神様さえ、知らない場所へ。   作:Artificial Line

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私は、私を受け入れてくれた者達を支えよう。




Act-2 The Bloody Honey cannot Stop
【Act-2-1】まるで傭兵のようだ


「管理局から依頼?」

 

「ああ、そうだ」

 

アリスライキの昼下がり。

マリアとの邂逅から数日の後、アリーヤはマリアが身を置いているラライラの食堂に顔を出していた。

時刻は15時過ぎであり、昼食を取りに来た客のラッシュもなりをひそめ

店内にはまばらに人影があるのみだ。

 

「まあ貴方が現れてからの活躍は目を張るものがあったからな。頼りにされるのも当然ではないのか?」

 

「まあな…。あの悪夢(ヤーナム)のノリでやりすぎた。反省してる。だが内容が内容でな」

 

ラライラの食堂で言葉をかわしているのは、アリーヤと時計塔のマリア。

アリーヤはいつもの狩装束姿だが、マリアは給仕の制服に身を包んでいる。

彼の記憶にあるマリアは狩装束に身を包み、強大な力で"()()"を屠った"()()()()()()()"であるため

今の制服姿は新鮮である。

だがその美貌は遺憾なく発揮されており、旧敵たるアリーヤでさえも目をみはるものであった。

事実、まだ店内にいる客たちはマリアの姿を眺める為に残っていた変わり者(変態)達である。

 

マリアに声をかけようとする下賤な連中は、しかし

彼女と言葉を交えている大型新人(狩人)の姿を見て二の足を踏んでいた。

 

今や市街で()()を知らぬものなぞおらず、彼の戦い方(内蔵攻撃)は恐怖と共に市街へと伝わって居たのだった。

その"()()"と親しげに言葉を交わすマリア。

2人の関係を、周囲の連中は好奇と畏怖の目で探っている。

 

「どういった依頼なのだ?」

 

「ああ、それはな―――」

 

アリーヤは先程の出来事を思い浮かべる。

 

 

 

 

 

「そうだルヴィリアス、ルイス。お互いの動きを合わせて相手を追い立てろ」

 

「くぅッ!!」

 

「ルイス!合わせなさい!」

 

早朝、スマイリー本拠地の中庭では金属音が鳴り響いていた。

最早日課となった家族達の訓練である。

 

先日加入したばかりのルイスを交え、より活気をました朝の光景。

ルヴィリアスとルイスがデュオを組み、アリーヤがそれを迎え撃つ。

 

そのいつもの光景を、メイは人形のいれてくれた紅茶を飲みながら眺めていた。

 

ルイスが前衛となり、ルヴィリアスの詠唱時間を稼ぐ。

短剣とナイフを駆使しアリーヤへと斬りかかるが、全て稚児をあしらうが如く防がれている。

 

「喰らいなさいッ!」

 

詠唱を終えたルヴィリアスの魔術がアリーヤへと迫る。

本拠地への被害を抑えるため、出力を絞った一撃ではあったがそれでも只人を行動不能にする程度の威力はある。

捉えることも難しい弾速の魔術。

 

だがアリーヤはそれを当たり前のようにステップで避けると、"杖"の先端をルヴィリアスの腹部へと突き出す。

 

「ぐふぅッ!?」

 

杖のカウンターを貰ったルヴィリアスは大きく後方へと吹き飛ばされ、口から胃液を吐き出した。

 

それを見て唖然としてしまうルイス。その隙を見逃す狩人(アリーヤ)ではない。

鋭い回し蹴りがルイスの背部を捉え、弾き飛ばした。

 

「アリーヤくん~、やりすぎじゃないかい?」

 

メイが呆れた表情を浮かべ、そう声をかける。

だがあっけからんとした態度で

 

「この程度、まだまだだ。この2人は強くなれる」

 

アリーヤはそう言葉を返した。

『いやそういう意味じゃないんだけど…』呟きながらメイは吹き飛ばされた2人の元へ歩いていき、

初級の治癒魔術を施す。

 

その効果で痛みが引いていき、2人はようやく言葉をもらした。

 

「いったぁ…あんたちょっとは加減しなさいよね!肋骨が持っていかれたかと思ったじゃない!」

 

「あっはっは…流石アリーヤさん。全く手も足もでません…」

 

アリーヤは"杖"を血の遺志へと還すと、腕組みをしながら言葉を返した。

 

「加減はしている。だが確かに少しやりすぎた。すまない」

 

短くそういった後、講評を始めるアリーヤ。

軽口を叩いていたルヴィリアスもルイスも、それを聞き逃すまいとその表情を真剣なものへと変えた。

 

孤独だった狩人は、今や2人の師だ。

 

「ルヴィリアス。魔術の精度も詠唱速度も向上している。素晴らしい。だが詰めが甘い、避けられることも考慮して二手三手用意しておくべきだ」

 

「意図も容易く躱しておいてよく言うわよ…わかったわ。同時詠唱も練習しなきゃね…」

 

「ルイス、たったの数日の訓練だが、確実に上達してきているな。だが戦闘中に敵から意識を反らすなぞ言語道断だ」

 

「すいません…ルヴィリアスさんが吹き飛ばされたのをみて動揺しちゃって…」

 

その後も言葉を交わす家族達の様子を、メイはニコニコしながら眺めている。

 

コンコン。不意に玄関ドアがノックされる音が聞こえてきた。

 

「あれ?こんな朝早くから誰だろう?人形ちゃん、お願いしてもいいかい?」

 

「かしこまりましたメイ様」

 

人形が玄関へと向かっていく。

その様子を見たアリーヤは

『今日はここまでにしよう』

と言葉を切って、メイの元へと歩いてきた。

 

その表情は実に嬉しげだ。

シャツにベストというラフな出で立ちの彼を見上げながら、メイは声をかける。

 

「お疲れ様アリーヤくん。ありがとうね彼女達の訓練に付き合って貰っちゃって」

 

「気にすることはない。私も後輩()達を支えたいからこうしている」

 

「そうかい?でも妙に嬉しそうだね?」

 

「この短期間でここまで成長するとは思わなかったからな。メイ、あの子達は強者になるぞ」

 

「ああ、なるほどね。君の世界()じゃ強者しか居なかっただろうからねぇ。でもさっきもいったけどやりすぎじゃないかい?」

 

「確かに反省している。少し熱が入ってしまった」

 

2人がそう話している背後では、ルヴィリアスとルイスが今後の改善点をお互いに上げていた。

それを優しい眼差しで見やる"()()"とメイ。

 

あの2人は良いパーティを組めるだろう。

独りで戦ってきた私とは違って。

 

彼にとってやはりパーティというのはやりづらいものがあった。

他の狩人達ならいざしらず、只人と共に戦うとなると

それは共闘ではなく護衛に近いものとなってしまう。

圧倒的な実力の差がある故致し方の無いことであったが。

アリーヤは自らが共に探索したのでは彼女達の伸びしろを潰してしまうのではないかと危惧していた。

それ故にルイスの加入は喜ばしい。ある程度鍛錬をしてやれば、あの2人はパーティとして勝手に強くなっていくだろう。

メイには一緒に探索してやってくれなんて言われてはいるが、それもそろそろ潮時だ。

たった一週間しか共に探索はしてやれて居ないが、これ以上はかえって彼女達の邪魔をしてしまうだろう。

 

アリーヤはそこまで考えると、では自分はこれからどう動くか思案しようと目を細めた。

 

そんな時、廊下の方から二人分の足音が聞こえてくる。

目をそちらへ向けると、人形と痩身の男が2人。

男の方は見たこと無いが、先程のノックの主だろう。

 

「狩人様とメイ様に御用があるそうで、お通ししました」

 

人形が言葉をかける。

次いで男が声を上げた。

 

「お初にお目にかかります、"()()"アリーヤ様、メイ様。私は管理局職員のアディ・ネイサン。お話したいことがございますので、お時間よろしいでしょうか?」

 

丁寧な言葉遣いだが、どこか他人を小馬鹿にしたような口調で男はそう言う。

しかし上位者であるアリーヤも神族として広い思考のキャパを有しているメイも、イラつくことなくただ男の言葉に頷いた。

 

それを怪訝そうな表情で見つめるのは、只人であるルヴィリアスとルイスの2人のみであった。

 

 

 

 

「まずは早朝より伺ってしまったことを謝罪します。しかし管理局としても急を要する案件ですのでご理解ください」

 

「前置きはいいよネイサンくん。要件はなんだい?管理局の職員が直々にくるなんて、厄介ごとだろう?」

 

応接室に移った3名は、人形の入れてくれた紅茶に口を付けながら言葉を交わす。

アリーヤとメイの対面に座るアディ・ネイサンはフッと笑うと、言葉を続けた。

 

「流石は神族の一柱。ご理解が早くて助かります。今回足を運ばせていただきましたのは他でもありません。管理局からの"()()"をお伝えしたく参りました」

 

「依頼…?」

 

メイはその端正な顔に怪訝な表情を浮かべつつ、次の言葉を待つ。

アリーヤはいつもの無表情であったが、いつでも武具を呼び出せるようにしていた。

胡散臭い。それがこの男に抱いた印象だった。

 

「ええ、では依頼の内容をご説明致します。雇い主は管理局上層部。目的は世界の果ての浅部へと強力なモンスターが出現し始めた原因の調査です。ご存知の通り、世界の果てはその深部へと向かうほど、強力なモンスターが出現します。ですがここ最近はその法則が乱れつつあります。当事者たるアリーヤ様やメイ様ならばご理解していただけるかと存じますが、浅部を探索する新米の探索者たちにとって、今の状況は致命的です。故に管理局上層部は事態の原因の調査とその解決に乗り出しました」

 

ネイサンがそこで一旦言葉を区切る。

 

アリーヤはルイスと山羊頭の一件を思い返した。

狩人として悪夢を駆け抜けた彼にとって、あの程度の敵は障害にもならないが

只人たちにとってはたまったものではないだろう。

 

一息の後、メイが言葉を上げた。

 

「なるほどー。事情は理解したよ。だが解せないこともある。何故うちみたいな小規模クランに依頼するんだい?それこそ大規模なクランはいくつもあるじゃないか。そっちに依頼したほうが適任じゃないかい?」

 

「既に"BFF"と"インテリオル"、そして"グローバルコーデックス"へも同様の依頼を出しております」

 

「だったらなおさらさ。そんな大御所が動いているなら、うちみたいな所に依頼する必要もないだろう?」

 

アリーヤはその言葉を黙って聞いていた。

確かにメイの言う通り、それならばこのような小規模クランへと依頼する意義は薄い。

大規模なクランでは不都合な事情でもあるのか。

またはそれらの大御所の活動を隠れ蓑にした裏方か。

彼が思考していると、ネイサンの口が再び開かれる。

 

「我々はたった一月で誰も成し得なかった未到達領域への到達を達成したアリーヤ様の実力を高く買っています。それに、実はここだけの話ですが、管理局の上層部にも不穏な動きが見られます。故に我々"()()()"は上層部の選定した大規模クランだけでなく、あなた方への依頼を決めました」

 

アリーヤはその言葉に少し驚く。

管理局の職員でありながら、自らに不利になるような事情まで話すとは。

いけ好かなく胡散臭い男ではあるが、"仲介人"としての公平性は信用できそうだ。

 

彼はそう考えると、今まで閉ざされていた口を開いた。

 

「なるほど。で、具体的には何をすればいい?まさか深部の威力偵察を行え、というのでもあるまい」

 

「もちろん。我々が求めているのは、この男の情報です」

 

そういってネイサンは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

その羊皮紙には革鎧を身に纏った禿頭の男のスケッチが描かれている。

 

「こいつは?」

 

「先月の牛頭の一件。アリーヤ様によって撃退された牛頭の件です。襲われていた複数の探索者たちから、この男が牛頭を先導していたとの目撃証言が上がっています」

 

メイとアリーヤはそのスケッチを覗き込む。

禿頭が特徴的な年の頃30程の男だ。

 

モンスターを先導していた男?確かにそれならば一連の事態への関連性は考えられる。

 

「男の名前はパッチ。2年ほど前に探索者のパーティを嵌めて物品の略奪などを行い管理局からブラックリストに登録された男です。その後行方不明になっていましたが、今回の一件と共に再び姿を表しました」

 

陰気で目つきの悪い禿頭のスケッチを、アリーヤはふむと鼻を鳴らしてテーブルに戻す。

 

「報酬はどうなっている?依頼と言うからにはそれ相応の報いもあるのだろう?」

 

「前金としてヴィカーナ金貨500枚、パッチを捕らえる情報提供もしくはパッチの身柄の引き渡しで更に500でどうでしょう」

 

"()()"アリーヤには金銭の価値は未だはかりきれていないのでピンとこなかった。

ヤーナムでの通貨代わりといえばもっぱら血の遺志であり、そもそも人間と取引することも無かったのだから当然といえば当然である。

金貨もあるにはあったが、既に滅びを前にした都市では道標以外のなにものでもなかったのだから。

そも食事も睡眠も必要ない上位者にとって、金銭の貴さを理解しろというのが土台無理な話である。

 

チラリとメイの方を見やる。

その目はキラキラと輝いており、なんとも間抜けな表情を浮かべていた。

 

「ご、ごごご500ぅ!?そんな大金あれば3ヶ月は暮らせるじゃないか!!家賃も食費も心配なし!!」

 

どうやらとんでもない大金らしい。

必至に隠しているようだが、その目にはありありと\マークが浮かんでいる様にアリーヤには見えた。

 

世話になっている引け目もあるし、何より私に"人らしさ"を思い出させてくれた彼女達の為にもなるか…。

 

「報酬はもちろんのこと、管理局、そして協同となる各クランと繋がりを持つ好機です。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」

 

語尾に(笑)が付きそうな口調でネイサンは言い切った。

些か鼻に付くが、その情報は信用できそうである。

 

「わかった。その依頼受けよう」

 

1人で動く口実にもなるしな、と。その言葉は胸中にのみ吐かれた。

 

 

 

 

 

「なるほどな。確かにきな臭い話だ」

 

事のあらましをアリーヤが説明し終えると、マリアがそういった。

 

若干眉間に皺を寄せた彼女の端正な顔が、不意にアリーヤを見やる。

 

「貴方はこれからどうするんだ?私に話しにきたのだから、何か協力して欲しいことがあるのだろう?」

 

そのマリアの言葉に、アリーヤはマスクの下で若干破顔させると、言葉をもらす。

 

「貴公は鋭いな…。だが直接的な協力を求めるものではない。私とて、貴公ほどの女傑を軽々しく使うなど躊躇うさ」

 

あの悪夢では考えられなかった彼の態度に、マリアはその口元を緩ませた。

何かに追われていたようだった恩人(旧敵)が、ずいぶんと変わったものだ。

やはり世話になっているスマイリーの面々のおかげだろうか。

人形の存在には驚かされたが、師が作ったものなら何も言うまい。

いや複雑な気分ではあることは確かだが…。

 

「私を打ち破った貴方に言われると皮肉にも感じるがな。それで、何をすればいい?」

 

マリアの軽口に、一瞬その瞳が困ったような色を灯す。

だがすぐに取り繕うと、言葉を続けた。

 

「もし万が一の際は、"家族"達を守ってほしい。杞憂かもしれんが、私が離れているうちになにかあっては目も当てられないからな」

 

酷く優しげに彼はそう嘯く。

 

「あの少女達のことか。それぐらいなら問題ない。しかし貴方が家族とはな。理解はしたつもりだったが、あの時私と剣を交えた男とは思えない」

 

マリアの言葉に、彼は目を細めてどこかを見やる。

 

「化物に至った私を、家族だと言ってくれたからな。ならば私はそれに報いよう。私はこれから目撃者のクラン・ヘイティアの面々に詳しいことを聞きに行くつもりだ」

 

かつて見たこの男の瞳は淀んでいたが、今の目にそれは全く見られない。

ああ、存外"()()"も人であったということか。

 

「今の貴方はまるで父親のようだな」

 

そうか?と訊く彼に、マリアはそうだ、と返す。

 

そんな時、店の扉が開かれ2人の人影が入店してくる。

 

「ああ、いらっしゃい。好きな席に―――」

 

「―――アイリーン…?」

 

マリアが言い終わるよりも先に、アリーヤの口から声が漏れた。

驚きを孕んだような声色。

 

マリアと狩人(アリーヤ)の視線の先に居たのは、烏羽のような装束とペストマスクが目を引く人影であった。

その背後には特大剣を背にさした"()()()()"のような物体も目に入る。

 

「―――久しぶりじゃないか"()()()()()()()"。やはりここ最近の噂はあんただったかい」

 

狩人狩り、アイリーンの姿が、そこにはあった。

 




詰め込み過ぎた感もありますが、第二章、まるで傭兵のようだ編開幕です。

感想その他、本当にありがとうございます。

あと質問なのですが、この作品の用語や人物解説辞典みたいな章ってあったほうがいいですかね?
下書きは完成しているのですが、必要かどうか測りかねて投稿を見合わせていました。
ご意見いただければ幸いです。

0406追記

たくさんの感想ありがとうございます。
後程返信させていただきます。
私事で恐縮なのですが、これから繁忙期になるので更新ペースが落ちるかもしれません。
週2ぐらいで更新していきますので、よろしくお願いします。
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