体に鈍い痛みが走った。
思ったように腕が動かない。足もわずかに震えるだけで土を踏んだ音も動いた気配すらない。
だが僅かに味覚だけは存在している。口の中に何か塊のようなものが詰め込まれているような感覚。俺はその異物感に耐えきれずに思わず咳き込んだ。
俺の咳き込んだ音に反応したのか誰かの声が聞こえる。幸い聴覚はやられていないようだ。
薄く目を開くと最初はぼんやりとしか見えていなかった視界が徐々に開けてきた。視界に入るのは黒い雲で覆い尽くされた空。そして赤い髪をした少女の姿だった。
俺は口の中に鉄の味をさせたまま掠れた声で少女に話しかけた。
「……ここは?」
「よかった!目を覚ましたんだね。君がめちゃくちゃ大きい人に吹っ飛ばされてきたときはもう死んじゃったかと思ったよ」
「…しぶとさだけなら自信があるからな」
「そっか。何はともあれ目を覚ましてくれてよかったよ。今他の人を呼んでくるからちょっと待っててね」
そう言い残すと少女はどこかへと走っていってしまった
腹に特に強い痛みを感じて俺は自分がなぜこんなところにいるのかをだんだん思い出してきた。
思い出すのは筋骨隆々とした大男にそしてその男が持つ斧剣が迫ってきた時の記憶。
「……そうか、おれはあいつに負けたのか…」
「いや、大健闘だったと思うぜ。ただの人間がかの大英雄様の命を一つ削ったんだからな」
俺の声に応えた声の主はいつからそこにいたのか、いつの間にか俺の横になっている場所の左側で頬杖をつきながあぐらをかいていた。
「それにしてもあれだな。まさかお前さんまでこんなところに来ているとは思わなかったな。これも運命ってやつなのかねえ」
さっきからこいつは一体何をいっているんだ?
まるで俺とどこかであったことがあるような口ぶりで俺に話しかけてくる。
まさかこいつも俺が戦った巨人と同じように俺と戦ったことのある英霊の本体?いや、でもどの相手とも抱く感じが違う。
俺は横目に木製杖の杖が木に立てかけられているのを見た。
キャスターのサーヴァント?だが俺が戦ったあの傲慢の化身のような相手はこんな服装だっただろうか?それに杖の形状も違う気がする
「ん?俺の話がピンときてないって顔だな。まだ頭がぼーっとしてんのか?ほら俺だよ。今はキャスターの器なんぞに収まってはいるが………あれやれば思い出すんじゃねえか?いやでもあれはなあ………」
男は首を捻って自己問答を繰り返す。やがて「しゃあねえ」そういって青髪の男は杖を持って立ち上がる。そして脚をしっかりと沈み込ませ杖をまるで槍を刺すように構えその杖の先端を俺の寝ている僅か上に狙いを定め
「その心臓貰い受ける!」
そう叫んだのだった。
静寂が場を支配する中俺は何も言えない。男の方も何も言わない………が、男の顔が僅かに朱の色に染まった気がした。その赤い顔のまま
「どうだ、何か思い出したか?」
と、こちらに顔を合わせずに言ってくる。今のどこかに俺の記憶を刺激する何かがあったということなのか?だが、当の俺は何も感じない。その俺の態度に何かを悟ったかのような顔になり
「なんだよ⁈やり損じゃねえか!」
と叫んだのだった。
こいつは一体何をしたかったのだろうか?と、考えた時だった。
「うっ⁈」
なんだこれは?譲り受けた魔術回路が熱を持ったように俺の体を刺激している。まるで何かを受け止めるかのように俺の右手が俺の意思に反して男の前に突きつけられる。
「どうしたんだ、坊主?……ってそいつは」
俺の右手から出されたのはごく小さな一枚の花弁『
何でこれが?まさかさっきの言葉がトリガーになってこの極小の一枚ができたのか?
色々な疑問が俺の頭の中を駆け巡っている間にいつの間にか赤い顔から通常の顔色に戻っていた男が「そうか」と呟いた。
「全てがわかったわけじゃあねえが俺なりの推測がある。お前の中にいるんだな『あいつ』が」
なぜだか分からないが男の言っている『あいつ』っていうのが
「もしかして会ったことがあるのか?」
「会ったも何も、同郷でもなんでもないのにあいつとは腐れ縁みたいな縁ができちまってるみたいにいろんなとこで出くわす。こっちとしてはいい迷惑だがな」
と、吐き捨てるように言った。
「どういうことだ?未来の衛宮士郎に会ったことがあるってことは英霊じゃあない。元からこの世界に住んでるのかお前は?」
「いや、そういうわけじゃない。言っただろ同郷でもなければ生きた時代も違う。そういえば自己紹介がまだだったな。俺はキャスターのサーヴァント、クランの猛犬とも呼ばれたクー・フーリンだ。冬木の聖杯戦争なら魔槍ゲイ・ボルクを持ってるんだが、お前のとこには俺はいなかったのか」
「俺が経験した聖杯戦争はまず英霊がその身を実体化させて戦う形式じゃなかったからな」
「ん?じゃあどうやって聖杯の器を満たすんだ?」
「俺たちがやった聖杯戦争はクラスカードって言われるカードに英霊の力が収まってるんだよ。その中に英霊の力が込められている。そしてその力を自分の身に宿して戦うんだ」
そう言うとクー・フーリンは目を丸くして俺を見つめた
「そんな形式での聖杯戦争もあったのか。道理でお前が俺のことを知らないわけだ」
クー・フーリンは納得したようにうんうんとうなづいた。
俺はふと湧いた疑問をぶつけてみることにした。
「英霊の側からするとやっぱり自分の力がそんな風に使われるっていうのはやっぱり嫌だよな?」
俺が問うとクー・フーリンは首を横に振った。
「他の英霊はどうかは知らねえが、少なくともそれで俺が怒るってことはねえな。どこの世界の聖杯戦争にしろ俺は…いや、俺たちは兵器としてあるもんだ。形のあり方が変わっただけで俺たちという兵器が使われているっていう事実が変わるわけじゃあないからな」
「そういうもんなのか……」
「少なくとも俺はって話だ。どこぞの金ピカの英雄からしたらキレちまう案件なのかもしれないけどな…………………って、話してる間に来たみたいだな」
少しずつ俺たちのいる方に足音が複数近づいて来る。
「ほら、お前を助けるって言ってくれた嬢ちゃんたちが来たぞ。身体起こせ」
そう言うと俺の体に巻かれている包帯に何か文字のようなものを書いていく。するとさっきまで痛みで起き上がれなかった俺の体が嘘のように動いた。
「ルーン魔術だ。機会があればお前にも………いやお前には使えないんだったか」
後に続いた言葉は小さな声で俺には聞き取れなかった
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