俺とジークフリートの宝具が宙へと天高く舞い上がっていく。
その瞬間、プツリと何かが切れたと感じた。
手足の感覚がなくなり、俺は立つこともままならずその場に崩れ落ちていく。ふと目の端に映ったのは先ほどまでバルムンクを握っていた俺の左腕。
俺の手にはもうバルムンクは握られていない。その代わりに肌の色が明らかに俺の色ではないものへと変わっていた。
投影をし続けてしまったことによる弊害。俺の身体はまたも英霊エミヤへと置換されてしまったようだ。
視界が暗くなり、思考を続けることさえもままならなくなる。
消えゆく景色の中で俺が最後に見たのは、先程まで戦っていたジークフリートが俺の元へと向かってきている光景だった。
やはり俺は英雄とはほど遠い存在らしい。
本物との力の差を十分に思い知り俺は闇へと落ちていった。
何も見えない。何も感じない。手も脚も動かせない。時間の感覚すらあやふやな世界に俺はいた。
これをいたと言ってもいいのかはわからないけど、思考はできる。ここはどこだ?まさか死後の世界というやつだろうか?
切嗣は死後なんてものはないと言っていたけれど……
そんな思考をした時だった。
「あらあら、もう死んでしまったのかしら?」「でも簡単に死んでしまっても困るのよね」「もう少し…なんて言わずにもっと生きてもらわないと……」「あなたは死ぬことさえ選ばせてはあげられないの…」
「少なくとも………今はね」
声が聞こえた。どこか、いつか聞いたようなそんな声を……
声が聞こえる。なんだかとても明るい声だ。
「あっ!起きたっ!ヤッホー、僕の顔が見える?見えるんだったら首を振って!ああ、でも首も動かせないような時ってどうすればいいのかなあ?うーん?」
目を覚ますとそこには桜色の髪でコロコロと表情を変化させている女の子?がいた。なんだか落ち着かない様子で「うーん」とか「ああ」とか唸っている。
突然の彼女の早口に俺が何も話さずにいるとその子はまあいいや、と言い、
「やあ!僕の名前はアストルフォ!あのシャルルマーニュ十二勇士の一人なんだ。なんかすごい魔力を感じて王様と一緒に見に来てみたらジークフリートが女の人にめちゃくちゃ詰め寄られてるし、君は全然動かないからとりあえずその場を落ち着けて君を介抱してたんだよ!でもあの子はジークフリートに突っかかっていくし、うちの王様はマルタとかジークフリートにホイホイ付いてっちゃうし、相変わらず僕たちのマスターは見当たらないし…」
矢継ぎ早に色々な情報が流れ込んでくる。
そうか、確か俺はジークフリートと戦ってそのまま気を失ってしまったのか。俺はその時の記憶を手繰り寄せるように少しずつ思い出していく。
ジャンヌが切られる寸前に展開したアイアス。ジークフリートの技量、強さをこの目で観たこと。俺が投影したバルムンクで宝具を放ったこと。天高く昇っていく宝具。何かが切れたような感覚。
思い出していくにつれて呼吸が荒くなり、動悸が激しくなっていく。
迫るジークフリートの姿。そして、変わり果てていた俺の左腕………
「うわっ⁈」
俺はアストルフォが驚いて尻餅をついてしまうのにも構わずに勢いよく上体を起こし自分の左腕を見た。
そこには程よく筋肉がつき所々に傷や火傷の痕のような模様がある俺の左腕があった。
「……えっ?」
俺は幻覚でも見てたのか?
あの時の記憶では確かに俺の左腕は俺ではない左腕に置き換わっていた。なのに今ここにあるのはどう見ても俺の左腕だ。
俺が左腕を凝視しているのに気づいたのか、アストルフォと名乗った少女は四つん這いの状態になり俺の左腕を一緒に見てきた。
「どうしたの?そんなに慌てて。僕は王様や他の十二勇士に誓って君にイタズラはしてないよ」
「えっ?ああ、すまない。ちょっと自分の状態に驚いただけだから。それより今フランスのどの辺りにいるのか分かるか?あとマルタやジャンヌがどうしているかも」
「ジャンヌ?ああ君が言ってるのはあっちの方ね。マルタやジャンヌはいまキャンプの周囲の警戒。君が丸三日寝てたから。馬車での移動になってあと一日でラ・シャリテっていう街に到着するところだよ。
「俺は三日も寝てたのか⁈」
「うん、まあしょうがないんじゃない?あの時の君は怪我もしてたし、魔力がすっからかんだったし。治療はできたけど、魔力を分け与えても片っ端からどこかに吸い取られるみたいに消えていっちゃうからどうしようもなかったんだよねー」
「怪我の治療…ってことは俺の左腕の火傷の痕みたいなものもその治療で治してくれたのか?」
俺の質問にアストルフォは首を傾げて
「火傷の痕なんて最初から今ある分しかなかったよ?」
そう言ってのけた。
どうなっているんだ?本当にあの光景は俺が見た幻覚だったのか?それにしてはあの時の感覚も記憶も鮮明に思い出せる。一体俺の身体に何が起こったんだ?
今回は少し短くさせていただきます。
個人的にアストルフォは途中参戦のサーヴァントなので第1章には出てなかったので、なんとか出したいという自分の個人的意見から今回の章に出演していただいたきました。
そして作中に言っていたように彼の王様が次もしくはその次の話に出てくる予定です。
どうぞお楽しみに!
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