俺はこの時知らなかったのだ。俺がいるこの村がジャンヌダルク生誕の地であったということを。
もちろんお婆さんの言うジャンヌダルクは俺と一緒に戦った彼女ではない彼女はあくまでジャンヌダルクの姿を借りたただの女の子だ。今となっては聖杯からの情報提供によるジャンヌダルクの記憶などもほとんどわからないだろう。
それに死んだ人は生き返らない。それは全てのものに共通の理なのだ。今この時代に英霊としてのジャンヌダルクが召喚されたとしてもそれはあくまで人類史に刻まれたジャンヌダルク。彼らと共に過ごしたジャンヌとは些細な差かもしれないがズレが生じるだろう。
だから………
「いや、そんな噂は聞いたことがないな。ジャンヌダルクの噂っていうのはどんなものなんだ?」
俺は嘘をつく。
「あの子が自分と主を裏切った大罪人どもを地獄の業火で燃やしているって話さ。かわいそうに。まだあの子は結婚もしていない私たちの村の娘の一人だったっていうのに……」
「なあ、気を悪くしないでほしいんだけど。ジャンヌダルクっていうのは本当にそんなことをするような子だったのか?」
「まさか⁈あの子はこの村の誰よりも優しくて誠実なだよ!」
「だったらそれを信じるべきじゃないのか?その誰よりも優しい子を…戦争に行くまでの彼女を知っているのは貴方達なんだから。」
村人たちは俺の答えに一通りの区切りをつけたようだった。きっと彼らは信じたくなかったのだろう。自分たちの近くで生活を共にしていた女の子が死んでしまったという事実を。
「そうかい。いや、悪かったね。あの子の両親は今病床に伏せてしまってあの子の兄妹は今私が面倒をみてるんだよ。だから、どうしてもあの子が死んだなんて信じられなくてね。」
お婆さんは涙を流しながら俺にいろいろな話をしてくれた。お婆さんだけじゃなく他の村人や子供達まで。それは彼女の人望を俺に垣間見せていた。
村人たちと一通り話を済ませ、俺は彼女を………ジャンヌを探していた。村の中にはいなかったため村周辺の森を今は探している。
「もうあいつらとの話は終わったの?」
いつの間にそこにいたのか彼女は投げやりにそう言った。
「ジャンヌは話さなくてよかったのか?」
「ふん。私は本物のジャンヌダルクとは違うのよ。姿が同じでも中身がまるで違うものなんだから」
「そうじゃない。ジャンヌはこの街で生まれたジャンヌダルクとしてじゃなく、この街のために戦った一人の人間として話してくればよかったんじゃないか?」
俺のその言葉にジャンヌはぽかんと口を開けて固まっていた。そしてくしゃっと破顔し大きく笑い声をあげた。
彼女の笑い声を俺はただ聞いていた。その表情も声も彼女の見た目相応の姿に思える。強張っていた表情筋が崩れ本当の彼女が現れる。
「こんな風に笑ったのは初めてよ。私を…ジャンヌダルクを貶めた奴を殺した時にもこんな風に笑ったことはなかったわ。こういう時にはやっぱりこう言うのでしょうね。ありがとう士郎。私をジャンヌダルクの紛い物としてではなく一人の人間と言ってくれて」
彼女はそう言って恥ずかしくなったのか。顔を赤らめながら素早く顔をそらす。そしてゆっくりともう一度俺の方を向く。その表情は先ほどのような笑顔ではなく少しの寂しさを伴っていた。
「でもね、それはできないのよ。彼らの言っていたことは本当のことだもの。私はジャンヌダルクが蘇ったってことで人を焼き街を破壊したわ。その罪が消えることはない。」
「それは……」
「今も私の中では復讐の炎がくすぶっている。きっとジルの願いの影響ね。私の中からこの炎が消えることはない。この炎が消えない限り私は何かを傷つけ燃やし続ける。」
そう告げる彼女の瞳はいつかの
「だから私は彼らとは話さないわ。強すぎる炎は消えずに燃え移ってしまうものだから。傷跡を癒そうとしている彼らに私が近づくのはそれこそ彼らを火傷させてしまうから」
俺は彼女の望む解答をあげられない。それはきっと彼女自身が見つけないといけないからだ。この旅の果てに彼女が自分を許してあげられる日が来ることを今は祈るしかない。
「さて二人の時間は終わったかしら」
そう言ってマルタは村の方から茂みをかき分けやってきた。
マルタはジャンヌに対して明らかな敵意を示している。その敵意に反応して俺はマルタとジャンヌの間に体を滑り込ませた。彼女とは一時共闘関係を築いたが彼女の目的が何かは未だにわからない。
「私を呼んだ一人…竜の魔女。どう落とし前をつけてもらおうかしら?」
読んでいただきありがとうございます。
創作意欲が湧いている今のうちになんとか先まで話をもっていくのでこれからもよろしくおねがいします。
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