「落とし前?」
「そうよ。そいつは私やヴラド公をこの地に召喚した張本人。召喚された瞬間に狂化を施され思考の自由さえ奪われた哀れな6騎のサーヴァント。あの人の名の下に恨んだりしてはいないは。けれど私はあなたに怒っている。あなたの返答次第ではどうするかはわからないわね」
ヴラドのような明確な敵意をマルタからは感じない。しかし、顔には出ていないが、その杖を握った手はしっかりと力を込めている。
ジャンヌへの怒りを抑えているのか。それともまた別の理由で?
そう考えているうちにジャンヌは俺とマルタの間にその身を晒した。マルタの拳が届くほどの位置にその身を晒したのだ。
「恨みがないなんて、恨みから生まれた私にとっては最高の皮肉ね。私は産まれた瞬間からこの身を憎悪の炎で燃やし尽くしているって言うのに、私に呼ばれたあなたはそれを考えていないなんて言う。バカにしているのかしら?流石は本物の聖女さま。贋作の聖女なんかとは出来が違うってわけ」
「どうしようもないわねあなた」
ジャンヌの言い方はまるで目の前の女性を挑発しているかのようだ。けれどそこに違和感を感じる。俺から彼女の顔は見えないが、今まで見た彼女の姿とはまるで違う気がするのだ。
「落とし前?上等じゃない。私の道は元から修羅の道だったのよ。今更地獄に落ちようが消滅しようが……」
パチンと乾いた音がなった。マルタがジャンヌの頬を張っていたのだ。ジャンヌは驚いたようにマルタを見て頬を抑えている。そして俺は見た。マルタの瞳に敵意ではなくどこか暖かな光があることを。
「逃げるんじゃないわよ腰抜け」
「なっ⁈あたしは逃げてなんか……⁈」
「純粋な英霊でなくとも聖杯から生まれたあなたにならわかっているでしょう。私たちは天国や地獄なんていう所にはいかない。ただ英霊の座に還るのみ。こんな所で死ぬなんていうのは逃げよ。貴方は地べたを這いずり回ってでも生き抜くことが貴方への罰よ」
「勝手なことを言わないでよ!今ここで消えてしまっても私が消えたところで誰も悲しむ人なんて…!」
「いるでしょう、そこに。あなたが死んで悲しむ人がいるならそれはあなたへの罰じゃないわ。あなたを思ってくれている人への罰よ」
そう言ってマルタは俺をしっかりと見据えた。ジャンヌの体が強張っているのが分かる。今この瞬間俺はジャンヌに対する返答を誤ってはならない。
さっきは解答をあげられなかったが、今だったら彼女にいう言葉は決まっている。
「ああ、俺はきっと今ジャンヌが消えてしまったらとても悲しいしきっと怒る。マルタが君を殺そうとしていたなら絶対に止める。まだジャンヌには教えたいことや聞きたいことがいっぱいあるからな。」
俺の答えにジャンヌは振り向かない。その代わりにポツポツと言葉を紡ぐ。
「そんなの詭弁よ。私は復讐の炎。そんな炎は今のうちに消しておいた方が良いのよ」
「そんなことはない。君が他の人を傷つけるっていうなら、俺が君の炎が弱まるまでみている。俺はジャンヌがこの村の人や他の人とちゃんと話せるようになるまで待つよ。それすらできないうちにジャンヌを殺させたりしない。ジャンヌが悪いことをしたっていうなら、俺が真っ先に駆けつけてジャンヌを止める。どんな手を使ってもだ。でも、ジャンヌが人の為にあろうとしているなら俺は君を許すよ」
ジャンヌの肩がピクリと揺れる。それを見たマルタは、はあっと息を吐き出しゆっくりとジャンヌに近づきその震える体を抱きしめた。ジャンヌはそのままされるがままになっていた。
「まったく…ようやく素直になって言いたいことが言えると思ったのに。その様は何?私だってやる気をなくすわ。私の目の前に立っただけでも足が震えているし、彼の言葉を聞いたら顔をくしゃくしゃにしちゃって…」
「…-うるさい」
まるでその様は姉と妹のような光景だった。彼女は外見通りの年齢じゃあない。知識だけを聖杯に埋め込まれたまだ生まれたばかりの女の子なのだ。だったら彼女が千の人に恨まれようとも万の人に恨まれようともしっかりと叱って許してやれる人がいてもいいはずだ。
ジャンヌはそのまま数十分はマルタの腕に抱かれたままだった。
俺とジャンヌとマルタは村の近くまで来て今後の方針について話し合うことにした。
ジャンヌとマルタは先ほどの会話である程度は打ち解けたようだ。
正確に言えば、ひとしきり泣いて冷静になったジャンヌにマルタがお節介を焼いているようにも見えるが。
「さてと………これからの行動方針はどうする予定なのか決まっているのジャンヌ?」
「とりあえずはオルレアンを目指すわ。そこに私から聖杯を抜いたあの男がいるはず」
「そういえば言ってなかったけれど、おそらくジャンヌの力はほんの少しだけ戻っているはずよ」
「ああ、ヴラドを倒したことで聖杯の一部がジャンヌの体にあるから少しだけ蓄えたってことか」
「ええ、ほとんどは9割の聖杯の方に魔力がいっているでしょうけれど、それでもジャンヌには聖杯のかけらがある。だからサーヴァントを倒せばジャンヌの力は戻ってくるってわけ」
「じゃあ残りのサーヴァントはランサーを倒して、マルタがここにいるからあと5騎か……」
「いいえ、6騎よ」
そう言ったのはジャンヌだった。そしてマルタも俺の方を見て頷く。
「私たちが呼んだのは5騎。というかセイバーとキャスターを除いた5騎ね。」
「セイバーとキャスターを除いたっていうのは何か理由があったのか?」
「キャスターがセイバーを除いた私たちを呼んだのよ。私はキャスターの真名を聞くことはなかったから、ジャンヌの話から察するにそのジル…おそらくジル・ドレエがキャスターの真名なのね。では、セイバーは?あの時の私は狂化に抗うのに必死だったから、聞けなかったのよ」
俺とマルタの疑問は当然だった。通常の聖杯戦争を行うならば呼ばれるサーヴァントは全部で7騎。その中でも最優のサーヴァントと呼ばれるセイバーを呼ばないなんてことは何か理由があったはずだ。
俺もエインズワースと戦った時、セイバーは最も苦戦したサーヴァントの内の1騎だ。
「ジルはセイバーの性能について知らなかったわけではなかったわ。彼はセイバーは英霊の中でも優秀な人材を確保するべきだと言って、先に6騎のサーヴァントを呼んだのよ。それこそ神話級のサーヴァントを呼ぶための下準備をしてね」
「だけどセイバーを呼ぶ前に、ジャンヌ達はやられてしまい召喚はできなかった」
「私が分かる範囲では私がオルレアンを飛び出した時にはまだセイバーの気配はなかったわ」
「とりあえずオルレアンまで行きましょう。そして私を殺しかけたあの男を探す………それでいいわね?」
俺はジャンヌの提案に頷く。マルタも同様に頷く。そして…
「じゃあオルレアンまで行ければいいのね!分かったわ。私が案内してあげる」
「じゃあよろしく頼むな。……ってカトリーヌ?」
「ちょっと⁈なんであんたがここにいるのよ⁈」
そこにはいつからそこにいたのか。カトリーヌが俺たちの目の前まで歩いてきた。
「あんたは弱いんだから大人しくここにいなさい!」
「オルレアンの場所がどこかもわからない人に言われたくないわ」
「そんなのどうにかなるわよ!」
言い方はどうかと思うが、たしかにジャンヌの言う通りだ。ここから先は長く険しい道のりになるだろう。
きっとマルタも同様に断るだろうと予想していたのだが
「いいんじゃないかしら連れて行ってあげても。私たちにオルレアンへの行き方を教えてくれるっていうのなら。」
「なっ⁈」
「決まりね!そうとなればおばさんを説得してくるわ!」
いうが早いかカトリーヌはくだんのおばさんの元へ走り去っていった。
「何を考えてるの⁈アイツは!」
「きっとあの子が貴方の助けになる時が来る。そのための賭けだと思いなさい。」
「ちょっと!待ちなさいよ」
マルタはそう言うと霊体化してしまった。彼女の言い分は分からないが、きっと何か訳があるのだと信じて俺は寝床を用意することに思考を切り替えた。
とある平原にて
「レイシフト完了です、先輩。士郎さんの位置と特異点の位置が一緒だった、というのには何か意図的なものを感じますが、とにかく無事に転送ができて何よりですね」
「そうだね。やるべきことは沢山あるけど、とりあえず近くの町まで行ってみようか」
「この近くの町ってどこにあるの?そうですね西に向かうとリヨンという町がありますからそこまで行ってみましょう、先輩」
読んでいただきありがとうございます。
バトル展開を見たい方には退屈な展開となっているかもしれませんが、温かい目で見守ってくれるとありがたいです。
感想・評価お待ちしております。
誤字修正をしてくださっている方々本当にありがとうございます。
拙い表現となっているかもしれませんが、今後ともよろしくお願いします。