そうだ、桜の花言葉を知っているかい。

とある男性と結月ゆかりの穏やかな春の出来事。縁側で桜を眺める二人。ゆかりはふいに、隣にいる彼に教えてもらった桜の話を始める。その時彼は…

登場する男性とゆかりさんは結婚または同居している、という設定です。閲覧する際はご注意ください。
また、ボイロ要素が皆無となっております。

感想、評価、誤字指摘等お気軽にどうぞ。

※「pixiv」様にも投稿しています。


1 / 1
八分咲きの笑顔

春。

 

庭の桜は五分咲き、といったところか。所々に見える蕾は、自らの春を待つように風に吹かれている。私はそれを、縁側に座り眺めていた。

 

「隣、いいですか。」

 

ああ。何度も聞いた伴侶の声。それを聞いた彼女は私の横に持ってきた盆を置き、その横に座った。

 

「お団子とお茶です。お茶は熱いですから、気をつけてくださいね。」

 

ありがとう。私は茶の入った湯呑みに口をつける。舌先に触れてしまい体が少し驚いてしまう。

 

「ふふ、格好つけないでください。あなたが猫舌なことは知っているんですから。」

 

茶という言葉に反応した喉が水分を求めている。仕方なく私は串に刺さった団子に手を付ける。

 

「それ、お隣から頂いたんです。なんでも花見用のお団子を作りすぎたらしくて、今朝家まで来て持ってきてくださって。」

 

そうか、今度お礼に何か持っていこうか。団子を一つ食べ、彼女に告げる。

 

「ええ、じゃあ、次の買い物の時に買ってきますね。あなたはこういうの、苦手でしょう?」

 

ああ、助かるよ。もう一つ団子を口に入れ、一つ残った団子を皿に置いて湯呑みの茶をすする。

 

 

「桜、綺麗ですね。」

 

ああ。

 

「この桜、五分咲きですね。一つのまとまりの半分だけ咲いてます。」

 

よく知ってるじゃないか。

 

「前に、教えてくれたじゃないですか。」

 

そういえばそうだったかな。

 

「あなたが教えてくれたことは全部覚えています。」

 

じゃあ、桜の花言葉を知っているかい。

 

「ええ、もちろ……っんです、けど…」

 

どうしたんだい。

 

「……もしかしなくても、私をからかっていますよね…!」

 

そんなことは無い、私がたまたま教えたのを覚えていたのがこれだったんだ。

 

「忘れるはずないでしょう!だって、これは…」

 

彼女の頬がほんのりと赤く染まっていく。あの時を思い出す。

 

「これは、あなたの……んもう、言わせないでくださいよ…!」

 

すまない、そういえばこれは、君に愛を伝えるために、私が使っていたかもしれないね。

 

「…!や、やっぱり覚えてるじゃないですか!」

 

忘れるわけないだろう、私の初めての告白なんだから。

 

「…はい。」

 

そうつぶやくと彼女は俯いてしまった。少し、からかい過ぎただろうか。

 

「…さい。」

 

ん、何か言ったかい。

 

「…教えてください、桜の花言葉…。教えてくれないなら私―――」

 

なにか言おうとしていた彼女の口を私の口で塞ぐ。彼女の顎を持ち上げ、少し身体を寄せて、盆の湯呑みを倒さないように。

 

「んーっ、んーっ!」

 

彼女が私の肩を叩く。苦しかっただろうか。重なった口を離す。

 

「…あなたって人は…!もう、知りませんからね!」

 

彼女は立ち上がり、台所の方へ向かう。すまない、ふざけすぎたよ。

 

「そうですね、それで私は怒っています。」

 

これは参った。どうすれば、許してくれるかな。

 

「まず、そこにあるものを食べて、こっちに持ってきてください。そのあと、外出するので、服を着替えてください。そうしたら…」

 

今まで背を向けていた彼女がくるり、とこちらを向く。紫色の髪がやわらかく揺れ、先ほどの驚いた顔や脹れた顔ではなく、花のような綺麗な笑顔が見えた。

 

「お花見に行きましょう、あの場所に。お料理は作ってあります。そこで教えてもらいますからね、桜の花言葉。」

 

花のような笑顔ではなく、小悪魔のような笑顔だったようだ。今度は私がからかわれる番らしい。

 

少し、強い風が吹く。桜の花弁が2枚、盆の上にふわりと乗った。残った団子を食べ、風で冷えた茶を飲みほし台所へ向かう。今日一日は、彼女の言いなりだろう。

 

今日一日は、この桜を八分咲きにしてみせよう。

 

いや、これからも、ずっと―――

 

 

 

 

桜の花はね、八分咲きで満開と言われているんだ。

 

 

そうだ、桜の花言葉を知っているかい。

 

 

桜の花言葉は『純潔』、『優れた美人』。君のための言葉のようだ。

 

 

どうだろう、私は君という花を枯らせはしない。だから、君は。

 

 

 

その八分咲きの笑顔を、私にずっと見せてはくれないか。

 

 

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
もうそろそろ4月になりますね。なので今回は「桜」をテーマにゆかりさんと、人生を共にしている男性のお話を書いてみました。
僕はゆかりさんと共に桜を眺めていたいですね。
本当は連載を始めた小説を書かなければならないのですが、どうしてもこの短編を書きたくなってしまいました。連載小説はR-18小説ですが、もしよかったら読んでみてください。この小説投稿時点では、1話しかできていませんが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。