転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霓霞霖

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第四話 悪いユメは続くもの

 カイは自分が『過負荷(マイナス)』であることを完全に受け入れた時、一つの願望が彼の中で生まれた。

 

「どうせ負けることが決まっているなら、文句のつけようもない完膚無き敗北がしたいよね!」

 

 『過負荷(マイナス)』という淀みそのもののような彼の中に生まれた、純粋な願い。運が介在したとしても、「それは相手の実力である」と言えるような、彼は負けを約束されているのだとしても、「自分は当然の結果で負けたのではなく、全力を尽くした結果、あと一歩勝利に届かなかったのだ」と言えるような、純粋な勝負を彼は望んでいた。

 

 故に、まず求める者は強者である。それも最低ラインとして、彼の『幻実当避(オールイズファンタジー)』に対抗できないまでも、何かしら打開策を持つ強力なスキルの保有者。彼自身が考えるところ、『究極能力(アルティメットスキル)』保有者がそれに当てはまる。

 

 彼としてはそういう者達と本気で戦いたいがために、それらを怒らせるような行動を取る。しかし、そういう者達というのは大概思慮が有る者であり、怒らせるのは中々に手間である。

 

「まぁ、ギィの方は怒らせたとしても全力は出してくれないだろうなぁ」

 

 『ギィ・クリムゾン』、この転スラ世界において最古にして最強の魔王。後に最強はリムルに渡すことになるだろうが、それでもこの世界の圧倒的強者である。そして、カイのギィとの本気戦闘(望み)は叶わないだろう懸念事項がある。ギィ・クリムゾンは『調停者』であり、魔王の役目を強く自覚している。『調停者』とはつまり、転スラ(この)世界に直接的に強い干渉をしないということ。彼はこの世界を舞台に、とある男とゲームをしているのである。そのゲームではギィはプレイヤーであり、駒こそ動かすが自らは動かない。そして「魔王の役目」とは、この世界の人間を増長せぬように抑える抑止力であるということ。彼はこの世界を見守ることを、とある竜と約束している。その約束により、彼はこの世界を壊そうとせず、敵対者は容赦なく殺すが進んで殺戮はしない。だからこそ、彼は傲慢であるものの、全力で戦闘することは無い。

 

「そういう意味ではルドラの方も無理だろうなぁ」

 

 『ルドラ・ナスカ』、もう一人の『調停者』。ギィとゲームをしている者であるために、こちらもいくら怒らせたところで全力を出してくれるとは限らない。そもそも彼は『真の勇者』ではあるが、徐々に衰えていることをカイは知っていた。戦いを挑むにしたら今かもしれないが、彼は上記以外の理由も含め、戦う旨みが無い。

 

「ま、全力勝負はリムルまでとっておこうか。今は『魔王』と認めてもらうために色々しなくちゃいけないしね」

 

◇◇◇

 

「というわけで。ミリムを怒らせるための生贄になってね」

 

「え?」

 

 出来事は正しく唐突。いきなり目の前に男が現れたと思ったら、なんの脈絡も文脈もなく釘が翼を持つ女性の胸に生える。理解するための材料も時間もないまま、その女性はパタリと倒れ伏した。

 

「ミリムって仲良い人が傷つけられたら怒るでしょ?僕が知る限り、この時期で一番親しいのは君なんじゃないかなって。まぁ!既に死んでる君に、今語る意味は無いんだけどね!」

 

 フルブロジアという有翼族(ハーピィ)の国で、絶命した女性に何が楽しいのか笑顔でカイは語っている。

 

「さて、さっさと行こうか。ああ、物的証拠は有った方が良いよねっと。うん!なかなか良い感触だけど重いね!」

 

 死体を米俵のように担げば、女性らしい豊かな膨らみを背中に感じてセクハラ発言。さらに女性に対して失礼な発言を重ねるわけだが、彼女が翼分人間より重いことを考慮してもカイの虚弱が大きな原因である。

 

「ま、箱にでも詰めておこうか。箱入り娘ってね。娘って年でもないか、生娘かもしれないけど」

 

 誰にも聞かれていないのを良いことに、無礼を重ね掛けて姿を消した。

 

◇◇◇

 

「やぁ!ミリム・ナーヴァ!」

 

「ん?なんだお前は」

 

 彼女の領地・失われた竜の都の付近。珍しく調子に乗って暴れていた魔人を、ミリムは暇つぶしにボコボコにし、今片手で吊るし上げて(とど)めを刺そうとしていた。そんなところに唐突に棺桶を引きずった男・カイが現れる。魔素が全く感じられない人間の登場に興味を示し、魔人への興味が完全に失せて下した。

 

「僕は『過負荷(マイナス)』、『八倉海(カイ・ヤグラ)』って言うんだ。よろしくね!」

 

「うむ?」

 

 ミリムはそんな不気味な笑顔を携えた男に違和感を覚えた。ミリムは魔人との戦闘の際に使ったエクストラスキル『魔王覇気』を継続中である。並の魔物が近くにいるだけで死亡し、上位の魔人ですら恐怖に怯むというのに、目の前の男はそれの影響を全く受けていない。

 

「ところでさ!君って『フレイ』って魔王と仲良かったりしない?ほら、『天空女王(スカイ・クイーン)』って呼ばれてる十大魔王の」

 

「ああ、最近新しく魔王になったフレイか!以前調子に乗ってるのを諫めに行った時から仲良くしているのだ!」

 

 ミリムが言う最近とはカイが知る限り百年以上前。千年以上生きてる最古参魔王の「最近」は信用ならない。

 

 カイはそれを指摘することもなく、少女の見た目に相応しいミリムの無邪気な笑顔に、怪しく口の端を吊り上げる。

 

「それは良かった!僕の努力が無駄にならずに済んだよ」

 

 カイは引きずっていた棺桶を無造作にミリムの前に放り投げる。地面に落ちた衝撃で蓋が開けば、その中の安らかに眠る釘を穿たれた女性があらわになる。

 

「フ、レイ……?」

 

「いちおう言っておくけど死んでるよ?」

 

 呆然と死体を見つめるミリムに言い放てば、見開いたその目がカイへ向く。

 

「僕がやった。僕がフレイを殺した」

 

 カイの笑顔に、罪悪感も、優越感も無い。ただにこやかに、愉悦を込めて笑う。次の瞬間には、大地が抉れていた。

 

「あっはっはっはっ、さすが『破壊の暴君(デストロイ)』!辺りが木端微塵だ!」

 

 ミリムが打ち込んだ拳は、カイが瞬間移動したせいで当たらなかったが、彼が立っていた場所を削っていた。カイがそれを笑って見ていれば、ミリムは即座にそちらへと拳を振るう。

 

「おっと、そうはさせ―――ないと言いたいんだけどやっぱり無理そうだね」

 

 地面からミリムの四肢を貫かんと釘が生えるが、残念ながらその釘は刺さること無く塵となる。止まらぬミリムの攻撃にまたしても瞬間移動で避ける。

 

 釘を塵にした能力をカイは把握していた。ミリムの究極能力(アルティメットスキル)憤怒之王(サタナエル)』である。そのスキルは「虚無崩壊」という純然たる破壊エネルギーを操作する。熱や電気など、余分なエネルギーを生み出さず破壊するだけのエネルギー。「破壊」という一点において、転スラ(この)世界にはそれに勝る力は無いだろう。故に、『絶対切断(ユニークスキル)』程度で切断される釘が、『憤怒之王(アルティメットスキル)』で破壊できないわけも無い。

 

「これは、あっはっはっ!」「すごいなんてものじゃないね!」「今の状態じゃあどうしようもないや!」

 

 何度も振るわれる拳。人間の身体機能では対応できず、ミリムの顔がこちらに動いた時に瞬間移動するようにしてようやく避けられるミリムの猛攻に現状打開策が存在しない。

 

「まぁ、そんな現実、僕が受け入れるわけは無いんだけどね!」

 

「む?」

 

 怒りにかられてひたすらにカイを殴ろうとするミリムの拳が、カイを囲むようにして生えた釘に止められる。

 

「ふん!」

 

 しかしそれも一度きり。加減を少し緩めれば、不壊はまた破壊へと変じる。

 

「ぐっ」

 

 壊した釘の先、カイの左肩を捉えて消し飛ばしたが、代わりにミリムの左肩を貫く釘が一本。

 

「まずは一本だ」

 

 片や左肩が消滅し、片や左肩が刺されただけ。明らかにカイの方が負傷しているのに、カイは一切それを意識せず笑顔を浮かべ続けていた。だが、その不気味さに気圧される『破壊の暴君(デストロイ)』ではない。ミリムは釘を握るカイの右手を逃さず掴む。

 

「お前に次など無いのだ」

 

「あ、これはミスっ―――」

 

 ミリムの周囲にカイは熱気を幻視する。それは残念ながら熱気などではなく、虚無崩壊だ。

 

「……」

 

 ミリムは自分を中心にしてできたクレーターを見回し、カイが肉片すら無いことを確認する。

 

「いやぁ見事見事。さすがに今のは僕の残機が持っていかれたよ。まぁ!残機無限なんだけどね!」

 

 クレーターの外からパチパチと拍手を送るカイ。相も変わらず笑顔である。ミリムはすかさず拳を見舞おうと動く。

 

「ミリム!ストップ、ストーーーーップ!」

 

「……フレイ?」

 

 止めた拳の先には、カイに盾にされた傷一つないフレイが居た。

 

「いったいどういうことなのだ?」

 

「私が知りたいわよ。突然この男が現れたと思ったら、気を失って。目が覚めたら怒ってるミリムの前なんて、悪夢以外の何物でもないわ」

 

 拳を振るった体勢のままに混乱するミリムと目の前の拳に冷や汗をかくフレイ。両者には現状が把握できない。

 

「お前は、何をしたのだ?」

 

「何を言ってるんだか全く分からないな。幻想(ユメ)でも見てたんじゃないかい?」

 

「「夢……?」」

 

 ミリムがフレイの後ろに隠れるカイに問いかければ、カイは白を切る。しかし、カイの言う通り夢でも見ていたような状況のために、ミリムとフレイは首をかしげるしかなかった。

 

「さて、体消し飛ばされたんだから負けを認めるとして。そろそろ僕は行くよ」

 

 フレイを放し、にこやかに手を振る。この後「じゃね、バイビ」と言って幻想のように去るのが彼の定番だが、今回はそううまくいかなかった。

 

「ん?あれ?」

 

 腹部に違和感を覚えて見てみれば、身に覚えのない風穴が空いていた。それを見て思い出したかのようにカイは吐血する。

 

「これほど暴れたんだ。逃げられると思うなよ」

 

 声の方に顔を向ければ―――

 

「ああ、これはまずいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の友人たちに喧嘩を売ったんだ。覚悟はできてるんだろう?」

 

 赤い髪の悪魔が立っていた。




 「鉄は熱いうちに打て」と言う。私もインスピレーションがある限り書くべきとは思いますが、本作の執筆が思った以上に面白くてですね。他の執筆が遅々として進まない。「編輯人」の方どうすんだよってね。

 まぁ、本作のみの読者には全く関係ない話ですね。では本作の話。

 ボスラッシュはラスボスの介入により中断されました。八倉くんとして全員と戦うつもりは無かったのですが、それにしてもラスボスが不意打ちしてくるとは思ってなかったわけです。八倉くんの明日はどっちだ。というか何処だ。
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