神様さえ、知らない場所へ。   作:Artificial Line

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この世界にクソッタレの上位者以外の神がいるのならば、どうか一人の少女を護り給え。


【Act2-4】警鐘

「はぁ。とは言っても市街で手に入る情報なんてたかがしれてるわよねぇ…」

 

ルヴィリアスは昼下がりの市街を歩いていた。

アリーヤに世界の果てに行くなと釘を刺されてしまった以上、市街での情報収集ぐらいしかやることもないのだが、

それの雲行きもよろしくない。

 

かといって手伝うといってしまった以上、何もしないというのは彼女自身の性格が許さなかった。

 

「まあそう言わずに。地道にやっていくしかないですよ。アリーヤさんがああいうってことは、今の世界の果てはかなりデンジャラスなんでしょうし」

 

そういってルヴィリアスの横を歩くルイスが苦笑した。

 

その後知り合いの探索者や市民数人に聞き込みを行ったが、進捗は芳しくなかった。

 

「また空振りか…アリーヤが鐘の音がどうのって言ってたけど本当なのかしら?」

 

「アハハ…鐘の音の発生時期、世界の果ての異常、探索者の死亡率の増加の時期が重なってますからねぇ。もしかしたら鐘の音を聞いた人は全員死んでるのかも」

 

「縁起でもないことを言わないでよ…」

 

ルヴィリアスの顔がげっそりとする。

確かに、冗談であってもだいぶ不謹慎なことを言ってしまったか。

 

2人は街を歩いていく。

馴染みの錬金術店、探索者の集会場、婦人方の噂話など様々な所に顔を出して話を聞き続けるが、めぼしい情報は一切なかった。

それらをなせば、自然と時刻は夕暮れ時となる。

 

げっそりしつつ聞き込みを続ける2人であったが、それは唐突に終わりを迎える。

 

「ルヴィリアス!?来てくれ!!」

 

2人がその声に反応し、そちらをみやると全身に傷を負った壮年の男の姿があった。

肩から血を流し続け、いたるところに擦り傷ができている。

 

「ドロシー!?どうしたのよその怪我!?」

 

2人が慌てて男へと駆け寄る。

市街は突然現れた傷だらけの男が原因で、騒然としていた。

 

「見たこともない鎧を身に着けた騎士に襲われた!世界の果てにクランの連中と探索に出ていたんだ!!ありゃあヤバイ!!」

 

「騎士?一度落ち着きなさい。何があったの?」

 

しばしの間を置き、冷静さを少し取り戻した男が話し始める。

 

クランメンバーと共に世界の果てへ探索へでていたこと。

浅部と中部周辺へ向かったこと。

そこで"鐘”の音が聞こえたこと。

直後、何か世界へ”異物が侵入してくる”ような感覚に襲われたこと。

様子がおかしいので戻ろうとしたタイミングで、黒い騎士に襲われたこと。

 

それらを、喋りながら情報整理するかの用に、途切れ途切れになりながらも彼は話した。

 

「鐘の音…?それに黒い騎士って…ルイス」

 

「ああ。間違いなくあの一件と無関係じゃないと思います」

 

ルヴィリアスは息も絶え絶えだった男に治癒魔術を施しながら、思考していた。

 

「すまないルヴィリアス…それでまだ仲間たちが黒い騎士とやりあっているんだ!!頼む!一緒にきてくれ!」

 

男は一息ついた後に、そう叫んだ。

どうする?仮にアリーヤの言っていた件と因果関係があるとすれば、私程度ではどうあがいても勝てない。

ならば他の探索者やアリーヤに事情を説明して、救出隊を編成するか?

いや、おそらくそれでは時間がかかりすぎる。

それまでに襲われている連中のほうが全滅する可能性のほうが高いだろう。

であれば見捨てる?…論外だ。

 

どのみち、私にできることはそう多くない。であれば

 

「…わかった」

 

「え?ちょっ!ルヴィリアス!?本気なのですか!?アリーヤに報告して一緒に来てもらうほうが」

 

「それじゃどう考えても間に合わないわ!私はドロシーと共に世界の果てへと向かう。ルイス、あんたはアリーヤを探して状況を伝えて!!」

 

そうだ。

彼に遠く及ばないこの私の技量でも、

叶わない可能性が高い事柄でも、

何もせずに、何もできずにじっとするなんて私らしくないだろう?ルヴィリアス・レイア。

 

私は世界の果てへと駆け出す。

 

「えっ!?ああっ!待てって!!ルヴィリアス!!」

 

あとに残されたのは、困惑を隠せないルイスと、市街の喧騒ばかりであった。

 

 

 

「紅茶で良いか?」

 

時は少し遡る。

夕暮れ時の少し前、アリーヤはスマイリーの本拠地で人と会っていた。

その人物というのは時計塔のマリア、その人である。

 

「ああ、気を使わなくて構わないよ。そもそも茶の淹れ方なんて、覚えているのか?」

 

彼らは一度殺し合った仲である。

それがこうして平和に茶を囲もうとしているのは、2人にとっても自嘲からの笑いが溢れそうであった。

 

「”思い出した”。いや、覚えたよ。人形やルヴィリアス達と接していくうちにね」

 

2人は応接室のソファーに座り、紅茶へと手を伸ばす。

熱い赤色の液体から立ち上る、湯気と鼻腔にとどく芳醇な香りが、

2人の心を僅かなりとも温める気がした。

 

「それで、君はこれからどういう風に動くんだい?」

 

「とりあえずは情報収集をするつもりだ」

 

紅茶を啜りながら今後予定している展望をマリアへと話していく。

まずは市街での情報収集。

すでにローゼンタールやBFFの面々が行っているであろうから空振りに終わる可能性が高いが、これはルヴィリアスとルイスに任せてある。

次点で中部付近で待機。

異変が起これば即座に行動を起こせるようにするためだ。

それに異世界からの侵入者が相手であれば狩人である彼が餌の役割もできるかもしれない。

全部が全部そうだとは言えないが、異世界からの侵入者は結果よりも過程を楽しんでいるものが多い。

より強いものと戦いたい。パーティを組んでいるものたちを邪魔したい。

その結果として色々と手に入れば御の字、という侵入者も一定以上存在しているのだ。

 

とはいえこのような稚拙なことしか思い浮かばない自分にアリーヤは苦笑する。

こんなもの策でもなんでもないただのゴリ押しに近い。

 

ヤーナムでは戦術の組み立てはしょっちゅう行っていたが、戦略なぞ組んだこともない。

いや、世界を高速でめぐるのを喜びとしている狩人たちはそういった戦略なども構築していたのだろうが、あいにくとアリーヤにはその経験はなかった。

そも狩人は獣を狩るもの。獣を狩るための戦術を練りはすれど、長期的な戦略なぞ用いない。

 

「…それは策と言えるのかい?」

 

マリアが苦笑しながら問いかける。

やはり彼女も同じことを感じていたようだった。

 

「…まあ言えないな。だが実際私にそういった策を考えるノウハウは蓄積されていない。だからさ。やれることをやれるようにやるまでだ」

 

ますますマリアの苦笑が強くなる。

だがマリアとてこの手の戦略を考える立場に身を置いたことはない。

彼女の師であれば何かいい方法を思いつくかもしれないが、ないものねだりをしても仕方がないだろう。

 

二人が空気を入れ替えようと紅茶に手を伸ばしたとき、本拠地の扉が勢い良く開かれた。

 

「アリーヤさん!!ルヴィリアス…ルヴィリアスがッ?!」

 

二人の視線が声の方へとむけば、額に玉の汗を浮ばせ焦り切ったルイスが応接室に転がり込んできた所だった。

 

 

 

 

二人の男は全力で地を駆けていた。

狩人であるアリーヤの脚力は常人を遥かに超えている。

一切の息切れもスピードの低下も起こさないそれは端的に言って異常だ。

だがその疾走に遅れることなく追従しているものがいる。

それは先日加入したばかりのルーキー、ルイスだった。

流石に息切れは起こしているものの、一切遅れを取ることない。

 

ルイスの報告を聞いたアリーヤの脳裏にはあの神父の娘の声が反芻していた。

そしてあのリボンを握りしめた感覚も。

あのときは救えなかった。もし自分が直接送り届けていたら?そんなifが頭を過る。

だから今回は同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。

家族を、娘のような存在を、絶対に死なせてなるものかと。

 

世界の果ての関所も猛スピードで通過し、守衛の男がなにやら喚いているのがドップラー現象となって聞こえた。

 

二人は奔る。

浅部を間もなく抜けると言ったところで、こちらへと向かってくる人影に二人が気がつく。

全身に大怪我を覆った探索者のパーティだ。

中部へと続く教会からやっとの思いで這い出してきている。

 

家族を心配する狩人は彼らに問いかける。

 

「ルヴィリアスを見なかったか…!?」

 

「ル、ルヴィリアスさんなら私たちを逃がすために殿に…!!この先です!」

 

傷ついた者のうちが指差した瞬間、狩人と少年は駆け出す。

目にも止まらる速度で走って行く彼らを見て探索者のパーティは呆気に取られるしかなかった。

 

駆ける、駆ける。

あの美しい金髪はまだ視界に映らない。

もしかするとすでに…最悪の事態が脳裏を過る。

 

―――その時、不意に二人の耳に鐘の音が聞こえた。

 

急停止するアリーヤとルイス。

鐘の音とともに体に奔る『世界を切り裂いて何かが侵入してくる』感覚。

そして二人の視線の先では赤黒い何かが地面から生えるようにゆっくりと出現している。

血の色を彷彿とさせるその赤は紛れもなく人型をしていた。

右手には大きな車輪を。左手には連装式の短銃を。

そしてその瞳には明確な殺意と喜びを浮かべていた。

 

『敵対者 ヤハグルの人攫い■■■■ やってきました』

 

 

ルイス・カーチスは恐怖した。

目の前の存在に。目の前の殺意に。目の前の喜色に。

そして本能的に理解する。

―――この赤い存在は間違い無くとてつもない化け物だと。

 

恐怖で体が強張る。視線すら動かすことができない。

体が震えることすら許されない。

 

まるで体が生きることを既に諦めてしまっているかのような感覚。

いや、実際にそうなのかもしれない。

目の前の赤い存在から発せられる喜びを孕んだ殺意。

その殺意があまりにも大きく、そして研ぎ澄まされていたから。

 

赤い存在がゆらりと、陽炎のように揺れる。

楽しみで仕方がないとばかりに左手の銃を回転させている。

殺したくてたまらないとばかりに大きな車輪を構えている。

 

「ルイス」

 

誰かの声が聞こえる気がする。

だが恐怖に支配された脳では誰の声であったのかすら認識できない。

内容すら理解できない。

 

「ルイス・カーチスッ!!」

アリーヤの出した大声により、ルイスの体を支配していた緊張と恐怖が解き放たれる。

忘れていた呼吸を再開し、それにえづいて胃酸を少し吐き出した。

 

「ルイス、先に向かえ。ルヴィリアスはまだ必ず生きている。生きているんだ。だから急げ。此奴は私が引き受ける」

 

そのアリーヤの声色に、普段感じられる飄々としたものは一切含まれていなかった。

ルイスは人の感情に機敏だからこそ察する。

―――この赤い存在はアリーヤと同列がそれ以上なのだと。

 

理性では自分がいてもなんの意味もなさないことを理解している。

むしろ邪魔になることも。

だがそれで自分が離れた結果彼が死んでしまったら?

 

「ルイス・カーチス!早くいけ!小娘を、家族を救え!!」

 

絶叫にも近い声を彼が上げる。

その声の御蔭でルイスの思考を鈍らせていた迷いが払拭された。

少年は緊張と恐怖でこわばった表情をしながらも、しっかりとそれに応えた。

 

「はい!!!」

 

ルイスは地面を駆け出す。

必然的に赤霊の横を過ぎて行く形になるが、その敵対者は少年のことを面白そうに見るだけだった。

 

二人の狩人が、ようやく邪魔者がいなくなったとばかりに各々得物を構える。

 

一人は大型の車輪のようなもの、ローゲリウスの車輪を。

一人は美しいレリーフが彫り込まれた直剣と大型の鞘、ルドウィークの聖剣を。

 

刹那の後―――対人戦の火蓋が切って落とされた。




めっちゃ久々ですねぇ…。
ゴブリンスレイヤー見たらファンタジー熱がグツグツと再び燃え上がりました。

最近はクトゥルフ神話TRPGの7版シナリオしか文章作ってなかったから苦戦した…。

ブラボの感覚思い出すためにプレイしなきゃ。
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