転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霓霞霖

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第三十四話 ユメ枕にはまだ立てない

 リムルの居宅。そこでは今、リムルとカイが卓を挿み、とても真剣な顔をしていた。

 カイの目の前には白い粒々が盛られた茶碗があり、カイは割れ物を扱うように左手でゆっくりとその茶碗を持ち上げ、白い粒々を箸で掬い取って口に運ぶ。そうして白い粒々を咀嚼しているカイを、リムルは一切の挙動を見逃さぬように注視していた。

 カイは嚥下し、茶碗と箸を丁寧に卓へと置く。数秒沈黙の後、カイが口を開く。

 

「結構なお点前で」

 

「しゃあ!!」

 

 カイからの掛け値なしの高評価に、リムルはガッツポーズした。

 

「しかし。本当によく作ったねぇ、白米」

 

 そう、今しがたカイが高評価を与えたのは日本人のソウルフードであり、カイやリムルの故郷の味。つやのある純白の粒々、白米なのである。

 

「苦労したぜ。なんせ、イネ科の植物から品種改良したんだからな」

 

「スキルでその過程すっ飛ばせるんだから、大変なのはイネ科を見つけるまでだったんだろう?」

 

「まぁな」

 

 リムルはお米に近い植物、イネ科っぽいそれをようやく見つけ出し、その植物を無理矢理米に進化させたのだ。やはり『智慧之王(ラファエル)』でのごり押しなのである。美徳系究極能力(アルティメットスキル)の無駄遣い、ここに極まれり。しかし、日本人からは拍手喝采の使い方だった。

 

「ただ、この世界の者たちにとっては魔国米の方が良いだろうね。MPポーション効果もあるとか、食べ物で回復するRPGの世界だね」

 

「そっかぁ……。故郷の味を分かってもらえないのは残念だなぁ……」

 

 魔国米。リムルが白米のついでに生み出した、魔素を多く含む水で生育させた米。生育の過程で魔素を多く取り込むので、米自体も魔素を多く含み、食べた物の魔力を回復させる効果を持つ。黒い見た目が食欲を削ぐかと思われたが、そんな事は無視して良い程の効果を持っているので、見た目は度外視される事となった。

 白米を好んだ日本人としてはちょっと虚しいリムルであった。

 

「量産体制を整えた訳でもないんだし、良いんじゃない?自分用と日本人用にちょっと取っておけば」

 

「それもそうだな。同郷に振る舞う程度で留めとこう」

 

 白米では利益を見込めないため、リムルは日本人に振る舞うためだけの分を確保する事に決める。

 

「同郷で思い出したけど。日向ちゃんには随分と甘い対応をしたみたいだね。後、ルベリオスの方も」

 

 攻め込んできた日向率いる聖騎士団を、リムルは五体満足で送り返していた。襲撃に対する「それ相応の対応」とは思えない。

 

「ヒナタの方は、まぁ無罪とは言わないがちょっと操られてたみたいだしな。今回の襲撃でこっちに被害はないし、ヒナタ自身から搾り取れるモノはないし。仕事を1つばかり頼んでチャラにした」

 

 日向本人からも反省の色が窺えており、さらには静江の手前で厳罰を課すのもアレだったので、リムルはほぼ無罪という裁定を下した。代わりに行ったのが頼み事である。もし、静江の教え子たちを救出する必要性が出た場合の、その救出を日向へ頼んでいた。

 

「ルベリオスの方は正式に国交を結んでもらったし、彼らの教義を少しばかり歪めてもらった。歪めたって言っても、俺たちを魔物じゃなくて亜人って事にしてもらっただけだ。ちょっと教えを拡大解釈してもらっただけだな」

 

 魔物を許さぬ教義に従う国と魔物による魔物ための国、両者が手を取り合うための折衷案。最大戦力とも言うべき聖騎士団が敵わなかったのだから、ルベリオスにそれ以外の選択肢があったかは怪しい。まぁ、宗教を統治のための道具として扱うかの国の枢機卿たちにとって、教義を歪める事は何の呵責もないだろうが。

 

「聖霊武装とか、貴重な魔道具の解析も許してもらえたしな」

 

「リムルにとってはそっちの方が美味しかった訳だ」

 

 根絶やしにしてしまうより、培ってきた技術を貰う。リムルはそっちの方を重要視したらしい。もちろん、相手がなめてかかってきたなら相応の対応で戒めるが、仏の顔も三度までという事だ。改善の余地があり、こちらが大した被害を受けていないのなら、戒めるより自身の願望優先。そういう事で、リムルは自身が楽に暮らせるように、知識を貪欲に欲しがったのだ。如何にもリムルらしいと、カイは得心した。

 

「それでさぁ、リムル。日向ちゃんが操られてたの知ってるみたいだけど、黒幕はどうせ目星付いてるんでしょ?何暢気に武闘大会なんて開催してるのさ」

 

「んぐ……」

 

 カイはいつの間にかに取り出した武闘会のチラシをひらひらさせながら苦笑した。突かれたくないところを突かれたリムルは思わず呻いてしまう。

 

「いや、ほらな?俺が直接調査に動いちまったら黒幕も身構えるだろう?だからな、今ちょっと焦らずやってるんだよ。頼れるところには頼ってあるしさ。武闘会はな?配下たちの望みを叶えてやる的な?それにちょっと注目をこっちに集める誘導的な?」

 

 実際、日向やブルムンドの自由組合支部長(ギルドマスター)であるフューズには優樹の調査を頼んである。リムルの配下が調査に動くよりは優樹の警戒度も低いだろうという判断だ。

 武闘会の開催は、注目の誘導は取ってつけた理由だが、配下の望みであるのは確かだった。現在、リムルの配下たちは誰がリムルの一番の配下であるかで揉めている。なら、もう戦って優劣決して貰うのが早いだろうという話。下手に引きずると最悪内輪揉めが始まりかねないので、落としどころがそうなった次第である。

 

「しっかり考えてるなら、僕は文句ないさ。元よりそういう立場でもないしね。魔王なんだから何やろうと勝手だし」

 

「魔王だからってそんな好き勝手やって良い訳じゃねぇだろ」

 

「リムル、ブーメラン投げた自覚はあるかい?」

 

「……少し」

 

 魔物たちを多数配下に置き、森を開拓して町を興し、国にまで発展させ、気に入らない国の兵士は文字通り1人も残さず虐殺。これで好き勝手やってないとは言いづらい。それでも自覚が少しばかりである事には、カイは肩を竦めざるを得なかった。

 

「そ、それよりもだ!ちょっと訊きたい事があるんだが」

 

「料理をご馳走してもらってるし、白米も振る舞ってもらったし。対価分は答えてあげたいけど……」

 

「俺の今後を変えちまうとかで答えられないのもあるんだったか?理屈は理解できないが、お前の矜持かなんかなんだろう。無理矢理訊こうとかは考えてないから、答えられるのだけ答えてくれよ」

 

「じゃあそんな感じで」

 

 リムルはカイに突っぱねられる可能性も考慮していたが、カイは白米効果もあって非常に機嫌が良い。そうして首を縦に振ったカイに、リムルは安堵した。

 

「ユウキから教えられた話なんだが、お前ってシズさんが精霊を憑依する現場に立ち会ったんだよな?その時、シズさんに何かしたか」

 

 リムルは緊張を内に秘めつつ、平静な態度を装って質問する。

 シズさんに憑依していた元イフリート現精霊変異体。それが一因で静江は寿命を削っていた、というのをリムルは聞き及んでいる。精霊変異体になったのはカイのせいかもしれないと、優樹は睨み、リムルも多少疑っているのだ。

 

「……」

 

「……何か、したんだな?」

 

 バツの悪い顔をするカイの様子によって、疑いの真実味は増してしまう。

 リムルの緊張が表出した。

 

「謝るよ、リムル。確かに静江ちゃんが本来の寿命より早死にしたのは、僕に原因があるだろう。すまない」

 

 張り付いた薄ら笑いの仮面を剥がし、カイは頭を下げる。その謝意に嘘はない。彼は間違いなく罪悪感を抱いている。

 

「意図的じゃなかったって事か?」

 

「あの結果を意図したモノではないね、予測はすべきだったけど。過負荷()の行動が悪い結果を生むのは、予測してしかるべきだった」

 

 カイの今の笑みはかつての行いを恥じ入るような、後悔を食いしばるような、そんな儚げな笑みだった。

 

「ついでに弁明させてもらえるなら……。死ぬ直前の静江ちゃんを君の下へ送り込んだのは、打算もあるけど、善意もあったつもりだ」

 

「打算と善意?」

 

「君を静江ちゃんに関わらせれば、静江ちゃんの抱える事情に絶対介入するだろうという打算。そして、静江ちゃんを安らかに終わらせてあげたいという善意。暴走するだろう彼女を止め、なおかつその二つを成就させられるのは君しかいなかった。僕じゃ両方無理だし、レオンの下に送っても希望が薄いからね。確実なのはリムルだったんだ」

 

 カイのその答えに、リムルはしばし黙考する。

 静江を看取る前後の時期はリムルが無名の時期だ。まだジュラの大森林内で生活環境の初歩を整えていたから、何処の国にも顔を出していない。しかし、そんな無名のスライムを、このカイという男は知っていた事になる。ヴェルドラの消失で調査を行っている者は居たかもしれないが、それでもその時点でスライムとヴェルドラの関係性に気付ける者は皆無。ましてぽっと出のスライムに何かを期待する者は居るはずがない。

 それでも、カイはリムルを知っていたのだ。実在はもちろん、その実力まで。およそ尋常の情報収集力ではない。

 そこまで思考が至り、思い出したのは未だ解析できないカイのスキル。『智慧之王(ラファエル)』曰く、事象改変能力。精霊変異体からも残滓を観測したその力。

 そうして思い出した事柄から、リムルは1つの可能性を導き出した。

 

「お前、もしかして……。シズさんに能力贈与(ギフト)したのか?」

 

「そうだね、そうとも言える。だけど、明確に答えよう。僕は静江ちゃんに、過負荷(僕と同じ力)が目覚める切っ掛けを作った。彼女は素質があると思ったからね。結果として、彼女は目覚めた。そのせいで彼女は寿命を削る事になった。しつこいかもしれないが、その点だけは謝ろう」

 

 その答えを受けて、リムルの優先順位は切り替わる。いや、本筋に戻ったと言うべきか。

 

「シズさんの現状を知ってるんだな、あの人が何処に居るのかも!教え―――」

 

「それは駄目」

 

 リムルが言い終える前に、カイは不気味な笑顔で断ち切った。

 

「どうしてだよ!」

 

「どうしてって言われてもなぁ……」

 

 実のところ、静江は今、カイの横でわざわざ正座しているのだ。リムルの質問が始まってから、実に落ち着かない様子でカイの隣に居る。もちろん、彼女は『不幽霊(スリーピー・ホロウ)』状態なのでリムルは感知できていない。『智慧之王(ラファエル)』でも、存在する事は感知できるが、居場所の特定はできない。

 カイは困ったように、薄く流し目で静江を見やるも、彼女は首も手も横に振りまくっている。

 

「静江ちゃんが君に会いたくなったら、自ずと君の前に現れるだろうさ。そう焦るもんじゃない」

 

「だけど……」

 

「静江ちゃんの思いを汲んでやってくれよ、リムル。彼女だって、会いたくない訳じゃないんだ」

 

「……」

 

 リムルは苦々しく沈黙した。

 静江の気持ちは分からないでもない。だが、リムルも気持ちが抑えられないのだ。

 

「悪いが、ここまでだ。ご馳走様。また来るよ」

 

 カイは茶化す事なく、幻のように消え去る。静江も、後ろ髪が引かれはしたが、カイに付いていった。

 

「……」

 

 そこにはただ1人、リムルのみが寂しく残されるのだった。




 忙しさのしわ寄せを、本作に毎度押し付けてしまって申し訳ない。
 個人的には息抜きで書いているものでしてね。それで息を詰まらせちゃだめだろうと。そのせいもあって、割と設定はちゃらんぽらんなところもあったりね?
 つまり何が言いたいのかというと。
 本作を読む時は、頭を緩くして、辛い現実と切り離して読んでね☆
 あ、でも。文法的におかしい文章、誤字誤用などのご指摘は承っておりますので、ハーメルン様の誤字報告機能をお使いいただければと思います。
 そんな感じで、生温くお付き合いください。
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