角の生えた少女は、槍を大きく振りかぶりアサシンに叩きつける。おそらくはランサーだと思われるその少女は、敏捷性こそ負けているものの筋力ではアサシンを上回っているようだ。
何度か互いの武器である杖と槍を打ち合う状態になっているが、それもランサーが優勢に見える。アサシンが腕に仕込んだ鉤爪をランサーの顔につきたてようとするが、ランサーはそれを手の爪で受け止める。
ランサーは一度槍を突き立てるとそれを軸にしてポールダンスのように槍を素早く一周し、アサシンにその尻尾を叩きつける。
アサシンはその攻撃に吹き飛ばされ、ランサーは追撃するようにアサシンに向かい容赦なく鋭く蹴りを入れる。
「ぐうっ!」
アサシンの声が苦悶の色を出し、その唇から鮮血が漏れる。アサシンはランサーの脚を掴み、力任せに彼女の体を投げつける。
「もうAパートもBパートも終わったのだけれど、まだやるのかしら?」
「ええ、貴方か私かどちらかはここで消える運命なのよ!」
アサシンはその表情を苦痛の色に染め上げながらもランサーに果敢に飛びかかる。血の棘をランサーへと飛ばすが、彼女は防ぐこともなく優雅に歩みを進める。
アサシンの瞳が驚愕に揺れ、叫びをあげる。
「貴方は人の身のはずでしょう、なぜ傷を受けないの⁈」
「貴方と同じよ、エリザベート。私も同じ『無辜の怪物』を持っているもの。貴方は鬼で私は龍。」
そう言うとランサーは自身の袖を捲り上げた。
そこには華奢な少女の肌………だけではなく所々に鱗のようなものが見え隠れしている。
「私も貴方も人の身を外れてしまった反英雄。美しさを求めたはずの私たちが全盛期の姿で現界するサーヴァントになっても、私たちは醜いまま。きっと心の奥底にあるものが醜いからこんなことになってしまっているのね」
「嘘よ………
「私は逃げるために貴方を切り捨てたんじゃない。貴方を受け止めるために私は貴方とは違うものになったの。もう罪は償えない。だったら私は………私だけは貴方から目を背けちゃいけないのよ!」
ランサーの攻勢が続く中、俺は剣の投影に終着点を見出していた。あと1分………いや、30秒ほどで俺の投影は完成する。
置換はまだまだ許容範囲内。シャルルマーニュはジャンヌが安全な場所へ避難させている。
「これならっ!」
俺が勝利を確信した。その時だった。
「きゃあああああああああ!!!!」
アサシンと戦っていた少女の悲鳴が聞こえた。そちらに目を向けると、ランサーの左足を細い蔓のようなものが絡めとり、彼女の体を振り回し始めた。
「このっ………なんなのよ一体⁈」
ランサーは自身の脚を絡め取っている物体を槍で切りつけ、なんとか難を逃れた。切り捨てた部分が消滅し、大元の部分は同じ形状へと変化する。
「本当に何よこれっ⁈」
蔦をたどっていくとそれは井戸へと繋がっていた。ランサーはそれを認めると、地中深くを何か得体の知れない物が蠢いている感覚に襲われる。
咄嗟に鱗が逆立つ感覚がしてランサーはその場を飛び退いた。
すると、先程まで立っていた場所から今度はより太く先の尖った同じく蔓のようなものが突き出してきた。
直感に身を任せ、ランサーはパリの街をかける。彼女の後を追うように、蔓は次々に彼女の立つ場所立つ場所に突き出てくる。
アサシンはもう戦えるほどの戦力を持っていないはず。
私を執拗に狙ってくるんだから、きっとあの子豚が仕掛けてきているものじゃない。
「こんなことだったら、子ジカのことを待って一緒に攻撃するべきだったわ!」
次々と襲いかかる蔓をその槍で斬りはらい、尻尾で叩き、爪で切り裂く。
一つ一つの攻撃は大したことはないけど、この状態がいつまで続くのかしら。
散発的に蔓が襲いかかってくるが、落ち着いて対処すればその場所で一息がつけるほど彼女はなんとか襲撃には優位に立っていた。
しかし、この時彼女は気づかなかった。自分が今どこにいるのかということを。
エリザベートは辺りを見回すと、そのには杖にもたれかかりながらなんとか立っている。
「あれ?この場所って………っ」
彼女の背後には、破壊された井戸があった。その周囲には地割れの跡。妙な雰囲気がこの街全体を覆ってしまっているため。
彼女の感覚も麻痺してしまっていた。
事態が動いたのはまさに雷のように一瞬だった。パリの街を覆っていた不気味な感覚が一瞬で消えたのだ。
そして、彼女の背後から地面を壊しながら、蔓………いや、大樹の幹ほどはあろうかという物体が出現した。
彼女には『直感』のスキルがあるわけではない。そのため今までの逃走もただ自分の龍の因子が騒ぐままに走り続けていただけだった。
その幹は自身に刻まれている太い裂け目から、何十では数え切れないほどの赤い瞳を出現させた。
そのいくつもの瞳がランサーを捉えた。
あっ、私死んだわ。
周囲が輝き始めエリザベートの目の前で光の粒が、弾けては生み出され、弾けては生み出されを高速で繰り返している。それはわずか1秒にも満たないほんの一瞬。サーヴァントだから見えるほどの一瞬の煌めきの後。大きな光がランサーを包み込み、その龍の鱗で覆われた肌を焼き尽くし、その霊基の全てを破壊する………
その一瞬前に
「
少年の振るう邪竜さえも撃ち落とす一撃が、光の全てを切り裂いた。
読んでいただきありがとうございます。
前の話で出てきた腕輪は、カルデアにいるエミヤが美遊兄に与えたものです。自分とは異なる道を選んだ衛宮士郎だからこそ、彼は美遊兄に与えた。そういう風に解釈していただけると幸いです。
この話もかなり前の話なので、忘れている方がいるかもしれない、と今更ながら気づき、補足説明とさせていただきました。
これからもあの腕輪は活躍していく予定なので、読者の皆さんには覚えておいてもらえるとありがたいと思っております。
感想・評価お待ちしております。
それでは次回をお待ちください