それではどうぞ
俺は英霊エミヤと別れた後、先行したリッカたちに追いつけるように全力でその跡を追う。あいつは俺に戦い方を教えてくれた。そしてこの力の使い方さえも。だったらこの力はリッカたちのために使いたい。俺はその決意を固めるように一歩一歩前に進む。
その時俺の前方から凄まじい衝撃波と音が襲ってきた。俺は吹き飛ばされないように地面に脚をしっかりと踏み込む。おそらくリッカたちがセイバーとかち合ったのだろう。マシュの盾は確かに防御面においてはかなり優秀な部類に入るだろう。
だけど、もし俺が予感している英霊がセイバーのサーヴァントだったらと思うとかなり心配になる。俺が予想しているのは片手の世界で俺が戦った究極の聖剣使い。聖剣エクスカリバーをもつ最高の騎士アーサー・ペンドラゴンその人である。
俺はその予感に急かされるようにさらに早く駆け上がった。そして俺は大聖杯前についにたどり着いた。
俺の目の前にいるのはリッカとマシュそれにオルガマリー。彼女たちに対峙するようにもう一つの影が立っている。黒の鎧にその身を包んだ金髪の女性。肌はまるで死人のように青白くその手には色こそ変わってはいるが確かにあの時見た聖剣エクスカリバーだ。
だが彼女はその肌をより一層青白くさせている。その理由は一つ。彼女の胸から突き出ている人間の腕によるものだ。その鮮血に濡れた腕は彼女の薄い胸を抜け出し持ち主の元へと帰っていく。そしてその腕の主である緑のシルクハットに同じ色の外套を着用した男は彼女の今にも崩れ落ちそうな体を蹴り付けた。
俺は金髪の少女の体を受け止めるように前に飛び出し地面に触れる直前で受け止めた。彼女の胸から流れ出る血液を見ると何かどうしょうもない衝動が体の中を駆け巡る。俺は少女の体をゆっくりと横たえると肌が焼けるのも構わず二振りの夫婦剣を投影し男に斬りかかる。
「なにしてんだてめえ!!!」
男の体に剣がめり込む直前に見えない何かが俺の剣を弾いた。そしてそのまま何かに押し付けられるように俺の体が地面に倒れ込み押さえ込まれる。
「貴様の相手は後だ。異聞帯のはぐれ者」
それだけ言うとオルガマリーが男に何かを訴えるかのように男の前に飛び出してくる。駄目だ!その男に近づいてはいけない!
そう言おうとして俺は口を開いたが声が出ない。まるで俺という存在そのものを抑え込んでいるかのようだ。
そして男は血に濡れた金色の杯をオルガマリーの前に掲げる。するとまるで空間が裂けたように赤い地球儀のようなものがある空間があらわれた。緑の男とオルガマリーが何かを叫びあっている。オルガマリーの体が浮かび上がり、そのまま赤い地球儀に吸い込まれていく。あれに触ってはいけないと俺の本能が警鐘を鳴らしている。だが、俺の腕どころか指さえも動かせない。
そして俺は何もできないままオルガマリーが赤い地球儀に溶けていくのを無様に地面に伏したまま見ていることしかできなかった。俺はまた失ってしまったのだ。
男が指を鳴らすと俺を拘束していた圧力がなくなった。俺はふらふらとしながらもなんとか立ち上がり、マシュはリッカを守るように盾を構えてリッカの前に出る。男はその様子を見ると口をゆっくりと開いた。
「さて諸君改めて自己紹介をしようか。私の名はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた2015年担当者だ。聞いているなドクターロマニ?この時点でお前たち人類は滅んでいる」
その声に応えるようにリッカのつけている腕輪から声が聞こえてきた。
「レフ・ライノール。それはどういう意味ですか2017年が見えない事態に関係があると?」
「関係ではない。もう終わってしまったという事実だ。未来が観測できなくなり、お前たちは『未来が消失した』などとほざいたな。未来は消失したのではない。焼却されたのだ。カルデアスが真紅に染まった時点でな。結末は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない。カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう」
「………外部と連絡が取れないのは通信の故障ではなく、通信を受け取る相手が消え去っていたのですね」
「……やはり貴様は真っ先に殺しておくべきだったか。だがそれも虚しい抵抗だ。カルデア内の時間が2016年を通り過ぎれば、そこもこの宇宙から消失する。お前達は進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのでもない。自らの無意味さに!自らの無能さ故に!我らの王の寵愛を失ったが故に!何の価値もなく紙くずのように跡形もなく燃え尽きるのさ!」
その言葉を皮切りに空間が揺れ始めた。その揺れはどんどん大きくなっていく。男は手に持った黄金の杯を天に掲げると地下大空洞を覆っていた岩が爆散した。その衝撃にリッカとマシュは小さな悲鳴をあげる。俺はその衝撃で砕け散った石があたらないように金髪の少女に覆い被さる。
マシュはレフの行動に驚いたように声をあげた。
「レフ教授!あなたはまだ何かをこの地でするつもりなのですか!」
「いや、用があるのは君たちの方ではない。私が用があるのは君だよ。異聞帯のはぐれ者」
「俺?」
「私の最大の誤算は君の存在そのものだ。まさかこんなにも早く君のような者が来てしまうとは……今後の憂いを断つためにも貴様だけはここで殺させてもらう」
「ドクター!」
「分かってるけど君たちだけならともかく、士郎くんはこっちにいた人じゃあないからカルデア内にレイシフトさせるには時間がかかるんだよ!」
ドクターとマシュが何かを言い合っているがそちらに意識を向けられない。もし今やつから目を離したら俺の首は1秒後にはもう繋がってないだろう。
「とにかく士郎さんもこちらに!セイバーさんがまだ消えていないということはまだキャスターさんもいるはずです!それまでなんとか……」
「ああ、あの光の御子をあてにしているようなら無駄だよ。そちらは先に片付けさせてもらった」
その声とともに何かが空から降ってきた。その正体は
「クー・フーリン!」
青髪の男の元にリッカとマシュが駆け寄る。こちらから見ても心臓を一突きに刺されている。もちろんそこから動くことはない。
「とりあえずマシュとリッカちゃんだけ先に転送させる!士郎君はあと3分だけもたせてくれ!」
「そんな!」
声が2人重なるのと光が彼女達を包むのは同時だった。
取り残されたのは俺とレフの2人のみ。
「では、手早く済ませるとしようか」
何か黒い触手のようなものが俺に凄まじい速度で迫ってくる。その速度に俺は反応できなかった。
記憶が駆け巡る。リッカたちと会ったこと。クー・フーリンと話したこと。俺の顛末に力の使い方を教えてもらったこと。
記憶はさらに遡りジュリアンと昼ご飯を食べたことや桜と一緒に帰ったこと美遊におかえりなさいと言ってもらったこと
そして
「あなたが私のマスターか?」
セイバーに助けられたこと
俺に迫っていた黒い触手のようなものが切り飛ばされた。
「今の私にマスターはいない。だが、かつていたかもしれないマスターと同じ顔をしたものをみすみす殺させてやるわけにもいかない!」
俺の目の前には俺よりも一回り小さい背中がある。どこか懐かしさを思わせるような背中だ。こいつは信用できるやつだと。俺の中の何かが叫んでいる。
「貴様もいつまで寝ているつもりだ。さっさといつもの生き汚なさを見せてみるがいい!」
その言葉と同時にレフの姿が炎に包まれる。
「おいおい、今の俺はキャスターだったのに無茶させるじゃねえか」
そう言って杖をつきながら何とかクー・フーリンが立ち上がる。
空いた口が塞がらなかった。
「ふん、私が死んだとでも思っていたような顔だな。貴様は私が心臓をえぐられただけで死ぬとでも思っていたのか?私は赤き竜の化身だぞ。あのような男と一緒にするな」
「おい、その割にはふらついてるように見えるのは気のせいか?」
「それはお前の目が腐っているからだろう。座に戻って替えてきてもらったほうがいい」
2人は軽口を叩きながらも、ふっと笑った。
「坊主、こいつを持ってけ」
クー・フーリンはそう言って赤い腕輪を俺に投げてきた
「アーチャーが言うにはフィルターみたいなもんだそうだ。お前が置換されないためのな」
「ふん、どいつも柄に合わないことをする」
「今回が特別なだけだ」
「いいか、士郎。私が宝具を放った瞬間にできるだけやつから離れろ。時間稼ぎぐらいにはなる。もちろん殺す気で放つがな」
さっきまでとは言っているなんて野暮なことは言わない。こいつはそう言うやつなのだとなぜか理解している。俺が会ったことなど一度もないはずなのに。
「ありがとう」
「礼などいらん。………………だがもし、私がカルデアに呼ばれるようなことがあれば私に料理を振る舞うことを許してやる」
「ああ、分かったよセイバー」
「あと5秒で炎が消えるぞ!」
炎の勢いが弱まっているのを俺も確認する。やはりというべきか、奴は特別重傷を負っているとは思えない。
「おのれぇ!死に損ないのサーヴァント風情がっ!」
「そのサーヴァントを殺し損ねたのがどいつなのかお前の王とやらに報告しとくんだな!そら、特大のを喰らいな!」
「『卑王鉄槌』極光は反転する。光を呑め………!
「貴様ああああ!!!!」
俺は後ろを振り向かない。きっとあの2人なら何とかなる。俺は2人を信じてる!絶対に……
今にも私の体は崩れ落ちそうだ。キャスターは………もう逝ったか。
手から粒子化が進んでいる。だがまだだ。……士郎が行くまでは………っ!」
私の脚に鋭く黒い物体が刺さっているのが見える。
次に腕、肩、そして今頭をかすめた。
もう、もたないか。
「これからの旅路の中にお前にはきっと辛いことが起こるだろう。だが進め。その先にきっとお前の求めるものが見つかることを願っている。………………士郎」
「セイバーアアアアアア!!!!!!!!!」
何故だろう。光に包まれながら俺は振り返り彼女の壮絶な最期を見てただ泣き叫んでいた。
サブタイトルを考えるのって難しいですね。
今回はいつもより文字数が多くなってしまいました。2回に分けてもよかったのですがこの勢いをそのまま続けたかったのでつい長くしてしまいました。
今回の話も楽しんでくれたら嬉しいです。
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