転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霖霧露

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第三十二話 再会をユメに見た、今度こそ本来の意味で

「日向ちゃんたちとリムルたちがぶつかるのはそろそろかなぁ。気になるねぇ、静江ちゃん」

 

「……」

 

 狭間空間、教室のような空間で、カイは足をプラプラと揺らし、同時に静江の心も揺らそうとしていた。

 カイは楽し気に不気味な笑みを浮かべているが、反して静江は俯いている。

 

「もしかしたら、もうリムルたちがサクッと()っちゃったかもねぇ」

 

 カイは意図的にリムルたちの様子を観察していない。ひとえに、静江を焦らせるためだ。

 彼女は未だに迷っているのだ。日向とリムルの衝突を止められるのが自身だけだと知りながら、彼女は不干渉であろうとしている。

 カイだって、それが確固とした意志であるならこのような意地悪は、おそらく多分しない。彼は迷っている彼女を見かねて、背中を押してあげようとしているのである。やり口はちょっとアレではあるが。

 

「リムルさんが、そんな事するはず……」

 

「たかだか数人殺すのを、リムルが躊躇すると思う?すでに1万人は殺してるのに?君の教え子って事で殺しはしないとか?僕は、リムルだったら殺すと思うなぁ。だって、日向ちゃんを逃せば魔国は滅ぶでしょ。実力的に、リムル以外じゃ止められない。なら、今後手間にならないように殺すんじゃない?君の教え子って事で罪悪感は抱くだろうけど。それで?静江ちゃんは日向ちゃんが殺されない方に賭けてみる?殺されかかっているかもしれないこの現状で?」

 

「っ……!」

 

 カイの言葉が静江の妄信を脆くする。リムルは自身の教え子を殺さないという信頼が、根拠の欠けている妄信であると、諭される。

 

「でも!私は死人です!カイさんの恩情で自身の存在を保っていますが、私は本来もう居ない人間なんです!」

 

「言ったような気がするけど、言ってなかったっけ。僕でも『過負荷(マイナス)』を与えるような都合の良い事はできないよ。『異常性(アブノーマル)』だったらなおさらね」

 

「しかし!カイさんがきっかけを与えてくれたから、私はそれらのスキルを習得したんです!それに、これらのスキルはこの世界のスキルではありません!なら、こんな不条理を用いて接触するなんて―――」

 

「くどい」

 

 長く続きそうな静江の弁を、カイは彼女の後方にある机を大きな釘で爆散させ、無理矢理口を噤ませる。

 理論にもなっていない理論武装で、頑なに自己の欲求を封殺しようとする静江に、カイは付き合いきれなかった。

 

「くどい。うざい。鈍臭い。面倒臭い。鬱陶しい。白々しい」

 

 カイは目を開く程心底呆れているし、もう溜め込めないとばかりに罵倒を吐き連ねる。

 

「白々しいだなんて―――」

 

「白々しいんだよ、静江ちゃん。いい加減素直になろう。『不幽霊(スリーピー・ホロウ)』なんて、死んだ後にも活動できる『過負荷(マイナス)』を得たのはなんでだい?やり残した事があって、それをやりつくしたいからだろう?『結言状(ダイイング・メッセージ)』なんて、死んだ後に言葉を伝えられる『異常性(アブノーマル)』を得たのはなんでだい?遺してしまった人たちとまだまだ話したいからだろう?」

 

「いえ、そんな……。だって、それは、突然手に入って……。そう、そうです。私の『当然変異(オルタナティヴェイト)』は望んだ変異を起こせるスキルではありません。だから―――」

 

「じゃあなんでこうして存在保ってるのさ」

 

「……え?」

 

 閊えながらも言い返していた静江が、カイの指摘で完全に虚を突かれた。

 

「そもそもの話だ。もう関わりたくないって言うなら、さっさと『不幽霊(スリーピー・ホロウ)』を解けば良いだろう?オンオフは好きにできるんだからさ。そうしてないっていうのはつまり、静江ちゃん自身がまだ関わりたいと思ってるって事じゃないの?」

 

「……」

 

 静江の目から鱗が落ちた。気付かされた。自身すら理解できなかった本心、心の奥底をカイに言い当てられた。

 

「とりあえず。様子見てきたら?様子見て、それでも干渉したくないって言うなら、僕ももうそれについてとやかく言わない」

 

「だ、だけど……」

 

「もう面倒見切れないのでボッシュートになります」

 

「え!?」

 

 突如、静江の足元に虚空の穴が開いた。突然の事であったために対処できず、静江は穴へと吸い込まれていく。

 静江が落ちた穴から見上げれば、カイが笑顔で手を振っていた。

 静江には、その笑顔が優し気なモノに見えた。

 

 

 

 数瞬の後、目に映った景色はジュラ・テンペストの上空。着地の衝撃について考えて慌てた静江だが、いつまでたっても地面が近付いてこない事で自身が幽霊みたいな、重力に縛られない存在である事を自覚した。

 じゃあ狭間空間ではなんで穴に吸い込まれたのか、という疑問が出てくるが、静江はとりあえず「カイさんだから」で済ませる。

 

 落ち着いたところで見下ろしたジュラ・テンペストの大地。そこではいくつかの戦闘が始まっていた。それは、聖騎士たちと魔物たちの戦闘である。

 そのほとんどは聖騎士たちの防戦一方。魔物たちが圧倒している状態である。

 

「そんな、もう戦ってるなんて……!日向とリムルさんは!」

 

 静江は最悪の予感が頭を過り、日向とリムルの姿を探す。日向の死亡による決着という、最悪の予感が当たらない事を祈りながら、おそらく最も激しい戦闘が繰り広げられている場所を探す。

 

 意外にも、ただの剣の打ち合いという比較的静かな戦闘をしているその場所を、しかし懐かしい気配と言うべきか、日向とリムルの居る気がする場所に目をやり、静江はそうして彼女らを見つけ出した。

 

 その場所の近くに寄る事で、剣の打ち合いが意外でも何でもない事を静江は察する。

 互いが互いの決め手を打たせぬよう、余裕を潰し合っているのだ。

 しかし、戦いの中で成長しているとでも言うのか、リムルの方は徐々に余裕が出てきている。当然ながら、日向の方は余裕がなく、余力が徐々に削られていた。

 

「なぁ、なんでお前はシズさんの下から離れちまったんだ?」

 

 出てきた余裕で、リムルは問う。リムルは日向が静江の下を離れた事に疑問を持っていた。リムルは飲み込んだ静江の遺体を解析し、ある程度静江の記憶を読み取っている。一応、彼女の尊厳を気にしながら。

 それで、静江の記憶では、日向の離脱は急だったのだ。この前まで素直な少女だった日向が、いきなり冷たく別れを切り出していた。

 

「……その話をして、どうするつもりなの?」

 

「シズさんはお前の事、心配してたぞ」

 

 日向が怒気を孕んでいたのにも構わず、リムルは踏み込む。そうすると、日向の怒気は明らかに膨れ上がった。

 

「心配してた!?シズ先生が、私を!?ふざけないで!」

 

「うお、ちょ!?」

 

 日向は怒りに任せ、ペース配分も余力もそっちのけで攻めを苛烈にする。

 

「私は先生より強くなったの!私は一人でも生きていけるの!あの人にかけられる心配なんてない!」

 

「っ、お前!強くなったなら離れなくちゃいけないのか!?一人で生きていけるなら一人で生きなくちゃいけないのか!?なぁ!教え子が自身を超えて巣立とうとも、先生が教え子を心配するに決まってるだろ!」

 

 静江を蔑ろにするような日向の言葉に、リムルは怒りを煽られる。

 最期に会ったばかりのスライムに思いを託す静江の優しさを、日向は踏みにじったのだ。リムルにとって、日向を生かす価値は底辺まで沈んだ。

 

「あの世で説教されてこい!!」

 

 リムルは日向を押し飛ばし、無理矢理距離を開けた。決め手を打つには十分な余裕ができただろう。

 

「『暴食之(ベルゼビュ)―――」「くっ、『崩魔霊子(メルトスラ)―――」

 

「止めて!!!」

 

 リムルが決め手となる必殺の技を打とうとし、日向が決め手を相殺するために大技を打とうとしたところ、二人は聞き覚えのある声を聞いた。

 そう、静江の声は二人に届いたのだ。静江は咄嗟に『結言状(ダイイング・メッセージ)』で二人に声を届けた。そして、二人は呆然として攻撃を中断。結果的に静江は二人の戦いを止められたのである。

 

「なんで、シズ先生の声が……」

 

「シズさんは、死んだはずじゃ……」

 

 日向とリムルは周りを見渡すが、静江の姿はない。残念ながら、静江は通常の感覚器官にも、『魔力感知』にも捉えられない。

 

「日向、リムルさん。私は、確かに死んでいます。ですが、二人に声を届けられる、奇跡のような機会を得ました」

 

「シズ先生、なんですか……」

 

「……日向。ごめんなさい、貴女を一人にして。私は、きっと貴女に嫌われるのが怖くて、貴女の気持ちを汲み取った振りをして。結局、見過ごしてしまった……」

 

 信じられる訳もない日向は、黙って静江の言葉を静聴する。

 

(『智慧之王(ラファエル)』!これはどういう現象だ!何がどうなってる!?)

 

(告。リソースを全て割いて分析していますが、現状不明です。推測として、特殊な電波のようなモノを受信していると思われます)

 

(送信元がシズさん本人か割り出せ!)

 

(了。分析開始。……。終了。わずかに観測できた魔素パターンが個体名「シズエ・イザワ」のモノと一致。本人である可能性が高いでしょう)

 

(マジ、なのか……)

 

(解。マジです)

 

 わざわざ『智慧之王(ラファエル)』を用いて全力で確認したのに、リムルはどうしても自身の疑いを晴らせなかった。

 

「二人とも。どうか、私を信じて、私の話を聞いて」

 

 静江は二人の戦闘を根本から止めるべく、大切な教え子の罪を告白する事になると覚悟しながら、二人に傾聴を嘆願した。

 

◇◇◇

 

「驚いた。まぁ、有り得るとは思ってたんだけど。この前案外融通が利かないって把握したばかりだからね。それとも、君はやっぱり特別なのかな?」

 

(……)

 

 狭間空間にカイ以外の姿はなく、独り言ちているようではある。しかし、カイの脳内にはとあるモノの沈黙が届いていた。

 

「黙秘はいけないと思うなぁ。ねぇ、智慧之王(ラファエル)ちゃん?聞こえてるんだろう?僕も結構全力で通信回線繋いでるんだからさ。返事の一つくらいしても罰は当たらないんじゃない?」

 

(……。告。解明不可能な事象に対し、現在解析にリソースを回しています。返事は期待しないでください)

 

 そのとあるモノとは、リムルのスキルであり、しかして自我の獲得に手が届いている存在。究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)』である。

 

「解明不可能ね。静江ちゃんの魔素パターンを読み解いておいてよく言うよ。今の静江ちゃんはちょっとやそっとじゃ知覚できない状態にあるんだけどな。つまり、君は『異常』と『過負荷』(僕たち)を、僅かながらでも解析したって事だ」

 

 転スラ世界の理でめだかボックス世界の理を解析する。それは驚愕の事態であり、しかしカイにとって想定の範囲内だった。

 リムルというチート主人公のやる事だ。それに、『異常(アブノーマル)』の片鱗も見せている。なら、起こり得るだろうと、カイは予測していた。

 

(個体名「シズエ・イザワ」の現状において、精霊変異体から検出していました、不可思議な外的要因と類似した事象改変を検出しました。検出例を足掛かりに、わずかではありますが、個体名「シズエ・イザワ」の魔素パターンを知覚しました)

 

「なるほど、あのイフリートの成れの果てを調べ続けてたから、イフリートを変化させた『過負荷』(スキル)の痕跡を見つけてて、今回もその『過負荷』(スキル)っぽい痕跡が見つけられたと。うん、噛み砕いて解釈してみたけど、割と訳が分からないね」

 

 智慧之王(ラファエル)は『過負荷(マイナス)』の類似している点を解析できているようだが、どう考えてもとんでもない事である。宇宙人の通信に使われている暗号を手に入れたようなものである。宇宙人の言語解読には、まだ至ってないようだが。

 

「これは、僕が通信繋げてるのもあんまり良くないかもしれないね。類題を与え続けてるって事だし。じゃあ、少し名残惜しいけど。君との会話はこの辺で。じゃね、バイビ」

 

 リムルと全力で戦う前に手の内を知られているのは面白くないと、カイは自身の『過負荷(マイナス)』を完全に解析される前に、回線を切った。

 

◇◇◇

 

(……。個体名「カイ・ヤグラ」及び個体名「シズエ・イザワ」の使用するスキルが、この世界のスキルではない事を確認。スキルの詳細は……。解析に膨大な時間がかかります)

 

 『過負荷(マイナス)』の独特な事象改変の類似性は解析した。だが、そこから解析はできない。事象改変という点はカイのも静江のも一致するが、そこからの改変する対象と改変後の状態が一致しない。それぞれがユニークな改変を行っていた。

 

(「世界の言葉」に接続。……。情報、一部開示に成功。今後、事象改変能力を『過負荷(マイナス)』と呼称します)




 原作と本作の差異でどうしたもんかと頭を悩ませていたら締め切りが間に合わなかった。つまりそういう事だ。下手に独自展開を足すと面倒になるが、読者の多くが求めているのは独自展開であると思う。けどやっぱり頭が疲れる。辻褄が破綻してるのぶち込んだら今までの評価が覆るだろうし。

 そういう二次創作文字書きの悩みがあった事を、なんとなく記しておきます。
 そして、更新遅れてごめん。

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