転スラ~最弱にして最凶の魔王~   作:霖霧露

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※オリキャラが出てきます。注意してください。

「でも安心してね!一話限りのモブだから!」


第六話 力無き夢は正しくユメでしかない

 カイが『転生したらスライムだった件』の世界に転移した理由、その本命にあたるモノは「全盛期のリムル・テンペストと全力の勝負をして、完膚無き敗北をすること」である。しかし、あくまでそれは本命であり、他に自分の欲望を満たしてくれる者が居るのならば浮気するのもやぶさかではない。それに、リムルが全盛期を迎えるのは今からおよそ300年後である。極上の御馳走が約束されているにしても、辛抱強く待つには長すぎる時間である。故に、カイは間食に手を出してしまった。

 

「300年も絶食してたら、さすがの僕も餓死しちゃうよ。まぁ!餓死なんて現実は受け入れられないんだけどね!」

 

 カイの間食。それはつまり、「強者との戦闘」である。と言って、彼が心の底から求める『強者』が畑からとれるわけでも無い。仕方が無いのでしばらくは間食と割り切り、ある程度強い者で我慢して的を絞ることにした。

 

 カイが標的にした「ある程度強い者」は、「勇者」や「魔王」と自称する者達である。もちろん実力を加味し、後に『勇者の卵』や『魔王種』となる可能性を持つ者を選別した。

 

 そうして始まったカイの間食を止める者は居ない。魔王達は止める意味が無い。敵対者の芽を摘み取ってくれるのだから、利益こそあれ被害は無い。それに、「触らぬ神に祟り無し」である。人類は未だ脅威に感じていない。被害に遭っているのは名が売れ出した冒険者であり、その冒険者たちも冒険業を廃業するだけで人的被害も物的被害も無い。だが、いずれは誰かが察するだろう。『八倉海(カイ・ヤグラ)』という魔王が、着実に人類の力を削いでいることを。

 

「僕としては全くその気は無いんだけどね。全く、勝手に悪者にするなんて酷い話さ。まぁ、今は関係無いからどうでもいいや。さぁ、続きを始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「『約束された(エクス)勝利の剣(カリバー)』ーーーーーー!!」

 

 男が上段から剣を振り下ろせば、魔素がビームのように放たれる。男が持つユニークスキル『騎士王』による「魔素放出」と伝説級(レジェンド)武器である剣の特性・「魔素集約」によって行使できる技である。眩い光の斬撃はその男が憧れるFateのアルトリア(本物)のそれに及ばないまでも、有象無象の魔人なら葬れる威力を持っていた。

 

「はぁ、はぁ……。どうだ、これが俺の、勇者アーサー・ペンドラゴンの力だ!」

 

 男・アーサーの呼吸は荒く、精神は憔悴しているが、それでも自らの憧れる姿を遵守するために憧れにしがみ付き、毅然に立っていた。

 

「ははっ、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』に「アーサー・ペンドラゴン」ね。あれかい?「同一化」ってやつかい?」

 

 カイはアーサーの前で不気味な笑みを浮かべていた。片腕が切り落とされ、切断面は先程のビームの熱に焼かれていたが、苦痛に顔を歪めることは無い。

 

「っ!ど、どうしてっ!?」

 

「「どうして」って言われてもなぁ。四肢欠損くらいは割と日常茶飯事だし、この程度で倒れるなんて現実を僕が受け入れるわけが無いだろう?」

 

 アーサーにはこの現状もカイの言葉も理解できなかった。アーサーの剣はことごとく魔物を屠ってきた。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』はその中でも窮地に陥った時に使う必殺の技である。これを放った後に立っていた敵は居ない。彼の自慢の技であり、彼の自信そのものだった。だが、目の前の魔王は生きている。アーサーは「この技ならば魔王も倒せる」と考えていた。だから理解できなかった。

 

 アーサーはカイにその答えを求めた。しかし、返ってきた答えは無茶苦茶だった。四肢欠損が日常なんて意味が分からないし、「現実を受け入れなかったから立っている」ととれるその発言はわけが分からなかった。だから理解できなかった。

 

「ねぇねぇ次は?君は「アーサー」なんだろう?まだ何か有るよね?今度は『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』かな?それとも『十三拘束解放(シール・サーティーン)』?」

 

「ひっ、く、来るなっ!来るなぁ!」

 

 悠然と歩く隻腕のカイの姿はアーサーを恐怖させた。自身と同じ人の姿をしているそれは、自分の理解の範疇に無いことを理解して狂気に怖気づく。恐怖で震える体には力がうまく入らず、今までの剣の冴えが素人のそれにまで落ちてしまう。

 

「おいおい。刃物をそんな雑に振り回しちゃダメじゃないか。……ほら、こんな風に、中途半端に刃が止まっちゃった。背骨って結構固いんだよ?」

 

 振り回した剣はカイを捉えるも、技術も何もない剣は胴体から刃を割り込ませ、背骨のところで止まってしまう。しかし、カイの歩みは止まらない。

 

「う、あ……っ」

 

 恐怖のあまり剣を手放す。少しでも早くその恐怖から逃げようと足を動かせば、震えた脚は小さな地面の隆起に引っ掛かり、アーサーは尻もちをついてしまう。

 

「ねぇ、「アーサー」君?君は他人から名前も技も借りて何がしたかったんだい?」

 

 カイは屈んで視線の高さを合わせ、「アーサー」に問う。

 

「お、俺は。こ、今度こそ……。英雄みたいに、なれると……」

 

「ああ、転生してすごい力を得たからね!「英雄になれる」って思っちゃったわけだ!でもさ、なんで英雄になりたかったんだい?」

 

「え……?」

 

 男は呆然とする。男は今までそんなことを深く考えたことが無かったのだ。

 

「物語の主人公になりたかったから?意味のある人生を生きたかったから?みんなにちやほらされたかったから?モテモテになってハーレムを作りたかったから?前世の鬱憤を晴らしたかったから?「俺tueee」を楽しみたかったから?」

 

 不気味な笑顔の追及に、男は冷や汗をかき続ける。浅ましい自分の欲を見透かされているようで、悪寒を覚える。

 

「どうして?生きるためには英雄になる意味なんて無いのに」

 

「意味なんて、無い……?」

 

「そう、意味なんて無いんだよ。今日と明日の分、着る服と食べる物と住む場所が有ればいいんだから。「英雄」なんて危険だし面倒くさいことするより、農家の方がよっぽど安全で生産性が有って良いと思わない?「英雄」なんて、意味が無いよ」

 

「意味が、無い……」

 

「そう、意味が無いんだ」

 

   「他人のためになることも」

 

 「他人に褒められることも」

 

「他人にちやほやされることも」          

 

  「他人に好かれて囲まれることも」

 

「自己実現欲求を満たすことも」        

 

    「尊厳欲求を満たすことも」

 

      「英雄になることも」

 

        「英雄に憧れることも」

 

         「夢を見ることも」

 

「だって!オールイズファンタジー(全部幻想)なんだから!」

 

 皮肉で不気味な笑顔のカイが、男には真理を説く賢者に見えた。

 

「ああ。そう、だな……。全部、幻想だったな……」

 

 男は項垂れる。男は、全てが幻想であることに気づいてしまった。

 

「おはよう。良い幻想(ユメ)見れたかい?」

 

「ああ。「英雄になれる」なんて夢を、見ていたよ……」

 

 カイの顔を真っすぐ見る男の目は、(ひかり)を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「はぁ……、今回も期待外れだったなぁ……」

 

 カイは徒労に肩を落とす。

 

 これで何人目か覚えていないが、少なくとも二桁の戦闘回数に二桁の年数を費やした。しかし、ただの一度も()が満ちない。間食なのだから小腹くらいは満たしてほしいものだが、それすら叶っていなかった。

 

「う~ん、モブキャラじゃやっぱりダメかなぁ……。でも十大魔王と戦うのも良くないしなぁ。レオンってもう来てるんだっけ。来てても『真の勇者』になるまでしばらくお預けか……」

 

 『真の勇者』となる『レオン・クロムウェル』の存在に期待するが、それもまだ先の話であることに気づいて落胆する。

 

「はぁ……。良い感じの子を見つけても少し我慢すべきかもねぇ。うん、少し間食はお休みしようか。その間は世界漫遊でもしてようか!世界のB級グルメ食べ歩きだね!」

 

 カイは意識を切り替えて街道を歩く。

 

「ん?」

 

 カイは向かい側からこちらに歩み寄る人影を捉えた。

 

「よ、よう」

 

 人影の正体は『十大魔王』の一柱、『眠る支配者(スリーピング・ルーラー)』ディーノだった。

 

 ディーノは仕事をすることとカイに話しかけることの倦怠感を隠さず片手を上げる。

 

「ディーノ?どうしたんだい?君は働かないことで有名じゃなかったのかい?被らないようにしてるキャラを自ら崩すなんていったい何が有ったんだ。そんなんじゃ『眠る支配者(スリーピング・ルーラー)』の名が泣いてしまうよ?「眠る」なんて名前を冠してるんだから、の〇太(居眠り少年)並みに眠ってなきゃ」

 

「はは……、お前は相変わらずって感じだな……」

 

 カイの怪電波に、ディーノの頭痛を感じるとともに気怠さが増す。彼は「できる限りカイに関わりたくない」とは思っているのだが、それでも『仕事』は(こな)さねばならない。

 

「何か僕に話したいことが有るんだね!いいよなんでも話して!面白い話だったら十大魔王全員に広めるから!」

 

「口を閉ざすって気はねーのかお前は!あーもうチクショウ!」

 

 真面にとり合っていたら頭がおかしくなることを察したディーノは、頭を掻きむしりながら「早く用件を済ませてしまおう」と考えた。

 

「お前は何で勇者候補や魔王候補をつけ狙ってるんだ?お前の目的は、いったい何なんだ」

 

「そんなに疑問に思うことかい?魔物だったら「強い人と戦いたい」って思うのは不思議じゃないだろう?まぁ、僕は魔物じゃないんだけどね」

 

「そこが一番問題なんだよ。どんなスキル持ってるのか分かんねぇが、お前が人間であることは確かなんだ。その人間が、どうして『魔王』になりたがった。どうして強い奴と戦ってる」

 

 カイはどうにもディーノの様子に違和感を覚えて考え込む。ディーノはその称号が表す通り、不真面目で怠惰な魔王だ。実力は確かであり、危害を加えてくる者には容赦しないが、危害が無ければ何もしないはずなのである。しかし、目の前のディーノは何か義務感で動いているように感じられる。

 

「……ああ!『監視者』か!」

 

「なっ、お前!どこでそれを!」

 

 カイが思い当たったことを口にすれば、ディーノは今までの気怠さなど吹っ飛ばし、焦りによって捲し立てる。

 

「大丈夫大丈夫。安心していいよ、ディーノ。僕独自の情報網ってやつさ。他の人には多分バレてないし、僕からバラすこともしないよ。僕は君の仕事を邪魔したりしないさ。そうすると、僕の目的も達成できないからね」

 

「お前、いったいどこまで知ってやがる……」

 

「「何でもは知らない()、知ってることだけ」。なんてね」

 

 カイの不気味な笑顔をディーノは睨みつける。

 

「全く、ずいぶんと疑り深いなぁ。そんなに睨まなくてもほんとに邪魔しないって。君の主は強い人だろう?僕は強い人と全力で戦いたいのに、君の主を邪魔する意味なんて無いじゃないか。君の主が全力で戦えるようになるまで、僕は「東の帝国」に手出ししないよ」

 

「……信じていいんだな?」

 

 ディーノは「東の帝国」というワードまで出てきたことにカイがかなり深く知っていることを理解しつつ警戒心を強めるが、カイの様子から「嘘はついていない」と考えた。

 

「そんなに疑うんだったら、全力で僕を、排除するかい?」

 

「い、いや、よしとくよ……」

 

 背筋すら凍えるようなカイの気味の悪い雰囲気にディーノは気圧されて後退った。

 

「そうかい?()()()()()()()

 

 ディーノにはカイのその台詞が意味深長に聞こえた。が、どういう意思が込められていようが、カイと今すぐに敵対する気にはなれなかった。できる限り関わりたくもなかったが、「それでもいつか処理しなければならない危険人物」と考えた。

 

「そろそろ僕は行くよ。しばらくは候補狩りも止めるんだぁ。その間は世界B級グルメツアーさ!世界のグルメが僕を待っている!」

 

「……」

 

 ディーノは街道を沿って歩くカイをただ見送るだけだった。




 「アーサー・ペンドラゴン」は普通に現代のオタクが転生してチートで暴れようとした一般人です。彼はカイに心を折られた後、農家になって未来の農学を用いて百姓貴族になったりするけど、それはまた別の話( ˘ω˘ )
 カイの「それは良かった」発言ですが、あれは主要人物の心を折らずに済むというので安心してるだけです。

 現在更新ペースはどうしようか悩み中です。アニメ始まるまでゆっくりしたい感はあるので。とりあえず、二週に一度くらいのペースで様子見ようと思います。更新日は日曜日です。

 

「みんなも、「ゆっくりしていってね!!」なんてね」

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