神様さえ、知らない場所へ。 作:Artificial Line
―――微睡みに沈んでいる。これは…夢?
何故だかわからないが、そう知覚出来た。
不意に視界を黄金色の光が覆った。
一房に纏められた金髪がはためき、思わずそれを目で追う。
甲冑を身に着けた後ろ姿。
これは…先程助けてくれた少女の後ろ姿か?
黄金色の光はより一層光を増し、一瞬視界を奪う。
少年、ルイス・カーチスは夢を見ていた。
その姿に思わず見惚れていると――――不意に背筋に悪寒が奔った。
ルイスは夢の中で振り返る。
彼の背後に佇んでいるのは、
全てを飲み込むような、宇宙を纏ったロングコート姿の大柄な男性だ。
この姿にもルイスは覚えがあった。
あの時金髪の少女とともに助けてくれた後ろ姿。
見間違えようはずもない。
恐怖で釘付けにされたように、ルイスは身じろぎ一つできなくなる。
だが、宇宙色の男性がフッと口元に笑みを浮かべる(マスク故その口元を見ることは叶わなかったが)と、ルイスの身体から恐怖が抜け落ちていった。
「何をしているの?」
不意に声が聞こえた。
声の方へ少年が振り向くと、そこに佇んでいたのは青髪の女性。
「姉さん…?」
ルイスの口から言葉が漏れる。
「貴方はいつまでも変わらない。私は先に行く。
青髪の女性は何の感情も感じられない声色でそれだけいうと、踵を返して歩き始めた。
「姉さん!まって!姉さん!僕は…僕は!!」
ルイスはそれを追いかけようと足を踏み出すが、それは叶わなかった。
足元の空間がガラスのように崩れ、少年はそれに飲み込まれていく。
それと同時に、夢の中の少年の意識は闇へと飲み込まれていった。
―――金属が激しくぶつかりあうような音が耳に聞こえてくる。
その合間を縫うようにして、人の息遣いも。
少年、ルイスはその重い瞼をゆっくりと開けた。
朝日が目に刺さる。
一瞬思わす目を細める。徐々に光になれだした少年の目に写ったのは、二人の人影だった。
中庭と思われる場所で、向かい合っている。
「ルヴィリアス、もっと足を使え。相手の死角を突け。貴公の太刀筋はお行儀が良すぎる」
「くぅッ!!」
ラフな格好をした金髪の少女と、白シャツの上にベストを着た格好の男性が剣を交えているのがルイスの視界には写った。
「そうだ、良くなってきた。ではこちらからも行くぞ」
「ちょ、まッ!?」
先程までとは反転して、男の方が手に握る剣で攻め立て始める。
いや、男が手に握っているのは剣ではない。"
連続して出される男の剣撃を、少女は寸前の所で受け、いなし、かわしていく。
だが明らかに男が加減しているのは、駆け出し探索者たるルイスの目にもわかった。
かといって少女が弱いというわけでもない。少なくともルイス自身よりも何倍も強いであろうことは、この僅かな間でも理解出来た。
少女の繰り出した渾身の一撃を、男は当たり前のように受け流しカウンターで膝蹴りを見舞う。
少女の腹部にクリーンヒットしたそれを受けて、彼女の身体は大きく後方へと転がった。
―――不意に男の視線がルイスと重なる。
そうして一瞬口元をニヤリと歪ませた。
「ルヴィリアス、まだいけるな?もう一度行くぞ」
「言われなくてもッ!!」
腹部を押さえ蹲っていた少女が立ち上がり、その剣を構えた。
それを見た男が"
先ほどと同じく受け止めかわしいなして、その連撃をなんとか捌いていく。
しばしそうした後、男の連撃の合間を縫って少女が回し蹴りを放った。
綺麗だ…。
ルイスは純粋にそう感じた。
だが男はその蹴りを難なく掴むと、少女の身体を放り投げた。
少女、ルヴィリアスの身体は石畳へと叩き付けられ、嗚咽と呻き声が耳に届く。
「ガッハッ!オエッ…はぁ、はぁ」
込み上がった少量の胃液を吐き出し、ルヴィリアスはしばし悶絶していた。
「ふむ…」と男の口から声が漏れる。
「すまん、ルヴィリアス。やりすぎた。立てるか?」
「アリーヤ…わかっているなら立つのに手を貸しなさい…正直内蔵がひっくり返ったかと思ったわよ…」
ルヴィリアスの言葉を受けて男、アリーヤは手を差し伸べる。
彼女はその手を取り、立ち上がった。
「ありがとっ。相変わらず容赦が無いわね…。まあそうじゃないと怒るけど…」
ルヴィリアスはそう言うと、ふっと小さな笑みを浮かべた。
「すまない。ギャラリーも居たようだからな。少し力が入ってしまった」
「ギャラリー…?」
アリーヤは視線をずらし、ルイスの方へ向ける。
ルヴィリアスもそれにつられて顔を向けた。
「ゲェッ!?」
ルヴィリアスがルイスが目覚めていることを認知した途端、彼女の顔は一気に紅潮する。
「見てたの!?ていうかアリーヤッ!あんたこれが解っていたからいつもより容赦無かったのね!!いきなり情けない所見られちゃったじゃない!!」
ぷんぷんと怒るルヴィリアスを、アリーヤは彼女の頭に手を置いて諌める。
「ハハハ、すまない」と対して悪いとも思っていないような口調ではあったが、頭を撫でられたのが効いたのか
納得のいかなそうな表情ではあるものの、ルヴィリアスはだんだんと平静を取り戻していった。
しばらくそうした後、不意にアリーヤが口を開く。
「さて少年。目覚めてそうそうで悪いが話をしたい。大丈夫か?」
「は、はひっ!いえはい!大丈夫です!」
唐突に声をかけられた事に驚いたルイスはその肩を震わせながらも、なんとか言葉を返す。
ルヴィリアスもその光景を見つめていた。
「ルヴィリアス、メイを呼んできてもらえるか?」
「構わないわ。少し待ってて」
ルヴィリアスはそういって踵を返すと建物の中へ消えていく。
アリーヤはゆっくりとルイスに近づくと、近くにあった丸椅子に腰をかけた。
「ではルイスくんはソロで浅部を探索していた所を山羊頭に突然襲われたっていうことだね?」
「は、はい。そうです。E+に昇格して浅部の探索も安定してきたなって思っていた矢先に山羊頭が突然現れて…」
現在地。スマイリーの
山羊頭に襲われていたルイスという少年を助けたスマイリーの面々は、その後気絶した彼を本拠地へと運んだ。
帰りに管理局でこの少年の事と山羊頭の出現について報告したのだが、やはりというか探索者証明証に記されていた通り
ルイスは特定のクランに所属していない野良の探索者だった。
故に彼を送り届けるべきクランは無く、彼が拠点としている場所も不明な為こうしてホームで少年が目覚めるのを待っていたというわけだ。
別に彼女達がルイス少年の面倒を見るべき義務も無いのだが、それでも彼女たち(主にメイ)は傷ついた少年を放り出して後は知らないふりを決め込めるほど冷酷ではない。
帰還した後も半日ほど気絶していた少年が目を覚ましたのは後日の明朝であった。
最早日課となっているアリーヤとルヴィリアスの訓練の音で目覚めたルイスは、その後こうしてスマイリーの面々からの質問に答えている。
中庭横の部屋に設けられたベットの上で起き上がるルイスの周りには
メイ、ルヴィリアス、人形、そしてアリーヤの4人の姿があった。
「あ、あの!」
「ん~?どうかしたのかい?」
メイが顎に手を置いて考えていたのを一旦中断し、ルイスへと顔を向ける。
「今回は危ない所を助けてもらったばかりではなく、わざわざ治療も施して頂いて―――本当にありがとうございました!」
ルイスの心からのお礼に、スマイリーの面々は口元に笑みを浮かべる。
「そんなとんでもない!困っている人を助けなくては同胞にも顔向け出来ないからね!それに実際に君を助けたのはこっちの二人さ!お礼なら彼女たちに言ってくれたまえ!」
「あっ!はい!助けていただいて本当にありがとうございました!…あと朝の訓練を盗み見た感じになってしまってごめんなさい…」
ルヴィリアスは一瞬顔を紅潮させるが、すぐに取り繕うと咳払いをしてから言葉を紡ぐ。
「気にしないでいいわよ。見られても減るもんじゃないし。まあ確かに少し恥ずかしかったのは確かだけど…」
「ああ、気にしないでいいぞ少年。助けたのは"
二人の言葉を聞いて、メイとルイスは小さく微笑みを浮かべる。
メイは我が子を見守るような愛おしい微笑みを。
ルイスは心底安堵したような微笑みをそれぞれ浮かべた。
「あー、そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はルヴィリアス。C+の探索者よ」
「アリーヤだ。つい一月前にこの街に着た新参者だが、よろしく頼む」
「新参者って…。あんた…自分がどれだけ凄いことをしたのかやっぱり理解してないでしょ…」
「そして先程も紹介させてもらったけど、私はメイ!西の神族国家の一柱さ!で、最後に彼女が…」
「初めまして。私は人形。カーチス様、よろしくお願いしますね」
「あ、えっと!ルイス・カーチスです!野良の探索者として生活してます!改めてありがとうございました皆さん!」
初めて見たであろう動く等身大球体関節人形の姿に少し驚いた様子のルイスだったが、
すぐに気を取り直して自己紹介を行う。
だが思い出したかのように酔っ狂な声を上げた。
「ってアリーヤさんにルヴィリアスさん、それにメイ様ってことはあの噂のスマイリーの方々ですか!?たった一月で未到達領域までたどり着いたっていう!?」
「あは~…。それはスマイリー全体じゃなくて、この
「酷く失礼な言葉が内包されている気がしたが、気にしない事にしよう」
驚きを顕にしているルイスを前に、ルヴィリアスが訂正する。
ここ最近は一緒に探索や訓練を行っているものの、自分の言葉でまともに言葉を交える前に未到達領域への到達を"
ルヴィリアスは少しツンケンした態度をとる。
やはり彼女としてはあまりおもしろいことでも無いのだろう。
突然増えた家族が自分を放置して勝手に有名になっていたのだ。無理もあるまい。
それに対してアリーヤは少し困ったような表情を浮かべている。
自らが悪かったという事を自覚しているためか、何も言い返す事は無かったが。
現在彼はいつもの狩装束ではなく、白シャツにベスト、黒のズボンという出で立ちの為その表情もよく伺えた。
ルヴィリアスの訓練に付き合うようになってから、アリーヤは外出を除いてこのような格好で過ごすことが多くなった。
「でも凄いや!"
嬉しそうに話すルイスに対して、ルヴィリアスは少し恥ずかしそうな顔を浮かべ
アリーヤは何故そんなにも嬉しそうなのか理解が出来ないといった表情であった。
メイと人形は実にニコニコとその様子を見ている。
「そうだ、ルイスくん。君が拠点にしているのはどこなんだい?」
「あっ!すいませんメイ様、1人で舞い上がっちゃって…。えっと、北地区の宿屋です」
「ふむ。北地区というとここから少し距離があるね。済まないがルヴィリアス、アリーヤくん」
「ああ、引き受けた。彼を送り届けよう」
「わかりましたメイ様」
二人はそう言うと、準備をするために立ち上がろうとする。
だがルイスが「あ、あのッ!」と声を上げた為に、その動作を中断させた。
「助けていただいた上に世話までしてもらったのに、こんな事を言うのは差し出がましいと理解しています―――」
「―――でもっ…!僕をどうかクラン・スマイリーに入れていただけませんか!!」
ルイスの言葉に、人形までもが呆気に取られて固まる。
しばしの沈黙が場を支配し…『やっぱ助けられた上にこんな図々しいことをいう僕に対して呆れてしまったのかな…』とルイスが考え始めた頃だった。
その沈黙を破るように、メイが言葉を紡ぐ。
「その理由を聞かせてもらってもいいかい?ルヴィリアスとアリーヤくん、それに人形ちゃんは私の自慢の家族だけど、それでも
メイの言葉に、肯定を示すようにルヴィリアスと人形、そして
「それは…」
「それは?」
「僕、山羊頭に吹き飛ばされて意識を失う直前にルヴィリアスさんとアリーヤさんの後ろ姿が目に入ったんです。それと僕を優しく包むようなメイ様の姿も。あの時皆さんが助けてくれなかったら僕は間違いなく死んでいました。えっと上手く言えないんですけど、あの時の皆さんの姿に強烈な"
4人は無言で少年、ルイスの言葉の続きを待つ。
「それに僕にはどうしても追いつきたい人がいるんです…お願いします!―――僕をこのクランへ入れてください!」
二度目の懇願、ルイスは布団に付くほど頭を下げる。
そして―――
「―――うんッ!そういう理由なら大歓迎さ!私はルイスくんを喜んで
「私はメイ様の決めたことなら構いません。…それに。
「私も歓迎しよう、盛大にな。君を"
「狩人様、メイ様、ルヴィリアス様がそう仰るのでしたら私も歓迎致します。よろしくおねがいしますね、ルイス様」
彼らの言葉に、ルイスは思わず涙を浮かべる。
とうとう耐えきれなくなり、目から雫がこぼれ落ちた。
「―――はいっ!よろしくお願いします!!みなさん!」
「ここか…」
その頃、人形とよく似た外見の女性が、スマイリーの本拠地の前で歩みを止めた。
その手には印の付いた地図が握られており、その場所はここであるようだ。
「
ここ最近市街を賑わせている話題の元凶たる"
その"
「おい、あの長身の女、えっらいべっぴんじゃねえか?」
「ああ、すげえ美人だ。だがあんな女性みたことねえぞ?」
「いや、服が普段と違うが、あの子―――最近ラライラの食堂で働き初めた給仕じゃねえか?」
「まじかよ!?ラライラ女将の店にあんなべっぴんが入っていたのか!」
「それにあの服装…最近話題の"
「確かに…もしかして奴と同郷なのか?」
「あんな"
「それにあそこ、スマイリーの本拠地だろ?だとすれば可能性は高いぜ…」
周囲の者達の会話が、女性の耳にも入ってくる。
普段なら気にもとめないが、彼らの会話からしてここがスマイリーの本拠地であるというのは間違いないようだ。
女性はその扉のコンコンと叩く。
願わくば、自らの思い違いを祈りながら。
もうすぐ物語が動き出します。
感想その他本当にありがとう御座います!
後ほどまとめて返信させていただきます!