神様さえ、知らない場所へ。 作:Artificial Line
それはアリスライキに身を置くほとんどのモノにとっての疑問であった。
牛頭の一騒ぎの出来事から3日の時が経過した。
現在ルヴィリアスは、アリスライキ市街のとある食堂に訪れていた。
時間は昼過ぎ。昼食客のラッシュも一段落し、落ち着きを取り戻している。
現在管理局と、一部の有力クランによって
なぜあのような浅部に牛頭が現れたのか全力で調査が行われている。
あの後、ルヴィリアスとアリーヤがホームに戻るとメイが途端に泣きついてきた。
『怪我は無かったかい!?ああ、本当に無事で良かった!!』
曰く、二人が戻るよりも先に、クラン・ヘイティアから感謝の言葉が届いていたらしい。
全く、礼儀の正しいことだ。
さて、何故現在ルヴィリアスが食堂にいるのか。
それは単に食事を取りに来たからではない。
その理由は、あの時のヘイティアの面々から改めてお礼をしたいとの申し出があったためである。
ルヴィリアスにとってもあの時の面々は顔見知りであったし、別段断る理由は無かったのでこうして顔を出していた。
まあ助けたのは彼女自身ではないし、それに対してお礼を受けるというのは微妙な気持ちであったが。
ちなみに当事者であるアリーヤはこの場にはいない。
ルヴィリアスは彼を連れて行こうとしたのだが、それを伝える前にすでに世界の果てへ出発していたのだ。
あれから気がつけば居なくなっているか、世界の果てへの探索に赴いているらしく
お陰で満足に話も聞けずにいる彼女の気持ちは複雑であった。
メイにそれを話しても、彼女はなにか事情を知っているような素振りで
さして問題視していないようである。
現在この場には、ルヴィリアスを含め五人の人物がテーブルを囲んでいた。
「今日はわざわざ足労をかけたねルヴィリアス。改めて先日はありがとう。君たちがあの場に居なけれは間違いなく僕たちは全滅していた」
あの時場にいた茶髪の青年が言葉を口にする。
彼の名前はアスカ・メビウス。種族はヒューマン。
ルヴィリアスとは、彼女がメイの元に着てからの知り合いである。
誠実かつ、温和で礼儀の正しい好青年だ。
整った顔立ちに人当たりの良い性格故、女性陣からの人気は高い。
ランクはルヴィリアスと同じくC+であり、それなりに腕の立つ探索者だ。
「私からもお礼を言うわ。ありがとうルヴィリアス。そう言えば、あの時一緒にいた男性は?」
アスカに続いて言葉を口にした女性の名前は、イービー・パーラメント。
光に当たると薄い水色に輝く美しい髪のエルフである。長い髪を一つの三つ編みにまとめており、大変美形な女性だ。
当然男性陣からの人気は高い。
「あいつは今世界の果ての探索に向かってるわ。朝目覚めたらすでにいなくてね。ごめん」
ルヴィリアスは軽く謝罪の言葉を口にする。
「そうなの?なら別にルヴィリアスの謝ることじゃないわ。でも残念ね。あの人にもお礼を言いたかったのだけど」
次に言葉を出したのは、黒髪ショートカットの女性。
名前はエリコ・ラーク、種族はヒューマン。
ツリメ気味で、きつそうな印象を持たれがちだが、その実温厚で話しやすい女性である。
「しかし、あの男は何者だい?ルヴィリアス嬢。帝都の名門貴族である君が連れていた男っていう時点で只者じゃないことは解っていたけど、それでも牛頭をあっという間に打ち倒すなんてSランクでもなかなかできないぜ?そうさな、クラン・
ルヴィリアス以外のうち、ヘイティアの面々で最後に言葉を上げたのは男性。
名前はレリック・マル=ボーロ。種族はヒューマン。
軽薄そうな印象を与える青みがかった黒髪の男性だ。
いつも飄々としており掴みどころがないが、信頼はできるというのが
ルヴィリアスの彼に対する印象である。
「厳密には私の連れじゃないのよ。メイ様が一昨日突然連れてきたの。私もあいつに対しては聞きたいこと、疑問に思っていることばっかりよ。参っちゃうわ」
心底疲れたような表情で、ルヴィリアスがそう嘯く。
彼女にとって、アリーヤはクランの新規メンバーである以上に謎の多い存在だ。
帰ったらなんとしてでも詳しい話しを聞いてやる。
「そうなのか?僕はてっきり帝都から来た君のボディガードか何かかと思った」
アスカが少し意外そうな顔でそう言葉をもらす。
ルヴィリアスも含め、この場にいる面々。ひいてはアリスライキの住民全員にとって彼は謎の人物であった。
その一端を推し量れているのはメイただ一柱だろう。
「違うわ。確かに今はうちのメンバーの一人。でも私はアイツのことをよく知らないの。先日の
ルヴィリアスの発言に、その場にいる全員はそれぞれ肯定の意を返す。
「でもよお、あの男が
「別の土地で
レリックはいつになく真剣な表情でルヴィリアスに問いかける。
それに対して彼女は、張り詰めたような表情で言葉を返した。
「
「イービー、深入りは身を滅ぼすわよ。
「わかっているわエリコ。相変わらず真面目なのね」
ルヴィリアスは無言で彼女達のやり取りを見ている。
本当にあの
神族であり、人以上の知慧と
でなければ、いくら助けられたからといってあいつを誘った意味がわからない。
その一端を、彼女は彼が一時的に纏った空気と幻視した感覚からすでに感じ取っているが
全てを理解することは到底出来ようはずもない。
「まあまあ。彼が何者であるかは置いておいても彼に
「もちろんよアスカ。伝えとくわ」
彼女達はその後も彼についての話や他愛の無い世間話を続ける。
ふと視界の端で背の高く、同性でも思わず追ってしまうような美形の女性がテーブルを片付けているのが目に入った。
はて、あのような店員はいただろうか?
陶磁器のような白い肌に、絹のような美しい白髪。
あとでそれとなく女将に聞いてみよう。
そんなことをルヴィリアスは思いつつ、アリスライキの昼下がりは過ぎていくのであった。
「アリーヤー、ちょっといいかい?」
場は代わり、クランスマイリーのホーム。
ちょうどルヴィリアスとヘイティアの面々が世間話に花を咲かせている頃合い。
現在この場にはアリーヤとメイを含め、
「その?
そんなことを問いかけるメイではあるが、その
彼の
神族たる彼女は、アリーヤの
でなければ唐突に彼を誘ったりはしない。
だがそれは置いておいても、言葉による問いかけは必要な事であるとメイは判断した。
「ああ、紹介しよう。この子は
「はい、狩人様。初めましてメイ様。私は人形。この地ならぬ場所おいて狩人様のお世話をしていたものです」
礼儀正しく一礼をした後、実に耳に心地よい美しい声色で人形は挨拶をした。
「ご丁寧にありがとう!私はメイ・スマイリー!
思わず普通に挨拶を返してしまったメイではあったが、気を持ち直して問いかける。
なんとなくは察せられるが、それでも言葉によるケジメは必要だ。
他人の過去や思考を読み取る事が可能なメイは、それ故に
人の感情や過去など、
「あー、私のことを
申し訳なさそうにアリーヤが口にする。
そのように謙ったを
「ああ、もちろんそれについては構わないさ!君にとって彼女は
アリーヤはハッとしたように目を見開いたあと、更に申し訳無さそうな声色で
「申し訳ない。次からはそうさせてもらう」
とだけつぶやいた。
「そうしてくれると嬉しい!私も家族が増えることは嬉しいからね!君の大切な人ならなおさらさ!」
そのメイの言葉に、人形と
「「感謝する月の香りの女神。私に人らしさを思い出させてくれてありがとう(感謝いたします月の香りの女神様。狩人様に人を思い出させてくださってありがとうございます) 」」
メイは彼らの言葉を聞いた後、満足したような満面の笑顔を浮かべる。
その表情は弟のことを見る姉のようでもあった。
「さあ!そうと決まればまずは親睦会だ!私も人形ちゃんには聞きたい事がたくさんあるしね!」
アリーヤよりも更に頭一つ分身長の高い人形の手を、メイが引いた。
身長差からまるで母子のようであるが、その実はきっと逆だろう。
それから3つの人影は仲睦まじい
この場には
だがそれがなんだというのか。人の思考を超える彼ら彼女らにとっては種族差なぞ些末な問題である。
だが彼女達は忘れていた。
ルヴィリアスは聡明だが只の人の、それも年端もいかない少女であることを。
その日の夕暮れ。帰ってきたルヴィリアスの再びの困惑による絶叫はアリスライキ中に轟いたという。