転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霓霞霖

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第四十一話 幻想(ユメ)の終わり

「……」

 

 ギィは佇む。

 

 聖魔大戦は決着していた。それも、今後勃発する事がないだろう程に完璧な決着が収められていた。人類や魔物を裁定する大戦は、今後起こり得ないだろう。

 

 世界は今、未だかつてない繁栄を迎えていた。

 

 恐ろしいまでに技術を発展させていくリムル・テンペスト。技術発展の制限はなく、リムルが己の楽を得るために、配下や同盟者など、彼が使える力を総動員して、技術を発展させている。おまけに、それを独占せず、大盤振る舞いに他国へも提供していた。

 もはや、技術の進歩を止める者はないだろう。誰もが得をしているのだから。

 

 ただ、技術の発展だけで平和は得られない。立法、行政、司法から成る国家三権。それに世界の財政・貿易。それ以外にも数多く、世界を回すのには重要な歯車もしくは潤滑油が必要である。

 その辺りは、おもに神楽坂優樹が担当していた。

 担当と言っても、平和を脅かし得る国家問題へ介入する組織を立ち上げただけだが。もちろん、静江の監視下かつ日向の協力の下で。

 

 優樹はいわゆる、国際連合を立ち上げた。国同士の争いを事前に回避するための機関だ。地球のそれより、多少権力と実行力が強いが。

 直接的ではないが、優樹は能動的に世界の均衡を維持している。

 

 平和だ。どこまでも、いつまでも平和なのだ。千年王国もとい、千年惑星が誕生している。

 

「……」

 

 そんな平和の中、ギィは立方体の前で佇む。

 

 成人男性を囲んで余りある、真っ白な立方体。その面は、まるで時間が止まっているように不変であり、空間が途切れているように何モノの侵入も拒んでいる。

 まぁ、カイ・ヤグラが封印されているやつだ。

 

「……少し、思う事がある。この封印なら、いつまでも解けないんじゃないかと」

 

 それはギィでも解けそうにない、完璧な封印だ。

 だから、ギィは思ってしまう。

 カイとの約束を反故にして良いのではないかと。

 封印を壊すという約束を、なかった事にして良いのではないかと。

 

「……」

 

 ギィはその封印に手を触れる。

 このまま手を放し、何も見なかった事にして振り返れば。もしかしたら、あの魔王を留めておけるかもしれない。

 

「無理だな」

 

 そう、無理だ。この封印はおそらく、やろうとすればリムルか優樹が解ける。

 あの二人は世界に置いて最上級の存在だが、しかし、前例が生まれてしまった。

 今後、そんな最上級に至った者が、この封印を解かない保証はない。壊すだけだったらギィでもできてしまうのだ。

 なら、そんな最上級が、カイ・ヤグラを打倒し得る者が居る内に解かねばならない。

 カイ・ヤグラを、この世界から追い出さねばならない。

 そうしなければいけないと、ギィの本能が訴えかけていた。

 

「……」

 

 だから、ギィは壊した。正直、この封印を壊すのは簡単なのだ。

 停止した時間をちょっとでも進められたら。途切れた空間を繋げられたら。この封印は矛盾を起こし、矛盾が発生したその場を世界が修正しようとして、封印が壊れてしまう。

 そう、故に今その封印はまるで世界に吸引されるが如く、小さくなって消えた。

 

 消えたのだ、内容物も一緒に。本来なら、これで内容物も消え、全てなくなる。

 

「やぁ、ギィ・クリムゾン。良い夜だね」

 

 しかし、一瞬きもすれば、内容物が現れる。空間・時間の固定から脱したカイは、自身の死を逃避した(何事もなく復活した)

 

「……今は昼だ」

 

「いいや、夜だよ。こんな幻想(ユメ)を見てるんだからね」

 

 ギィが丁寧にも訂正してくれた言葉を、しかしカイは受け入れなかった。ただ不気味な笑顔を浮かべる。

 

「約束を守ってくれた、て事で良いのかな?」

 

「ああ。聖魔大戦は終わって、世界は落ち着いてる。リムル・テンペストも健在だ」

 

「そいつは上々。案外素直に守ってくれたんだね、僕との約束」

 

「さっさと用事を済ませて出ていけ」

 

 ちょっと喜んでいたカイはギィから素っ気なく返され、まぁいつも通りだと肩を竦めて喜びを払った。

 

「ま、確かに無駄な尺を使いたくはないね。僕も待ちきれないし。じゃ、どう転んでもさようならだ、ギィ・クリムゾン。もう二度と会う事はないよ」

 

「清々するな」

 

 ギィの本心から放たれた言葉に、カイは苦笑する。そしてそのまま、一瞬の後に幻想の如く消え去った。

 

「……本当に、清々する」

 

 自身の自身らしくない怖気を、ギィはそう吐き出すのだった。

 

◇◇◇

 

「……」

 

 リムルは見据える。真剣な面持ちで観察する、目の前の料理を。

 その料理は、この世界原産のサバに類似した魚類を、これまたこの世界原産の大豆に類似した豆で作ったミソモドキを用いて作った料理。

 簡単に言うと、サバモドキのミソモドキ煮。日本人の多くが愛しているだろうサバの味噌煮に頑張って似せた物である。

 見た目の再現度は申し分ない。しかし、味の再現度は食べてみるまで分からない。

 

「……いただきます」

 

 リムルは意を決し、箸で料理を摘まもうとする。

 

「突撃隣のサラリーマン飯!」

 

 そんなところへ、無駄に人間サイズのしゃもじを持ったカイが突貫してきた。

 料理を口に含む前で良かった。口に含んでいたら、リムルは驚きで間違いなく吐き出していただろう。

 

「か、カイ!?死んだはずじゃ!」

 

「封印されてただけだから、死んでた訳ではないよ?まぁ、封印壊す際に死んだんだけど、オールイズファンタジー(全部幻想)だからね」

 

 リムルの驚きに、カイは何処吹く風で彼の対面に腰を落ち着ける。

 

「そんな事より水臭いじゃないか。日本食モドキの試食なら僕も呼んでくれよぉ」

 

「いや、封印されてたんだったら呼べないだろ。いや、まぁ、来たんだったら試食してもらうけどさぁ」

 

 カイが食べる気満々なので、丁度もう1人分あるし、リムルは仕方なく配下にそれを持って来させる。持ってきた配下がいつの間にか訪問していたカイに目を瞠ったのは、この場では横に置いておこう。

 

「うんうん、サバの味噌煮って感じのサバモドキのミソモドキ煮だ。こういうので良いんだよ、こういうので」

 

「おっし、味も充分及第点だな」

 

 カイとリムルは故郷の味に舌鼓を打つ。カイは懐かしき故郷の味に感動を覚え、リムルはソウルフードの再現が着々と進んでいる事への達成感を抱いていた。

 2人は各々の思いと料理を確かに味わっていく。程なくして、お互い綺麗に完食した。

 

「……。なぁ、いつも通り質問して良いか?料理の対価って事で」

 

 リムルはカイに関して、とある疑問を持っている。この場がそれを質問するチャンスだと、リムルは逃す気がなかった。

 

「良いよ?今回は、時間の許す限りいくつでも答えてあげよう」

 

「いくつでも?なんでだ?」

 

 本筋ではないが、カイの言い方が引っかかったため、リムルは最初にその質問から始める。

 

「もう僕が何言おうが今後の出来事に影響を与えないからさ。ぶっちゃけ、転スラ(この)世界の事なら僕が居なくても君は知り得るだろうし。『智慧之王(ラファエル)』があればもう何でもできるでしょ。そいえば、その『智慧之王(ラファエル)』ちゃん、また何やら、進化?してるんだっけ?」

 

「まぁ、そうだな」

 

 リムルはカイへの解答を曖昧に肯定し、詳細には答えなかった。『智慧之王(ラファエル)』、いや、シエルについてカイが知っているのはリムルにとって予想外であり、リムルはカイへの警戒心を上げたのだ。

 情報収集に関しては『智慧之王(ラファエル)』にも引けを取らないスキルを持っているのだろうと、リムルは誤認する。

 

 とかく、最初の質問は終え、リムルは質問を本題へと移す。

 

「次の質問だ。この世界がお前の夢っていうのはどういう事だ?」

 

 カイがこの世界の創造主であるはずがない。

 それは、クロエから共有され、共有された皆が同意した共通見解だった。

 この世界の創造主であるヴェルダナーヴァと面識があるギィは、その創造主とカイが似ても似つかないという意見を示した。

 実際にカイの本気(と思わされているそれ)を垣間見たクロエは、しかし封印に抗えなかった事実から、創造主なら封印をどうにかできたはずだという意見を示した。

 静江も意見を示していたが、自身がカイさんのユメであってほしくないという感情論だったが、とりあえず彼女も見解は一致していた。

 

「誰から聞いたんだい?僕がそんな感じの発言したの。候補として、クロエと静江ちゃん辺りかな?」

 

「両方だ。で、どうなんだ」

 

 リムルは詰め寄る。逸らす事を許さない。曖昧にする事を許さない。

 何故なら、もしカイの発言が事実だった場合、リムルの目の前に居るのは気まぐれに世界を壊してしまうかもしれない、特級の危険人物なのである。

 そんな危険人物をどうするにしろ、事実確認をしなければ話は進まない。

 

「そうだね……。言ってしまうと、僕自身よく分かってないんだよね」

 

「……はぁ?」

 

 カイが躊躇の後に開示した答えに、リムルは拍子抜けというか、緊張していた空気を抜かれた。

 

「まずね、僕の認識としてはだけど。転スラ(この)世界は僕が作った世界だ。ヴェルダナーヴァが創造主って設定した上で、僕がそんな世界がない事実を逃避した(そんな世界を創造した)。だけど、世界全てを管理下に置けてるかって言うと、そうでもない。でも、置けてない訳でもないんだ」

 

 『転生したらスライムだった件』をほぼ忠実に再現し、そういう幻想を生み出した。その上で、カイがその幻想の中に入った。

 それが、カイの認識である。それで、世界を生み出すまでは都合の良し悪しなどないのでうまく言ったが、その世界を自由に操るなどの都合が良すぎる事はできない。『幻実当避(オールイズファンタジー)』とはそういうモノだ。世界自体が確立され、修正力を得てしまっている点も関わってくるだろう。

 

「そうでもないけど、そうでもない訳でもない?ちょっと待て。頭がこんがらがってきた」

 

「そう悩む必要はないよ、リムル」

 

 痛み出した頭を押さえるリムルに、カイはニッコリと微笑みかける。

 ただ、その微笑みは不気味で、リムルすら悪寒を感じる程だった。

 リムルすらもそうであるならば、リムルの配下がそうでないなどあり得ない。

 

「リムル様!!」

 

 だから主の危機と判断してすぐに駆け付けてしまった。

 特に、料理を持ってきてから嫌な予感がして近くに待機していた配下、シュナは駆け付けてしまえた。

 

「そうでもない訳でもない理由はすぐにでも証明できる。ほら、こんな風に」

 

 そう、シュナはしまった。しまえた。するべきではなかったのだ。

 

 だってそれは、最初の生贄になる行為なのだから。

 

「……え?……シュナ?」

 

 駆け付けたはずのシュナが、幻想だったかのように消え失せていた。

 もちろん、リムルの視界からだけではない。リムルのあらゆる感知から、シュナという個体は消え失せている。

 

「見ただろう?僕はこの世界の、どんな存在だって幻想(ユメ)だった事にできる」

 

 実行犯は、呆然とするリムルにただ微笑みかける。

 

「は、はは……。すげぇな……。すげぇ事は分かったからさ……。シュナ、返してくれよ」

 

「できないよ?」

 

 何処までも不気味に微笑みかける。

 

「だって、そんなの都合が良すぎるだろ?」

 

 その微笑みは、あの証明は、宣戦布告だ。

 

「カイ・ヤグラァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」

 

 リムルは、宣戦布告を受け取った。




 次回、最終回!の予定!!

あのー……ね。またなんだけど……。ちょっと投稿期限伸ばしても、良いかな?いやまぁ、うん。明日……うん、明日中にはなんとか投稿するからさ……。
 はい。
 申し訳ありませんが、投稿が少し遅れます。本当に申し訳ありません。(2020/6/13)

※一週間程失踪します。探さないでください。(2020/6/14)
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