俺とジャンヌはマルタとカトリーヌを連れてオルレアンを目指す。道中はワイバーンの群れにエンカウントすることはあったが、特に大事には至らずに着々と道を進んでいた。
そして俺たちは何日かの夜を越えた。川や森で食料を調達し、焚き火を囲んで眠る。もちろん夜の見張りを忘れたりはしない。カトリーヌを除く三人で数時間毎に交代した。
「士郎、交代よ」
ジャンヌの声がして俺は振り向く。そこには少し眠そうなジャンヌの姿があった。衣服は戦闘時の衣装ではなく。この時代にあった村娘のような衣装だった。上半身を白、スカート部分をオレンジ色に染め上げられた。衣装だった。これはカトリーヌの村の方々にせめてものお礼にとジャンヌに渡されたものだった。
村の人達はジャンヌのことを知っている人もいただろうが、あの様子ではもう数年はあっていなかったのだろう。
特に気にすることはなく服を渡してくれた。そして俺には村の備蓄の中から名剣と呼ばれている両刃の剣を渡してくれた。
長さは干将・莫耶よりも2倍以上長いが、重すぎず軽すぎない、刃こぼれや錆もない見事な剣だった。
この衣装を着ているかの少女が超常の力を持っているなどとは夢にも思わないだろう。
「それじゃあ残りの時間を頼むよ」
そう言って俺は焚き火の近くに置いてあった剣を取り、毛布がわりの布を取り出した時だった。
「ちょっと待って、一つ確認しておきたいことがあるの。これを見て」
ジャンヌは焚き火の位置から距離を置いて、宙に向けて右手を突き出した。そして勢いよく炎を噴出する。炎は高度が上がる度にその勢いを衰えさせていくが、炎はジャンヌの手から尽きることがない。
炎が夜空に吸い込まれていくように、火の粉が舞い消えていく。火の粉が消えていくのと同時に視界が一点から全体へと広がっていく。
全体を見渡すと、そこには何度目かの夜の中で最も大きい月。そしてそこに広がる星々。
月と星、そして炎の中心にジャンヌがいるような、そんな感覚に陥る。幻想的な風景に一瞬心が引き込まれる。
だが、きっと彼女が言いたかったのはそんなことではない。
今もなお彼女は炎を生み出し続ける。
そして俺はあることに気づいた。
「もしかして魔力量が増えたのか?」
俺がそう答えると、彼女は炎を引っ込めた。火の粉が彼女の周りに落ちていく。そんなことを気にする様子もなく、彼女は俺に詰め寄ってきた。
興奮しているのかいつもより少し距離が近い。
「そうみたいなの!ワイバーンを倒しているうちに気づいたんだけど、ヴラド三世と戦った時よりも楽に炎が扱えてるのよね」
「それはおそらく貴方に中身が注がれたからね」
俺とジャンヌが振り返ると、そこにはマルタが佇んでいた。
そこでジャンヌは俺との距離が近いことに気づいたのか、バッと飛び退いた。
「あ、あんた寝てたんじゃなかったの?」
ジャンヌが尋ねるとマルタははあっと息を吐き出した。
「あのね、あれだけ魔力放出をしてたらサーヴァントや魔力を扱う獣なんかは普通は気づくわよ」
ジャンヌと俺はハッとしたような顔をして辺りを見渡した。幸い周囲にワイバーンはいないようだ。そのことに二人して胸をなでおろす。
俺は改めてマルタに質問をすることにした。
「中身が注がれたっていうのはどういう意味なんだ?」
「その通りの意味よ。ジャンヌは謂わば聖杯のかけらで生きているような状態。大元の魔力を奪われ、ほとんど空っぽの魔力しか残っていなかった。だけど、ランサーを倒したことで貴方の中に少しずつだけど魔力が戻っているのよ。」
「それじゃあ今の私にはサーヴァント一騎分の魔力を持ってるってこと⁈」
「そうではないわ。空の聖杯といってもそのかけらしかない貴方ではサーヴァント一騎分の魔力を吸収したとしても、魔力を抑えきれずに漏れてしまう。だから少しだけ聖杯の容量を大きくして、その上で魔力が満ちていったのだと思うわ」
「じゃあ敵が持っているのが大聖杯で、ジャンヌが持っているのが小聖杯って認識なのか?」
「当たらずとも遠からずね。ジャンヌはおそらく最大で魔力を得たとしてもサーヴァント一騎分、もしくは一騎とその半分くらいの魔力しか持てないでしょう。そうじゃないとその体が壊れてしまうもの。それに……」
マルタは小さく何かを言ったようだったが俺には聞き取れなかった。
「じゃあ敵を倒せば倒すほど私は強くなるってことね。つまり、士郎の時代風に言うとレベルアップってやつね!」
「まあ、簡単に言えばね」
「そう考えるといいわね!私はあんた達より強くなれる可能性があるってことなんだから」
あっはっはっは!とジャンヌは高笑いをして、俺たちから十メートル程離れる。自分がお荷物ではなく、彼らと共に肩を並べて戦えると言う事実に彼女は興奮しているのかもしれないし、ただ自分が他の英霊達よりも強くなれるかもしれないと言う事実に浮き足立っているのかもしれない。
「まったくお気楽なものね。敵を倒すには自分は基本的に弱い立場からのスタートだっていうのに」
そう言ってマルタは苦笑する。
考えてみればそうだ。確かにジャンヌの魔力は高まったのかもしれないが。それでもあの炎の威力じゃマルタが出していた光弾の威力とは程遠い。
ジャンヌはこのことに気づいていないのだろうか。それとも気づいているけど気づかないふりをしているのか。俺にはジャンヌの表情から読み取ることはできなかった。
「明日も早いんだし、もう寝ましょう。魔力を少しでも回復させておかないといざという時に身がもたないわよ」
ジャンヌに呼びかけ俺も眠りにつこうとしたその時だった。森を突っ切って何かが高速で移動してくる。
俺が気づいたのと同じようにマルタとジャンヌも同様に警戒する。ジャンヌは戦闘用の鎧に身を包み、俺は立てかけてあった剣を持ち警戒する。
そいつが俺たちの目の前に現れるのは一瞬だった。凄まじい風を纏いながらその青年は鋭い眼光をジャンヌに向ける。
その風圧には少量の魔力を含んでおり、思わず腕で顔の前を覆う。
それはマルタも同様なようで、顔をしかめている。
胸元と背中を大きく露出させた鎧を纏い、灰色に長髪、そして何より目を引くその背中に大剣を装備した男だった。
「魔力を感じたと思い、大急ぎでここまできたのだが…竜の魔女とお見受けする。早速で悪いがこれもあの邪竜を討つため。先に貴女から倒させてもらう」
男はそう告げると大剣を背中から外し、ジャンヌに向かってその切っ先を向ける。
ジャンヌは彼のその迫力に気圧されたように、何もできないまま固まっていた。
男は大剣を上段に構え、それと同時に俺とマルタは彼らの元に駆け出した。
「武器を構えろ、竜の魔女。すまないが、お前の相手はこのジークフリートだ」
男………ジークフリートは登場した時に出した風をもう一度自身の周りに展開させる。
「ジャンヌ!!」
俺の叫びで我に返ったようにジャンヌも旗を構え、炎を自身の周りに出現させる。それを見届けたかのようにさらに魔力を含んだ風を纏わせる。常人ならば耐えられないほどの魔力放出。
ジークフリートの風がジャンヌの炎叩きつけるように吹きすさび、徐々に飲み込んでいく。
そしてその剣をジャンヌめがけて振り下ろした。
読んでいただきありがとうございます!
次はある程度バトルとなっていきますので、期待に添えるようなものにしたいと思っております。
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