転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霓霞霖

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第二十九話 人のユメと書いて儚い、人じゃないけど

 クレイマン、フレイ、ミリムによって発令された魔王達の宴(ワルプルギス)には、カイを除く魔王、総勢十柱の魔王が揃ったのだ。

 

 だが、今その一柱が減ろうとしている。

 

「いやだ!おい、やめろ!!!おいぃ!やめろぉぉ!!!た、助けて!カザリーム様ぁ!!!」

 

「死ね!」

 

 惨めに叫ぶクレイマンを、リムルが究極能力(アルティメットスキル)暴食之王(ベルゼヴュート)』で魂ごと食いつくした。

 

 端的に言って、クレイマンは失敗したのである。魔王たちへのリムル誅殺の提案は誰も聞き届けていなかった。そも、その誅殺の動機であるカリオンは死んでいなかったのだ。クレイマンが操った事になっていたミリムを使ってカリオンを抹殺しようとしたのだが、そもそもミリムは操られていなかったという話。親友(マブダチ)であるリムルを陥れようとしているのを察し、ミリムが一計を案じたのだ。

 

 ミリムはカリオンが死んでもおかしくない戦闘を行ってカリオンの死亡を偽装。実際カリオンは死にかけたのだが、そのおかげもあってクレイマンは騙された。

 

 それでクレイマンの謀りは根底から瓦解し、リムルは謀られた報復として今クレイマンを処断したのである。

 

 一部始終を見ていた魔王たちとしては茶番も同然。クレイマンの死に強い関心を抱く者は居なかった。しかも、若干一名はその茶番すら視界に入れておらず、遅刻者が来るのを今か今かと血走った眼で待ち侘びている。まぁ、ルミナスの事である。ついでに言うなら、遅刻者はカイの事だ。

 

「見事だ。お前が今日から魔王を名乗る事を認めよう。異論のあるヤツはいるか?」

 

 ギィはクレイマンを屠ったリムルに賛辞を送り、魔王である事を認める。強い者のみが魔王となるのはギィの望むところだ。

 

 そして、最古の魔王たるギィがリムルを認めたのだ。他の魔王に異論を唱えられる者は居ない。居るとすればミリムとラミリスだが、彼女らは大いに賛成していた。他も賛成の声を上げていく。

 

「ふーーーーはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

 魔王が集う場に、似つかわしくない高笑いが響く。その高笑いは、何処となく不気味であった。

 

「な、なんだ!?」

 

「この声は、カイ・ヤグラ!何処だ!何処に隠れておる!」

 

 リムルは急な笑い声に呆気にとられ、ルミナスは待ち侘びた男の登場にその姿を探す。だが、カイの姿は何処にもない。

 

「「祝え!新たなる魔王の誕生を!」、なんてね。遅ればせながら、リムル。君の魔王入りを歓迎するよ?」

 

「え、あ、はい。どうも」

 

 天の声みたいに声だけを届けるカイの歓迎に、リムルはサラリーマンだった時の癖のようにとりあえずの生返事を返した。

 

「姿を見せよ、この臆病者!」

 

「何を言ってるのさ、ルミナス。僕はずっと君の後ろに居るじゃないか」

 

 ルミナスが振り返れば、そこにはいつの間にかに奇妙な箱が置かれていた。人一人が屈んで入れそうな大きさの箱、しかも材質は段ボールだ。

 

「「こちらスネーク。魔王達の宴(ワルプルギス)に潜にゅ」―――」

 

 カイが何かを言いきる前にルミナスによって段ボール箱は両断される。

 

「「スネーク!応答しろ、スネェェェェェェェェェェェェク!!」、なんてね」

 

 だが、カイは構わず、今度はリムルの後方に突如現れてボケを続けた。相も変わらず即座にルミナスが魔力の刃をカイへと飛ばすが、その攻撃は擦り抜ける。

 

「なぬ!?」

 

「はは、芸もなく殺されて蘇るだけだと思ってるのかい?「想像力が足りないよ」。僕は、そう。あらゆる攻撃を克服した!「究極の生物(アルティミット・シイング)カイ・ヤグラの誕生」―――ウボァ」

 

 太陽を克服したカーズ(太陽を背にしたか)のような決めポーズをしていたカイの腹に、大きな穴が開く。

 

「何が究極の生物だ。高々精神体(スピリチュアル・ボディー)になっただけだろう」

 

 もちろん、その大穴を開けたのはギィだった。ギィは即座にカイの状態を見抜き、その状態に有効な攻撃を放ったのである。

 

「ナチュラルに精神体(スピリチュアル・ボディー)へ攻撃するの止めない?どこの次元まで射程に入ってるのさ、ギィ」

 

「阿呆か。その次元は元より俺が居た領域だ」

 

「ああ、悪魔の居る次元ってそういう感じになってるんだね」

 

 さっきまで無駄にテンション高かったカイは自身のした行動の無意味さに白けていた。

 

「はいはい僕の負け僕の負け。「なんで勝ったか、明日までに考えといてください」、なんてね」

 

「お前が弱いからだろうが。ふざけてるのか?カイ・ヤグラ」

 

「「あなたの回答がベストアンサーに選ばれました」、てね。その通りだよ、レオン・クロムウェル。あ、ちなみに「ふざけてるのか?」ってのもベストアンサーね」

 

 血管が切れそうだったレオンはカイへ一筋の光を向けるが、カイはまだ精神体(スピリチュアル・ボディー)なので擦り抜ける。

 

「おいおい、話が進まねーぞ。てゆーか趣旨は終わったよな?帰っていーか?」

 

 ハチャメチャな議場に呆れて背もたれに寄りかかりながら、ディーノは怠そうな顔で惜しげもなく帰りたさを表していた。ミリムの魔王達の宴(ワルプルギス)発令と意気込んでみればこの肩透かしなのだ、帰りたくもなる。

 同時に、彼はできるだけカイと同じ場所に居たくなかった。カイに付けられた古傷がまだ癒えていないし、カイの不気味さにもまだ慣れない。慣れた奴は居ないだろうが。

 

「ちょっと待ってくれ。魔王が全員集ってるから言っときたい事があるんだ」

 

 クレイマンの議題は終わっているので、今度はカリオンが新しい議題を持ち出す。ルミナス以外、全魔王の視点がカリオンに集中した。ルミナスはずっとカイを睨んで離さない。

 

「俺はミリムに負けた。だから魔王を止めてミリムの軍門に降る」

 

「む?違うのだぞ、カリオン。あれはクレイマンに操られてやった事なのだ」

 

「てめえ、知らばっくれるなよ。さっき支配なんて効かねぇとか言ってただろうが!」

 

「それはだな……」

 

「ああ、ミリム?私も降って良いかしら。今回の騒動を観察していたけど、ちょっと魔王としてやっていけるか心配になってしまったわ。だから、より強い魔王の庇護を受けようと思うのだけど」

 

「ま、待つのだフレイ!それでは今まで通り気軽に悪だくみできないではないか!」

 

「貴女に降っても友達のままよ、ミリム。それに、友達なら、守ってくれないかしら?」

 

「むむむ……」

 

「そうだミリム!俺様は喧嘩売られて国に馬鹿にならない被害が出てんだ!敗者を庇護する度量くらいあるんだろうな!」

 

「ええい!もう勝手にするのだ!」

 

 他の魔王が口出しするまでもなく、ミリム、カリオン、フレイの間で話がまとまってしまった。それら三柱の勝手な協定も、他の魔王は強い関心を示していなかった。

 

「十大魔王じゃなくなっちゃったわね」

 

 ラミリスの何気ない一言に、ルミナスとリムル以外の十大魔王が深刻な表情を浮かべ始める。リムルは皆の様子が一変した事に驚いており、ルミナスはずっとカイを(ry

 

「補充するにも求められる力量がフレイやカリオン以上となれば、相応しい者は居らぬぞ」

 

 ダグリュールが頭を悩ませる。

 空いたのはクレイマン、フレイ、カリオンで三枠。対して埋められるのはリムルで一枠。新たな魔王を擁立するにしても、最低ラインがフレイやカリオン以上。そうそうに埋められる枠ではない。その枠の奪い合いで生き残ってきたのが現在の魔王なのであり、この中では確かに弱い部類に入るフレイやカリオンも熾烈な競争の果てに魔王という尊称を得ていたのだ。

 

「この際二枠くらい減らしちまってもいーんじゃねーのー?弱い奴に肩並べられても困っちまうしさー」

 

「十大魔王だの枠組みだのはどうでも良いが。弱い奴が同列に語られるのは俺も癪に障る」

 

 投げやりながらもディーノが減枠を提案すれば、レオンもそれに同意する。特に、レオンはカイを睨みながら言葉を発していた。同じ『十大魔王』ではないが、同じ『魔王』として語られるのが嫌だったらしい。

 そんな思いが如実に感じ取れても、やはりカイは笑顔のままだった。

 

「では、魔王の枠を二つ減らし、『十大魔王』の枠組みを破棄する。異論は?」

 

 ギィのまとめに首を振る者は居ない。無言の肯定を皆が示していた。

 

 

「魔王の枠組みを八つにする事で可決としよう。それに際し、新たな枠組みの名称を決めようではないか」

 

「そういうネーミングはリムルが得意だよ?」

 

「え!?俺!?」

 

 新たな名称を話し合おうとした瞬間、カイがリムルに話題を向ける。当然、流されるままに流されていたリムルは目を瞠った。

 

「ほう。では新人、『魔王』となって初の仕事を言い渡す。新たなる枠組みの名前を考えろ」

 

「お、おい!みんなで話し合う流れじゃなかったのか!?」

 

「ギィがそう決めてしまったのだ!仕方ないのだ!」

 

「おー、そうだな。ギィが決めちまったしな」

 

「そうね、ギィが決めちゃったからね」

 

「そうであるな、ギィが決めてしまっては仕方あるまい」

 

「勝手に決めろ。俺は興味ない」

 

 ギィが不敵な笑みでリムルを命名者に任命すれば、他の魔王はこれ幸いにと役目を押し付ける。十枠の時も数か月名称を悩んだ末に人間たちが使いだした名称をそのまま採用した連中だ。新しい名称を考えるなんて面倒臭くて仕方がない。

 

「ああもう分かった、分かったから!後で文句言うなよ?」

 

 リムルは渋々と頭を回しだす。他に任せても碌な名前が付かない未来が想像できてしまって諦めたのだ。

 

「名前考える前に、一つ訊きたいんだが。『十大魔王』の時も思ってたんだか、一人多くないか?十一人居ただろ」

 

「あ、それは僕が別枠だからだよ。僕は『十大魔王』じゃなくて『番外魔王(エクストラ・イビル)』。僕だけの枠組みがあるから、僕を除いて十人だったのさ。だから八枠のままで名前考えて良いよ?僕は『番外魔王(エクストラ・イビル)』のままで良いからさ」

 

「ふーん、そうか……」

 

 リムルの疑問にカイが答えた。何故カイだけ特別な枠組みがあるのか気になりはしたが、リムルはとりあえず目先の仕事を片付ける事にした。

 

「……八星魔王(オクタグラム)、でどうだ?八枠だから八芒星を連想してみたんだけど?」

 

「決まりだ。見事な働きだった、新人」

 

「うむ、良き名だ……」

 

「やっぱね!リムルならやってくれるとアタシは信じてたわ!」

 

「流石がワタシの親友(マブダチ)なのだ!わははははは!」

 

「一瞬かよ!スゲーな。前回の三ヶ月は何だったんだよ!」

 

「……」

 

「むしろお前たちは三か月何してたんだよ……」

 

 皆が歓声を上げていくのに、リムルは帰って落胆した。『十大魔王』なんて呼ばれているから、もっと怖くて聡い集団をリムルは予想していたのだ。

 

 蓋を開けてみれば威圧感もなければ威厳もない集団。実際はここが威圧的になる場面でも威厳を振りまく場面でもないから皆の雰囲気が軽いのだが、そんな事は与り知らないリムルは頭痛がしてきたのだった。




 まだまだ魔王達の宴(ワルプルギス)、というか、この魔王たちが集った場での会話は続くけど、とりあえず区切りが良い気がしたのでここまで。この後に魔王間の個人的な会話を予定してるけど、次回に持ち越しです。

 意外と省けるところがなかったし、無駄にカイがネタを挿んで長くなったような……。
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