な笑顔を張り付けた彼が居る。

 

「貴方が、やったんですか……?」

 

「何を?」

 

「この村の状態です!焼け落ちた村を、焼け死んだみんなを元に戻したのですか!?」

 

「全く身に覚えがないなぁ。幻想(ユメ)でも見てたんじゃないかい?」

 

 彼女の鬼気迫る詰問に、素知らぬ態度で彼は返す。

 

「夢……?」

 

「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。勇者様もお忙しいようだしね」

 

 呆然とする彼女に構うことなく、振り返って歩み出す彼。

 

「ああ、一つ言い忘れてた」

 

「はい?」

 

「世の中にはね、無条件で君みたいな才能とか運とかに恵まれた人を理不尽に恨む奴がいるんだ。「今回君が得るべき教訓は、短所すら受け入れて愛してくれる人も居れば、長所すら否定して嫌ってくる人も居るということだ」、なんてね。じゃね、バイビ」

 

 彼はにこやかに手を振ったかと思えば、忽然とその姿を消した。まるで、彼が居たことそのものが、幻想だったかのように。

 

「短所すら愛してくれる人も居れば、長所すら嫌う人も居る……」

 

 彼女は、呆然としたまま、今回の教訓を反芻した。

 

◇◇◇

 

「う~ん、やっぱりまだまだ青かったなぁ。まぁあれはあれで、愛でる対象としては良かったけど。本気で負かしてもらうには、まだ熟してなかったねぇ。失敗失敗」

 

 物足りなさをしこりに、不完全燃焼な思いを抱くカイ。彼女が『真の勇者』に覚醒した後では「彼女に挑む機会が無い」と早摘みしたものの、やはり未熟なところがあるために本気で戦う気が失せてしまった。

 

「ま、今後に期待ってことだね。君とはもう戦えないだろうけど、リムルの成長にも関わってくるだろうし。頑張ってね、クロエ・オベール」

 

 その蕾が花開くのを心待ちにし、カイはいづれ来るだろう原作主人公(アブノーマル)との戦いを夢見た。




 八倉くんの言葉が何度も遮られていますが、「時の勇者」がわざとそうしてます。彼女をして彼の言葉全部聞いていたら頭がおかしくなると感じたからです。直感での判断でしたが、その対処はかなり有効だったりします。彼の得意分野はいわゆる精神攻撃なので。

 どうでもいい言い訳でしょうが。本当は二日連続で投稿するつもりでした。パソコンが不調を訴えまして、あえなく断念したわけです。まぁおかげでパソコンが新しくなりました。この純真無垢な少女を私色に染める(新品をカスタマイズする)のに時間がかかる点は良いのか悪いのか。

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