神様さえ、知らない場所へ。   作:Artificial Line

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ストン、と。
嵌まるべきパズルピースのように、その言葉は胸に嵌った。


【Act-1-2】人としての一歩。

「狩人様、ずいぶんと機嫌がよろしいですね」

 

狩人の夢で装備の調整を行っていた彼に

ふと人形が話しかけた。

 

メイやルヴィリアスとの怒涛の時間(主に取り乱すルヴィリアスへの事情説明)を過ごし、皆が寝しずまった夜。

彼は狩人の夢への帰還した。

上位者となり、夢と一体化した彼にとって、夢への帰還は灯りを持ちいらずとも行える。

世界から自らの意識を薄れさせ、夢のイメージを強く持つだけでいいのだ。

 

「ああ、そう見えるか?」

 

「ええ、過去のなにかに追われていたような雰囲気がなくなっています。普段も素敵ですが、いまの方が私としては安心できます」

 

はて、人形はこんなにも自らの感情を全面に出すような子であっただろうか。

ふと疑問に思った彼だったが、これも成長だろうと思い直す。

 

「新しい世界()を見てな。ヤーナムと違い人々が当たり前の生活を送っている(世界)だ」

 

「人々の当たり前の生活…ですか。この人形は人の生活というものを狩人様達のモノしか知りえません。よろしければお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

彼女が珍しく見せた好奇心に、彼は内心で喜んだ。

娘のように可愛がってきた存在の成長を実感できて、こみ上げてくるものがある。

人らしさを徐々にではあるが、獲得している彼女を見るのは、狩人にとっての楽しみであった。

 

それから狩人は、今日見たことを人形に伝える。

それは寝物語に子供に御伽噺を聞かせる親のようであった。

全てを語って聞かせた後、人形は小さく拍手をしながら言葉を紡いだ。

 

「ありがとうございます狩人様。ぜひ私も見てみたいなどと思ってしまいました」

 

「ああ―――必ず見せよう」

 

そして夢は終わり朝が来る。

この夢と外の時間は関係無いが、合わせることも不可能ではない。

 

「朝が来る。私はまた向かうとしよう」

 

「はい。狩人様、どうかあなたの目覚めが有意なものでありますように」

 

 

 

狩人とメイ、そしてルヴィリアスの邂逅の次の日。

昼前、彼とルヴィリアスは市街を歩いていた。

 

初めて(思い出した)人間らしい朝食をとり、人らしい朝の時間をメイとルヴィリアスと共に過ごした彼の機嫌はとても良かった。

人らしい朝と言っても、主に狩人に噛み付くルヴィリアスをメイが諌めていただけなのだが。

 

彼はそれを微笑ましいような表情で見ていた。

それが更にルヴィリアスの機嫌を損ねていた事は言うまでもないが、彼にその自覚はなかった。

 

上位者となった彼にとって、相手の感情の矛先が自らに向いてるかそうでないかなど些末な問題である。

等しく彼が失った(忘れた)人らしさなのだ。

であれば、それを彼が愛さない理由は無い。

 

「あんた、暑くないの?」

 

ふいにルヴィリアスが問いかける。

家を出てからここまで無言であった二人だが、その気まずさに故の問いかけである。

ルヴィリアスは気が強く強情ではあるが、相手のことを何も知らずに否定するほど愚かではない。

むしろ人としては聡明な部類に入るだろう。

まあ朝までは感情のコントロールが上手くいかず、彼に対して噛み付いていたが。

冷静になれば相手のことを知ろうという余裕も出てくる。

 

現在のアリスライキの気候は俗にいう春先である。

そんなぽかぽか陽気の中。

ロングコートに短マント枯れた羽の帽子にマスクをして極限まで肌の露出を抑えた

彼の格好は、ルヴィリアスにとっては奇っ怪に写ったのだろう。

それはルヴィリアスだけでなく、市街の人々にもそう見えていた。

 

「暑い、という感覚は久しく味わっていないな。確かにこんな陽気の中でコートを着ていれば暑そうに見えるか」

 

ルヴィリアスは彼の返答に、短くふーんと返しただけだった。

彼女の彼に対する印象は"変なやつ"という簡潔なものであった。

 

昨日、取り乱した彼女をメイが諌め、改めて彼についての話を聞かされ、彼とも少しではあるが言葉を交えた。

それを踏まえた上で、"変なやつ"というのが彼女の感想である。

 

だが少なくともメイに危害を加えるような存在では無いとルヴィリアスは感じた。

 

それから目的地への道中。短いながらもいくつか言葉を交える。

ここに来る前はなにをやっていた、とか

それ()はなに?とか。

 

現在彼は護身用も兼ねて、腰に獣狩の短銃を下げていた。

 

 

獣狩りの短銃

 

狩人が獣狩りに用いる、工房製の銃

 

獣狩りの銃は特別製で、水銀に自らの血を混ぜ

これを弾丸とすることで、獣への威力を確保している

 

また、短銃は散弾銃に比べ素早い射撃が可能なため

迎撃などに適する

 

 

どうやらこの世界には銃というものは存在していないらしく、

初めて見たであろう彼女たち(メイとルヴィリアス)が興味深げに見ていたのを彼は覚えている。

 

「銃だ。この世界には無いのか?」

 

「ジュウ?ないわ。少なくとも私が知る限りでは聞いたことないわね。武器なの?」

 

「ああ。火薬で水銀や鉛の弾を撃ち出して相手を殺傷する武器だ」

 

「ふーん。じゃあ飛び道具なのね。珍しいものを使うのね。弓や魔術じゃダメなの?」

 

「魔術がどれほどの威力を持つか、見ていないので言及のしようがないが、少なくとも弓では私の居た所《ヤーナム》では力不足だった。一部例外は居たが」

 

「(魔術を知らない…?どんなところに居たのよ…本当に戦えるのかしら?)それはそうとここが目的地よ」

 

ルヴィリアスの言葉で、二人が歩みを止める。

眼の前には、市街でも一際大きい建物が佇んでいた。

酔いそうな程に人が集まっており、出入りも激しい。

 

「ここが管理局。探索者達を管理してランク分けしたり、依頼を仲介していたりするわ。探索者としてクランの一員になるならここでまず登録しないといけないの」

 

ルヴィリアスの説明を聞きながら、彼は内心嬉々としていた。

ヤーナムでも狩人証を用いての狩人管理は行われていたようだが、ここまで大規模なシステムでは無かっただろう。

 

「とりあえず入りましょう。さっさと済ませたいしね」

 

彼女に先導され、建物内へと入っていく。

あまりの人の多さに少し驚く。

どうやら食堂もあるようで、そちらの方からはより喧騒も聞こえてきた。

銀行のように窓口がたくさんあり、それぞれ応対しているようだった。

 

「すいません、となりのこいつの探索者登録をしたいんですけど」

 

「ああ!ルヴィリアスさん、お久しぶりです。お連れさんの登録ですね。少々お待ち下さい」

 

どうやらルヴィリアスとその受付嬢は顔見知りのようで、世間話を交えつつシステムの詳しい説明をしてくれた。

 

探索者はE-~S+12段階のレベルにランク分けされている。

通常の新規探索者であれば、E-からスタートし、そこから徐々にランクを上げていくそうだ。

 

また世界の果ての探索には、ランクによって立ち入れる領域が制限されている。

世界の果ての探索は危険が付き物であり、無意味な探索者の死亡を防ぐための措置であるそうだ。

 

彼は面倒くさいシステムだなと感じたが、普通の人間は1度死ねばそれで終わりである。

ならば無意味な損失を避けるためには致し方ないものなのかもしれない。

 

また、高ランクの探索者になるに連れて待遇も良くなるのだという。

優先して新規探索エリアへの探索権利がおりたり、税の免除などがその最もたる例だそうだ。

 

ルヴィリアスのランクはC+だという。

登録して半年でこのランクにたどり着くのは稀有らしく、ルヴィリアスの性格と実力の一端がよく分かる。

 

「一通りの説明はこれで終わりになります。最後に探索者として登録する名前ですね。こちらにお書きください」

 

受付嬢の説明が終わり、登録証を差し出される。

名前を記入すれば登録完了だ。

 

先日までの彼ならここで少し困っている所であったが、今の彼はそうでは無かった。

 

彼は昨夜のことを思い出す。

ルヴィリアスを諌めた後、メイと言葉を交えて居た時のことだ。

 

『そうだ、君がうちの家族になった記念に一つ贈り物を授けよう』

 

彼は贈り物?と訊き返した。

 

『そうさ!今後この街で生活して行くのに名無しじゃ不便だろう?探索者登録も出来ないし。だから私から君に名前を送りたい。どうかな?』

 

そんな、願っても居なかったことだ。ぜひお願いしたい。

彼は多少驚きながらそう答える。

 

『ではクランの主として。また同胞として君に名前を贈ろう。遥か昔。漆黒の体躯を持ち、只人では見ることも叶わぬほど素早く動いたとされる鉄の巨人。君の姿を見て真っ先にその巨人の姿が思い浮かんだ。故にこの名前を贈る。君の名前は―――』

 

『―――――AALIYAH』

 

彼は登録証にそう名前を書いた。

 

月の香りの狩人と、そう呼ばれていた彼は遂に名前を取り戻した(得た)

 

狩人のアリーヤ。それがこれから彼の名乗るべき名前だ。

 

こうして彼の新たなる物語がスタートする。

歴史の闇に葬られ、世界に忘れられた狩人(英雄)

人を新たなる夜明けへと導いた狩人(上位者)

 

失われたものを、諦めたくなかった狩人()の新たなる夜明けだ。

 

 

 

 

 

 

市街を長身で美形の女性が歩いていた。

陶磁器のように美しい肌を持ち、その髪は絹のようになめらかだ。

さながら人間離れした美貌だと、見る者にそう思わせる女性だった。

 

ふいに、その女性が管理局の前で歩みを止める。

 

「月の香り…?」

 

彼女は表情を変えず、管理局の中を見つめる。

神族達から香る匂いとも似ていたが、明らかな違いを感じた。

 

その美貌だけで周囲の目を引く彼女が、歩みを止めてまで管理局を見つめていたのを

周りの人間は不思議に思ったことだろう。

 

「マリア?どうしたんだい?」

 

いつかルヴィリアスと市街で話していた食堂の女将が、長身の女性の名を呼ぶ。

 

「ああ、すまない。なんでもない」

 

彼女はそう返し、歩みを再開した。

 

まさか、あの男がいるわけもない。

きっと気のせいであろう。

自らを悪夢から開放し、恐らくはその先の秘密を見た月の香りの狩人。

彼がこの場に居るはずがない。

 

彼女は自分にそう言い聞かせる。

だが彼女が彼の匂いを間違えるはずも無かった。

 

 

軽く首を振り、考えすぎだと思考を中断させると

彼女は女将の元へ歩いていった。




オリキャラもそうだが、狩人様の名前を決めるのに苦労した。
元ネタわかる方居ますかね?
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