声が聞こえた気がした。だが、その声の正体を確かめる暇もなく俺の視界は光に包まれてしまった。足元の感触が変わる。靴の裏から伝わる無機質な感触から土や草を踏んだ時の少し柔らかい感触に。風が変わる。エアコンの少し寒すぎるほどの風から少し乾燥した熱を持った風へと。そして光の終わりに俺が最初に見た光景は辺り一面の草原だった。
理解が追いつかない。確かに俺は今までカルデアの部屋にいたはずだ。なのに何故俺は今こんな場所にいるのだろう。足を踏み出そうとした瞬間に不快感を感じ、足をついてしまった。その時俺の耳を何かが近づいてくる音を聞き取った。人間にしては速すぎるが、かといって自動車のようなエンジン音ではない。その音の主は俺の目の前で立ち止まった。視界がグラグラとして落ち着かない、音の主は何かを言っているようだが俺には今それを聞き取れるほどの頭を持ち合わせていなかった。そのまま俺の意識は先ほどの光とは違う暗闇の中へと落ちていく。意識を手放す直前に俺の体を抱えられたような気がしたが、どこまで本当かは今はまだわからない。
「起きなさい。焼き討ちよ!」
声が聞こえて俺は反射的に飛び起きた。俺は声の主を見ると1人の少女が俺の前で腕を組んで仁王立ちをしていた。
「あら?この一声で起きるってことは焼き討ちの経験があるってことかしら。もっともその様子じゃあする方じゃなくてされた方なんでしょうけど」
肩より少し伸ばされたくらいの金髪に青色の瞳の活発そうな女の子だ。年は俺と同じくらいのように見える。
少女はうっとおしそうに俺を見るとその横にも目を向けた。
「その女にもあなたを見習ってほしいものね」
俺はその視線を追うと、そこにはまるで死人のような白い肌に白髪の少女が藁の中で死んだように倒れている。肌は青白いが健康な証のように胸が規則正しく上下に揺れている。どうやら眠っているようだ。
「まったく……こんなときによく呑気に眠っていられるものよね。オルレアンではねえさ…ジャンヌダルクが蘇って復讐をしに地獄から戻って来たなんて言われているのに」
この少女は一体何をいっているんだ?ジャンヌダルク?かの聖女は確か何百年も前に殺されているはずだ。
「待ってくれ。君は一体何をいっているんだ?ここは一体どこなんだ。」
「何って?あなた今のフランスにいてまさか竜の聖女の噂を知らないの?」
理解が追いつかない竜の聖女?フランス?俺は確かにそう聞いた。
「ああもう!頭でも打って記憶が飛んだの⁈そんなに信じられないならこの蚊帳の外を見てくればいいじゃない!」
そう言うと少女は俺の腕を掴んで無理やり立たせると光の漏れている扉まで俺を連れていった。
俺の目に飛び込んで来たのはのどかそうな村の風景。最中は村人たちが各自の仕事をせっせとこなし、忙しそうに働いている。だがどの人を見ても然りに上空に目を向けては目をそらしを繰り返している。俺も彼らと同じように上空に目を向ける。
そして俺は限界まで目を見開き
「なんだこれは…」
そう呟いた。そこには青い空に白い雲なんてありふれた光景は広がってはいなかった。そこにあったのは太陽の他に白く光る光帯。そしてその下を翼が生えた竜のような生物が飛び回っていた。
「私たちはあの竜をワイバーンって呼んでるわ。ワイバーンは直接私たちに何か危害を加えてくるようなことはないけど、村を出入りする人間がいると必ずその人の元まで降りて行くの。そして何かを観察するようにしっかりと見た後はまたああして飛び回っているのよ」
開いた口が開かないというのはまさに今の俺のような状態を言うのだろう。俺は側から見たらとんだ間抜けづらを晒していただろう。
「まあ、そんな風になるのも仕方ないわね。あのワイバーンたちがこの村に来たのが2日前。あなたがここに運び込まれて来たのは3日前。早くここに運んできてくれた父さんに感謝するのね。じゃないとあなた。あのワイバーンたちに噛みちぎられていたかもよ」
そう言いながらも少女の目はワイバーンたちを睨みつけていた。
俺と少女は小屋へと戻ってきた。
俺は小屋の中で俺の話をした。俺がカルデアという場所から来たということ。気付いたらいつの間にか草原で立ち尽くしていたこと。だが流石に俺が英霊の力を使えることやカルデアがどんな機関かは伏せておいた。俺の突拍子もない話を少女は真剣に聞いてくれた。
「驚かないのか?」
「まあ今はワイバーンが空を飛んでるような世の中だからね非日常になれたってとこかしら。それにあなたはどう見てもフランス人の顔立ちではないしね。東洋の人かしら?」
感覚が麻痺したということだろうか。
「そういえばまだ自己紹介をしていなかったな俺は衛宮士郎。士郎って呼んでくれ」
「私はカトリーヌよ。そう呼んでちょうだい士郎」
俺たちが互いに自己紹介を終えると何やら鐘のなる音が聞こえる。
「父さんたちが帰って来たのかしら!」
そう叫ぶとカトリーヌは俺のことを忘れたかのように小屋を飛び出してしまった」
父親はどこかに出稼ぎにでもいっているのか?なんて俺が考えていると呻き声のような声が聞こえた。
その声はさっきまで俺が寝ていた藁のベッドの横から聞こえてくる。
声の正体は薄い藁束の上に寝かされた少女だった。年齢は俺と同じくらいだろうか。顔の若さに似合わない白髪に黒を基調とした洋服で全身を包んでいる。もちろんそこには鎧などの防具はない。ただの布の生地でできた胸部の起伏をみて発育は良い方だと確認する。
少女の顔は苦悶に彩られ聞き取れないほどの小さな声で何かを喋っている。
何度か声を上げた後、少女は急に飛び起きた。
俺のことなどまるで見えていないかのようにふらついた足取りで扉へと一直線に向かって行く。扉までの短い距離を少女は必死に目指す。だが体勢を崩し藁が舞い上がった。
俺はハッとして少女を助け起す。
「まだ起きたばかりなんだそんなにすぐ動かない方がいい」
俺はそういって少女の肩をしっかりと掴んだ。そこには青い肌には似つかわしくないほど熱い体温が俺の肌に返って来る。
「放して!私は、私は!」
少女は俺の手を振りほどくように激しく体を動かす。そして目があった。少女の瞳は金色に輝いていた。
そして少女も俺をしっかりと確認すると
「あなた英霊よね………」
俺はまるで心臓を掴まれたようにどきりと大きく心臓が動いたのを感じた。
「あなた英雄様なんでしょう?だったら…だったら私を私を助けてよ!」
そう叫んだ少女はまるで燃える炎ようだった。
読んでいただきありがとうございました。
今回の話を見てもらった方にはわかるかと思いますが、これから先は本編fgoとは全く違った角度から物語を進めていきます。これまではリッカやマシュと一緒にオルレアンを攻略し、ローマを巡りオケアノスを渡りといったようにfgo本編に美遊兄を足したような物語にしようと思っていたのですがfgoの物語を見返して行くうちにここにこの英霊がいたら、ここでもっと敵が強くなっていたらなんてことを考えていたらこれまで考えていた構成がまるごと吹き飛んでしまいました。
なので、今回の話からなるべく早くお話を上げていきたいと思うので今後ともよろしくお願いします。
長文失礼しました。