今回はいつもより長めになっております。
それではどうぞ
「ほら!早く立ちなさい!あいつが敵を引き付けている間にここから抜け出すわよ!」
「でもあの人は⁈」
「あいつも英霊の端くれみたいなもんよ。あの程度の修羅場ならきっとくぐり抜けるわ。」
ジャンヌはカトリーヌを無理やり立たせて士郎が飛び出した扉へと素早く移動する。
開いたままの扉から少しだけ顔を出して周囲の状況を手早く確認する。
「今ならワイバーンもいないし行けるわね。走るわよ!」
ジャンヌはカトリーヌの手をぐっと握り走り抜ける。その手は今まで握られたどんな手よりも力強くそして冷たい手だった。カトリーヌはその掴まれた手をずっと見ながら走り続けていた。
ジャンヌはワイバーンの目を村に点在する家を隠れ蓑にしながら移動を続ける。
そして、遂にジャンヌたちは村の出入り口までたどり着いた。
カトリーヌの息は上がり握った手の脈は激流の川のように早い。
これ以上彼女を連れて行くのは不可能だと判断してジャンヌは、
「あんたオルレアンの場所は分かる?」
「ええ、何度かお父さんと一緒に行ったことがあるわ」
「そう、どの方角にあるかだけ教えなさい。私はそこにいるやつに用があるのよ」
「オルレアンへはこの道を歩いて行った先にあるわ。でも、あの人にそれを教えなくていいの?」
「いいのよ。あいつはあいつのしたいことをするためにあそこで飛び出した。なら、私だってやりたいことをするだけよ。」
カトリーヌは色白の女性を見上げるが、彼女の目には本気の炎が宿っているように見える。まるでいつか見た姉の瞳に似ているような気がした。
「なら、私も行くわ!」
「はあっ⁈あんた何言ってんのよ。私は今まであんたがやってきたような家事をする感覚でオルレアンに行くんじゃないの。正真正銘の殺し合いをしに行くのよ。あんたの出番じゃないわ」
「それは分かってるわ。だけど私のこの気持ちは決してお遊びなんかじゃない。私もあの場所に行きたいのよ!」
ジャンヌは少女の瞳に覚悟でもない錯乱でもない確かな何かを見た気がした。きっと彼女にも譲れない何かがあるのだ。
おそらくここで無理に引き離しても彼女は付いてくるだろう。そう判断したジャンヌは重いため息を吐く。
「足手まといになるようなら容赦無く切り捨てるから。精々足を引っ張らないでよね」
「そっちこそ町の方向もわからないんだからちゃんとついてきてよね」
お互いを睨みつけながらも彼女たちは不敵に笑いながら一歩を踏み出す。その時だった。
「まさか1番初めに見つけたのが余になるとはな」
その声は頭上から響いていた。聴いただけで品格のある者だと分かる美声の持ち主だ。だがその声にはどこか狂気じみた圧を感じる。
そしてジャンヌの背筋に悪寒が走った。これは以前にも受けたことのある感覚。オルレアンで自分の腹に手を突き刺されたあの時と同じ死の感覚。
ジャンヌは何も言わずにカトリーヌを抱え横に転がる。その瞬間今までカトリーヌとジャンヌが立っていた場所に杭が出現した。
いや、正確には生えてきたのだ。
「ほう、今の攻撃をかわすとはサーヴァントもどきとはいえ死線の感覚はあると見える。」
「サーヴァントっ!」
「そう、余はサーヴァント。ワラキアの主であり、串刺し公とも呼ばれた者。余の真名はヴラド・ツェペシュ。ヴラド三世などと呼ばれることもあるが好きに呼ぶが良い。これから死ぬお前たちへの手向けに我が真名をくれてやろう」
「あんたは下がってなさい!これから先は私の戦いよ!」
「わ、分かったわ」
ジャンヌはカトリーヌを自分の奥へと追いやった。百パーセント安全とは言い切れないがそれでも彼女が死ぬ確率は少しは下がっただろう。
「はん!ワラキアの主人だかなんだか知らないけどここはフランスよ。国を間違えてるんじゃないのおじさま」
「よく言った聖杯の器よ。生前であればお前のその啖呵が我が軍を鼓舞したことだろうが、生憎今は死後の身。余はお前の残りの聖杯だけを奪うとしよう。」
両者がにらみ合いその激突を一人の少女が見守る。そしてその少女の額から汗がこぼれ落ち、地面に静かに落ちた。
それが合図だった。ジャンヌは簡素な服から鎧を着込んだ姿へと変化させ、旗を振りかざして男へと襲いかかる。
ジャンヌは旗を上段に構えて思い切り振り下ろす。ヴラドはその振り下ろしをただ片手をその軌道上に置くことであっさりと旗を受け止めた。
「ふむ。どうやらお前の能力はかなり退化しているようだ。大方聖杯を抜き取られた影響だろうが、何ともか弱き力よ。貴様の力が万全であれば、かの聖女にすら匹敵するほどの力があったであろうに」
そう言うとヴラドは旗ごとジャンヌを近くの岩へと叩きつけた。
その衝撃にジャンヌの肺から息が全て奪われる。
「せめて一息でそのか弱き命を絶ってやろう」
ヴラドは優雅な所作でジャンヌへと歩み寄っていく。
そう、これこそがサーヴァント。人外の力を手にし一つの軍隊すらも一瞬で薙ぎ払ってしまえるほどの圧倒的な力の象徴。
その光景にカトリーヌは息をするのを止めてしまっていた。
さっきまで一緒に話していた相手が一瞬のうちに消えてしまったのだ。少女の瞳に絶望の色がちらつく。自分もこうして何もできないままに殺されてしまうのだという未来の光景を想像してしまえる。
ヴラドは遂にジャンヌの目の前に立った。その手を手刀の形にしてジャンヌの心臓をえぐりとらんと振り上げる。
だが、その手が血に染まることはなかった。
「舐めんじゃないわよ!」
その声とともにヴラドの目の前に炎が立ち昇った。
ヴラドは一歩後退しその炎を生み出した主を見据える。
だがその炎は彼を逃さない。炎はヴラド本人を囲みそしてヴラドを火の海へと包み込んだ。
ジャンヌは叩き込まれた岩を背にしてヴラドに炎を放ったのだ。
「私はあんたなんかを相手にしてる場合じゃないのよサーヴァント!。私の邪魔をするって言うんならそのよく回る舌を引きちぎって灰も残さず焼き殺すわよ!」
精一杯の強がり。彼女は今の一撃だけでかなりのダメージを負ってしまった。
しかし彼女は吠える。自分を見ている少女がいる。きっと彼女は私がまだ戦えると信じている。ならば私はここで立ち上がらなければならない。
その信頼に応えてみせてこそのジャンヌ・ダルクなのだから!
「再度の啖呵見事である。だが余を殺すと言うのならあと二手たりぬ。」
その声は未だ燃え続ける大地から響いてきた。そしてその炎をかき消すように大量の杭が炎をかき消す。中から出てくるのは軽い火傷の痕すら見つけられないヴラドの姿だった。
「化け物めっ………」
「貴様が本気で余を殺すと言うのなら、余もこの槍を紅蓮の乙女の血で染めるとしよう」
ヴラドは槍を構え一直線に突っ込んでくる。それをジャンヌは旗を斜めに構えることでその一刺しをなんとかずらす。その一撃は背にした岩を砕く。
………なんて重い一撃!
「今のを防ぐか、面白い。ならばこれならばどうだ!」
ヴラドは槍で旗を持ったジャンヌごと打ち上げる。
「空中では何もできまい!」
ヴラドは空中に向かって大量の杭をジャンヌを追うように打ち上げる。ジャンヌはその杭を時に壊し弾き逸らして防いでいく。だがその猛攻は止まらない。遂にジャンヌの旗を一本の杭が弾き、ジャンヌの腹に杭が突き刺さった。
そして高く高く打ち上げられたジャンヌは杭の消滅とともに地面へと叩きつけられる。
まるで腹のなかに炎が生まれたような熱にジャンヌはうめく。上手く息ができない。吸い込んだ息が肺に入って行かずにその直前で口元へと溢れ出してくる。
「まだ倒れられない………!ここで倒れるわけにはいかないのよ!」
それでも彼女は立つ。ここで倒れるわけにはいかない。私はまだ何もしていないのだから。
その姿は他者から見ればただの時間稼ぎ。だが、ヴラドの目には目の前に立っている少女の瞳はまだ死んでいない。ならば彼も力を緩める道理などはない。
「ほう。腹に穴を開けられてなお余の前に立つか。ならばその姿に免じて余の宝具を開帳してやるとしよう。」
ヴラドは少しずつ歩を進め遂に彼の必殺の領域に彼女を捉えた。
「恨むのならあの男に力を奪われた貴様の無力とこの私に出会ってしまった不運を恨むがいい。」
ジャンヌの目にはもうほとんど光は写っていない。だがそれでもなおその旗を掲げる。まるで自分は折れないことを証明しているかのように。
「見事!我が杭によってその乙女の矜持を貫こう!『極刑王|カズィクル・ベイ|』!」
ヴラドは勢いよくその槍を地面に突き立てる。それを起点にするように無数の杭が地面から勢いよく突き出てジャンヌに迫る。
その瞬間ジャンヌの脳裏に浮かぶのは二人の顔。一人はそこで私を見ているうるさい女。そしてもう一人は私のことを助けられるかも、なんて言っておきながらワイバーンに突っ込んでいった馬鹿なあいつ。
「私の盾になるんじゃなかったの?………あのバカ」
私は最後にそんなことを呟いて目を閉じた。
だが、いつまでたっても私を痛みや熱が襲って来ない。
恐る恐る目をゆっくり開けていく。
私の目の前には紫に輝く大きな花弁がいつの間に現れていてヴラドの宝具を止めている。
「ごめん。待たせた」
そして、その花を支えているのが私が最後の最後に思い出したあのバカ。
「遅いのよ、士郎」
ありがとうございました。
今回は弱体化したジャンヌとサーヴァントの差を表現した回でした。
サブタイトルはジャンヌの折れない心を表現できたらという思いでつけさせていただきました。
いつもより長くなってしまったかもしれませんが楽しんでいただけたなら幸いです。
次回は彼とヴラドの戦いとなります。
なるべく早く更新するので応援していただけると有り難いです。
それではまた次回