それではどうぞ
洞窟の先で
まず感じたのは水音だった。
視界が白に染まってから俺は呆然と立ち尽くしてしまっていた。
俺はハッとして辺りの様子を探る。
この場所は雪降る剣の墓標でもなければ死後の世界などでもない。
ここは冬木の大空洞だ。俺が美遊と最後にあった場所の本来の光景。
だが、美遊が横になっていた黒塗りの寝台のような石もなければ、さっきまで戦っていた少女の姿さえ見えない。
「…………どうなってるんだ?」
思わず心の声がそのまま口から飛び出す。その言葉は誰もいない空間の中でただ響く。まるで俺だけが知らない世界に放り出されたようだ。
「あの時確かに俺は固有結界を展開してあの英雄王に挑んだはずだ。その証拠に俺の身体はエミヤの身体に置換された形跡がある」
不安からか思っていることがそのまま口から吐き出される。
「とりあえずここから出ないと」
妙な予感が俺の心をざわめかせる。俺はどこが入り口なのかもわからないまま少しでも水音がする方へと足を向ける。
どれほど歩いただろうか。薄暗い洞窟の中で、もう何百メートルも歩いたような気もするし、まだ数メートルも歩いていないような気がしてくる。この薄暗い空間のせいで俺の心は少し臆病になっているのだろうか。
もしかしたら………本当に万が一の確率で今まで見て感じていたことは夢だったんじゃないか……長い長い夢を見ていたんじゃないか。そんなありえない願望さえ現実のように思えてしまう。
家に帰ればいつものように美遊が『おかえりなさい』と出迎えてくれて、学校に行けばジュリアンと昼休みに弁当を食べながら恨み口を叩かれて、学校が終わると夕暮れの弓道場にいる桜と一緒に部活をして一緒に帰って………そんなあり得るはずのない幻想にもすがりつきたくなるほどの孤独感に苛まれている
この感覚は一体なんだ?俺はいったいどこに来てしまったのだろうか?
そんなことを思いながらただ闇雲に歩き続けていると、ふと視界に明かりが見えた。俺は誘蛾灯にまとわりつく虫たちのようにその光に吸い寄せされた。
俺がその洞窟の出口から見た光景は夕暮れの街の景色でも月明かりと電灯に照らされる町の光景でもなかった。
俺がそこで見た光景はただの地獄だった…………
俺が住んでいた町のあらゆる場所から火の手があがっている。見える場所だけでも、住宅街や俺の通っていた高校は瓦礫の山となり多くの人々が動く気配もなくただの人形のように倒れている。
まるで現実感がなかった。どうすれば今まで雪の降る町だった場所がこんな地獄に変わってしまうのか。いっそのこと今俺が見ている光景が夢だと言ってくれた方が信じられるだろう。
だが、そんなことはこの熱気が許さない。これは現実だとこの熱が俺に語りかけてくる。
そして俺がその光景に何もできないでいると、地鳴りのような振動が聞こえて来た。その音は徐々に俺の元に近づいてきている。しかもかなりのスピードで!
次の瞬間俺は紛れもない現実で培った危機察知能力に全てを任せて全力で横に飛んでいた。
そしてさっきまで俺が立っていた場所に2メートル弱はあるかというほどの斧剣が突き刺さる。
「なんだ⁈」
そして間髪入れずに洞窟の入り口を塞ぐようにして2メートルを超える
巨大な身体を持った男が降ってきた。
男は俺に威嚇するかのように身体を赤い光を鈍く発光させながら俺に向かって叫び声をあげる。
俺はその声に気圧されるように大きく後ろへと飛んだ。
なんだ、この既視感は?俺はこいつとどこかであったことがある。そんな予感とともに俺は一対の剣を投影させる。
その剣の名は『干将・莫耶』英霊となった『エミヤ』が愛用していた剣であり、俺がエインズワースとの戦いで使ってきた夫婦剣である。
俺の魂が全力で警鐘を鳴らしている。この相手は加減のできる相手ではない。腹の中身を全て出し切る思いで挑まなければ一瞬で消し炭にされるほどの強者である…と。
そこからの俺の行動は迅速だった。
俺はその予感に従って俺にできる最大限を尽くす
俺はもう一対干将と莫耶を投影しゆっくりとこちらに歩いてくる巨人の後方に向けてその二対の剣を投げる。巨人はこちらの狙いに気づいた風でもなくそのまま歩みを止めない。そして俺も十分な距離を取った上で巨人に向けて走り出す。巨人は走ってきた俺を見て先程と同じ叫び声をあげると斧剣を手に持ち構えをとった。
だが既に遅い。
こちらは既に手を打っているのだから
「狙いは必中。この一撃が外れることは無い!」
既に先程放った夫婦剣は巨人の背中直前。そして俺も後一歩で間合いに入る。巨人は俺が確実に後一歩の間合いを詰めてくるときを狙って頭上に斧剣を構えている。
確実に俺を殺すために。
だが、そのカウンターの一撃すらも俺はさせるつもりなど毛頭無い。
「
俺はその一歩の間合いを剣の間合いを広くすることでクリアした。
「この一撃で!!!」
俺はそのトップスピードのまま巨人へと突っ込み背中から迫る二対の剣が巨人の背中に届くよりも前に
「鶴翼三連!!!」
巨人の斧剣が俺に触れる直前に確かに巨人の体を切り裂いた。
はずだった。
俺の渾身の一撃は確かに巨人の鋼のような筋肉を切り裂いた。だが巨人の目から一瞬光が失われたかと思ったらまるで蘇ったかのようにその赤い目を再度輝かせる。
そして、後ろから迫っていた剣は巨人の背中に突き刺さるどころか巨人の足元に転がっている。
「………っ⁈」
俺はその事実に思わず目を剥いた。
そして、その瞬間確かに俺にはスキができていた。時間にして数秒にも満たない時間。だが、巨人にとってはそんなことは関係がなかった。巨人は振り抜いた斧剣を力任せに引き抜くとその力を利用して俺に横薙ぎの一撃を与えようとしてくる。
俺は自分の身体から煙が立ち上がることにも気を向けずに数十の剣を
俺と巨人の前に投影しバリケードというにはあまりにもお粗末な剣の山を作り上げる。
俺の腹部に『
その剣の山を巨人は意にも介さずに叩き折り、吹き飛ばす。
俺はこの恐ろしいほどの筋力、そして先程の恐ろしいほどの肉体の硬さにある人物を思い浮かべた。
俺がまだエインズワースの聖杯戦争に参加していた時、確実に勝てないと悟り、騙し討ちに近い形でなんとか勝ちを拾った小柄な少女の姿を。
この巨人は『ベアトリス』と名乗ったあの少女より一回りも二回りも高いスペックを発揮している。
俺はこの死への数秒を何時間にも引き伸ばされた空間である結論に至った。こいつは俺たちみたいな『紛い物』なんかじゃない。これが『本物の英雄』……英霊自身なのだと。
そして俺の体は無様に巨人の一撃によって吹き飛ばされた。
「ねえ、今のって人じゃなかった⁈」
赤毛の少女はその光景に顔を青ざめさせ叫ぶ
「もしかしたらこの町の住民かもしれません!」
大盾を持った少女はその声を出すと同時に少しだけ勇気を振り絞る
「あのどっかで見たような夫婦剣…それにあの小僧は………」
青がみの杖を持った男は顎に手を当てて何かを見極めるように吹き飛ばされた少年を観察する
「この4人でバーサーカーに勝てるの?でも、あれが人ならこの町のことについて何か知っているかもしれないし………ああ、もう!助けに行くわよ藤丸!マシュ!キャスター!」
そして白髪の少女は迷いながらも決断を下す
今回の話で分かったと思いますが、今作は美遊兄無双ではありません。むしろ他の作品で出ている美遊兄よりも負けまくります。
もしもそういった作品が受け付けないというのであれば今回で終わりにしていただいても構いません。
でも、もしそんな内容でもこの作品を受け入れてくれるのであればこれからも応援してくれれば幸いです
誤字脱字などありましたらご報告ください
それではまた次の投稿で